※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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機械 Ⅱ

 地下の空気は、まだ少し湿っていた。

 補給が終わってから、どれくらい経っただろう。時間の感覚が曖昧になるのは、戦闘の後ではいつものことだ。

 

 2Bは配電盤の横に立ち、静かに自己診断を続けている。姿勢はいつもと変わらない。だが、さっきまで感じていた不安定さは、確かに薄れていた。

 

「回復率は?」

 

「一時的に出力が安定しました。

 稼働可能時間、約一・四倍」

 

「……それだけ戻れば上出来だ」

 

 俺は息を吐き、壁にもたれる。

 応急処置としては成功。だが、数字の裏に引っかかりがあった。

 

「なあ、2B」

 

「はい」

 

「さっきの補給方式……あれ、応急処置にしちゃ手際が良すぎる」

 

 彼女は一瞬だけ沈黙した。

 処理待ちの間――ではない。質問の意味を整理している間だ。

 

「説明を要しますか」

 

「頼む」

 

 2Bは小さく頷き、内部ログを呼び出した。

 俺の端末に転送された設計図は、見慣れない形式だった。生体部品と機械部品が、異様な密度で混在している。

 

「私の生体燃料セルは、通常は外部電源で充填されます」

 

「そこまでは聞いてる」

 

「ただし、長期戦仕様として――」

 

 彼女は淡々と続ける。

 

「ヒト由来サンプルを併用する設計が組み込まれています」

 

 俺は思わず眉を寄せた。

 

「……最初から、そう作られてたのか?」

 

「はい。

 電力遮断環境、補給線断絶環境を想定しています」

 

「つまり……」

 

「戦場で、人間から補給を受ける前提です」

 

 言葉が、少し遅れて胸に落ちた。

 

「それ……正規の運用なのか?」

 

「軍用仕様では、標準機能です」

 

 標準。

 その一言が、やけに重かった。

 

「今まで……使ったことは?」

 

 2Bは首を横に振る。

 

「ありません」

 

「一度も?」

 

「ありません。

 必要な状況に至らなかったためです」

 

 必要な状況。

 つまり――今が、初めて。

 

 俺は端末を閉じ、思わず笑ってしまった。

 

「ひでえ設計だな……」

 

 2Bは反論しない。事実として受け止めているだけだ。

 

「合理的です。

 人間は携行可能なエネルギー源です」

 

「……お前、自分のこと、どう思ってる?」

 

 質問は、半分冗談で、半分本気だった。

 

 2Bはわずかに首を傾げる。

 

「私は兵器です。

 任務遂行のための存在です」

 

 即答だった。

 迷いも、感情も、挟まらない。

 

 俺は小さく舌打ちした。

 

「それでもな……」

 

 言いかけて、言葉を飲み込む。

 説教をしても意味がないのは分かっている。彼女は、そういうふうに作られた。

 

「……今後も、必要になるのか」

 

「可能性は高いです。

 現行の制限下では、再戦時に再補給が必要になります」

 

「回数制限は?」

 

「人体側への負荷を考慮しなければ、問題ありません」

 

「そっちじゃねえ」

 

 思わず即座に返した。

 

「お前の方だ」

 

 2Bは、ほんの一瞬だけ動きを止めた。

 ログ処理の遅延ではない。――考えている。

 

「私の機能への影響は軽微です」

 

「……そうか」

 

 答えは合理的で、正しくて、だからこそ腹に落ちない。

 

 俺はしばらく黙り込み、配電盤の音を聞いていた。

 

「なあ、2B」

 

「はい」

 

「次からは、必ず俺に言え。

 勝手に判断するな」

 

 彼女は、少しだけ目を細めた。

 

「……命令ですか」

 

「いや」

 

 首を振る。

 

「お願いだ」

 

 その言葉に、2Bはわずかに間を置いてから、静かに頷いた。

 

「了解しました」

 

 そして、付け加えるように言う。

 

「ゲンマ。

 今回の補給は、最適な選択でした」

 

「……そう言われてもな」

 

 俺は苦笑した。

 

「お前が“仕様通り”動いただけってのが、一番気に食わないんだよ」

 

 2Bは返事をしない。

 だが、その視線は、さっきよりほんの少しだけ、柔らかく見えた。

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