side無神神奈月
『神奈月。常に勝者でありなさい。』
私にそう教えた父は、母を別の男に取られた。
『神奈月。人の心を救う存在でありなさい。』
私にそう教えた母は、不倫をし父の心を壊した。
『神奈月。君は選ばれた人なんだ。僕みたいにね。』
私にそう教えた兄は、何者にもなれずニートになった。
『神奈月。私のように慈愛の心を持ちなさい。』
私にそう教えた姉は、中学の時傷害事件を起こし、今少年院にいる。
私は物心ついた頃から人を信じれなかったのかもしれない。
人の言うことも。やってることも。全部。全部。
信じれなかった。
私に教えたことを誰1人守れてないのだから。
人間みんな……嘘つきだ。信じるに値しない。
幼い頃から数字が好きだった。
数字は嘘をつかないから。
幼い頃から文章が好きだった。
答えは嘘をつかないから。
だからいっぱい勉強した。自分の答えが正しいと、それだけで嬉しかった。いくらでもできた。
他の人と関係を持たなくても……勉強は私を充実の海に沈めてくれた。
勉強の最中、本を読むことが増えた。新聞も読んだ。色んな知見を頭に入れた。
数学オリンピックも出た。もっと難しい問題が欲しかったから。なんてことはなかった。
身体を動かすことも楽しかった。
父の知り合いの武術の先生に弟子入りした。
自分の成長が少しづつ、それでいて確実に実感できた。
先生を倒してしまった時は少しだけ寂しかったが、卒業できるいい機会になった。先生も暖かく送り出してくれた。
だから私はヒーローに憧れた。
ヒーローの行いは正しい。ヒーローは皆崇高な心を持っている。
この目で何度も見た。ネットニュースで何度も読んだ。
輝いて見えた。
あいにく個性は強力なもののようで、その辺については困ることはなかった。
友達はいなかった。
対等な……友達はいなかった。
みんな私を持ち上げる。みんな私を見上げる。
世間もそうだ。数学オリンピックで優勝してから……天才だと持ち上げた。
私は孤独だった。言い寄ってくる男もいた。
でも周りが許さなかった。
勉強では埋めれない穴。孤独。
家庭は崩壊していた。
仕事から帰ってこない父。
もういない母。
何もしない兄。
何をしてるか分からない姉。
私は外部に居場所を求めた。
高校は……ヒーロー科なら。みんな私の事を救ってくれるかもしれない。
雄英高校。調べたら日本最難関高校……らしい。推薦入試もやってるみたいで、迷いなく受けた。
スルッと入学が決まり拍子抜け。
でもこれで私の理解者がきっといるはず。
持ち上げてくる他人も。
擦り寄ってくる他人も。
きっとどこにもいないはず!!
…………あれ。
なんで……。
私…………頑張ってるはずなのに……
『何よ!私みたいに私みたいにって!アンタみたいに出来れば偉いの!?』
そんな事言ってないよ!
『何か言ったらどうなの!?あんたがこのクラスの輪を乱してんのよ!ほかのクラスからA組は問題児の巣窟って言われてんのよ!?意味わかんない!』
そんな……そんなわけ……
『そういえばよ。今日も今朝別のクラスのやつに食ってかかったって聞いたぜ。意味わかんねぇよな。』
それは……普通科の子が皆の悪口を言ったから……!
『そうだよね。委員長は。……自分の物差しでしか人を測れないんだもん。』
『……私が悪かったね。委員長。だからもう二度と関わってこないで。…………私。委員長はどこか良心があるって思ってた。…………私、人を見る目が無いんだね。』
……待って
『……そんなことも分かんないんだ。本当に他人に関心が無いんだね。…………バイバイ。委員長。あなたが早く変わらないと私……あなたのこと嫌いのまま卒業しちゃうかも。』
お願い待って……!
もう…………どうしたらいいかわからないよ。
どこにも答えは書いてない。
『良くないでありますよ!良くないであります!!自分の不平不満を相手にぶつけるのはまだしも……暴力に走るのだけは良くないであります!!』
『自分もこの人に嫌なこと言われたであります!でもそれが加害していい理由にはならないであります!』
『だからこそ助けれるであります!!僕はヒーローになりに来たであります!余計なお世話かもしれないであります!関わってこないで欲しいかもしれないであります!でも!!それとこれは別であります!!!』
私を助けてくれた加糖くん。ヒーローみたいだったな。
『……寂しかったんだねぇ?』
『学生時代から天才ともてはやされてまともな友達いなかったんでしょ?私もそうだから。……まぁ私の場合虐められてたんだけど。』
『理解できない?……理解してくれる人を求めてたのに?』
『…………あなたに必要なのは……理解してくれる人じゃなくて……あなたに新しい視点を教えてくれる人なのかもね。』
私を理解してくれた槍田さん。嬉しかったな。
…………助けて。
死を感じた。
間近に。
私は負ける訳にはいかなかった。皆を認めさせたかった。
私の凄さを。私の強さを。
それしか残ってなかったから。それしか……やってこなかったから。
『情けなど……いらないッ!!完膚無きまでにボコボコにしてあげるわッ!!あのB組みたいに!!普通科みたいにッ!!』
思ってもないことが口から出た。
今回だけじゃない……この体育祭中。何度も出た。
……もしかしたら何処かで皆を見下してたのかもしれない。
だって……いつもみんな私の下に居たから。
………………それ以外の立場が……わかんなかったから。
違和感を覚えた。
足が動かない。
目の前の対象物から逃げろと脳が……背骨が……全身が危険信号を発しているのに……動けなかった。
すごく長い時間だった。
相手がこちらに向かってぶつかってくるのがスローモーションで見えた。
……このまま死ぬってことを……全身で理解した。
気が付けば保健室の先生と、セメントス先生に連れられて救護室に居た。
私は優勝したらしい。
槍田さんは私を殺そうとしたことで反則負け。
表彰式では私の意識が戻らなかったこともあり、1位不在で行った。
…………私は……負けていた。
下着が違った。失禁していたらしい。
彼女を怒らせてしまった。謝らないといけない。
私を理解してくれる数少ない人間。
彼女を逃したら……私はまた孤独に……
ガラッ……
「無神さん居るでありますか?」
この声……加糖くん。
「……はい。ここに。」
「あぁ!居たでありますな!良かったであります!みんな帰っちゃったので荷物を届けに来たであります!」
加糖くんの両手には私の水筒とタオル。笑顔で手渡ししてくれた。
「…………なんで……B組のあなたが?」
「僕だけじゃないでありますよ〜!」
「…………え?」
「……加糖くん。バラさなくてもいいのに。」
ドアの隙間から槍田さんが顔を出す。
……槍田さん!
私はベッドから飛び降りた。
死を見せられた恐怖。殺されるかと思ったトラウマ。そんなの全部投げ捨てた。捨てれた。
目の前に3人人影が映るが気にしない。
槍田さんに土下座。頭を下げる。
「ごめんなさい!!私……貴方に……貴方たちに酷いことをッ!!」
「…………いいよ。どうせ本心じゃないって思ってたし。口から出るのはどうかと思うけどね。」
「…………ごめんなさい。」
「……甘麻呂。こいつどうしたんだよ。」
「……複雑なんでありますなぁ。」
頭を下げたままで分からないが、他にも人がいるみたいだ。
「皆に謝って。そしたら私は許すよ。」
「……わかった。」
頭を上げ、B組の人はみんな居たみたいで……全員に頭を下げる。プライドなんてものは無かった。
「……。」
「…………日巡璃。」
「……もー!このままだと私が悪いみたいじゃん。いいよ。許す。私が許すってのも変だけど……B組のみんなもそれでいいね?」
「「「はーい!」」」
「…………ありがとう……。」
「A組のみんなと何があったでありますか。……聞いてもいいでありますか?」
「…………うん。大丈夫。」
私は……初めて同級生を頼ったかもしれない。
救いが……欲しかった。
どうすればいいかわかんなかったから。