side槍田日巡璃
そろそろ期末試験も近付いてきて、皆の勉強に一段と熱が入る頃。
「もう!!天眼なんて知らないッ!!」
「ああ!そうならそうしてくれ!俺だって面倒見てやるもんか!」
放課後、天眼君と天気ちゃんが喧嘩してた。
全容を聞いてないものだから何も分からないけど、止めようとしてる日河原君と双子ちゃんを押し切る勢いで言い合い、天眼君が荷物を持って教室から出ていった。
日河原くんはそれについて行くように下校。
おやおや……?もしかして結構危ないかな……?
スイスイとスマホで日河原くんにメッセージを入れておく。
『天気ちゃんは任せて。何とかするよ。』
『了解。』
速攻で帰ってきたので多分日河原くんなら大丈夫。
さーて。ここは私のお仕事ですね。
最近天気ちゃんは双子ちゃんと天眼くんと日河原くんと教室で勉強会をしてる。中間テストギリギリだったから、期末はやばいとおしりに火がついてるらしい。
一応中間の順位は出たけど、天気ちゃんだけ赤点ギリギリだったから相当プレッシャーになってるのかなと推測。
多分そのストレスを抱えきれずに爆発しちゃったのかなぁ?
今日は双子ちゃんと2人……3人で勉強中。…………つまづいてそう。
こっちに視線を向けてくる天気ちゃんと双子ちゃん。少し涙目になってるから……助け舟を出してあげようかな……
「日巡璃。」
「わかってるよぉ……」
いじわるしてたんじゃないんだけど……だってねぇ?委員長だからクラスの事はある程度知っておきたいでしょ?
助け舟出すまで少し待ってようと思ったけど結構早かった。
「どうしたの2人とも。」
「槍田ちゃ〜〜ん!助けてくれぇ〜!!」
「わかんないの〜……」「分かり兼ねる〜!」
「いいけど……何があったか教えてくれるよね?」
「えっ…………」
圧。天気ちゃんに有無を言わさせない。
「教えて……くれるよね?」
「…………えっと。…………その……」
「……教えれないの?教えて欲しいのに?」
カナも参戦。
「ううっ………………ワカリマシタ。」
よかったね。愛ちゃんは今日食材の買い出しで居ないから。愛ちゃんも居たら追加で圧が増えてたところだよ?
天捻ちゃんは愛ちゃんの付き添いだって。何買うんだろ。
「……ってことがありまして……。」
「…………。」
痴話喧嘩です。痴話喧嘩。
朝起こしたのに起きてこなかったとか、天気ちゃんのママから学校の事を天眼くんにチクられて怒られたとかそーんな些細なこと。
「……はぁ。……くだらない。」
「くだるよ!!私にとってはくだるの!!」
「くだる。」「くだる。」
双子ちゃん?あんまりツッコんであげないで?
「……天気ちゃんは嫌だったんだ?」
「……うん。嫌だった。……だって!天眼も悪いところあるのに私ばっかり一方的に叱ってくるんだもん!」
「それは天気ちゃんママから頼まれてるんじゃないの?」
「ママもママだよ!なんで娘を信用せずに天眼ばっかり信用するかな!ほんとにきらい!!」
それは少し……親御さんの対応が悪い気がするなぁ?
「心配なんだよ。ママも。」
「だったら自分で聞けばいいじゃん!私と話したくないならもう話さないもんね!」
これは手強そうだ……
天気ちゃんの家は共働きだからあんまり家族で集まって食事ってのは少ないらしく……だからこそ天気ちゃんママは天眼くんから色々天気ちゃんフィルター無しの学校生活を聞いてるんだと思うんだけど……
それが天気ちゃんにとっては相当悪手だったらしい。まぁ言いたいことは分かるよ。
うーん……どうしたものか。
頭を悩ませてると……
「……それでもよ。」
「……え?」
「カナ?」
「日巡璃。任せて。」
「うん。……わかった。」
どうしたんだろ。カナ。こういうの私に任せてるタイプなんだけど……
「話さないと伝わらない事はあるわ。家族でも。友達でも。」
「でも!聞こうとしてないのはあっちじゃん!」
「貴方もじゃない。」
「なんで!?」
「今。友達からの……日巡璃からの助言を全部受け取ってないじゃない。」
「……!!」
カナの冷静な一言で天気ちゃんが黙ってしまう。
「冷静になって考えてみて。……あなた……母親に怒られてる時、素直に物事を聞いた?全部咀嚼したかしら?」
「……………………。」
「対して理解せず怒られたと敵対だけして突っぱねたんじゃなくて?」
「……………………しました。」
「だったらあなたも悪いじゃない。勘違いしないで?あなた『も』よ?」
「……うん。」
「あなたの母親も……父親もそうよ。あなたとの会話の時間が無い。……それは家族関係としてはずっと寂しいことよ。……私がそうだったから。」
「…………そうなんだ。」
「私の場合は……無意識のうちにって感じだったけどね。でもあなたもまだ踏みとどまれる筈よ。」
「…………どうすればいいのかな。……わかんないよ。」
「いいえ。きっとあなたはわかってるはず。」
「…………謝る。」
「偉いわね。それで相手が謝らなかったらその程度の相手って事よ。接し方を変えなさい。」
「…………それは酷くない?」
「……自覚がないと思うから言ってあげる。世間は20歳を超えたら大人として判断されるわ。……それは20歳を超えたら自動的に大人になるんじゃなくて、20歳を超えたら大人になりなさいって言われてるの。」
「……!」
「大人になるのだから自衛の手段は学んでおかないといけないの。あなた自身を守るためよ。家族だからと無理に固執する必要はないの。幼馴染だからと無理に接する必要はないの。あなたが必要と思える人だけ接すればいいの。それを怒る人はここにはいないわ。」
「……そっか。」
「そうよ。……大丈夫。あなたならできるわ?」
きゅぅん……
「…………。」
少し心が萎んだ。収縮した。天気ちゃんを諭してるカナは大人に見えた。かっこよく見えた。
カナの横顔こんなにかっこよかったっけ……可愛いカナしか見てこなかったから……なんか胸がいっぱいになって……
少し顔が熱くなる。……なんだろうこれ。よくわかんないけど……嫌じゃない。
「……うん。わかった。ありがとう。カノーテスちゃん。」
「わかってくれたなら良かったわ。」
「美右もなんとなくわかった!」「左久も!」
「なんとなくでいいのよ。なんとなくで。100%出来た大人なんていないんだから。」
カナは少し得意気だ。
そんなカナが可愛くて、でもさっきのカナはかっこよくて。
言語化できない気持ちにヤキモキしながら、1時間くらい天気ちゃん達の勉強を教えた。
「天眼よりわかりやすい!」
「美右はこれで100点だ!」「左久も100点取れるよ!」
とのお墨付きも貰ったが、天気ちゃんはしっかり謝ることを約束して解散。
スマホを確認。
『何とかなりそうだ。明日には和解してると思いたい。』
日河原くんの方も何とかなったらしく万事解決。
愛ちゃんはもう少しだけ時間がかかるそう。
カナと2人、教室で待つ。
「カナ。さっきの凄かったね。大人に見えちゃった。」
「……そうかしら。まぁあれは私の価値観だから。あまり鵜呑みにしないで?」
カナに手を握られる。
いつもより心臓の脈が早い気がする。手なんて握りなれてる筈なのに。
「うん…………それでも……かっこよかったから。」
少し照れくさくなった私は顔を背ける。
「……そう。…………良かったわ。」
「え?」
「一瞬でもあなたの心を奪えたんだもの。……私の事もっと忘れられなくなったってことでしょ?」
「…………。」
たしかに……あのかっこいいカナは……まだ脳裏に焼き付いてる。
「……うふふ。……日巡璃。好きよ?」
「っ……う……うん。」
さっきのヤキモキがまた心を包む。何と名義していいか分からないソレは私の視線をカナから逃してくれない。
「……日巡璃の目。綺麗ね。……私……日巡璃の全部が好き。」
「う……ん…………ありがとう。」
「……日巡璃。まだ……好きって分からない?」
「…………ごめんね。」
これが好きなの?この感情は……友愛なの?親愛なの?それとも……
「そっか。……私ね。日巡璃。あなたに無理はさせたくないの。」
「…………私も…………待たせちゃってるから…………ごめん。」
「謝らないで。あなたの事情は汲んでるつもりよ。……それでも……ちょっと寂しけどね?」
カナの笑顔。きっと無理してる。私には分かる。
カナの顔……いっっっぱい見てきたから。たかが数ヶ月。でも……私にとっては筆舌に尽くし難い時間だったから。
「カナ……」
カナを抱きしめる。
「……カナに会ってから私……幸せだよ?」
「……うん。ありがとう。日巡璃。」
カナも私の背に手を回してくれる。
「……私ね?カナ事かっこいいって思ってから……よくわかんない気持ちでヤキモキしてるの。」
「……。」
「これって……好きってことなのかな。……私……カナの事好きなのかな。」
「……日巡璃……。」
カナの手に力が入る。
「そうだったら…………嬉しいなって。」
「日巡璃!」
カナに唇を奪われる。
嫌じゃない。恥ずかしいけど……嬉しいキス。心が満ちるような。ヤキモキした何かが晴れるような……
「……日巡璃。」
「カナ…………私きっとカナのことが好き。」
「日……巡璃……嬉しい。」
カナの頬に涙が一筋。……遅くなっちゃった。
「今日じゃない。多分ずっと……ずっと好きだった。でも……ごめんね?」
言わなきゃいけない。不誠実なのは良くない。
「……何?」
「私……多分愛ちゃんも天捻ちゃんの事も好きになっちゃう。」
「…………いいわよ。それは。私達でもう話し合ってるし。」
「そうなんだ?」
「うん。……あの子達なら……日巡璃を分けてあげてもいいから。それでも……私の事…………最初に好きになってくれて……ありがとう。」
「…………うん。私も……初めてはカナが良かったから。……良かった。」
「…………ふふ。」
「……カナは私でいいの?」
「あなたがいいの。日巡璃。……何があっても絶対離さないから。」
「……嬉しいな。」
「今だけ……私のモノよ。」
カナに強く抱きしめられる。
ちょっと昔の無神さんならボロクソに言われそうだけど……
愛ちゃん達が帰ってくるまでの時間を少しでも噛み締めよう。
これが好き。好きなんだ。
なんて恍惚で……なんて甘美で……
なんて綺麗な幸せの音色。
あぁまずいな。
このままだと私は好きに魅了されてしまう。