※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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機械 Ⅲ

 地下の変電施設は、相変わらず静かだった。

 配電盤の低い唸りと、水滴が床に落ちる音だけが、やけに大きく聞こえる。

 

 俺は壁にもたれ、端末のログを洗っていた。

 補給仕様の話を聞いてから、どうにも落ち着かない。設定を知ったからじゃない。――誰かに、もう知られている気がしてならなかった。

 

「2B」

 

「はい」

 

「さっきの補給ログ、外部に漏れてないな?」

 

「現在の通信遮断状態では、直接送信は不可能です」

 

「……直接、ね」

 

 その言い方が、引っかかった。

 

「“直接じゃない”方法は?」

 

 2Bは、ほんの一瞬だけ処理遅延を起こした。

 嫌な間だった。

 

「間接的な推定は、可能です」

 

 俺は息を吐いた。

 

「やっぱりか」

 

 端末を操作し、さっきの戦闘ログを拡大する。

 敵側の通信断片。これまで見落としていたフレーズに、今さら目が止まった。

 

『対象、出力低下を確認』

『補給フェーズ移行を予測』

 

「……おい」

 

 喉の奥が冷えた。

 

「お前の燃料残量、戦闘中に読まれてたな」

 

 2Bは即答しなかった。

 視線を下げ、ログを再照合してから、静かに言う。

 

「……はい。

 敵のセンサーが、私の出力変動を捕捉していた可能性があります」

 

「可能性、じゃねえな。完全に把握してる」

 

 画面をスワイプすると、続きが出る。

 

『補給源、ヒト個体と推定』

『優先戦術を補給妨害に切替』

 

 一瞬、言葉を失った。

 

「……最初からか」

 

「推定されます。

 私の型式は、過去に同様の運用履歴があります」

 

「履歴……?」

 

「補給を受けた個体は、回収優先度が上昇します」

 

 胸の奥が、嫌な音を立てた。

 

「つまり……」

 

「補給行為そのものが、索敵条件になります」

 

 2Bは淡々と言う。

 それが、余計に怖かった。

 

「敵は、あなたを“燃料源”としても評価しています」

 

 ……最悪の分類だ。

 

「ふざけるな」

 

 思わず声が荒くなる。

 

「俺を狙わせるために、お前を削ったってことか?」

 

「戦術的には、合理的です」

 

「合理的で済ませるな」

 

 端末を床に置き、頭を掻く。

 

「じゃあ、これからどうなる」

 

「予測を提示します」

 

 2Bは静かに続けた。

 

「今後、敵は以下を優先します。

 一、補給中の襲撃。

 二、補給源の特定と排除。

 三、私の稼働時間を削り、行動不能に誘導」

 

「……完全に、詰ませに来てるな」

 

「はい」

 

 あっさり肯定された。

 

 俺はしばらく黙り込んだ。

 地下の湿気が、やけに重く感じる。

 

「なあ、2B」

 

「はい」

 

「……お前、俺から補給を受けるの、嫌じゃないのか」

 

 質問は、戦術とは無関係だ。

 だが、聞かずにいられなかった。

 

 2Bは首を横に振る。

 

「任務遂行に必要な行為です」

 

「それだけ?」

 

「それだけです」

 

 即答。

 だが、少し遅れた。

 

「……ただし」

 

「ん?」

 

「あなたが危険に晒される確率は、上昇します」

 

「今さらだ」

 

 俺は苦笑した。

 

「元から命、安く売ってる商売だ」

 

「……推奨されません」

 

 その言葉に、少し驚く。

 

「お前が言うのか」

 

「あなたが行動不能になると、私の生存確率が大きく低下します」

 

「……結局、合理か」

 

「はい」

 

 そう言いながら、彼女は一歩だけ近づいた。

 距離はほんのわずかだが、その動き自体が、珍しい。

 

「補給を継続する場合、対策が必要です」

 

「具体的には?」

 

「補給の時間と場所を、意図的に“罠”に変えることが可能です」

 

「……逆に使う、ってことか」

 

「はい。

 敵は補給を狙います。

 ならば、補給を囮にできます」

 

 俺は思わず吹き出しそうになった。

 

「お前、ほんと容赦ねえな……」

 

「最適解です」

 

 だが、すぐに表情を引き締める。

 

「ただし」

 

「ただし?」

 

「成功確率は高くありません。

 失敗した場合、あなたが最優先目標になります」

 

 地下の静けさが、また重く沈んだ。

 

 俺は天井を仰ぎ、ゆっくり息を吐く。

 

「……面白くなってきたな」

 

「面白い、とは?」

 

「敵が賢いのは嫌いじゃない。

 問題は――」

 

 視線を戻す。

 

「お前が、その賢さの餌にされることだ」

 

 2Bは、少しだけ首を傾げた。

 

「私は、兵器です」

 

「違う」

 

 即座に否定した。

 

「今は、“相棒”だ」

 

 一拍、沈黙。

 

「……記録します」

 

 いつもの返事。

 だが、その声は、ほんの少しだけ柔らかかった。

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