side岩刃佳舞
「……」
今日は日巡璃が帰ってくるのが遅い。カノーテスにご飯に誘われたのだとか。
家がお金持ちだとこういうことが出来て少しだけ羨ましい。
ウチに金がないって訳じゃないけど。なんなら私も社長令嬢ではあるし。……他のやつほど大きな会社じゃないからあんまり自慢はできない。母の功績だし。
暇だから自室で色々作業をしてたのだが……なんとなく筆が乗らない。
手が動かない。理由は明白だが、今口に出すと何も出来なくなってしまいそうで嫌だ。そういうのは原因が帰ってきてからでいい。
「……はぁ……」
私がこんなにも夢中になる人間が居るなんて。
口が悪い。チビ。目つきも悪い。生意気。顔はそばかすまみれ。こんなののどこを切り取れば好きになれるんだ。
何回目かの自己嫌悪。私の見た目は世間一般からしたらいい方とは口が裂けても言えない。
でも日巡璃は可愛いと言う。
「……意味がわからない。」
自分が変人なのは理解している。
個性が発現してから全ての人間の数字が見えるようになった。
そのせいで身体測定は嫌いだ。
サバを読むもの、少しでもよく見せようとするもの。嘘つきしかいない。私にはわかってしまう。
わかってしまう自分も嫌だった。
小中と友達なんてできた試しがない。嘘つきが嫌いだ。それを黙ってる私ももっと嫌いだ。1人でいいなんて、周りに期待してないなんて自分の本心を隠してた私も嫌いだ。
本当は寂しがり屋で甘えたくて構って欲しくて。
ママは1人で私を育ててくれた。お仕事が忙しいから私が我慢した。それでも会えた時はめいっぱい愛してくれたからいくらでも我慢できた。
ママは嘘をつかないから。
大きい数字が好きだった。
人の努力が見えるから。努力は嘘を付かないから。数値に現れる美は他とは違う崇高さがあった。だから筋肉が好きだ。大きな身体がすきだ。
……筋肉フェチといえば……そうなのかもしれない。
でも他人とまともにコミュニケーションが取れない私は、それを隠した。
理想と言って。ありえないと言って。
欲望を抑え込むのは得意だった。
ただ手は動いてしまうもので。理想の人が着るようなコスチュームを作るのが好きになった。その筋肉をサポートするためのアイテムを考えるのも好きだった。ちょうど私にはいい環境がある。
ママの会社の工房に入り浸ったこともあった。あそこは楽園だ。機会は嘘をつかない。
人間は嘘をつくから。ずーっと関わらないでおこう。……そう思っていた。
「……日巡璃。」
一目見た時に私は心を奪われた。
筋肉量、身長、体重、スリーサイズに至るまで鍛えて作られた美。こんな存在が居るのかと……心踊った。
あの後寮で会った時、そんなことなら体育祭をもっと見てれば良かったと若干後悔した。
私を甘やかしてくれる存在。お世話してくれる人。そんな人がまるで理想のような筋肉を引っさげて私を好いてくれる。
「…………夢じゃないよな。」
何度も頬を捻った。痛い。
そんなはずは無い。ありえない。何度も思った。でも声を聞く度。触れ合う度。愛を確かめ合う時。
これは現実なんだと、全てなんだと脳に叩き込まれる。
この幸福を誰にも渡したくない。二度とないチャンスだから。
日巡璃が好きだから、日巡璃の好きな物は受け入れる。
だからあの女たちも認めてやる。
…………でも。
「これは……私のモノ……♡」
日巡璃が今まで着ていたコスチュームは飾ってある。これは……私だけの特権。
「ふふふ……」
早く帰ってこい日巡璃。私をもっと甘やかしてくれ。
お前が居ない日常は……もう考えられないから。