side槍田日巡璃
「エスネイラー。なにか掴めそうか。」
「いえ……それがちょっと難航してて……」
パトロール中。速度はいつもよりゆっくりめ。私に合わせてくれてるみたい。
「そうか……」
「……」
「「……」」
なにかアドバイスをくれる訳じゃないと。
ショートってなんかすっごく不思議な人だよね?コミュニケーション取れてるのこれ???
……私……なにか掴めるのかな。不安になってきた。
「キャーッ!!」
「「!!」」
ひったくり……!!
「っ!」
ガギン!!
一瞬……
「……ふぅ。」
「「「ワーーーーーッ!!!!」」」
ショートの周りに人が集まる。
すごい。判断が早い。相手の逃げ道ごと凍らせて動きを封じた。周りの人に被害を出さずに。
個性の繊細な動き。判断の速さ。思考。ショートはこれが全部最高水準なんだ。
ここまでできないと……トップヒーローにはなれない。
何かしないと。何か起こさないと。そんな気持ちが私の足を引く。……ダメ。きっと何かあるはずだから。ゆっくり……しっかり……焦らないで……
……あれ。
「……!」
あのトラック……よそ見してッ!!
横断歩道。ピンクのパーカーを被った女の子がショートが作った氷を見ながら歩いてる。トラックを運転してる人も同様。
このまま……トラックが突っ込んだら……!!
「っ!!!」
「エスネイラー!?」
どうするかも全く考えてないけど体が動いた。
どうするどうするどうするどうする!!結構スピード出てる!私のパワーで止めれるか!?
女の子は……まだ気付いてない!!失敗なんて考えるな!!躊躇も迷いも!今ここで全部投げ捨てろ!!
女の子を抱き寄せ、突っ込んでくるトラックに向かって全力で拳を振り抜く!
不十分な体勢。力を上手に加えきれない。でもそんなの……
「知るかああああああっ!!!」
ドゴン!!
すごい衝撃!……でも!!耐えられないほどじゃない!!
拳を上に振り上げろ!タイヤを浮かせ!!駆動輪を浮かせば止まるはず!!!止まらなくたって身体で車体を持ち上げろ!!
「止まれえええええッッ!!!」
ズガガガッガガガガ……
轟音とともにアスファルトを擦り上げるように足が抉り、なんとかトラックが止まった。
トラックの運転手さんも、腕の中の女の子もびっくりした表情で固まってる。
…………足痛い。多分折れては無いけど……怪我になってると思う。
「無事か!エスネイラー!!」
「はい!どっちも生きてます!多分!」
「「「うおおおおおおおおっっっ!!!!」」」
うわっ!?え?何何!?
「すげー!!トラックひとりで止めたぞ!?」
「すっげぇパワー!!異形個性ってすげぇなぁ!!」
「誰あれ!?知らないんだけど!!」
「インターンの子かな??ショートのところに来てるんだ!!」
…………
「エスネイラー。」
あまりの大歓声にびっくりしてる私に、ショートが声をかけた。
「あ……ショート……」
「よくやった。」
「!」
よくやった。
初めて……ショートの所にインターンで来て。初めて褒められた気がする。全部全部……ショートに先を越されてたから……
さっきの一瞬だけ。ショートを越せた自分が嬉しい。
「……はいっ!!」
……とと。それよりも……
とりあえず止まってるトラックを下ろして、女の子をお姫様抱っこで一旦ベンチへ。
「大丈夫だった?」
「あ……えと……」
パーカーのフードが脱げてる女の子は、いわゆるギャルみたいな子で、バチバチのメイクと透き通るような白い肌。頭は髪というよりは無数の触覚を結んであって、手元には参考書が。受験生かな?
「あ……あの!アンタ……足が……!」
「ん?」
自分の右足を見る。血だらけ。そりゃそうか……アスファルト抉ったもんね。
まぁでも歩けないほどじゃないし……止血してたら大丈夫かな?
「ああこれ?多分大丈夫だよ。」
「いや!……消毒しねーと……」
「んふふ。優しいんだね?」
「あっ……あの……その……」
頭をポンポンと撫でる。……おぉ……なんとも言えない感触。ぷにぷにしてる。
「…………あの!」
「どうしたの?」
「アンタ……異形個性だろ?教えてくれ!」
「いいよ!」
「……苦しくないのか。」
「……!」
縋るような。それでいて諦めているかのような目。
……この子……もしかして……
「あのさ。私あと1時間でインターン終わるんだけど、どこかで待ち合わせしない?」
「……え?」
「しっかり話したいなって。」
ここまでの経緯。
あの後私が大怪我したってショートが流水おねーさんに連絡。
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流水おねーさんが被身子おねーさんを引き連れて大慌てで到着。
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ショートにブチ切れながら私の手当を完璧に済ます流水おねーさん&流水おねーさんを窘めながら無くなった血を補給してくれる被身子おねーさん&しょんぼりしてるショート。
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怪我はそこまで深くなく、ある程度安静にしてたら治るとの事。
⬇
おねーさん達と別れてイマココ。
「怪我とかなかった?」
「……ウス。」
指定されたのは近くの公園。ブランコに腰掛けて話し始める。
「……えっと……苦しくないか。だっけ?」
「…………ウス。」
「……まずなんでそう思ったか聞いてもいいかな?」
「…………自分……両親は異形個性じゃないんだ……ッス。」
「……敬語苦しかったらやめていいよ?」
「あざます。……それで……別に両親から育児放棄されたとかそんなのじゃなくて……周りの目が……辛くて。」
「……!」
「アタシ……クラゲの個性なんすけど……綺麗とか……可愛いとか…………それって異形個性だから目立ってるだけで……色んな人からやっかみを受けて…………変な人もよってくるから……辛くて……」
今にも消え入りそうな声。すっごく苦しかったんだね。
「……そうなんだ。」
「それで……親にも反発して……学校も嫌になっちゃって。……でも勉強はしたいからしてて……」
「うん。……うん。」
「……親からは変なやつとはつるむなって言われてんだけど……アイツらは……同じ悩みを抱えてる仲間だから……大事にしたくて……」
「……そっか。」
異形個性ちゃんたちがグループで固まってるんだ。……でも勉強してるのはえらいよ。さっきの参考書も難しいやつだったよ?
「でもこんな自分続ける訳にはいかないのもわかってて……異形個性なんかに生まれなければって……苦しくなって……」
「…………」
私も……何度も思った。小さい頃。なんで私はこんな身体に産まれちゃったんだろうって。
「でも!今日……アンタが……かっこよくて!!」
「……!」
「アタシ……何が……したいのか……わかんなくて!恥ずかしくって!……教えて……欲しくて……」
あの頃の私と重なった気がした。
おねーさんに会う前の私。悲しくて。苦しくて。居なくなりたくて。……でも生きていたくて。
おねーさんに会って……
「じゃあさ。まずパパとママに謝ろうよ!」
「……え?」
助けてもらったんだ。だから。
「私も一緒に行くからさ!」
今度は、私が。
「いや……あの……そこまで……」
「あのね?……スタートラインって大事だよ。」
「……!」
「スタートラインってね?自分がここから始めるんだって気持ちのことだと思うんだ。あなたはそれがまだふわふわしてるんだ。」
「……」
「そのふわふわをどうにかしないと、一生迷っちゃう。探しちゃう。苦しんじゃうよ。だからまずは憂いを無くしていこ?今日はパパとママに謝る。明日は先生に謝る。……ね?」
「…………ウス。」
なんとか頷いてくれた女の子。一緒に女の子の家へ。
ちょっと嫌な予感したけど、普通の一軒家だった。……良かった。
標識に真戸原の文字。……まとはらって読むのかな?
女の子がガチャっとドアを開けると、ふたりの大人が突撃してきた。
「紅姫ちゃん!!」「紅!!」
「わぷっ!?!?」
ふたりが女の子に抱きついた。……多分ご両親?
「事故にあったって聞いたぞ!?怪我は無いか!?」
「大丈夫!?どこも痛くない!?」
「うがーーーっ!!うぜぇうぜぇ!!どけ!!!」
紅姫(べにひめ)ちゃんと呼ばれた子がブンブン腕を降ってご両親を跳ね除けた。
「……ふーっ……ふーっ……あの!!」
紅姫ちゃんがご両親に向き直る。
「……今まで変に反発しててごめんなさい。」
紅姫ちゃんがしっかり頭を下げた。
「「!」」
「……異形個性が苦しかった。変な目で見られるのが嫌だった。だからアイツらともつるんでた。同じ悩みを抱えてたから。」
「「……」」
「……何も言わずに……自分の殻に閉じこもって……学校にも行かないで……フラフラしててごめんなさい。」
ご両親はふたりとも顔を伏せた。
「「……そんなの……」」
「え?」
「「どうでもいいに決まってるでしょ!!!」」
「!?」
「私は紅姫ちゃんが無事ならいいの!今日事故にあったって隣の西東さんから聞いたよ!?怪我は!?」
「な……無いです!!」
「紅が元気だったら俺たちはそれだけで嬉しいんだ!幸せなんだ!学校に行かないからなんだ!勉強はちゃんとしてるんだろう!……それよりもお友達のこと悪く言ってごめんね?」
「え……えと……」
こっちに振り向いてくる紅姫ちゃん。顔には困惑が広がってる。思ってもない反応だったんだね?
「……良かったね?」
「〜〜!!!」
すっごく嬉しそうに笑う紅姫ちゃん。いい笑顔だね?
「……紅姫ちゃん?こちらの方は……?」
「えと……私を……助けてくれた人。命の恩人。」
「「なにぃ!!!!???」」
急にふたりに腕を掴まれた。
「そんな人を放置してたなんて!!!ぜひご飯食べて行ってください!!」
「紅姫ちゃんを助けてくださってありがとうございます!!なんでもします!!なんでも言ってください!!!」
「え!?あの!!その!?!?」
「その制服!!もしかして雄英高校ですか!!やはりあそこの学生さんはひと味もふた味も違うね!!」
「えと!!ちょ!?」
力強!?引っ張られるんだけど!?!?
「ぜひご飯食べて行ってください!腕によりをかけて作ったんです!沢山あるのでいっぱい食べていいですよ!」
「帰りは送るのでどれくらい遅くなっても大丈夫ですよ!!さぁさぁさぁ!!」
「強引すぎるッ!?!?」
「…………ハァ〜……」
紅姫ちゃん!?ため息吐いてないで助けて!?!?!?