※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

1 / 46
今回は、小説の悪魔さんのアイディアであるサイバーパンクの世界観であるゴエティア・ショックを原作にした作品を連載していきます。オリジナルストーリーを中心にした作品にしようと思います。活動報告でも募集していますので、皆様の応募、お待ちしています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=333923&uid=45956


調達屋と探偵 Ⅰ

「やぁやぁ、待たせてしまったかな、カレンお嬢様」

 

そう、軽口を叩きながらも、いつものように優雅に腰かける僕。

 

カフェ〈ルミナ・ヴォール〉のテラス席で待ち合わせていたのは、今回の依頼人の――“カレン”だった。

 

彼女の細い指先には、まだ温かいコーヒーカップが握られている。しかしその目は冷え切ったままで、「遅刻」と一言添えてきた。

 

「遅刻? 時間通りじゃないか」

 

「いいえ、“胡散臭い男の出現”ってだけで時間の無駄です」

 

「ほう。ならば君は時間を無駄にするためにわざわざ僕を呼んだのか」

 

「依頼をね――」

 

ふと表情を曇らせた瞬間、僕は椅子を引いて身を乗り出した。

 

「そちらの友人の父が行方不明、そんな感じかな」

 

ぴくりと彼女の眉が跳ね上がる。やはり当たりか。

 

「どこでそれを……」

 

「風の噂さ。それに僕はこう見えても調達屋。最新情報を掴むアンテナは敏感なんだよ」

 

鼻を鳴らし、カップを置いたカレン――いやカレンが切り出す。

 

「昨日午後八時四十七分。父は自宅で行方不明。最後に残された通信ログによれば、研究資料を求められていたらしい。友人からの緊急連絡で私も駆けつけたけれど……私だけでは手に負えないの」

 

なるほど。友人の父の捜索。そして彼女自身が動けないからこその救援要請――依頼である。

 

「依頼ねぇ……君みたいな才媛が持て余すなんて相当だ。よっぽど胡散臭い代物を隠し持ってるんだろう?」

 

「言い回しが鬱陶しいけど否定はしません。とりあえず報酬は――」

 

「三割増しで」

 

「高すぎる。五%」

 

「七割」

 

「交渉成立させたいのか潰したいのか、どちらかにしてもらえませんこと?」

 

声こそ棘だけど、その視線の奥底には焦燥が滲んでいる。友人の父が危機に瀕している――そう察すればなおさら面白くなってくるというもの。

 

「いいだろう。それで」

 

「あなたには協力者の所に情報を届けてもらいます。今すぐ動き始めてちょうだい。もう連絡を取ったわ」

 

「ほう。彼女にも一枚噛ませるつもりか。ならばこちらとしても都合がいい」

 

僕は薄く笑いながら席を立った。まるでショーの幕開けを宣言するかのように。

 

「了解した。では」

 

それと共に僕は、もう1人の協力者のところへと向かう事にした。

 

僕は、そのままカレンからの指定された場所へと既に辿り着く。

 

事前の情報から、彼女が既に手を貸して欲しいという場所は廃工場であったのだ。

 

夜が街を飲み込むころ、廃工場――

 

壁面には剥き出しの配管が這いまわり、足元は錆びた鉄板で覆われている。天井の換気扇からは不快な唸りが漏れ続け、遠くで作動するはずもないクレーンがギシギシと軋む。周囲には埃と油の匂いが染み付いていて、床に散乱する工具や壊れたディスプレイがかつてこの場所が創作の聖域だったことを物語っていた。

 

そして今夜――その退廃と混沌の空間を舞台に、僕は辿り着く。

 

「おいおい……あれが……」

 

暗闇の中に映し出されるのは、アリシア・アークライトの影だった。

 

金色の髪を風になびかせ、彼女は静かに歩いている。スキャニングカメラ越しに見えるのは完璧なプロポーションと鋭い横顔。あの美しい瞳は今は見えないが、きっと今もあの青く澄んだ色で輝いているに違いない。

 

僕は思わず苦笑いを浮かべる。あんな華奢な体躯でありながら、あれほどの胆力を持っているとは本当に不思議なものだ。普通ならこんな危険な場所に女子が1人でやって来るわけがない。だが彼女は違う。

 

「まあ行くしかないか……」

 

そう言って俺は準備を整えた。すると突然前方から叫び声が聞こえてきた。

 

『そこまでだ!!』

 

『出てこい!!』

 

その声とともに何か大きなものが落下してくる音が聞こえる。どうやら敵達も手こずっているようだ。さっそく罠が作動したみたいだな。次の瞬間には激しい爆発音が響き渡る。煙が舞い上がり視界が完全に奪われてしまう。

 

そう、そこからアリシアが逃げる為に苦戦しているようだな。

 

「さて、こちらからのメッセージ、気づいてくれたかな」

 

煙と粉塵が立ち込める中、壁際の電脳パネルが赤く点滅を始めた。まるで“道案内”をするかのごとく、一連の明滅パターンを描き出す。

 

(罠……いや、誘導?)

 

アリシアの心臓が早鐘を打つ。迷っている暇はない。背後からは靴音が近づいてくる。

 

「もう逃げられないぞ!」

 

低い怒号に背筋が凍る。しかし同時に明滅する灯りは確かに“先へ進め”と訴えかけていた。

 

(だったら――信じるしかない!)

 

決断した彼女はスキャニングを起動。情報取得した通路を一気に駆け抜ける。その直後――

 

ガシャァンッ!!

 

突如頭上の天井が崩落し、数本の巨大な鉄骨が地面に突き刺さった。衝撃波で金属粉塵が舞い上がり視界を遮る。

 

「な……何だ!?」「ちくしょう、トラップか!?」

 

追跡者たちの狼狽が聞こえる。息を殺して立ち止まったアリシアの耳に、さらに甲高い電子音。

 

ピーッ!ピーッ!ピーッ!

 

(……これは警告音?)

 

振り返ると廊下の奥で赤いライトが円形に回転していた。表示には《非常警報》の文字。

 

(これも指示……なのか?)

 

刹那――

 

BOOM!!

 

通路中央の壁面に埋め込まれた古い薬品タンクが破裂し、緑色の煙が濛々と溢れ出す。化学反応による有毒ガスではないものの視界ゼロ。咳き込む足音と罵声が飛び交う。

 

「畜生……!先に行くぞ!!」

 

煙幕の中を必死に前進しようとする足音を尻目に、アリシアは別の分岐通路へ滑り込んだ。すると再びパネルが淡く光る。“次はこちら”とばかりに矢印が移動していく。

 

(やっぱり……誰かが“わざと”仕向けている)

 

疑念はある。だが今は生き延びることの方が先決だ。長い睫毛の下の蒼い瞳が一度だけ強く瞬き、次の扉へと手をかけた。

 

外は雨が降り出しそうな重い雲に覆われていた。廃工場の正面玄関から飛び出してきた人影を見て、僕は防毒マスクを片手にひらりと振りかざした。

 

「やあやあ、“高嶺のお嬢さん”。お困りのようだねぇ」

 

金色の髪を揺らし、蒼い瞳をぎゅっと細めて睨むのはアリシア。呼吸は浅く肩を上下させていたが、それでも隙を見せまいと足を踏みとどめる。僕はそのまま話を続ける事にする。

 

「……あなたが、私の行動を読んで罠を仕掛けたのね」

 

「結果的には助かったろう? この霧状のガスは毒性ゼロ、単なる演出さ。演出は大事だろう?」

 

僕はにこやかに量子ストレージから予備のマスクを取り出すと、ひょいと投げる。アリシアは反射的にキャッチした。

 

「信用できる保証は?」

 

「あるとも。君の大切なカレンが保証人だ」

 

その名前が出た途端、彼女の肩からほんの一瞬だけ力が抜けた。だがすぐに警戒の針が戻る。

 

「あの女が……?」

 

「そう。彼女は“親友”の父の件でどうしても手一杯。だから“使える人材”をピンポイントで探したわけだ。偶然僕に出会ったってわけ」

 

言い終えるなり僕は手元で虚空を軽く撫でる。ポポンッと小さな投影画面が三枚現れ、それぞれ異なるファイル群を表示した。

 

「ここまでの足取りと、ここから先の“行き先候補”だ。選んでごらん?」

 

アリシアの眉間に皺が寄る。胡散臭いけれど知識量と技術は確か──そういう矛盾に苛立つタイプだな、と思った。

 

「罠だとしたらあなたを叩きのめせば済むわ。そうでなければ利用する。どちらも変わらない」

 

「賢明な結論だねぇ」

 

僕は肩をすくめてニヤリと笑った。そのとき雷光が空を裂き、雨粒が落ちてくる。

 

「雨宿りついでに作戦会議といこうか」

 

「いいわ。でも変な動きを見せたら即アウトよ」

 

「心得たとも、“女王陛下”。──ところでその胸のサイズは何cmかな? 今後の防御装備を考えるために」

 

アリシアの拳が飛んできた。

 

「あんたって結構デリカシーない訳?」

 

「いやぁ、だって重要だよ。特に君のその大きさだと僕でも調達する為には準備が必要だからね」

 

「・・・はぁ、もう私の事は知っているようだけど、あんた、結局は何者なの」

 

「おっと失礼。僕の名はゲンマ。ご覧の通りの“便利屋”さ」

 

軽く肩をすくめて両手を広げると、空中にデータ窓が幾つか浮かぶ。ID証明書も擬似免許もそこには揃っていた。

 

「正式名称? そんなものは無いよ。必要な物を必要な時に必要な場所に届けるだけの調達屋さ」

 

「調達屋……。ということは裏社会の人間?」

 

「それは偏見ってやつだねぇ。電脳ネットワークと縁があれば誰でも利用可能さ。ただ……君のような特別なお客さんは別枠だ。もっとも高い代償が必要だと思ってね」

 

「高い代償ね……」

 

彼女は苦笑いを浮かべる。「まあとにかく助かったわ。あなたのこと信じられないけど恩があるのも確かだし」

 

雨粒がぽつぽつと僕らの頭上を打ち始めた。

 

「じゃあまずは撤退しようか。僕の車じゃ狭すぎるし君の愛車を使う方が良いだろう」

 

「待って、まだ情報は「必要な物はこれかい?」っ」

 

僕は量子ストレージから取り出したデータチップを差し出す。アリシアは一瞥して小さく頷いた。

 

「あなたが“カレンの仲介人”であることは認めるわ。でも絶対に裏切ったら……わかるわよね?」

 

「もちろん。契約は命よりも重い」

 

僕は芝居がかった仕草で恭しく頭を下げた。雨脚が強まる中、二人は廃墟の影へと消えて行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。