※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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破棄 Ⅹ

 夜明けの気配が街の縁を舐め始める頃、俺たちはようやく足を止めた。

 市街地から外れた、旧インフラ管理区画。使われなくなった変電施設の地下だ。地上の騒音は遮断され、通信も通りにくい。人の流れからも外れている。――短時間の潜伏には、十分すぎる。

 

「ここで一度切る」

 

 俺が言うと、2Bは頷いた。

 照明を落とし、遮蔽を展開する。外部ドローンの反射を鈍らせ、残留トラフィックを散らす。調達屋の仕事は、戦わない時間を作ることだ。

 

 地下室はコンクリート打ちっぱなしで、湿った冷気が残っている。配電盤の影に簡易の作業スペースを作り、俺は量子ストレージから工具と診断ユニットを取り出した。

 

「自己診断、いけるか」

 

「可能です」

 

 2Bは静かに立ち、背筋を伸ばす。戦闘後とは思えないほど姿勢は安定しているが、細部を見ると違う。反応のキレが、わずかに落ちている。

 

「制限の内容を、簡潔に」

 

「出力制限が発生しています。

 重力制御系は通常の六割。

 センサー精度は低下。補正で対応可能」

 

 淡々とした報告。

 言葉に感情はないが、数値は正直だ。

 

「原因は切り札の限定使用だな」

 

「はい」

 

 俺は頷き、診断ユニットを接続する。ログが流れ、警告がいくつか弾ける。想定内だ。使い方は正しかった。代償も、想定内。

 

「一時的な制限だ。今すぐの再戦は避ける」

 

「了解しました」

 

 2Bは異議を挟まない。

 その判断が、逆にこちらの責任を重くする。

 

 外部の気配を探る。微弱なスキャンが一度、遠くで触れた。だが、追っては来ていない。市街地での抑制戦が効いたか、あるいは再編中か。――どちらにせよ、今は静かだ。

 

「敵の索敵圧は?」

 

「低下しています。

 ただし、完全ではありません」

 

「十分だ」

 

 俺は配電盤を開け、残っていた蓄電ユニットを繋ぐ。即席の環境電源だ。効率は悪いが、短時間なら持つ。

 

「応急で回す。深追いはしない」

 

「了解」

 

 2Bはその場に腰を下ろし、剣を膝に置いた。

 刃は欠けていない。だが、使い手の側が削れている。

 

「……なあ」

 

 俺は作業しながら、言葉を選ぶ。

 

「さっきの判断、正しかった」

 

「どの判断でしょうか」

 

「殲滅を選ばなかったことだ」

 

 2Bは一瞬、沈黙した。処理の間だ。

 

「被害最小化が優先されました。

 結果として、戦闘効率は低下しています」

 

「それでいい」

 

 即答した。

 

「効率だけで勝っても、残るものがある。

 今回は、残さなかった。それが価値だ」

 

 2Bは何も言わない。

 だが、次に発した声は、ほんのわずかに間があった。

 

「……記録します」

 

「頼む」

 

 診断が一段落する。制限は解除できないが、悪化もしていない。――問題は、別だ。

 

 ログの奥に、赤いラインが一つ走った。

 俺は眉を寄せ、数値を拡大する。

 

「……ん?」

 

 2Bがこちらを見る。

 

「追加報告があります」

 

 声はいつも通り、平坦だ。

 だが、内容は軽くない。

 

「内部エネルギー残量が、想定より低下しています」

 

 俺は手を止めた。

 

「具体的には?」

 

「現行の行動を維持した場合、

 戦闘継続可能時間は――」

 

 2Bは一拍置き、淡々と続ける。

 

「残り、限られています。

 エネルギー不足が発生しています」

 

 地下の静けさが、重く沈んだ。

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