side槍田日巡璃
「「「「……」」」」
重い空気が流れる。
私たち……インターン中の生徒が集まっているのはとある病室。ベッドに1人。立ち尽くしているものが3人。……あとひとり。
あの事件の後、後処理のため私たちは一旦帰らされ……でも会いに行かない訳にも行かず、面会の最後。ギリギリの時間に入ることができた。
「……そんな顔しないでください。私が望んだことです。」
「……でも……」
当の本人は既に目を覚まし、ベッドの上から上体を起こしている。
クリスちゃん。左腕が……欠損してしまった子。
みんなからの情報のよれば、不意打ちだったとはいえプロヒーローを1人倒し、学生ヒーローをまるで遊ぶかのように蹂躙。ヒーロー攻撃を目的とした敵犯罪に巻き込まれた形。
はじめてのインターンで。
「…………ごめん。私がもっと早く来ていれば……」
「ちがう……ウチがもっと早く連絡できてれば……」
「……やめろよ。そんなこと言ったら……何もできてねぇ俺がいちばん悪ぃよ。」
「「……」」
「……大丈夫ですよ。この程度でヒーロー活動を辞めれるほどヤワじゃありません。」
当の本人が気にしていないことが……いちばん辛い。
「……」
それに……
「ねえ。」
「……っ。」
「なにか……無いの。」
「…………」
亦亘さん。今回の件で……さほど怪我がなかった子。無傷と言って差し支えない。
さっきからずーっと何も喋らない。何も言わない。誰が聞いても、今日の面会も……フラッと着いてきただけ。
「……べ…………別に……」
フッと目線を下に外す。まるで……諦めているかのような。拗ねているような。
それが……許せなかった。
「!」
私が1歩詰め寄ると同時に、無頭くんと憂世ちゃんが私を止めに入った。
「何!?別にって何!!アンタどうせ……何も出来なかったんでしょ!!現場に居ながらッ!!」
「……ふ……ぐ……」
「委員長!!」
「待って!槍田はん!ここ病室や!あんま大きい声出したらあかんて!」
「そんなことなら……私が一緒にいれば良かった!!私だったら……こんな怪我させない!!」
「…………ぐ……うぅ……」
亦亘さんが歯を食いしばりながら涙を流す。
「泣きたいのはクリスちゃんだよ!!アンタじゃない!!」
「……かった。」
「はぁ!?」
「…………うごげながったんだよぉおお!!」
動けなかった……!?ヒーローが……現場で……!?
「……何してるのッ!!!アンタはァッ!!!!」
そんなこと……許されるわけがないッ!!
「ダメだ委員長!!手ェ出すんじゃねぇぞ!!」
「あかんで槍田はん!冷静になっておくんなまし!」
「……」
「何してるかわかってる!?最悪人が死ぬところだったんだよ!?」
「委員長!!落ち着け!!待て!!」
「ねぇ!!なんとか言ったらどう!?ねぇったら!!!」
「槍田はん!槍田はんの言うてることは正しいんよ!やけん待って!!落ち着いて!!」
「絶対に許さないからッ!絶対に!!あんたが……あんたがあああっ!!!」
「………………」
「あんたが動けていたらッ!……クリスちゃんの腕はッ……!!!」
「…………ふぐ…………うぅ……」
「無くなんなかったかも……しんないのに……!!!」
「………………うあ……うわああああああっ!!!」
亦亘さんが走って病室を出ていった。
それと同時に……私は膝から崩れ落ちた。
己のやるせなさと、怒りを他人にぶつけてしまった事への自己嫌悪。もう胸の中が……めちゃくちゃだった。
「委員長……」
「槍田はん……」
「……っ。」
私は……何がしたいの。
もう戻れない。これはあの子だけの失敗じゃないのはわかってる。わかってるけど口に出た。感情でどうにもならないことも理解してる。それでも止めれなかった。起きてしまったこと。結果そうなってしまったこと。
私の中で、クリスちゃんの腕の欠損というものは……思った以上に消化が難しいものだった。
私がいれば……私が戦っていれば……もっと早く……もっと強ければ……
ガラッ……
「うるさいですよ。病室では静かに。」
「「「!」」」
「……才子……おねーさん。」
才子おねーさんがドアから顔を覗かせる。
「…………ふぅ。」
才子おねーさんは病室に入り、持っていた紙袋を椅子の上に。
「日巡璃ちゃん。どうしたんですか。」
「…………わかんない。私……クリスちゃんの腕が……無くなっちゃったのが……やるせなくて……動けなかったって言った……亦亘さんが許せなくて……でも……怒っちゃって。ぶつけちゃって……それも嫌で……」
「……はぁ。まだまだ子供ですね?」
ぽんと頭に手を置かれる。
「……え?」
「あなたが気にすることじゃないです。今回は私たちプロのミスです。判断を誤りました。」
「そんな……そんなわけ!」
「言ったじゃないですか。これは私たちの仕事だと。……だからあなた達のミスを謝るのも私たちの仕事ですよ。もしかしてまた自分が〜とか思ってました?本当に自責の塊ですね。」
「……!」
「私は今からリザーディの病室に行ってきます。それに……今は多分ブラッドロータス様が鎌足さんのご両親に謝罪をしに行ってます。」
「おねーさんが!?」
「はい。私の事務所の最高責任者なので。……それが大人です。娘さんの身体に怪我を負わせてしまった。過程がどうであれ結果は嘘をつきません。謝るのも、許すのも許さないのも大人です。」
「…………」
「みなさんも覚えておいてください。私達に責任を押し付ければいいんです。あなた達はまだ子供。自己責任は美徳ですが……もう少し肩の力抜いてもいいんじゃないですかね。そのための私たちです。あなた達のミスは全部私たちのミス。無理に責任を感じる必要はないんですよ。」
「…………うん。」
「鎌足さんには後日しっかりとした場で謝罪をさせてください。我々の不徳の致すところです。」
「いえ……これは私が選んだ事ですので。お二方には大変良くしていただきました。」
「……ありがたいお言葉です。」
才子おねーさんが紙袋を持ってドアへ。
「それではそろそろ面会時間も終わりますので手短に……ね?」
「「「……はい。」」」
「……ふふ。」
おねーさんが病室を後にする。
「……日巡璃さん。」
「……?」
「私のために怒っていただき……ありがとうございます。少しだけ……少しだけですが気が晴れました。」
「!……いや……あれは……私が……」
「いえ。ふふ……私は……望んだことと言っておきながら……少しだけ後悔していたのかもしれません。」
「…………そっか。」
「ふふ。……亦亘さんには内緒ですよ?」
「……うん!」
その後面会時間ギリギリまで色々話した。
まだこの事実を飲み込むことは時間がかかるかもしれない。責任を押し付けるなんて難しい。
でも大人がそうしているんだ。大人には大人なりのケジメの付け方がある。それに対して……私がどうこういうのは間違ってる。
私はもっと……心を強くしないと……意思じゃない。心の持ち方を……
side亦亘初華
「……」
やっちゃった。逃げちゃった。私……何がしたかったんだろう。
言い返せなくて。言い返したくなくて。
何も出来なかったのは事実だから。
リザーディが私を庇って襲われて。私はそのまま腰が抜けて。結果クリスさんの腕が無くなった。
私は……ヒーロー失格だ。
「…………もう……やめようかな……」
ごめん……みーちゃん……私……
「……初華。」
「…………え。」
「何をしているのですか。」
「…………な……んで……」
そこに居たのは……みーちゃん。
私の彼女で……今1番会いたくない人。