【質問】男にしか扱えない精霊術を鍛える学園と聞いて入学したのですが、俺以外は全員女ってどういう事ですかねー!? ~【学園からの回答】見なかった事にしてください! 何でもしますから!(全裸土下座)~ 作:信頼できる語り手
俺は独房の床に顔を押し付けて寝ていた。霊気を封じる手錠はそのままなので、一見すると体幹トレーニングに失敗した運動不足の中年みたいになっている。
だが、敵地において情けない姿を晒すのはむしろアドだ。侮られない人間に歴史は動かせないって、師匠も言ってたからな。
馬鹿な奴だと見下されても良いし、病気で倒れたのかと心配されても良い。それが、脱獄の取っ掛かりになる。
常識的に考えて、捕えたばかりの凶悪犯なんて最優先で監視してるだろー? さあ、アンタらはどう動く……?
「ごきげんよう」
霊光騎士団の副団長『フェルカド・ローズクォーツ』の声が冷たく反響した。忍びの里の頭領らしい学園長には劣るが、移動に伴う音や気配がほとんど感じられない。
桃色のルーズサイドテールを弄びつつ、学園長を彷彿とさせる糸目が俺を見下ろす。
「脱出を企んでも無駄ですわよ。神に祈っているのでしたら止めませんが……」
ルカ副団長が独房の格子に触れた。途端に、俺は『博愛の桃源郷』を解除する。
「……っ! 何ですの……!?」
まるで鉄と磁石のように、彼女の体が檻にビタッと引き寄せられた。
「機動力を殺せば忍者の脅威も半減だぜー」
俺の『予備式精霊術』は事前に練った術を停止させておき、タイミングをズラして起動させる新技である。
手錠が霊気の放出を阻害していても、チョロチョロと時間をかけて1つの術を完成させられる予備式なら問題ない。
「アンタがこの檻の鍵を持ってれば、手間が省けるんだけどなー」
俺は床を押すようにして起き上がり、格子に押し付けられて強調された巨乳に近付く。忍者には精霊術が効きにくいとコイキが言っていた。今の内に徒手で気絶させておこう。
「……無駄、と言いましたわよ?」
「……!」
一瞬の早業だった。檻の隙間から侵入した手足に組み付かれる。格子の間隔はさほど広くないはずだが、特別製の肉体はいとも容易く擦り抜けてきた。
「迂闊ですわね。密着状態からの殺し技こそ忍術の真骨頂。このまま絞め落として差し上げます」
前のめりに引き倒された俺の頭が、副団長の乳房に挟まれる。ラッキースケベなんて呑気な事を言ってる場合じゃない。このままガチで圧死させるつもりだ。
「んー! んー!」
なるほど。顔を覆う行為は相手の視覚や聴覚を封じ、精霊の知覚を妨げる。精霊使いを無力化する方法としては最適解の1つだ。
ヤバいな。威力の高い大技が売りの精霊術はゼロ距離での運用を想定されていない。1対1の殴り合いなんて、わざわざ希少な精霊使いを連れてこなくても一般兵で代替できるからだ。
「このフェルカド・ローズクォーツに抱き殺される事を光栄に思いなさい」
副団長はそう言いながら、更に抱き締める力を強める。全身の骨がギリギリと軋んだ。
その圧迫感が急に緩む。
「げほっ、げほっ……!」
「……はい、ここまで」
副団長の高飛車な表情が崩れ、窒息寸前だった俺の顔を優しく撫でた。
「一旦休憩の時間にしよか、メノウはん。うちも少し疲れたわぁ」
俺達は忍びの里が誇る温泉に浸かり、へとへとになった心身をリフレッシュさせる。
学園長の城には様々な効能の湯があり、劇的な回復効果があった。あまりにも効果が高過ぎて、入浴前に肌に合うかチェックしないと危険なほどである。
「ふあー。何度やっても勝てないぜー」
「ふふ、敵地に潜入する為のシミュレーションなんやから、厳しいのは当然どすえ」
全く疲れた様子のない学園長が俺の胸に指を当て、ちゃぷちゃぷと円を描くように動かした。その横顔を改めて眺めると、副団長とは似ているようでかなり違う。
「……アンタの変装、どうなってんだー? 骨格レベルで別人に見えたぜ」
「実際に骨格から変化させて、基本六術で固定しとるんやわぁ。動揺すると解けてまうのが弱点やね。……あ、忍者の肉体改造ありきやから真似せんといてなぁ」
「真似なんかしないってー」
下手に骨格を弄ると、この
「ちなみにぃ、膣の形も別人に変えられるんよ? メノウはんなら指先だけで誰か当てられるんやない? 取っ替え引っ替え女こまして、悪い男やねぇ。このこのぉ……」
長い舌が俺の耳をチロチロと舐める。桃色の巻き髪から水滴がぴちょんと落ちた。
「……学園長、酔ってないかー?」
湯船の脇に置かれた忍びの里名物『鉄酒』の空き瓶を見る。中身は既に彼女が飲み干した後だ。
「もぉ、2人きりの時は『ポラリス』って呼んでぇな。うち、拗ねてまうよ?」
「あー、このウザ絡みしてくる感じ、紛れもなく酔っ払いだなー。師匠がよくこうなってた」
「ジャスパーはん? あの人は格好付けて飲む癖に酒弱かったやろ? ……懐かしいわぁ」
俺の方に身を倒した学園長の巨乳が水面に浮かぶ。こういう落ち着きのない仕草は子供っぽい。
ミザールを産んだトゥルス王の幼馴染だから、相応の年齢ではあるだろうけど……まあ、精霊の寵愛を受けた人間は老化しにくいって言うしな。
以前は少し疲れが滲んでいたが、最近はむしろ気力が充実して若返ったように思える。それだけ、俺が来る前の霊脈学園は先行きが暗い状態だったのかもしれない。
「ジャスパーはんが出奔しはった頃から、何もかんもおかしなってもうたねぇ。それまでも霊媒の戦術利用はあったんやけど」
学園長がポツリと愚痴る。
「王国は既に『寿命』を過ぎとるんよ。本物の霊能者の血が途絶えたら終わり。後はどれだけ平和的に他国に吸収されるかが争点。うちもトゥルスもその未来を受け入れて動いとった」
「じゃあ、何で今みたいになってんだー?」
「独立国家としてのカウンターフィト王国に執着する誰かが介入した、としか思えへん。政権を越えた力を持つ意思が、王国を強国のまま延命しとる。……うちらに分かったのはそれだけや」
「ま、この国が歪なのは認めるけどなー。結果的に上手く回ってるなら良くないか?」
「せやね。国を護るローズクォーツの立場ではそう思うべきなんやろね。ただ、学園長としては」
彼女は片手で湯を掬った。
「
浴衣に着替えた学園長を抱き上げ、布団まで運んでやる。この城は広い上に入り組んでおり、途中で下忍だか中忍だかの集団に道を訊ねて、どうにか彼女の私室まで辿り着いた。
「恥ずかしいわぁ。絶対、噂されとる。手錠付きの若い男を部屋に連れ込んどったって」
学園長が冗談めかして布団を頭まで被る。
「そこを気にするなら手を離してくれー」
「嫌やぁ」
ズボッと布団の中に引き摺り込まれた。宿泊客を食らうタイプの妖怪かよ。
「……正直に言うてまうとね。今、少し焦っとるんよ。王国を裏で操る何かには、ローズクォーツの守護霊が通じひんから」
「ローズクォーツの? ポラリス個人のじゃなくてかー?」
「精霊に関しては流石に鋭いなぁ。あんさんの指摘通り、忍びの里には守護霊の継承技術がある。うちも産まれた時に、代々伝わる強力な固有特性を貰うたわぁ」
守護霊は『精霊の幼体』だ。王国内で誕生した子供に取り憑き、心身の発達に合わせて共に成長していく。
理屈で考えると、確かに産まれる瞬間なら守護霊の付け替えも可能だろう。あまり好きなやり方ではないが、外法に頼ってまで受け継いだ守護霊の能力は気になるな。
「『寸陰の天眼通』。この赤い瞳は未来の可能性を視認できる。うちが『無敗』でおれる理由やね。前にも言ったやろ? 勝てる時だけ挑むのが勝利の秘訣やって」
真っ暗な布団の中で学園長の瞳が紅く輝いた。
「んで、その眼を使っても黒幕連中は見付けられないって事かー?」
「そ。年代物やから普通の守護霊より性能は遥かに高いはずなんやけどなぁ。そんなわけで、学園生を護る為には形振り構ってられへんのよ」
「俺を招き入れるくらいだもんなー」
「かなり大きな賭けやったけどねぇ。あんさんが善か悪か」
「自分で言うのもアレだけど、俺は間違いなく悪側ではあると思うぜー?」
ぎゅっと抱き寄せられる。
「せやけど、メノウはんは学園生の中でも一番強い迷いを抱えとる。葛藤がないように見えるのは他人の言葉を指針にしてはるからや」
「……」
「『自分が何者かよう分からん』って表情で入学してきた学園生は何人かおる。同じ悩みを持つ者にしか理解できない傷を癒す事も、霊脈学園いう特殊な環境の役割なんよ」
俺は布団をがばっと捲り、学園長に呆れた視線を送った。
「アンタ……さては、その守護霊の特性を利用して、俺が学園生と短期間で仲良くなれる未来に誘導してたなー?」
間違いない。俺の即興アドリブにしては何もかも上手く進み過ぎだった。これでも社会不適合者の自覚はある。
当の本人はそんな反応などお見通しと言わんばかりに、いつの間にか『C』のような模様の書かれた忍者の仮面で顔を隠していた。
「当然じゃろ。最初に戦ったのが実力主義で変革を厭わん性格の儂でなかったら、今頃は高確率で孤立しておったじゃろうて」
仮面を外すと赤髪の少女……ドゥーベ・ルビーの顔が現れる。声もそっくりだ。なんと、貧乳まで完全再現。
「おー、このペチャパイ、ちゃんと肉の感触があるぜー。手品かよ」
「んっ……! これ、いきなり乳首を捏ねくり回すでない。忍者は偽乳などとせこい真似はせん。骨や筋肉のみならず脂肪と乳腺まで弄って変装しておる。故に、乳房の感度は本物並みじゃ」
浴衣越しに感じる胸の形はドゥーベそのもの。しかし、むずがる振りをしながら俺の両手を誘い込む仕草に学園長を感じて、脳がバグる。
「かかか、貴公の暴れん坊な魔羅を更にいきり勃たせてやろうかの」
学園長が再び仮面で顔を隠した。
「ん、妾の姿だったら……おちんちん、もっと大きくしてくれる?」
メラク・サファイア。青髪が淡いバニラのような香りを漂わせる。匂いまで寄せるとか、どんだけ凝り性なんだよ。こんな変装の達人が敵じゃなくて本当に良かった。
「さっさと脱ぎなさいよ、メノウ」
アリオト・アメシスト。紫髪の姉弟子が肉付きの良い太股で鋏むようにズボンを脱がしてくる。手錠を外せない俺は風呂上がりに下しか履けなかったので、これで全裸になってしまった。
「どんなもんでぇ、旦那ぁ? アタイの乳も完璧に再現できてんだろぃ?」
メグレズ・オニキス。浴衣が脱皮のように滑り落ち、学園ナンバーワン爆乳がぷるんと溢れる。
「装飾品の違いには目を瞑れ。僕の指輪やピアスは特注品だからな。変装の為に用意するのはコスト的に厳しい」
フェクダ・ダイヤモンド。姫カットの白い長髪が垂れ布のように乳房を覆った。だが、その隙間からチラ見えする乳首ピアスがむしろ卑猥さを助長している。
「せっかくの機会だから、貴様に選ばせてやる。……誰から抱きたい?」
「んじゃ、ポラリスで」
即答。
「いや、変装技術は凄いぜー? でも、魂がポラリス・ローズクォーツなら、俺にとってはコスプレした学園長でしかないんだよ」
「何だと……?」
「アンタ、これまで何度か学園生に扮して俺をフォローしてただろー」
「!?」
うわー、フェクダのふにゃっとした驚き顔、めっちゃ違和感だわ。学園長の素が出てる。
「……ほんまに、気付いとったん?」
「疑うなら日時も言ってやろうか? 一般学生モードで俺とヤッた事もあったよな? 確か、3回」
俺は昔から人の中身を見抜くのが得意なんだ。特に気に入った人間は魂の形をしっかり覚えるようにしている。
「正解だったら、今日のところはただのポラリスとしてセックスしようぜ」
俺がそう言うと、フェクダの身長がぐぐっと下がり、本来の姿に戻った。
「あ、嘘……」
学園長が赤面する。
「えっと……。ま、まあ、メノウはんがそこまで言うんやったら……?」
「あー? もしかして、自分の意思で変装解除したんじゃないのかー?」
珍しくしどろもどろになった学園長の様子に、ピンと閃いた。
「そういや、動揺すると変装は解けるって言ってたようなー……」
「知らん、知らん、知らん。何かの勘違いやない? 忍びの里の頭領がそんな下忍みたいなミスするわけないやろ」
セックス前にたまに起こる、奇妙な無言の時間が通り過ぎる。
「あんさんは余計な事考えんで、呑気にちんぽ大きゅうしとればええんよ。ほぉれ、房中術を極めたうちの膣内にお越しやす」
陰茎を膣に挿入した瞬間、独房訓練の副団長を遥かに凌ぐ素早さで女体に拘束された。
関節の可動域を封じられただけでなく、性感のツボを全身で刺激され、まるで融かされたように力が入らない。
学園長はドスの利いた声で囁いた。
「──記憶トぶまでぶち犯したるさかい、ほんまに覚悟せぇよ、マセガキ」
豹変した学園長に暴力的な扱きを受けた俺は、気分転換に窓から外を眺める。
「ふいー、涼しいー。いつでも夜景を見られるのが忍びの里の長所だぜ」
「ずぅっと住んどったら飽きるけどねぇ。『敬霊祭』みたいな楽しいイベントもあらへんし」
「敬霊祭?」
もうちょい先の行事予定に書いてたような、書いてなかったような……。
「年に数度、精霊が人里に集まる時期に行われる祭りやわぁ。王国民の青春の象徴と言っても過言やない」
「青春? カップルとか多そうだなー」
「そらね。屋台もギュウギュウに並んで活気が凄いんやから。うちのオススメは花火串カツと黄金林檎飴。一緒に行けたら奢ったるよ」
「マジかよ。約束だぜー」
「あ、林檎は毒やないから安心してな」
その注釈は要らない。
「ほな、無事に祭りを満喫する為にも、色々と問題を片付けに行こか?」
「だなー」
霊光騎士団にわざと捕まって、敵の意図を探る。この作戦は俺が発案した。
俺が連行されると同時に学園長が跡を追って動き出す。
あわよくば忍術で潜入して俺を救出して欲しいが、そうでなくとも敵の情報が増える事で『寸陰の天眼通』の未来視が働くかもしれない。
「メノウはん、生きて帰らんとあかんよ?」
「分かってる。俺は絶対に死なない」
まだ、アイツの分まで生き切ってないからな。ここで終わったら、アイツの未来がその程度だった事になってしまう。
こちとら、スラム育ち。どんな地獄の拷問が待ってても、根性で生き延びてやるぜ。
「……俺は精霊に化かされてるのかー?」
それが率直な感想だった。
俺の手を戒めていた手錠は既にない。左を向けばメイドさん達が会釈を返してくれて、右を見れば開放的な庭園が陽光に煌めいている。
頭上には自動で微調整される照明と冷暖房。足元には卵を落としても割れなさそうなふかふかのカーペット。後ろには……いや、もう良いや。
牢屋というより貴賓室だ。それも贅を尽くしただけの張りぼてじゃなくて、本気で要人をおもてなしするような、細やかな気配りの行き届いたVIP待遇。
「なー、さっきの話、マジじゃないよなー?」
「我々は本気で言っていますよ」
メイドさんの1人が答える。
「『禁止事項はありません』。メノウ様が自発的にここを離れようとしない限り、外部から物品を取り寄せる事も、人を招く事も許可されています。散歩程度の距離なら外出も可能です」
ただし、あまりにも行儀が悪い客は追い返します、と彼女は補足した。寛容過ぎて気味が悪い。
「……ネットは?」
「利用できますよ。暇でしたら『ミューシェイク』の動画でもご覧になりますか」
思わず額に手を当てる。予想外だ。まさか、自由過ぎて困惑する羽目になるとは。
「一応訊くけど、世話係をアンタらから変更する事はできるかー?」
そこで初めて、メイドが言葉に詰まる。
「確認いたします。少々お待ちください」
「できれば、俺が知ってる奴だと助かるなー。こう見えて、結構人見知りなんだよ」
上等だ。向こうの思惑が分からないなら、こっちから揺さぶりをかけてやる。
王国に来て日が浅い俺の知り合いって事は、高確率で学園長の変装レパートリーに入ってるだろう。これが最善手だ。
……それはそれとして。
「待てよ……? ネットが禁止されてないなら、ベスピスちゃんの生配信観れるじゃんー!」
ベスピスちゃん。正式名称『ベスト・イン・ピース』。俺が少し前からドハマりしている、動画投稿サイト『ミューシェイク』の配信者だ。
彼女の活動頻度は不定期だが、ちょうど休日や放課後と被る事が多くて追いやすい。俺は渡されたタブレット端末を手に取った。
『どうも~。今日もベスト・イン・ピースでゆるっといきましょ~。皆のベスピスですよ~。お金がないなったので配信しま~す。投げ銭沢山よこせくださ~い』
画面の中央に花の冠を被った3Dキャラクターが表示され、ローテンションな独特のダミ声が響くと、待機中だったコメントが一斉に流れ始める。
≪はずまた≫
≪生き甲斐≫
≪金遣い荒過ぎね? 年金は大切にしろよ≫
≪中の人が老婆前提のコメントやめろ! ちょっと政治と宗教と歴史に詳しいだけのギャルかもしれないだろ!≫
ただ、やけに各国の裏側に詳しい事から、リスナーの間では隠居した元政府高官の老婆という説が定着している。
≪ベスピスさん、ぶっちゃけ何歳?≫
『2ちゃいで~す』
≪ハァハァ……今、何色の仕事してるの……?≫
『陰キャの大好きな
この馬鹿みたいな雑談が……癒されるぜ。
≪本人がこれだもんなぁ≫
≪嘘しか言わない女。そんなんだから何度も炎上するんですよ≫
≪アンチが根拠にしてた発言が全部嘘だった事件、マジでウケたわ。情報から自宅を特定して突撃しようとしたら樹海だったヤツ≫
≪ネットリテラシーを体に教育してくれる最高美少女ミューシェイカー≫
≪お、自演か?≫
『ふすす~、今日はまだやってないですよ~』
スースーと奇妙な発声で笑う。
≪ピースちゃん、世論に便乗して特定人物を叩いたりしないから、あの辺の界隈では一番好き≫
≪↑これもう誹謗中傷だろ≫
『だ~れが炎上レジェンズですか~』
≪紙一重な自覚はあるんだな……≫
俺がベスピスちゃんの配信に集中していると、部屋のドアがドンドンとノックされた。メイドさんが帰ってきたのか?
「今忙しいから勝手に入ってくれー」
「人を呼び付けておいて何ですか、その半分適当な対応は! メノウ・ルースケース! ドゥーベ様に気に入られてるからって、調子に乗ってるんじゃないでしょうね!!」
うるさ……って、この感嘆符付きの声。聞き覚えがあるな。
「ドゥーベの婚約者……エクスクラだっけかー」
「はい! 騎士団からの指令でオペレーターの私達が貴方の世話をする事になりました!」
私達? あ、双子の妹が後ろにいた。
「体力の要らない仕事は私に任せてね……?」
「限定的だなー」
「クエスチ! 仕事を選り好みしない!」
じゃれ合う双子。声が似てるのは知っていたが、実際の見た目も瓜二つである。明るい茶髪とそこそこの普乳。俺は2人の胸に手を伸ばした。
「双子ってやっぱり性感帯も同……ぐえー」
「半分セクハラです!」
エクスクラに腰の入った拳で撃退される。素のパンチ力は2.5ベネトナシュくらいありそう。
「あ、ミューシェイク付いてる……? 薄着の女の人が出てくる動画を観てたみたいだよ……?」
「い、忙しいって……まさか、そういう……! この性欲大邪神! 不潔! 最低です! どうせ私達を部屋に招いて手篭めにするつもりだったんでしょう! 艶本のように!!」
うーむ、学園生以外の女子とのコミュニケーションは難しい。精霊と三大欲求に正直な霊媒相手なら遠慮や建前が必要ないからな。頭を使わない楽な環境に慣れ過ぎた。
「私はお姉ちゃんとなら3Pでも……?」
「どうして受け入れているんですか、馬鹿妹!」
「ま、落ち着けって。アンタらも一緒にベスピスちゃんの配信観ようぜー」
俺はエクスクラの背中を押す。もう片方の手でクエスチを引っ張りつつ、彼女の掌に指で文字を書いた。
(流石、忍者)
気怠げな表情のままに文字が返ってくる。
(おおきに)
(本物のクエスチは?)
(コイキはんが保護しとるよ。……随分、けったいな状況やねぇ)
(まあな)
正直、学園長と合流できてほっとした。これで最悪、脱出はどうにかなるだろう。
「こんな適当そうな配信者が人気なんですか! 私の方がよっぽど綺麗な声で話せますよ!」
タブレット画面を覗き込んでいたエクスクラが、ふんすと腰に手を当てた。
「分かってないなー。変わった声だからこそ現実を忘れて楽しめるんだぜ」
このダミ声が良いんだよ。
『……恋のお悩みメールありがとうございま~す。それは大変ですね~。ちなみに~。ベスピスも幼い頃、スラムに迷い込んで、心優しい男の子に助けられた運命の出会いがありまして~』
≪あっ≫
≪いつもの≫
≪お婆ちゃん、その話は昨日もしたでしょ≫
≪隙を見せた俺らが悪い≫
スラムか。そう言えば、昔、アイツが女の子を拾ってきた時があったな。
幼い身で末期の大病を患っており、治療法を求めて各国を回っている最中だったらしいが、ついに自暴自棄になって飛び出してきたとか。そんな事を言ってた気がする。
当時の俺はあまり興味がなかったが、スラムのガキに対しても偏見なく接してくれた点を評価して、少しだけ『博愛の桃源郷』で病の進行を停止させてやった。
アイツが『俺のダチは凄い奴なんだ』とか嬉しそうに自慢するから、引くに引けなくなったのもある。
(ま、ただの一時凌ぎだ。完治したとは思えないし、ベスピスちゃんとは別人だろうな)
『いや、実はですね~。皆には内緒にしてたんですけど~。なんとなんと、ベスピスはその時の彼とこっそり再会しちゃってました~! パチパチ~。これも日頃の行いの賜物ですね~』
コメント欄が一瞬、沈黙した。
≪で、オチは?≫
『あれ~!? さては、いつもの嘘だと思われてますね~? リスナー、おい、こら~』
ベスピスちゃんが台パンで威嚇する。
≪相手は気付いてるの?≫
『……』
≪普段は余所行き用の美声を作ってるって前に言ってなかった? 子供の頃はどっちだったん?≫
『……』
≪おっと? これはまさか……≫
『ごめんなさ~い。電波が悪いので、今日は配信終了しま~す。ベスト・イン・ピース~』
≪何度目の電波障害だよ≫
≪今日も全ての咎を受け止める準レギュ通信会社さん。お疲れっす≫
「何だったんですか、あの終わり方は!」
「アンタ、途中から真剣に観てたもんなー」
「違っ……! あまりにも無軌道な話をするから、着地点が気になっただけで!」
分かる、分かる。ベスピスちゃんの喋りは何か中毒性があるよな。
「クエスチ! 貴女も何か……!」
「お姉ちゃん、あれ、どう思う……?」
学園長の扮するクエスチが部屋の壁に並べられた肖像画を指差す。
「どうって……歴代の王の肖像画じゃないですか! 教科書にも載ってるでしょう!」
俺も飾られた絵をじっと眺めた。
「んー、でも、トゥルスの顔はないなー。現役の王様だからか?」
「『アークトゥルス・アンバー』だけじゃないよ……? 女性が王に就任するようになった後の世代が綺麗に消されてないかな……?」
「『王国に王はいない』」
俺は反射的にエクスクラを振り返る。
「ど、どうしたんですか、急に!」
「今、何て?」
「いえ、ふと思い出して呟いただけで、深い意味は……!」
「その言葉、誰が言ってた……?」
エクスクラは首を傾げながら答えた。
「ドゥーベ様、ですけど……!」
『ハジマルヨ、ハジマルヨ』
その瞬間、空間がざわめき始める。
「……?」
「今度は何ですか!」
「いや、変な声が聴こえないかー?」
「えっ、私には聴こえないよ……?」
『ハジマルヨ、ハジマルヨ。センソウガハジマルヨウ』
ざわめきは、何処までも伝播するようだった。
『──モドッテキテ、オウサマ』
第3回ヒロイン人気投票(殿堂入り除外)
-
①赤:ドゥーベ・ルビー
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③白:フェクダ・ダイヤモンド
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④黒:メグレズ・オニキス
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⑤紫:アリオト・アメシスト
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⑥黄:ミザール・シトリン
-
⑦緑:ベネトナシュ・エメラルド
-
◎灰:スピカ・ゴッシェナイト