※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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破棄 Ⅷ

 足を止めたのは、追い詰められたからじゃない。

 ここなら、やれる。そう判断しただけだ。

 

 高架下の旧物流ヤード。夜明け前で人影は薄く、遮蔽物も多い。照明は死んでいる箇所が点在し、視界はまだらだ。追跡側は慎重に包囲を進めている。――プロだ。だが、慎重すぎる。

 

「ここで迎撃する」

 

 俺は短く言った。大雑把な方針だけを投げる。細部は詰めない。

 2Bは一歩前に出て、周囲を一瞥した。首を動かす角度は最小限。無駄がない。

 

「正面戦闘は非効率」

 

 即座に返る。

 

「右側のコンテナ列。敵の視界が分断されます。

 通路幅は狭い。数的優位を相殺可能」

 

 続けて、間を置かずに。

 

「あなたは後方支援に集中すべきです」

 

 提案だ。命令じゃない。

 俺は一切の反論をしなかった。

 

「……いい判断だ。採用する」

 

 それだけで十分だった。

 作戦会議に時間は要らない。合意は成立した。

 

 俺は量子ストレージを開く。空間が歪み、金属音が小さく鳴った。取り出したのは、2Bの標準装備じゃない。重力制御補助が組み込まれた近接武装――高負荷仕様だ。使えば消耗も大きい。元は、俺が切り札として温存していたものだ。

 

 だが、今は違う。

 

「切り札だ」

 

 武器を差し出す。

 

「使うかどうかは、お前が決めろ」

 

 使い方の説明はしない。判断も委ねる。

 2Bは一瞬だけ武器を見た。解析は速い。だが、口に出すのは最小限だ。

 

「……了解」

 

 それだけ。

 受け取る手に迷いはなかった。

 

 空気が張り詰める。

 追跡側の気配が、確実に近づいてくる。

 

 ほんの一瞬、静止が落ちた。

 

「ゲンマ」

 

 呼ばれた。

 名前だけ。感情は乗らない。合図だ。

 

「……ああ」

 

 それで、始まる。

 

 2Bが前に出る。動きは鋭く、低い。影を縫うようにコンテナ列へ滑り込む。俺は一拍遅れて後方へ。視線は彼女の背中から離さない。

 敵が動く。二方向から詰めてくる。予想通りだ。

 

 最初の接触。

 2Bは抜かない。――まだだ。

 踏み込み、関節を断つように制圧。非致死。倒れた影が地面に沈む。次が来る。

 

「左、二」

 

 俺が短く投げる。

 2Bは頷かない。視線も動かさない。だが、進路が変わる。連携は成立している。

 

 拘束具が飛ぶ。粘着。

 俺は即座に妨害を入れる。床に散らした微粒子が起爆、視界を奪う。音は抑えた。民間環境だ。

 

 数が増える。

 だが、彼らは慎重だ。包囲を維持しようとする。――それが仇になる。

 

 2Bが、武器を使った。

 

 重力が歪む。

 一瞬、空間が沈むような感覚。踏み込みが深くなり、斬撃の軌道が変わる。致命には行かない。だが、逃げ道を断つには十分だ。

 

「……効果、確認」

 

 淡々とした声。

 使うべき瞬間を、正確に選んでいる。

 

 俺は後方で支援を続ける。遮蔽を作り、追跡線を切る。

 勝てる。だが、ここで決めない。

 

「撤退準備」

 

 俺が言う。

 

「了解」

 

 即応。

 2Bは一歩引き、最後の制圧を入れて道を開く。

 

 背後で通信が走る気配。

 “本隊到着”。――やはり来る。

 

「……十分だ」

 

 俺たちは同時に動いた。

 戦うために止まり、逃げるために抜ける。選択は一致している。

 

 走りながら、俺は思う。

 命令じゃない。提案を受け、武器を託し、名前で合図を交わした。

 それだけで、十分だった。

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