※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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破棄 Ⅰ

廃棄された軍需デポの奥は、空気そのものが死んでいた。

 照明は半分が沈黙し、残った蛍光灯も不規則に明滅している。金属の床には油と埃が層を成し、踏みしめるたびに鈍い音が返ってきた。

 

「……やれやれ。ここが“存在しないはずの倉庫”か。噂通り、空気が腐ってる」

 

 ゲンマは周囲を一瞥しながら、無意識にセンサーの反応を拾っていく。

 警備網はすでに機能していない。だが、それは安全を意味しない。忘れ去られた場所ほど、余計な“置き土産”が残されているものだ。

 

「警備は……死んでるな。センサーも十年以上前の型だ。忘れ去られるってのは、こういうことか」

 

 瓦礫を跨いだ拍子に、足元で小さな音が鳴る。

 

「っと、足元注意……罠じゃない。単なる瓦礫。笑えねぇ」

 

 最深部に近づくにつれ、倉庫の構造は露骨に軍用の色を濃くしていった。

 耐衝撃壁、重装甲扉、抹消済みの識別番号。

 

「軍用義体の保管番号……抹消済み。なるほど、“無かったこと”にされた連中の墓場か」

 

 そして、その中央に“棺”はあった。

 透明な保存カプセル。その中に横たえられているのは、銀髪の人影だった。

 

「……おいおい。これはまた、随分と物騒な棺桶だな」

 

 近づくほどに、違和感が強くなる。

 それは機械のはずだった。軍用ガイノイド。義体兵器。

 そう理解しているのに、目に映る姿はあまりにも“眠っている人間”に近い。

 

「ロックは……生きてる。完全停止中でも自爆系は律儀に起きてやがる。真面目な兵器だ」

 

 カプセル越しに見える銀髪のショートボブ。

 白い義体に、喪服のような黒のゴシックドレス。

 戦場ではなく、葬列に並ぶべき姿だと、ゲンマは一瞬思ってしまった。

 

「――銀髪、ゴーグル、白い義体に黒いドレス……。

 趣味が悪いのか、様式美なのか、判断に困るな」

 

 彼女は動かない。

 呼吸も、反応も、数値上は完全なゼロだ。

 

「起動反応なし。脳波……いや、疑似神経信号もゼロ。

 完全に“眠ってる”ってやつだ」

 

 その言い回し自体が、すでにおかしかった。

 停止している、ではなく、眠っている。

 ゲンマ自身、その違いに気づいていながら、修正しなかった。

 

「……軍用ガイノイド、ヨルハ系列……か?」

 

 記憶の底に引っかかる名前。

 公には存在せず、噂だけが先行していた計画。

 

「聞いたことあるぞ。確か、表に出る前に全部消えた計画のはずだ」

 

 だからこそ、ここにある。

 

「それを、こんな奥に封印して……誰にも見せず、誰にも使わせず。

 随分と丁寧な殺し方だな」

 

 視線が、彼女の胸部に走る。

 人格ブロックの反応――微弱だが、確かに“残っている”。

 

「……ん?」

 

 ゲンマは眉をひそめた。

 

「人格ブロック、残ってる。

 消せなかったのか……それとも、消さなかったのか」

 

 兵器としてなら、真っ先に消される部分だ。

 それが残っているという事実が、この存在を“ただの物”として扱うことを拒んでいる。

 

「ふぅ……これは“部品”って顔じゃねぇな」

 

 カプセル越しに見える指先は、力なく開かれている。

 それでも、どこか温度を感じてしまうのは、ゲンマの錯覚か。

 

「値札を付けるには、ちょっと重すぎる」

 

 量子ストレージへのアクセスコードを呼び出しながら、彼は一瞬だけ手を止めた。

 

「さて……どうする、調達屋」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。

 

「これは“持ち出していい物”か?

 それとも……“起こしちゃいけない物”か?」

 

 答えは、最初から決まっていたのかもしれない。

 

「……まあいい。依頼は“回収できる物を回収しろ”だった」

 

 論理を盾にする。

 だが、その奥にある感情から目を逸らしている自覚はあった。

 

「お前が物扱いされてるなら……

 俺のストレージに入る資格は、十分すぎるだろ」

 

 保存カプセルが光に溶け、量子ストレージへと収束していく。

 

「安心しろ。

 起こすかどうかは……その後で考える」

 

 最後に、ぽつりと。

 

「――ようこそ、廃棄品。

 とりあえず、うちの倉庫に来い」

 

 倉庫が空になった軍需デポは、再び沈黙に包まれた。

 だがゲンマの胸の奥には、確かな違和感が残り続けていた。

 

 兵器を回収したはずなのに。

 まるで誰かを保護した後のような感覚が、消えなかった。

 

 出口へ向かいながら、彼は思わず苦笑する。

 

「……目ぇ覚ました時に、文句言われそうだな。

 ま、慣れてるけど」

 

 そう呟きながらも、その声はどこか柔らかかった。

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