side今昔鏡見歳乃
強さとはなにか。
心。体。姿勢。強いと感じられる人間はどこかしらに特徴を持ってる。ただしそれは曖昧なもので、私ですら言語化がまだできていないもの。
幼い頃から執着はあったのかもしれません。
私は私が持ちえていない強さに憧れがありました。尊敬がありました。
それが学術だったり、運動だったり、生きる術だったり。様々な形ではあったけれども、どれも私にとって全て尊敬に値するもの。
なので年上の方は輝いて見えました。私がした事の無い経験。その経験から来る姿勢。思考。
そのどこかしらに学ぶべきことはあって……いえ。例外も居るとは思いますが。
ともかく、私は振り返ってみれば強さというものに酷い執着がありました。
それと共に、私は強者でした。
生まれ持って持ち合わせた個性も、家柄も、才能も。全てを授かって産まれてきた生来の強者。
ですが私はそれに驕らず、自らをもっと強者にするために成長し続けました。常に上を。常に苦しい道を。己に課題を課すことは嫌いではありませんでした。
その結果といえばそれまでですが、年下……及び同級生の事が守る対象になっておりました。
自らの思考を肯定する訳ではありませんが、強者として産まれ、常に努力を怠らない私と……申し訳ありませんが、同じ土俵に立っているように見えなかったのです。
ですから私は同級生と競うことを辞めていました。なぜなら私が実力を100%出し続けていれば、挑む者など誰一人としていないことに小学生の内から気付いてしまったからです。
挑む前から羨むもの。憧れるもの。憎悪の視線を向けてくるもの。諦めるもの。
私にとって彼らは友人ではありながら、戦う価値のない相手。私の強さを誇示したいわけではありません。お互い切磋琢磨して、より強くより輝く。他人を導ける者になれるライバルを……心の底から欲していました。
「…………この……私が……」
初めてです。初めて負けを味わいました。
私は、父親の会社の都合で引越しを余儀なくされ、福岡のとある進学校に通うことになりました。
私が転校する時は、ありとあらゆる人間から別れを惜しまれ、悲しまれましたが……やはりそこでも庇護対象から抜けることは出来ませんでした。
初めての挨拶、1人……目に付いた方がいました。
槍田日巡璃さん……と言う方でした。
目に付いた理由は明確です。大きな体躯と汚い机、ボロボロの制服、落書きが目立つ上履き。そして大きな切り傷を縫った跡が見えるカバン。
彼女はいじめを受けていたのでしょう。弱者がやりそうな事です。……この学校の名誉も地に落ちたものですね。いじめている暇があれば己を磨けばよろしいのに。
あなたも……弱者だからいじめを受けるのですよ。
当時はそう思っておりました。
私が転入してすぐの試験。
進学校ということもあり、試験の難易度は高く……ですが私はこの程度で終わる人間ではありません。明らかな手応えを感じ……順位が公開されるらしいので見に行くと……
『1位 槍田日巡璃 498点
2位 今昔鏡見歳乃 490点』
「なっ…………」
槍田……日巡璃……!?
あの人……!?あのいじめを受けていた……あの人……
背筋が少しだけヒリついた気がしました。
後ろを振り向くと、槍田日巡璃が遠くでチラッと点数を確認しただけで教室に戻っていくのが見えました。
誰が上など興味が無い。そう言ってるようでした。
私が……この大衆の中にいる私が少しだけ惨めに感じました。初めてのことです。
ここ数日……私に話しかけてくる方が私を褒めていたみたいですが、全く興味が湧きませんでした。私の興味は槍田日巡璃に向かっていました。槍田日巡璃しか……見えませんでした。
その後の授業でも散々見せつけられました。私は井の中の蛙だったのです。上には上がいる。私の同級生に……私が憧れるべき、教えを乞うべき存在がいる。
それが私にとってどれだけ救いだったでしょう。
彼女は私のことを全く見ていないのかもしれない。視界にすら入ってないのかもしれない。
それが本当に嬉しかった。私は、まだ伸びる。
槍田日巡璃は、いじめすら何処吹く風。どれだけボロボロの教科書でも。どれだけボロボロのノートでも。彼女は好成績を出し続けました。
私が満点を取ったテストは、彼女も満点を取っておりました。
私がいい記録を出した日は、彼女はそれ以上を出していました。
それが楽しかった。充実していた……と言っても過言ではありません。私は救われたのです。彼女に。
彼女を観察している上で、色々わかったことがあります。
彼女は俗に言う異形差別でいじめられていること。己の弱さではありませんでした。私の勘違いです。本当に申し訳ありません。
彼女は水泳の時間は皆と一緒にやらないこと。
聞けば個性の都合で両性具有のため皆の前で着替えられないのだとか。……いじめの都合もあるでしょうに、それをあえて伝えない同級生に再度嫌気が差しました。
昔はプールで泳いでいたとの話も聞きました。……もったいない。彼女であれば水泳ですら私を凌駕する記録が出せるでしょうに。
これは不戦勝です。私の勝ちではありません。このようなものに一片の価値もありません。
私は勝手に。本当に自分勝手ですが彼女をライバルとして見ておりました。
それでも卒業というものは訪れてしまうもの。
彼女は雄英高校のヒーロー科に。私は聖愛学院のヒーロー科に。
雄英高校に行こうと思えば行けましたが……校風が合いませんでした。規律あってこその学園です。
強さを求めた私がヒーローを目指すのは遅かれ早かれ有り得た話でした。精神面も、肉体面も最上な稀代のスーパーヒーローオールマイト。彼に憧れたというのも無理な話ではないでしょう。……と言いますか、その頃から私は少しだけヒーローにハマりました。
少しだけですわよ?
最後の最後まで彼女と会話らしい会話をしませんでした。それがお互いのためでもありました。
聖愛学院に入学してからというもの……私は神童と持て囃されました。私は……それが許せなかったのです。私よりも槍田日巡璃の方が……
それに神童と呼ばれるということは……私の小学生の時代に巻き戻ったということです。学園生活は張り合いがなく、非常につまらないものでした。
私はこの頃から、槍田日巡璃のことを何度も思い出すようになりました。あの方が居たら。あの方なら。何度も思いました。私を……負かして欲しいとまで思う程に。
夏休み、実家に帰省をしました。寮生活ですが、何も面白いものもありませんので。
なので天津場の買い出しなどに着いて行ったりして時間を潰しておりました。そんなある日……
「槍田日巡璃?」
居た。私がずっと求めていた相手。恋焦がれていたと言っても過言のない相手。
正直に言います。嬉しかった。心が震えました。
私はこの時に自覚したのかもしれません。これは恋なのだと。
それと同時に失恋もしました。
私は……彼女達のように槍田日巡璃を愛せないと。
私は恋愛などは理解できません。恋に憧れたことも、望んだこともありません。
私にとって恋とは……お互いのエゴです。
この恋心はずっと仕舞っておこう。今の私には必要の無いもの。槍田日巡璃は……ヒマちゃんにとって私は、ただのライバルでしかないのだから。