格下無双のダンジョンテイマー、レベルドレインサキュバスをテイムする 〜格上にも勝てるようになって人生逆転ハーレム生活を送っていたら、いつの間にかレベルが逆転して言うことを聞いてくれなくなっちゃった話〜 作:屍蜂朽一
《
広い部屋一面に、つるりと光沢のある石質の石畳が敷き詰められている。岩肌を活かした壁面には石造りの列柱が彫り出されており、高い天井には大量の鍾乳石がぶら下がっていた。
そして部屋の中央には、大きな、あまりにも大きな
ここに来るのは、何年ぶりだろう。
初めて組んだパーティーで、ここまで到達した。しかし、
単独で挑戦したこともある。しかしボスモンスター特有の仲間を呼ぶ習性で数的有利を打ち消され、やはり敗走。
以来、ここまで深く潜ることさえなくなっていた。
しかし今、オレは再びこの階層に立ち、ボスモンスターと対峙しようとしている。
新たな仲間──人型モンスター、《サキュバス》のディモートと一緒に。
「行くぞ、ディモート!」
「はい、ご主人様……!♥」
ボスモンスターの縄張りに踏み入る。
戦闘が、開始される。
地鳴りのような雄叫びを上げ、部屋の中央にあった岩塊が擬態を解く。
現われたのは、第10層のボスモンスター、《
レベルは44で、レベル30のオレやレベル18のディモートよりも圧倒的に高い。四つ足で翼はなく、長い尻尾の先はまるで岩でできた槌のようになっている。
そして、一番の特徴が──
──大きく開いた《
「クソっ、いきなりかよっ!」
オレは慌てて、ディモートと一緒に射線から逃れる。
バシュウウウウッ‼ とまるで焼けた石を水にぶち込んだ時のような音を立てて、《
射線にあった石畳が溶解し、光線の着弾した岩壁が爆発する。石造りの列柱が、がらがらと音を立てて崩れ落ちる。
これが《
しかし、強力なスキルである代わりに、使用後の反動は大きい──
いきなり、今回の作戦の要を試すチャンスだった。
「行けっ、ディモート!」
「はい、ご主人様っ!」
たんっ、たんっ、たんっ、と軽やかなステップで、ディモートが《
あっという間に距離を詰めたディモートが、《
「【レベルドレイン】」
ディモートのユニークスキル、【レベルドレイン】が発動する。
何かを感じ取ったのか、《
「ディモート!」
「問題ありませんわ、ご主人様」
ディモートが、宙を舞うような軽やかなステップで後退してくる。かすり傷一つ負っていない。
オレはさっそく、ディモートのステータスウィンドウを確認した。
レベルが上がっているわけではない。だが、経験値量がぐっと増している。【レベルドレイン】が成功したのだ。ということは、《
「よし、下がってる!」
《
《
事前に雑魚モンスターで試したのと同じ結果だった。どうやら【レベルドレイン】で下がるレベルは5で固定。ステータスの下がり幅は、各モンスターの成長率に依存しているらしい。
基礎ステータスの高いボスモンスターは、成長率も高いのだろう。《
「だが、やっぱ一回じゃ足んねぇ。どんどん吸い取ってけ、ディモート!」
「承知いたしましたわ、ご主人様」
《
すると、さっきの攻撃で生まれた無数の瓦礫が、《
それらが、ひゅんっ、ひゅんっ、ひゅんっ、と鍾乳石の下がった大部屋の天井めがけて次々と打ち上げられる。数瞬後には、それらは瓦礫の雨となってこちらを襲ってくるだろう。
魔法を使った、遠距離攻撃だった。
「ご主人様っ!?」
「こっちは気にすんな、お前はとにかく攻め続けろ!」
ディモートはこちらを気にする素振りを見せていたが、一つ頷くと再び《
と、オレの真上から、先程打ち上げられた無数の瓦礫が降り注いでくる。オレの貧弱なステータスでは、一つでも食らえばおしまいだ。
なら、どうするか。
「集合せよ、《
オレは事前にテイムしていた《
鎧のような外皮を持ち、防御魔法の展開までできる《
ドゴンッ、ガゴンッ、と瓦礫が着弾し、重たい衝撃音が響き渡る。耳が張り裂けそうだ。しかしダメージは通っていない。削られたのは、《
「よし、計画通り!」
ただし、《
それに、こいつらは攻撃の有効打にもならない。《
「ディモートは!?」
肉の壁から外をうかがうと、ディモートは瓦礫の中を華麗に駆けていた。
ゆらり、ゆらり、と漂うような最低限の動作で攻撃をかわし、再び《
「【レベルドレイン】」
ディモートが《
苦しそうに吼えた《
まさか自傷覚悟の、近距離飽和攻撃……!?
「ディモートっ、避けろぉっ!」
「いいえ、避ける必要はありませんわ、ご主人様」
《
三日月のような弧を描く、華麗なる軌跡。金色の髪がふわりと広がったと思った、その瞬間──
ずがががん! と瓦礫同士がぶつかる崩壊音が響き渡る。
《
まさか蹴りだけで、あの物量の瓦礫を弾き返したのか? さすがにディモートが人型モンスターとはいえ、そんなことが……。
「いや、違う……」
オレは再びステータスウィンドウを確認する。
二回目の【レベルドレイン】を食らったことで、ディモートはさらなる経験値を得てレベルが1つ上昇していた。
その一方で《
「ディモートは強くなり、反対に《
今回の瓦礫の動きは、打ち上げて落下してきた瓦礫と違って、自然現象ではない。《
だから本体が弱体化したことで、ディモートであっても対処できるようになったのだ。
《
しかし、ディモートは余裕で避けていた。
オレの目にも見てわかるほど、攻撃のキレは失われている。レベル減少とステータス減少が効いているのだ。
「よっしゃ、このまま……!」
グオオオオオオオオオオ──‼
《
この声には聞き覚えがある。仲間を呼んだんだ!
「ディモート、気をつけろ!」
ハッと上を見たディモートが、ステップバックで《
ガシュンッ、と鋭い音を立てて、ディモートがさっきまでいた場所に何かが降ってきた。鋭く尖った岩だった。続けざまに、ディモートを狙ってガシュンッガシュンッと無数の岩が降り注いでくる。
天井にぶら下がっていた鍾乳石? 否、鍾乳石に擬態した、モンスターだ。
「《
《
しかしひとたびボスモンスターからの命令を受けると、積極的に攻撃してくるようになる。
瞬発力に優れており、得意技は槍を構えた騎兵のような突進攻撃。鍾乳石のような体は鉄以上の硬度で、例によってオレのステータスでは一撃でも食らえばおしまいだ。
何より厄介なのが、【貫通】のスキルを持っていること。防御越しでも、チクチクとダメージを与えてくる。肉の壁にしている《
それに、突進攻撃が得意なこいつらをテイムしたところで、こいつらに対処する手立てにはならないことも見逃せない。的となる身体が細長くて、突進攻撃が命中しないからだ。
ついでに言えば、《
思い出したぜ。他のやつらと組んで挑戦した時は、連携が取れずに戦いが長引いたところで《
単純に数的有利が失われたわけじゃない。根本的に、オレとこいつらは相性が悪いのだ。
再び、グオオオオオオオオオオ──‼ と《
「さっさと決めてくれ、ディモート!」
「承知いたしました、ご主人様」
涼しい顔で応えるディモート。しかし、既に何体もの《
くるり、くるり、とまるで何本もの槍がひとりでに踊るかのような動きで、《
万事休すかと思われたその瞬間──ディモートの姿が、陽炎のように揺らいだ。
するとどうしたことだろう。《
いったい、何が起こったのか?
──後で聞いたところによると、ディモートが使ったのは【隠密】のスキルだったそうだ。
気配を消して、敵から逃れやすくなるスキル。オレの《
しかし、本来であれば戦闘中に使うスキルではない。たとえ気配を消したところで、攻撃の狙いを目視で修正すればいいだけの話だからだ。
ただし、例外がある。投擲などの予め狙いを定める攻撃に対して【隠密】のスキルを使うと、狙いを外させる効果があるらしいのだ。《
……いや、オレは知らなかったのだが。何だこいつ、戦闘のセンスがありすぎだろ……。
こうして生まれた、一瞬の隙。そしてディモートにとっては、その一瞬があれば十分だった。
狙いを反らされた突進攻撃が飛び交う中を、素早く駆け抜け。
ステータスの下がった《
「【レベルドレイン】」
決定的な一撃を、ディモートは決めてくれた。
「今です、ご主人様っ!」
「──テイムっ!」
オレは《
その瞬間、ディモートの時と同様に、巨体がピタリと動きを止めた。
「──しゃあああああああああっ‼」
オレは拳を握り締め、吼えた。
やったっ、やったっ!
テイムした、狙い通りにっ!
ボスモンスターを、ソロで攻略!
どころか、テイムまでしちまったんだっ……!
「やりましたわね、ご主人様」
ディモートが、オレの傍へと戻ってくる。
「ああ。お前のスキルを活用した、オレの作戦による勝利だな」
「素晴らしきご主人様のお役に立てて、ディモートは光栄にございます♥」
ボスモンスターからの指示を失ったことで、《
オレはステータスウィンドウで、さっそく《
【レベルドレイン】を食らい、レベルはオレ以下の29にまで下がっている。
ステータスもガクッと下がったが……やはりボスモンスター。仲間のモンスターとして見れば、依然として破格のステータスだった。
そもそも、ディモートが《
そして──ディモートと同様に、ずらずらと豊富に並んだスキルの山。
「ふーん、どうやら仲間を呼ぶ力はボスモンスターとしての習性であってスキルじゃないから、仲間になったら使えなくなるみたいだな。だが……」
オレは、ユニークスキルの欄を見てニヤリと笑う。
そこにあるのは──【魔素収束砲】。
「ちょうどいい、試し撃ちをさせてもらおうか」
司令塔を失った《
「こいつら、邪魔だな」
オレは、うざったい《
《
「《
バシュウウウウッ‼ と音を立て、極太のビームが発射された。
混乱してあたふたと動いていた《
光線が着弾した岩壁が、大爆発を起こす。
その音に怯えるかのように、射線から逃れた一群は競うようにして逃げ出してしまった。
こうして第十層には、静寂が訪れた。
あまりにも、あっさりと。
「──ハハッ」
オレの口から、笑いが漏れる。
「──ハハハッ」
笑いが、腹の底から、とめどなく溢れ出してくる。
「──ハハハハハハハッ‼」
「ご主人様……んむっ♥」
オレは興奮のままに、背後に控えていたディモートの唇を奪った。ディモートはうっとりと、オレの乱暴なキスを受け入れる。
「見たかディモート、
唇を離し、オレは爆発したダンジョンの大部屋の一角を、そして次の命令を待つかのように控える《
「どんなダンジョン攻略者であろうと、まともに食らえば身体が消し飛ぶような一撃──オレはもうこれを、自由に扱うことができるっ! 自分の力としてだっ! オレは、最強の力を手に入れたんだぁっ!」
「いいえ、ご主人様。それは違いますわ」
冷や水をぶっかけられたようで、オレはぎろりとディモートのことを睨みつける。
しかしディモートが浮かべていたのは、嘲笑ではなかった。
主人の欲望を甘く肯定する──淫魔の微笑み。
「本日ご主人様が手に入れた力は、これからご主人様が手に入れる力の、ほんの一部でしかありません」
ディモートが言った。
「ご主人様であれば、より深い階層に潜ってさらに強大な力を得ることもできるでしょう。それだけではありません。他の、より難易度の高いダンジョンであろうと、攻略してしまえるでしょう。ご主人様が、わたくしの力をお使いになれば。つまり、ご主人様の才能が、最大限に発揮されれば──♥」
「──ッ!」
オレはもう、身の昂ぶりを抑えられなくなった。
またしても、その場で下半身を露出する。興奮で勃起した一物を、ディモートに差し向ける。
「しゃぶれ」
「はい、ご主人様……♥」
ディモートはやはり柔和に微笑み、その場で跪いてオレの性器を口に含んだ。
◇◇◇
オレがギルドの建物に入ったとき、例によってオレのことを馬鹿にしているクソどもが冷やかしの声をかけようとしてきた。
しかし、やつらはオレの隣に立つ長身の美女を見て黙った。
ディモートは現在フードで角などを隠させている。しかしそれでも髪の美しさや、輝くようなかんばせは隠しきれない。
それに、オレが背負った大きな荷物。
クソどもではあってもダンジョン攻略者、勘だけはいいらしい。オレの様子がいつもと違うことに、一瞬で気づいたようだった。
オレはこの時点で笑い出しそうになっていたが、まだその時ではないと笑みをかみ殺す。しかしニヤニヤ笑いは隠しきれない。
「あ……シャックルさん、お疲れ様です」
ギルド内のカウンターに行くと、いつもの受付嬢が営業用のスマイルを貼り付けた顔で言った。
「今日も、《
「いいや、今回は別件だ」
オレはドスンと、背負っていた革袋を叩きつけるようにカウンターへ置いた。ギルドの建物が揺れるほどの勢いに、周囲の視線が一斉にオレへと集まる。
「《
オレは、ギルド内の全員に聞こえるような大声で言った。
「こいつは回収したボスモンスター由来の素材と、神代の遺物だ。確認してくれ」
しん、とギルド内が静まり返る。オレのことを馬鹿にしていたクソどもが、あっけにとられた顔でオレのことを見つめている。
オレはゲラゲラと笑い出しそうになってしまった。最高だ。クソどもに相応しい、バカみたいな顔をしてやがる。
だが、まだ我慢だ。
「……おいおい、何の冗談だぁ? ダンジョン生活者のシャックルさんよぉ?」
テーブルから立ち上がり、オレに突っかかってきた男がいた。見れば、いつかオレのことを馬鹿にしていた、中堅のダンジョン攻略者だった。
「誰からもパーティーに誘われねぇ、性格のひん曲がったダンジョン生活者様が、岩鎧のダンジョンを深層まで単独攻略しただぁ? へっ、馬鹿いっちゃいけねぇよ。とうとう嘘までついて見栄を張るようになっちまったかぁ?」
男の言葉に、他のダンジョン攻略者が思い出したように笑い出した。
明確に、オレへと向けられた嘲笑の渦。
「……殺しますか?」
隣に立つディモートが、眼光を鋭くしていた。主人であるオレのことを馬鹿にされて、殺気立っているらしい。
なんて忠臣だ。全人類がこうであればいいのに。
「まあ待て」オレは余裕の笑みを浮かべ、ディモートのことを制する。「ギルド内での暴力沙汰は、ご法度だ」
「何ニヤニヤ笑ってんだぁ? ええ、シャックル?」
中堅ダンジョン攻略者の男が、ずんずんと近づいてくる。
「おい、忘れてるみてぇだから教えてやるよ。ギルド側は、登録されたダンジョン攻略者のステータスログを閲覧することができる。お前が本当に単独で深層まで到達したのか、ボスモンスターを討伐したのか、一瞬で確認できるってことさ。残念だったなぁ。ギルドに対して成果の虚偽報告をすることは、登録取り消しだってあり得る重罪だ。よっ、おめでとさん。お前は晴れて、正真正銘、文句なしのダンジョン生活者に──」
「────ひぇえええぇえええぇえええっ!?」
甲高い悲鳴に、ギルド内は再び静まり返る。
悲鳴を上げたのは、さっきまで営業スマイルを貼り付かせていた受付嬢だった。
今やその顔は青ざめ、驚愕と困惑に歪んでいる。
「い、遺物っ…………本物の、遺物っ…………!」
カウンター内にいた他のギルド職員たちが、顔色を変えた。
自分たちの業務を手放してまで集まり、オレの持ってきた革袋の中身を確認する。
「し、信じられん……」
年かさのギルド職員が、顔を真っ青にして言った。
「《
ギルド内が、驚愕のざわめきに包まれた。
ダンジョン深層の単独攻略は、それほどの一大事なのだ。
「ほ、本物……?」
目の前の中堅ダンジョン攻略者も、あんぐりと口を開けていた。
「てっ、てめぇシャックル! いったいどんな汚ねぇ手を使いやがった!?」
「汚ねぇ手なんざ使ってねぇよ。実力だ、実力」
「ふっ、ふざけんな!」
中堅が、オレの胸倉を掴んだ。
「てめぇの力は割れてんだ、シャックル! 格下のモンスターであれば無条件に仲間にできる、テイマーの能力! ああ、スキルが強いってのは俺だって認めるさ。だが、通用するのは格下だけ。単独でダンジョン攻略ができるようなもんじゃねぇ! さぁ、さっさと吐きな! いったいどんな汚ねぇ手を──うぉおおおぉおおおっ!?」
大の男である中堅が、ぐるんと宙を舞って、床に激しく叩きつけられた。
ディモートの仕業だった。
「汚い手でご主人様に触れるな、下郎」
ディモートは、氷属性の魔法でも付与されてるのかってくらい凍てついた声で言った。主人であるオレでもビビるような凄みだった。
床に思いっ切り叩きつけられて肺から空気を失ったらしい中堅は、「あっ、がっ……」と呻くばかりだった。
「文句言うなよ。先に手を出してきたのは、そっちだからな」
と、オレは中堅野郎に声をかける。
しかし、ディモートは本当に強いなぁ。こいつだって中堅のダンジョン攻略者。油断していたとはいえ、簡単に一本を取られるやつではないはずなのだが……。
って、あっ、やべっ。
いまの立ち回りで、ディモートのフードがはらりと脱げて──
「ひっ、人型のモンスターっ!?」
人並外れた美貌とピンク色の角が、丸見えになってしまった。
「お、おいおいお前ら、落ち着けよ」
オレはいきり立つダンジョン攻略者たちをなだめる。
「安心しろ、こいつは敵じゃねぇ。オレの力でテイムした仲間なんだ。危害を加えることはねぇ。むしろ、オレに対しては絶対服従なんだぜ?」
「そっ、そんなこと信じられるかっ!」
居並んだダンジョン攻略者たちは、警戒態勢を解かない。
あれ、もしかしてかなりヤバいか?
そりゃそうか。人型モンスターは人類の宿敵。こいつらの中には、知人友人を殺されたやつだっているだろう。オレはテイマーであることもあってか、そこまでの抵抗感はないのだが……。
まずい、見込みが甘かったかもしれん。さて、この場をどうやって乗り切るか──
「──静まれぃッ‼」
雷撃のような重く鋭い声音が、ギルドの建物内に響き渡った。木製の床が、壁が、天井が、ビリビリと震える。
見ると奥の部屋から、長身巨躯の大男が姿を現していた。
浅黒い肌に、古傷だらけの禿頭。討伐した猛獣型モンスターの毛皮を幾重にも身に纏い、ずるり、ずるり、と片足を少し引きずるようにして歩いている。
ベテランのダンジョン攻略者にしてギルドマスター、ガイウスだった。
「お前たち、武器を収めなさい」
「しかしギルドマスター、こいつは人型モンスターで──」
「二度は言わんぞ」
ギルドマスターが放つ眼光と殺気に、オレたちを取り囲んだダンジョン攻略者たちは渋々といった様子で警戒態勢を解く。
「諸君、私はギルドマスターの権限で、先程シャックルのステータスログを確認した。間違いなく、シャックルは単独で《岩鎧のダンジョン》の深層に到達している。そしてこちらの人型モンスターが、完全にシャックルの仲間になっていることも、確認した!」
ギルドマスターの宣言に、ダンジョン攻略者たちがざわめく。
「これは、ダンジョン攻略者の歴史に刻まれる偉業である! よって、私はギルドマスターガイウスの名において、ダンジョン攻略者シャックルのランクをE級からC級に2段階昇格、さらに成果に見合った特別報奨金を払うと宣言するッ! 諸君、勇敢なるダンジョン攻略者シャックルに拍手を!」
顔を見合わせていた攻略者たちだったが、誰かが力強い拍手を始めたことで、つられて次々と拍手が起こり、やがてギルド内の全員がオレに向かって拍手をしていた。
「おめでとう、シャックル」
ギルドマスターがオレの肩を抱いて、握手を求めてきた。
「キミの才能がいつか花開くと、私は信じていたよ」
「とりなし感謝いたします、ギルドマスター」
オレは素直に握手に応じた。拍手がいっそう強まった。
耳を聾するほどの拍手の中、ガイウスが低い声でオレに囁きかける。
「……《
「……!」
やはりか、とオレは動揺を表に出さないよう努める。
最初からわかっていたことだ。ステータスログを閲覧することのできるギルドマスターには、オレが何をやったのかあっという間に理解されてしまうと。
そう、オレは《
その結果──オレは、華々しい勝利を収めることができた!
そもそも、オレの【テイマー】のスキルは、ダンジョンの道中においてはほとんど無敵なのだ。《岩鎧のダンジョン》が、探索の進んだ初心者向けダンジョンであることも追い風となった。
そして、オレには【テイマー】によって得た強力な仲間、人型モンスターのディモートと、ボスモンスターの《
第20層のボスモンスター《
そして第30層のボスモンスター《
あまりにも楽勝だった。《
あとはテイムしたボスモンスターから素材を回収し、ボスモンスターに周囲を警戒させながら深層を探索して、戦利品を持ち帰るだけだった。
ちなみにボスモンスターは、まだ生きている。身体の一部を素材として回収しただけだからだ。掘り進めた穴がダンジョンになる《
しかしそういった諸々を、このギルドマスターは全て把握している……。
「……オレを、どうしますか?」
オレはギルドマスターに囁き返した。
「どうもしないよ」
ガイウスが囁く。
「私は君の才能が開花したことが、素直に嬉しい。これからもギルドのために、そして人類のために、ダンジョン攻略者として存分に働いてくれることを期待している」
綺麗事に聞こえる。しかし半分以上は本音だろうとオレは思った。
ガイウスは怪我と老いを理由に、ダンジョン攻略の一線からは退き、現在は後進の育成に力を入れている。ほとんどごくつぶし状態で、ギルドの構成員全員から煙たがられていたオレが、それでもギルドに所属を許されていたのは、ガイウスがオレの【テイマー】のスキルを高く買っていたからこそだ。
それでも、ガイウスの目に宿っているのは単純な親切心ではない。ベテランダンジョン攻略者としての老獪さが、黒い瞳の中に透けて見える。場の空気が変わるきかっけとなったあの力強い拍手も、恐らくはガイウスの仕込みだろう。オレというレアスキル持ちをこれからどう活用するか、今から計略を働かせているに違いない。
(気に入らねぇが……ここは大人しく利用させてもらうぜ!)
「今日は私の奢りだ。諸君、思う存分騒ぎたまえ!」
ギルドマスターの大盤振る舞いに、ギルド内はすっかりポジティブなお祝いムードで満たされた。──少なくとも、表面上は。
オレは手の平を返して話しかけてくるクソどもを疲れを理由にあしらい、報奨金がたんまりと詰まった革袋を背負ってギルドの建物から退散した。あとのことは、ギルドマスターがうまくやってくれるだろう。
と、
「あ、あのっ、シャックルさん!」
背後から、オレに話しかける声があった。
見れば、いつかの新参ダンジョン攻略者の青年だった。
「シャックルさん、おれの……おれたちのパーティーに、加わっていただけませんかっ?」
青年は瞳を輝かせ、頬を紅潮させて言った。
「おれ、シャックルさんの実力を誤解していたみたいです。本当にすみません。おれ、なんとしても攻略したいダンジョンがあるんです。だから、どうかおれのパーティーに入って、お力添えを……!」
「おい、そんな奴に手伝ってもらうのかよ!」
青年の背後から、男が肩を掴んで怒鳴り込んでくる。どうやら、青年のパーティメンバーらしい。
「お前、プライドってもんがないのか?」
「プライドで、ダンジョン攻略ができるわけじゃないだろ」
青年が、いつかみたいに真顔で言った。
「おれは、シャックルさんには実力も実績も協調性もないって話だから、仲間に誘わなかったんだ。でも、単独で深層まで到達したんだったら話は別だ。仲間になってもらおうよ」
「それは……」
「いいねぇ、新入り君」オレはニヤニヤと笑いながら言った。「機を見るに敏ってやつだ。君のような若者は、嫌いじゃないよ」
「でしたら……」
「だが答えは──『仲間になんてぇ、したくありませんねぇ~っ』だ!」
青年の真顔に、恥の色がさあっと差し込んだ。いつか自分が言った言葉の意趣返しだと、すぐに気付いたようだった。
「オレはなぁ、お前らみたいにスキルが弱いから徒党を組むしかない雑魚とは違うんだよ。パーティメンバー同士で、なあなあに傷を舐め合って過ごしてる雑魚どもとは違うんだよ!」
オレは報奨金の入った革袋をジャラジャラと鳴らしながら、言い放つ。
「オレは誰とも組む気なんてねぇ、必要だってねぇ! オレはオレ一人で、これからも結果を出し続ける。利ザヤだって、全部オレ一人で独占だ。仲間に気を遣うなんて不毛な時間に囚われる必要だってねぇんだ。見てろよ、今にオレはギルド内の誰よりも結果を出して、ダンジョン攻略者のランクでも上に立ってやる。せいぜい今のうちに媚びを売っておけよぉ! ひゃーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ‼」
オレはずっと我慢していた笑いを、爆発させた。
「てっ、てめぇっ……!」
青年の仲間が、怒りで顔を歪ませオレに迫る。
その間に、すっとディモートが割り込む。
「うっ……」
「ご主人様に手を出すのであれば……容赦はしない」
「ひっ、ひぃっ……」
人型モンスターの強烈な殺気に、青年の仲間は腰を抜かしてへたり込む。
いい気分だった。オレは高らかに笑いながら、ディモートと拠点へと帰還した。
こうして、オレのバラ色の日々が始まった。
ディモートの力を手に入れたオレは、その後も次々とダンジョンの単独攻略を成功させていった。
もちろん、苦戦することもあった。しかし、ディモートの【レベルドレイン】を何回か成功させてからのテイム発動という
根気と努力だけには自信があった。何しろオレは、もう何年間も雌伏の時を耐えてきたのだから。
オレは各地のダンジョン攻略を進めることで、強力なボスモンスターを次々と仲間にしていった。ボスモンスターたちを使って雑魚モンスターを蹴散らし、ボスモンスターたちを使って次なるボスモンスターをボコボコにし、そのボスモンスターを新たな仲間に加える。ダンジョンに潜れば潜るほど、オレとオレのパーティーは強くなっていった。この流れは、誰にも止めることはできなかった。
結果を出し続けたオレは、たちまちA級ダンジョン攻略者にまで登り詰めた。
周囲の人間がオレを見る目は、完全に変わった。複数の強力なモンスターを従えていることに対する畏れ。結果を出し続けていることへの、尊敬と憧れの眼差し。
オレは各地で不遇だった時代を語り、そんなオレをギルドマスターが手放さないでいてくれた話をした。誇張も混じっていたが、宣伝効果としては十分すぎた。それもあってか、オレが頑なにソロ攻略にこだわっても、ギルドマスターは黙認してくれた。むしろソロ攻略を許していることで、ギルドマスターの評判がさらに上がるほどになっていた。
いつかの青年のように、オレをパーティメンバーへ引き込む誘いは後を絶たなかった。逆に、オレをリーダーにした新たなパーティーの立ち上げを提案してくるやつまでいた。しかし、オレはその全てを断り続けた。いまさら誰かと組む気などなかった。むしろ順調にオレ自身のレベルも上がっていったことで、どいつもこいつもレアスキル持ちでない不運を徒党を組むことでしか補えない哀れな能無しどもだという確信が深まったくらいだった。
……そう、だからオレは、気づかなかった。
【テイマー】と【レベルドレイン】という前例のない組み合わせを使った快進撃によって浮かれていたから、気づくことができなかった。
あんなにも単純な落とし穴が、目の前に広がっていたことに……。