地下の空気は、まだ少し湿っていた。
補給が終わってから、どれくらい経っただろう。時間の感覚が曖昧になるのは、戦闘の後ではいつものことだ。
2Bは配電盤の横に立ち、静かに自己診断を続けている。姿勢はいつもと変わらない。だが、さっきまで感じていた不安定さは、確かに薄れていた。
「回復率は?」
「一時的に出力が安定しました。
稼働可能時間、約一・四倍」
「……それだけ戻れば上出来だ」
俺は息を吐き、壁にもたれる。
応急処置としては成功。だが、数字の裏に引っかかりがあった。
「なあ、2B」
「はい」
「さっきの補給方式……あれ、応急処置にしちゃ手際が良すぎる」
彼女は一瞬だけ沈黙した。
処理待ちの間――ではない。質問の意味を整理している間だ。
「説明を要しますか」
「頼む」
2Bは小さく頷き、内部ログを呼び出した。
俺の端末に転送された設計図は、見慣れない形式だった。生体部品と機械部品が、異様な密度で混在している。
「私の生体燃料セルは、通常は外部電源で充填されます」
「そこまでは聞いてる」
「ただし、長期戦仕様として――」
彼女は淡々と続ける。
「ヒト由来サンプルを併用する設計が組み込まれています」
俺は思わず眉を寄せた。
「……最初から、そう作られてたのか?」
「はい。
電力遮断環境、補給線断絶環境を想定しています」
「つまり……」
「戦場で、人間から補給を受ける前提です」
言葉が、少し遅れて胸に落ちた。
「それ……正規の運用なのか?」
「軍用仕様では、標準機能です」
標準。
その一言が、やけに重かった。
「今まで……使ったことは?」
2Bは首を横に振る。
「ありません」
「一度も?」
「ありません。
必要な状況に至らなかったためです」
必要な状況。
つまり――今が、初めて。
俺は端末を閉じ、思わず笑ってしまった。
「ひでえ設計だな……」
2Bは反論しない。事実として受け止めているだけだ。
「合理的です。
人間は携行可能なエネルギー源です」
「……お前、自分のこと、どう思ってる?」
質問は、半分冗談で、半分本気だった。
2Bはわずかに首を傾げる。
「私は兵器です。
任務遂行のための存在です」
即答だった。
迷いも、感情も、挟まらない。
俺は小さく舌打ちした。
「それでもな……」
言いかけて、言葉を飲み込む。
説教をしても意味がないのは分かっている。彼女は、そういうふうに作られた。
「……今後も、必要になるのか」
「可能性は高いです。
現行の制限下では、再戦時に再補給が必要になります」
「回数制限は?」
「人体側への負荷を考慮しなければ、問題ありません」
「そっちじゃねえ」
思わず即座に返した。
「お前の方だ」
2Bは、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
ログ処理の遅延ではない。――考えている。
「私の機能への影響は軽微です」
「……そうか」
答えは合理的で、正しくて、だからこそ腹に落ちない。
俺はしばらく黙り込み、配電盤の音を聞いていた。
「なあ、2B」
「はい」
「次からは、必ず俺に言え。
勝手に判断するな」
彼女は、少しだけ目を細めた。
「……命令ですか」
「いや」
首を振る。
「お願いだ」
その言葉に、2Bはわずかに間を置いてから、静かに頷いた。
「了解しました」
そして、付け加えるように言う。
「ゲンマ。
今回の補給は、最適な選択でした」
「……そう言われてもな」
俺は苦笑した。
「お前が“仕様通り”動いただけってのが、一番気に食わないんだよ」
2Bは返事をしない。
だが、その視線は、さっきよりほんの少しだけ、柔らかく見えた。