※この作品はR-18です。

オルターエゴイズムパラレル~強くてニューゲーム~   作:モブ好き

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導入、遠き頂

 

アイリスアカデミーにある『アリーナ』そこは静寂に包まれていた

 

中央で対峙するのは二人の女子生徒

一人は1年でもトップクラスの実力者と噂される『天城朱音』さん

もう一人は今日アカデミーに入学したばかりと言う『白雪・リンドロム』さん

 

そんな二人を、二階の観客席に集まった生徒たちは緊張した様子で見守っている

 

『なぁ、勝つのはどっちだと思う?』

 

『そりゃ天城さんじゃない?相手は魔力無しなんだし』

 

『やっぱそうだよな、魔力無し奴相手に勝負を挑むってただのいじめじゃ……』

 

『それ、天城さんに聞かれたら大変よ』

 

『うへぇ……』

 

視線はアリーナ一階中央へと向けたまま、小声で話すクラスメイトの声に耳を傾ける

クラスメイトの言うように勝負はする前から分かっている

天城さんとはクラスこそ違うけれどその実力と傍若さは有名で

この状況も天城さんによって引き起こされた事だろうと言うのは想像に容易い

 

 

それこそクラスメイトの言うようにいじめな訳だけど

学園で最低ランクである『D評価』を貰っている自分の力では止める事も出来ない

 

「それで、ジャッジは誰がやるんだ?勝負と言う事なら必要だろう」

 

ギャラリーの見守る中でも冷静な、しかし良く通る声で対峙する天城さんに

そう尋ねるリンドブロムさん

 

「ジャッジ~……?あぁなるほど、審判も居ないんじゃ助けを求められないものねぇ

 ま、いいわ。誰か審判をやりなさい!」

 

こちらのいる二階に向けて声を上げる天城さんに俺たちは静かに顔を見合わせる

もちろん、自分から審判をやりたいと言い出す生徒は居ない

 

「……グズね、あたしを待たせないで!」

 

苛立った天城さんの声に再び生徒たちは顔を見合わせ

 

「ほ、ほら『委員長』行って来ればいいんじゃない?」

 

「あ、ホントだ、いつもクラスの号令とかしてるんだし行ってこいよ」

 

面倒事を押しつけるように俺を見た

 

「あ~……うん、行ってくるよ」

 

この状況で断ってもまた天城さんの怒号が飛んでくるだけだと思い

 

クラスメイトから押し付けられた『委員長』の肩書を背負い

審判をするためにアリーナ一階中央で待つ二人の元へと歩いて行く

静寂に包まれたアリーナに響くのは俺の足音だけで、周りの視線を感じて当事者でも無いのに

緊張で震えてくる

 

「よ、よろしくお願いしますぅ……」

 

「これから勝負をする私より緊張しているな」

 

緊張で上ずった声になる俺を見て、リンドブロムさんはクスリと微笑む

人形の様に整った顔立ちに銀色の長い髪はとても神秘的で、こんな場面でなければ

一目惚れしてしまいそうなほど綺麗だった

 

「あ、す、すみません……」

 

「ありがとう、よろしく頼む」

 

謝る俺を気遣ってかリンドブロムさんは優しい表情でこちらへと手を差し出す

これから勝負をすると言うのに緊張を感じさせない姿に器の大きさを感じつつ

ゆっくりとその手を握る

 

(……女の子の手を握ったのなんていつぶりだろ)

 

場違いな感想だと思う一方で、年頃の男としてはこんな可愛い子と手を握れて

内心嬉しくもある

 

(だけど……)

 

リンドブロムさんとは初対面だけれど、それでも素敵な女の子だと思う

だからこそ力になれない事が悔しい。例え最低ランクであるD評価でも

それでも、自分は誰かを支える人間になれると信じてこの学園にやって来たんだ

 

「……すぅ……はぁ……」

 

小さく、息を吐いて気持ちを落ち着かせ

 

(少しだけでも良い、彼女を助けてあげてくれ)

 

そう心で願い、繋いだ手を通して彼女に力を送る。例え気休め程度の力だとしても……

 

「ちょっと!いつまで待たせ……ッ!?」

 

じれたように怒鳴る天城さんの声が途切れるのと

繋いだ手を通して『恐怖』を感じたのは同時だった

 

(な、なんだ……?)

 

先ほどまで優しさを感じていたリンドブロムさんを、身体が恐れている

手は震え、自然と繋いだ手を離して一歩、二歩と後ずさる

 

怯えるこちらとは対照的にリンドブロムさんは最初こそ驚いた表情をしていたものの

先ほどまで繋いでいた自分の手をしばらく見つめ、何かを確かめるように自分の体を動かす

 

「天城、お前にバディは居るのか?」

 

「……は?」

 

「どうなんだ」

 

「い、いるわよ、グズのサポーターがねっ!」

 

リンドブロムさんの雰囲気に押されるように、天城さんが答える

 

「なら、今すぐバディに防御バフをかけて貰ってくれ」

 

「はぁッ!?誰に命令して……」

 

「必要な事だ」

 

先ほどとは雰囲気の違うリンドブロムさんの言葉は、天城さんの言うように『命令』に聞こえ

天城さんは文句を言いつつもスマホでバディを呼び出す

 

その間に噂を聞きつけたギャラリーの数は増えて行き

 

「これは何の騒ぎだ!?」

 

騒ぎを聞きつけた岡田先生までやって来てしまった

 

 

(良かった……東雲先生も居る)

 

こちらへと歩いてくる岡田先生、東雲先生を見て安堵していると

 

「遅いわよこのグズッ」

 

「ヒィッ、ごめんなさいぃ……」

 

天城さんのバディも到着したようで到着するなり怒られていた

 

「リンドブロム……か?」

 

天城さんたちの様子を見ていると、リンドブロムさんに近づく足を止め岡田先生はそう尋ねる

その様子は警戒しているようにも見え、もしかすると俺の感じている恐怖に似た物を感じて

いるのかもしれない

 

「これから天城と勝負をする所です。すぐに済ませるので続けてもいいでしょうか?」

 

「……ああ、分かった。ちゃんと『手加減』はするようにな」

 

それだけ答えると

 

『よいのか?』

『ああ、確かめたい事がある』

 

岡田先生は東雲先生とそうやりとりをして一緒にこちらから離れて行った

 

(止めてくれないんだ……)

 

先生たちの考えが分からず肩を落としていると

 

「あんたの注文通り準備してやったわよ!」

 

天城さんは武器である剣を模した『アーティファクト』を手に持ち

そんな天城さんの身体をバディの展開した防御バフが包み込んでいる

こちらはいつでも戦える状態だ

 

「それでは始めるぞ、合図を頼む」

 

そう言って視線だけこちらに向けるリンドブロムさん、もはや勝負は止められない

 

「……始めっ!!」

 

せめて、リンドブロムさんが怪我をしませんように

そう祈り叫ぶように合図をする

 

 

「……行くぞ『エクスカリバー』」

 

合図と同時、小さくつぶやいた声に応えるように現れる一振りの剣

それをリンドブロムさんは掴むと天城さんに向けて振う

 

右から左へ、ただ横に一閃

 

そして、静かなアリーナの中に響く音

それは天城さんの『折れたアーティファクト武器』だった

 

「……は?」

 

天城さんのその呟きは、見ていた俺たち全員の感想だろう

リンドブロムさんはただ剣を『振るった』だけで、何か技を使った様子もない

にも関わらず、展開された防御バフを、天城さんのアーティファクト武器を

纏めて切って捨てたのだ

 

信じられない。と言いたそうに天城さんは手に持つ折れたアーティファクトを見つめ

 

「………ヒッ」

 

自分の着ている制服が『切り裂かれて』いる事に気づき、小さく悲鳴を上げた

 

アカデミーの制服は魔法によって強化されていて鎧の様な役割を持っている

それゆえ、そう簡単に貫く事は出来ない……はずだ

 

そんな自分を守ってくれる最後の砦をも貫かれて、多分、思ったんだろう

 

『もし、防御バフをしていなかったら……?』

 

その問いは、恐怖に怯えた表情をしている天城さんを見れば、答えは出ていた……

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざ来て貰ってすまないな」

 

翌日、岡田先生に連れられ俺はアイリス本部へと来ていた

昨日、天城さんとの勝負を見た岡田先生が『まったく、何が何やら……だな』と

ぼやいていたけど、今の俺の気持ちはまさにそれだ

 

アイリスのトップである『菅原神耶』

アイリスアカデミーに通っている身としては、目指す就職先のトップと言う事もあり

名前くらいは知っているけれどなぜか今そんな相手と対面している

 

「報告は聞いている、中々興味深い人材の様だな」

 

そう言って菅原神耶さんはこちらに近づくと、品定めをするようにじっくりと

こちらを見る。見た目は色気溢れる美魔女と言った感じだけど身体から発せられる

威圧感に身体がすくみ、昨日のリンドブロムさんの雰囲気を思い出す

 

「その力、これからもアカデミーで磨いてほしい」

 

それだけ言い差し出された手を、恐る恐る握り返す

岡田先生も東雲先生も『菅原神耶は何を考えているか分からない人だ』と

言っていたけれど、なるほど確かに

 

(この人は『危ない感じ』のする人だな……)

 

アイリスのトップという肩書だからなのかもしれないけれど……

ともかく挨拶を済ませて部屋を出ると、自然と大きなため息が出た

 

「はぁ……緊張した」

 

「よっ、お疲れさん」

 

そんな俺に気さくに話しかけた相手には、見覚えがあった

確か地元で俺をスカウトしてくれた男だ

 

「こちらは状況をよく理解していない、知っているなら話せ」

 

「おっと千影ちゃん、相変わらず美人だね~。ちゃんと説明するから睨まないでよ」

 

岡田先生は説明を求めるように睨むも、男はヘラヘラと笑って流す

そんな男に連れられて今度はアイリス本部内にある『アシスト』部署へとやってきた

 

「ようこそ、縁の下の力持ちアシスト部署へ。俺は君を歓迎するぜ」

 

「説明を」

 

「……へいへい」

 

苛立ったような黒田先生の声に、男はため息をつき

 

「結論を先に言うぜ。白雪リンドブロムは『遠き頂』への扉を開いた」

 

それだけ言うと、真剣な表情で俺を見た

 

「……どういう意味だ?」

 

「あ~、なるべく簡単に説明するとだな。千影ちゃんの隣に居る彼は

 人間の『伸びしろ』を全て引き出せる。ゲームで例えれば

 白雪リンドブロムは『レベル100』に到達したって言えば分かりやすいか?」

 

(……普段ゲームばかりしてるから、その例えは分かりやすいな)

 

二人のやりとりを聞きつつ説明に内心納得していると

 

「全て……か、それなら確かに昨日の出来事も理解は出来るが」

 

そう言って岡田先生はちらりとこちらを見る

 

「彼の魔力はD評価だ、それであの力を引き出すと言うのは考えづらい」

 

「ははっ、与えているんじゃなくて『引き出す』だからな。イメージとしては

 ドアのカギを開けている感じらしい」

 

「らしい?」

 

「ああ、これに書いてあるのさ」

 

眉をひそめる岡田先生に、男は手に持っている古びた手帳を見せる

 

「これは遠い昔アシストに所属していた男の日記で『遠き頂』への扉を開く

 鍵を持っていた男だ。この男も魔力自体は大したことは無かったらしい」

 

「初耳だな」

 

「そりゃそうだ、昔過ぎて残っているのはこの手帳だけでウチでも都市伝説になってるくらいだ

 ただまぁ……誰でも開けられる訳じゃないみたいだけどな」

 

そう残念そうに話す男の言葉の意味を考えるように、岡田先生は少し考えた後

 

「……鍵を開けられる相手は決まっていると言う訳か」

 

「その通り!鍵があっても対応しているドアじゃないと開けられない

 毎年今度こそ間違いない!って思いながら人材をスカウトしてきたけど

 ようやく当たりを引けてほっとしてるぜ。それと……」

 

楽しそうにしたり残念そうにしたりと情緒の忙しい男は

 

「『遠き頂』の候補はもう一人いる。それは……『黒羽夜鶴』だ」

 

再びへらへらとした表情に戻ると、そう言ってにやりと笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今日は何と言うか、行ったり来たり、ですね」

 

「ははっ、連れ回してすまないね。ほら、千影ちゃんもそんな不機嫌そうにしないでさ」

 

「私はいつもこんな感じだ」

 

先ほどまでアイリス本部に居たかと思えば、今度は3人揃ってアカデミーへと戻って来る

先に連絡していた黒羽さんと合流した後、アイリス本部でのやりとりを掻い摘んで説明しつつ

アリーナへと向かった

 

「えっと、つまりわたしは彼の手を握れば良いんですね?」

 

「ああ、頼むぜ!そうすることで扉の鍵を開けられるはずだ」

 

アシストの男に言われ黒羽さんはこちらに手を差し出す

 

『鍵を開ける為には、相手の力になりたいと言う気持ちが必要だ』

 

アイリスアカデミーに向かっている最中、アシストの男はそう言うと資料の束を手渡してきた

書かれていたのは候補と語る黒羽夜鶴さんについて書かれていた物で

彼女の故郷である八場島での事件や、アカデミーに入学したばかりの頃に起こした元バディとの

件についても詳細に書かれていてそれらをきっかけに黒羽さんは魔力の制御を出来るように

訓練しているとのことだった

 

(……3サイズやこれまでの性経験については必要なんだろうかとは思うけど)

 

素晴らしいプロポーションと『性経験無し』と書かれた文字をふと思い出し

資料を読んでしんみりしていた気持ちはどこかへと吹き飛んでしまった

 

「……ふぅ」

 

そして気持ちを落ち着け、黒羽さんの手を握る

 

(……鍵を開ける、イメージ)

 

そして、ドアに鍵を入れてゆっくりと回して行くと、何処からか『カチッ』と音が聞こえてくる

 

「……これはっ!?」

 

溢れ出る魔力にまず反応したのは岡田先生。俺も遅れて溢れる魔力を感じた

リンドブロムさんの時に感じたのは『恐怖』だけど、今感じているのは圧倒的な『何か』

 

「この感覚には覚えがある……『カラミティ』だ。いや、それすらも越えているように感じる」

 

「いやぁ……すごいねぇ……魔力を持っている分、凄さはより伝わって来るよ」

 

「それより、同じ鍵で開けられるものなんだな」

 

「ま、イメージだからな」

 

周りでそんなやりとりをしている中

黒羽さんも驚いた様な様子で自分の手を見つめていて

 

「……魔力をコントロール出来てる」

 

そう一人、呟いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンドブロムさん、黒羽さんの力を引き出した事で内心用済みだと思っていた中

翌日再び職員室へと呼び出され行ってみるとそこには岡田先生だけでなく

リンドブロムさんと黒羽さんも揃っていた

 

「連日呼び出してすまないな、また総督から話があるらしい」

 

総督と言うのは理事長でもある菅原神耶さんの事だろう

用意されたパソコン画面を見てみると、モニターの向こうにはその姿があった

 

「君について決めた事を直接話しておこうと思ってな。今日から千影を護衛につける」

 

「ご、護衛……ですか?」

 

庶民としてはピンと来ない単語を聞いて思わず聞き返すと

 

「扉を開く力を危険と感じる者も居てな。それに、その力を手に入れようと

 君に接触してくる者も居るだろう。その為の護衛だ」

 

そんな説明を聞いてもやはりピンとこない。俺自身はDランクに過ぎず

危険と言う意味なら力を得たリンドブロムさんや黒羽さんだろう。現に千影さんも

黒羽さんの力を見て『あの二人に勝てる相手は居ない』と言っていたくらいだ

 

「用心するに越した事は無い。千影が護衛なら心配もいらないだろう」

 

「あ、あのっ!護衛の任務、わたしもさせてもらえませんか!?

 魔力を制御出来る様になったお礼をしたいんです!」

 

理事長の言葉に黒羽さんがそう言って入って来ると

 

「私も同じだ。この力を引き出してくれた恩を返したい」

 

黒羽さんに続くように、リンドブロムさんもそう申し出てくる

 

「良いだろう、二人も彼の護衛につくように。後は千影に任せる」

 

「「ありがとうございます」」

 

そんな二人の申し出を、理事長はあっさり承諾する

まるで台本通りとでも言うような流れに困惑し

パソコンに向かって深くお辞儀をする二人を見ていると

 

「……扉を開く事が出来るなら、その反対もできると言う訳か。まったく、不思議な子だ」

 

「えっと……?」

 

そんな呟くような声を聞き取れず、恐る恐る聞き返すと

 

「いや、昨日はよく眠れてね。もしかすると君のお陰かもしれないな」

 

昨日直接会った時とは違う優しい表情でそう話すと通信は終了し

俺は困惑したまま岡田先生やリンドブロムさん、黒羽さんを見るも

 

「これは決定事項だ、今日から男子寮に交代で泊まって護衛をする」

 

「「はいっ!」」

 

やる気に満ちた二人の返事に

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

俺も小さな声で、そう答えた……

 

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