side槍田日巡璃
帰り道。あの後色々後処理が長引いて、現地解散ということになった。五甲先輩と雄英に帰ることに。
「五甲先輩。今日はありがとうございました!」
「オホホホ!槍田さんも素晴らしかったですよ。」
「ありがとうございます!五甲先輩も寮なんですか?」
「いえいえ。ワタクシは雄英高校に家が近いもので。最寄り駅も同じなのです。」
「歩いて来れるんですか!?羨ましい……」
「オホホホホ!それに……両親のお手伝いもせねばなりません。」
「……ふふっ。」
お手伝い……ピエロメイクの男の人の口から発せられる言葉にしてはいささか可愛すぎたので少し笑ってしまう。
「変ですか?」
「いえ!そういう訳では!」
「オホホホ……大丈夫ですよ。存じております。」
五甲先輩の顔が少しだけ曇る。
「えと……そうだ!五甲先輩の個性ってなんですか?」
「ワタクシの個性ですか?」
「はい!凄い個性でびっくりしちゃって!」
「オホホホ!良いでしょう良いでしょう。ワタクシの個性は『制約』。ワタクシが行動を縛ることで、一定の範囲の全ての人の何かしらを縛ることができます。」
「……それって広範囲の敵を一気に拘束できるって事ですか!?滅茶苦茶強いじゃないですか!」
「オホホホ……ですがかなりピーキーな個性です。ワタクシの行動を縛るといっても大まかにいえば3種類。『封じたい感覚』『お互いの動き』『個性』これを自らが縛ることで、相手にも強制的に縛ることができます。制限時間はMAX30秒。範囲はワタクシがある程度決めれます。封じる物が多ければ多いほど範囲が広がります。」
「……なるほど……お互いにデメリットがあるという訳ですね?」
「はい。それに……無差別です。範囲内の全員の行動を縛ります。敵味方関係なく。」
「……!」
発動するだけで敵味方関係なく……無差別……なるほど……これはピーキーだ……
「ですので……ワタクシの個性はヒーロー向きではないと言われたこともあります。無差別に攻撃する個性など……ヒーロー社会に相応しくありませんから。」
「そんなことないです!五甲先輩は立派なヒーローをして……今日だって助けてくれました!!」
「……オホホホ。大丈夫ですよ。もう気にしておりません。ワタクシとはもう関係の無い方ですし……ワタクシにはやらねばならぬ事が他に沢山ありますから。」
五甲先輩の顔が見えなかった。……いや。正確に言うと見れなかった。本当に気にしてないって言う人は……なんかこう……難しいけどもう少し明るい気がする。
五甲先輩は全てを受け入れている感じ。全部飲み込んで、蓄えて。それでもヒーローを目指してる。
「…………あの。」
「はい?」
「なんでヒーローになろうと思ったんですか?」
「……」
「あっ!いや!難しかったらいいんです!……えと……ヒーロー向きじゃないって言われたのにヒーローになろうとするなんて……余程の事がないと無理だなって思って。」
「……オホホ。良いでしょう。お話します。……ま。電車を降りてからですね。」
「あ。駅……」
話に夢中になってて気が付かなかった。
「オホホホ!それでは乗る電車を間違えないようにしましょうね。」
「はい!」
この後五甲先輩が買う切符間違えたり、電車のホームを間違えたりしてたけど内緒らしい。
side傷原被身子
「……ふーん。ありがと。そっちもお疲れ様。」
『〜。』
ピッ……
流水さんが部屋で電話をされてたみたいです。ご飯できたんですけど……お仕事ですかね?
流水さんの部屋のドア……全開なんですよね。きっとそれだけ信用してくれてるってことなので嬉しいです。
ノックだけして様子を確認する。
「流水さん?お電話終わりました?」
流水さんの部屋には何も恥ずかしげもなく私から貰ったモノがゴロゴロと。写真もいっぱいある。……ちょっとだけ恥ずかしいですね。
「被身子ちゃん……ん。」
「!……♪」
流水さんがちょっと伏せ目気味に両手を広げた時は、甘えたい合図。かぁいすぎていつでも甘やかしてしまいます。
「……めんどくさいよぉ〜……」
ハグしてあげたら流水さんは当たり前かのように私の首元に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅ぐ。……安心するのはわかってるんですけど……ずーっと慣れませんね。
「ふふ♪無理だったら嫌だーって言えばいいんですよ。公安委員長もそんなに鬼じゃないですよ?」
「鬼だね。絶対鬼。」
「もう。またそんなこと言って……」
「被身子ちゃんにくっつくだけのお仕事したい……」
「私のハグは流水さんに限り連日無料なので時給は発生しませんよ?」
「うわーん……お得だ〜……」
「それよりもご飯冷めちゃいますよ?」
「食べる〜……」
「抱っこしちゃいますね?」
「ん。」
流水さんのおしりに手を回して持ち上げる。
……役得役得。流水さんのおしりをさりげなく触れます。
「……なんか手つきがえっちだよ?」
「気のせいですよ♪」
side槍田日巡璃
「ワタクシがヒーローを目指したのは……ヒーローと敵が戦ったあの戦争です。」
「……!」
駅を出て雄英に向かう道。ポツリと五甲先輩が話してくれた。
「もしかしてヒーローに助けてもらいました?」
「オホホ……逆です逆。助けて貰えませんでした。」
「…………え?」
「おかげでワタクシの両親は、父が下半身不随。母が右腕と右足を失う大怪我を負ってしまいました。」
「え……」
両親のお手伝いって……
「手が回らなかったのも分かります。時間が足りなかったのも。敵が多すぎたのだって原因のひとつでしょう。……しかし。ワタクシは憎んでいるのです。この平和な社会を。」
「……」
「まるであの時の傷が無かったかのように振舞っている社会を。……ワタクシの両親はあの時には戻れません。-1は0には戻れないのです。
…………なのでワタクシはヒーローになろうと思ったのです。」
「…………え??」
なんの脈絡もなかったけど……!?
「オホホホ……だってワタクシがヒーローとして活躍をすれば、ワタクシがメディアに出ることもきっと増えます。そうなれば家族のことを話す機会もあるでしょう。映像媒体に残れば……戦争の被害を人類は忘れません。」
「……!!」
「あの時の痛みを。苦しみを。ワタクシは風化させてはならないと思うのです。…………今生まれる子に。これから生まれる子に。何代も何代も語りづがねばなりません。文字だけでは分からない苦しみがあります。目で見る。声を聞く。……ワタクシは歴史の生き証人になるために、ヒーローとして社会に訴えかけていくのです。」
「…………」
……なんとなく理解できた。多分……私で言うところのイジメだと思った。風化させる訳にはいかない。苦しみを全人類が理解することで、無くさなくちゃいけない。
風化と理解は違う。
私はこういう思考にはならなかったけど……五甲先輩はなったんだ。
「幻滅しましたか?」
「ううん。かっこいいです!頑張ってください!!何かあればお手伝いします!」
「……ふふ。……酔狂な方だ。」
少しだけ五甲先輩の顔が緩んだ気がする。
「ですが……オホホホホ!これはワタクシの理想です。誰にも手出しはさせません。」
「そうですか……応援してます!」
「ワタクシはあなたのような後輩を持って幸せですよ!」
「えへへ!そう言ってもらえると嬉しいです!」
そのあとは他愛のない話を沢山した。
五甲先輩と、ほんの少しだけ仲良くなれた気がした。