※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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調達屋と探偵 Ⅹ

 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、静かに室内を照らしていた。

 ……いや、静かではない。

 

拠点の簡易キッチンに、妙な沈黙が流れていた。

 

 カップに注がれたコーヒーから湯気が立ち上る。

 それを前にして、アリシアは――なぜか直立不動だった。

 

「……飲まないのか?」

 

「の、飲むわよ……今から……」

 

 そう言いながら、彼女はカップに手を伸ばし、途中で止まる。

 また戻す。

 深呼吸。

 伸ばす。

 止まる。

 

「……アリシア?」

 

「な、なによ!」

 

「いや、コーヒーが冷めるぞ」

 

「……それは……困るわね……」

 

 そう言ってようやくカップを掴んだと思ったら、

 視線は俺を完全に避けている。

 目が合いそうになるたび、首の角度が不自然にズレる。

 

(……完全に引きずってるな)

 

「なぁ」

 

「な、なによ!」

 

「声、でかい」

 

「……っ」

 

 アリシアは咳払いをし、急に真面目な顔を作った。

 

「……き、昨日の件は……その……

 不可抗力だったし……任務上の事故みたいなものだし……」

 

「事故にしては記憶鮮明らしいな」

 

「そこを突っ込まないで!」

 

 耳まで真っ赤だ。

 冷静沈着な電脳魔導師の面影はどこにもない。

 

 俺が一歩近づくと、彼女は一歩下がる。

 壁に背中が当たって、ぴたりと止まった。

 

「……ち、近い……!」

 

「いつもこの距離だろ」

 

「い、今は……違うの!」

 

「何が?」

 

「……全部!」

 

 叫ぶな。

 

 アリシアはカップを胸に抱え込み、視線を泳がせる。

 

「……その……あなた、普通すぎるのよ……」

 

「普通?」

 

「そう!

 もっと……こう……気まずそうにするとか……

 避けるとか……あるでしょ……!」

 

「いや、昨日は昨日、今日は今日だろ」

 

「……それが、問題なのよ……」

 

 ぼそりと呟く声は、いつになく弱い。

 

「……私だけ……意識してるみたいで……」

 

 一瞬、沈黙。

 その空気に耐えきれなくなったのか、彼女は急に背筋を伸ばした。

 

「い、いいわ!

 もういい!

 私が普段通りに戻ればいいだけの話よ!」

 

 そう宣言して、キッチンを出ようと――

 

「……っ!」

 

 一歩目で、盛大によろけた。

 

「おい!」

 

 俺が慌てて支えると、アリシアは固まる。

 触れた腕が、氷のように緊張している。

 

「……は、離して……」

 

「倒れるぞ」

 

「……うぅ……」

 

 結局、されるがまま支えられながら、アリシアは小さく呟いた。

 

「……次は……ちゃんと……

 心の準備がいるから……」

 

「次?」

 

「い、今のは言葉のあや!!」

 

 顔を真っ赤にして否定するその様子に、

 俺は思わず笑ってしまった。

 

「……笑わないで」

 

「悪い悪い。

 でもさ、そんなに気にするなら――」

 

「なら?」

 

「今日はゆっくり休め。

 電脳魔導師が挙動不審じゃ、仕事にならん」

 

 アリシアはしばらく黙り込み、

 それから小さく頷いた。

 

「……それは……正論ね」

 

 そう言って、ほんの一瞬だけ、

 安心したような表情を見せた。

 

 ――やっぱり、面白い女だ。

 

 昨夜よりも、今の方がずっと。

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