※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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破棄 Ⅲ

拠点――と言うには、さすがに肩書きが立派すぎる。

 正確には、俺の自宅だ。一人暮らし用の、よくある都市型集合住宅。広くもなければ、洒落てもいない。深夜ともなれば、外の騒音もほとんど消える。

 

「……で、ここが俺の家だ」

 

 玄関で靴を脱ぎながらそう言うと、2Bは室内を一瞥した。

 視線の動きは最小限。壁、天井、床、非常口の位置。完全に“安全確認”のそれだ。

 

「民間居住区。防御構造なし。

 ……戦闘には不向きな環境ですね」

 

「戦う場所じゃないからな。

 それに、今夜はもう仕事は終わりだ」

 

 そう言って照明を落とし、間接灯だけを点ける。

 白い光より、こっちの方が目に優しい。

 

 2Bは部屋の中央に立ったまま、指示を待つように動かない。

 完全に無意識だろうが、その姿勢は“待機中の兵士”そのものだった。

 

「……楽にしていいぞ。

 そこ、ソファ。座っても壊れない」

 

「了解しました」

 

 言葉は即答。

 だが動作は、ほんの一拍遅れた。

 座る、という行為を“命令ではなく許可”として処理している。そんな間だった。

 

 俺はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。

 深夜だ。豪華なものはない。だが、簡単なものなら用意できる。

 

「なぁ、2B」

 

 背を向けたまま声をかける。

 

「食事は……必要か?」

 

 少し間が空く。

 

「私の活動に、栄養摂取は必須ではありません」

 

 予想通りの答えだ。

 だから、続ける。

 

「じゃあ、食べられるか?」

 

 今度は、もう少し長い沈黙。

 

「……摂食機構は存在します。

 味覚解析も可能です」

 

「つまり、食べられるってことだな」

 

「はい」

 

 簡潔。

 だが、否定はしなかった。

 

「じゃあ、付き合え。

 俺が腹減ってる」

 

 そう言って、適当にフライパンを出す。

 卵、パン、スープ。深夜飯としては十分だ。

 

 調理している間、背中に視線を感じる。

 警戒じゃない。監視でもない。

 “観察”だ。

 

「……人間は、空腹になると作業効率が低下しますか」

 

「するな。

 だから食う」

 

「合理的ですね」

 

「そういう問題でもないが……まあいい」

 

 出来上がったものをテーブルに並べる。

 簡単な食事だ。見栄えはしない。

 

「ほら。

 毒は入ってない」

 

「その可能性は、すでに排除しています」

 

「用心深いな」

 

「仕様です」

 

 2Bはテーブルの前に座り、皿を見下ろした。

 その姿勢は相変わらず整っている。

 背筋が伸び、無駄な力が入っていない。

 

「……これは?」

 

「卵。

 人間がよく食べる」

 

「理解しました」

 

 フォークを取る動作は正確だった。

 訓練された動き。

 だが、口に運ぶ直前で、ほんの僅かに止まる。

 

 俺は何も言わず、自分の分を食べ始めた。

 見られてると分かってても、気にしない。

 こういうのは、説明するより見せた方が早い。

 

 数秒後、2Bも同じように口に運んだ。

 

 ――咀嚼。

 

 彼女の表情は、ほとんど変わらない。

 眉も動かないし、声も出さない。

 

 だが。

 

 フォークが、止まった。

 

 ほんの一瞬。

 誤差レベルだが、確かに。

 

「……解析結果。

 想定より、情報量が多い」

 

「味、ってやつだな」

 

「……はい」

 

 もう一口。

 今度は止まらない。

 

「これまで、私は人間の指示に従い、行動を最適化してきました。

 摂食は“補給”として処理されていました」

 

「だろうな」

 

「しかし……これは」

 

 言葉を探すように、少しだけ間が空く。

 

「……目的とは直接関係のない刺激です」

 

 それは、2Bなりの驚きだった。

 

「でも、無駄じゃないだろ」

 

「……否定できません」

 

 彼女は淡々と食べ続ける。

 感情は表に出さない。

 だが、動きは確実に“慣れていない”。

 

 スープを一口飲んだ時、わずかに呼吸が変わった。

 

「……温度調整が、想定外です」

 

「熱いのは最初だけだ」

 

「……学習します」

 

 その言葉に、俺は少し笑った。

 

「焦らなくていい。

 ここじゃ、急ぐ理由もない」

 

 2Bは一度だけこちらを見た。

 

「……あなたは、私に指示を出しませんね」

 

「必要ないからな」

 

「……理解、しました」

 

 完全に理解したわけじゃないだろう。

 それでも、否定しない。

 

 皿が空になる頃、2Bは静かにフォークを置いた。

 

「……摂食、完了」

 

「どうだった?」

 

 少し考える。

 

「……記録します。

 “食事は、命令ではない”」

 

「いい記録だ」

 

 深夜の部屋に、静かな空気が流れる。

 兵器と調達屋。

 奇妙な組み合わせだが、少なくとも今は――悪くない。

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