side今昔鏡見歳乃
だから私はヒマちゃんとただの友達で居ようと。ヒマちゃんを諦めました。
……逃げたのです。
勝者とは程遠い。強者ができぬ逃げ。
自分の気持ちに向き合わず、己から逃げる。他者に強さを求めていた私が……己の足元が揺らぐ思いでした。
それでも背を向けたかった。向けなくてはいけなかった。
そうしないと私はきっと立ち止まってしまう。彼女らの背中を見て、羨ましがってしまう。ただ。まっすぐ。
あの時私は逃げずに向き合えたら。背を向けずに思いをぶつけれたら。ワガママが口から出せたら。
弱者だったら。
もう少し変わった未来に歩めたのかもしれない。
後悔はいつしても苦しいものです。
夏休みが明けて、私はまず聖愛学院1年ヒーロー科の改革を目標に動き出した。
聖愛学院を強く。私だけではなく、みなが優秀な成績を収めれるように全員の動向をチェックした。生徒会にも入った。
出来る限りのコネクションを使って機会を増やし、経験を与え、成長を促した。
動いている方が……過去の想いを忘れることができた。
雄英高校と合同授業にもありつけた。日本最高峰の授業を身をもって受けれる。こんな場面きっと二度と来ない。
結果をいえば大成功。
皆の意識が一段と大きく変わった。次の予定を組み込むことにも成功した。それ以前に、クラスのほかの子たちから自己推薦も相次いだ。
己を磨くために自ら志願する。努力が美しく、それでいて強い意志を感じた。私も心地が良かった。強さは心地いい。
仮免許試験も1年生の中は過半数がクリア、これは聖愛学院が始まって以来の快挙。これから聖愛学院はどんどんレベルが上がっていく。落ちたものも負けていられないと一段と日々の授業に身が入る。
素晴らしい。美しい。私が求めていた強さがここにある。
…………本当に?
全員が一丸となって強くあろうとする。これのどこに不安要素があろうか。
…………貴方は?
え?
貴方は。貴方は己を磨けているの?他人のことばっかり。
ふと周りを見ると……私の先には誰もいなかった。
私は誰を目標に動けばいいのか。あの時捨てた気持ちは……私の目標まで捨ててしまっていたようで。
…………無意識のうちに求めていた。
あえて朴念仁のフリをして。夏休みのときは察せられないように。今は強者を見つけるために。強者を見つけるなど……女々しい言い訳。
私はヒマちゃんを……槍田日巡璃の面影を探していた。ずっと。ずっと。ずっと。
私の枷は私の逃げを許してくれない。
転機が訪れたのは三学期が始まった時。
この時期の転入生。名を亦亘初華。仮免許は持っているとの事。
相当な実力者のはず……だが、当の本人は緊張しっぱなしで喋ることすらままならない様子。
私が何とかフォローに入り、結果的に私が校内を案内することに。
彼女の熱視線は……その頃は気が付かなかった。
次の日から彼女は変わった。まるで人懐っこい子犬。まるで……ヒマちゃんみたいに。
私に対してだけアプローチが顕著だった。ハグ、頬擦り、暇があったらくっついてきた。
私だけではないのだけれど……私にするのだけすごく長く、それでいて頻度が多かった。
私はもう彼女の好意に気がついていた。それと同時に、私の中に埋めていた恋心がフツフツと吹き出してきていた。
亦亘初華に槍田日巡璃の面影を重ねて。
恥を知れ!今昔鏡見歳乃!!
そんな失礼なことがあって溜まるか!1度捨てた気持ちを!別の人に乗せて!この子がまるで代用かのように……!!ヒマちゃんはヒマちゃん!亦亘さんは亦亘さん!
もう諦めたのに!!
無くした……はずだったのに。
……嘘。
嘘じゃない!!
……下手くそ。
……
本当は気がついてる。亦亘さんとヒマちゃんは違うって。そのうえで亦亘さんに見惚れているのも。好意的に捉えているのも。
そのうえでヒマちゃんを忘れられないのも。
貴方はどうするの?
「…………私は……」
side槍田日巡璃
「……って話。……どう?気付いてた?」
帰り際。ミトちゃんが私とお話したいらしいからみんなに隠れて2人だけ。
ちなみに愛ちゃんとカナと……聖愛学院さんたちは実はこっそり見てる。気付いてるよ??
「……嘘……ミトちゃんが……私のこと……」
「ホント。……この朴念仁。」
「…………」
私の前に立つミトちゃん。背を向けているので表情は見えない。
ミトちゃんが私を好きだったなんて。今からでも……!
「ミトちゃ……ん…………」
ミトちゃんが振り返る。
目に涙を溜めて。はにかむような。困っているかのような。そんな顔。
「……遅いわよ。何もかも。…………おバカ。」
「っ!」
私は……
視界が歪む。目から涙が零れているのを自覚できない程馬鹿じゃない。
「う……うわ……あああ……」
「ふふっ……どうして……ぐすん。……ヒマちゃんが泣くの……?」
「ミトちゃん……だっでぇ……!!」
膝が地面に着いた。私は……なんてことを……ずっとずっと……私のことを好きだった人を……!!この……私の……バカ!バカバカ!!……私……どうして気が付けなかったの!!
「ヒマちゃん……」
ミトちゃんが私の首に腕を回し、抱きついてくる。
「私が悪いの。意地を張って……ぐすん……ちゃんと伝えなかったから……」
「ミド……ぢゃん……っ!」
ミトちゃんに抱きつく。今思い返せば……お風呂に入れた時以来。初めてのちゃんとしたスキンシップかもしれない。
「ごべんなざい!!わだぢが!!きづいてあげられなくてぇ!!!」
「ヒマ……ちゃん……!!」
声を頑張って押し殺した。大きな声は出せない。
それでも謝りたかった。伝えたかった。
するとミトちゃんに頬を手で覆われた。
「ヒマちゃん……笑って?」
「んぇ……?」
「私……ヒマちゃんの笑顔。大好きなのよ?」
「ミト……ちゃん……」
ミトちゃんも涙いっぱいで……顔がぐちゃぐちゃだったけど、それでも笑っていてくれた。
……だったら。
「ん……んへ……こ……こうかな!」
「ふふふ……下手くそ。」
「ミトちゃんだって!」
何も言わず、お互いの額を合わせる。
どれくらいの時間が経ったのだろう。目を閉じ、ふたりでずっとお互いの体温を感じるだけの時間。
「今。この時だけ。これが終われば……私たちはまた普通のライバルに戻るの。」
「……うん。」
「……少しだけ寂しいわ。このまま今溢れる恋情のまま貴方に身も心も全部差し上げたい。」
「…………ダメ……だよ。亦亘さんがいる。」
「……冗談よ。」
「…………ふふ。」
「ヒマちゃん。私幸せよ?」
「……うん。私も!」
「…………♪」
ちゅ……
「!」
今……頬に……
ミトちゃんが静かに立ち上がる。
「……ふふ。私の初めてよ?光栄に思いなさい。」
「ミト……ちゃん……」
いつの間にか泣き止んで、普通のミトちゃんに戻っていた。
「今昔鏡ォ!!日巡璃になにやってんの!!!」
「オホホホホ!それではこの辺で失礼いたしますわ♪皆様!いきますわよ!」
脱兎のごとく逃げていくミトちゃん達。……亦亘さんは追いかけてるが正しいけど。
「くっ……逃げ足が早いわね!」
「お嬢様!お無事ですか!!」
「カナ……愛ちゃん……」
私は近くに来たふたりをゆっくりと抱き寄せる。
「日巡璃?」
「お嬢様?如何なさいました……」
「私ね。もう知らないの辞める。」
「「!」」
「私の無知で人を傷つけちゃうのがわかった。……わかっちゃった。私の認知の歪みで……人が傷付いちゃう。そんなの嫌だよ。」
私の見た目のこと。皆の気持ちのこと。評価のこと。全部全部……私は自分に自信を持ってみる。皆の評価を……素直に受け止める。
「日巡璃……」
「お嬢様!ご立派です!」
ふたりの顔は……なにか察したようで、それでいて私の背中を押してくれた。
「うん。……でもごめんね。今だけ……今だけこうさせて。」
ふたりをぎゅっと。そしてふたりの肩に顔を埋める。
溢れる涙は……今の私じゃ名前をつけれない。
へへ……またふたりに涙を救ってもらっちゃった。ありがとうね。
大好き。