※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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機械 Ⅳ

 地下施設を出てから、五分ほど歩いた頃だ。

 

 わざと、足音を消さなかった。

 遮蔽も、電波偽装も半分だけ解除してある。――今の俺は、“見つけてください”と書いた看板を背負って歩いているようなものだ。

 

「……本当に、単独で行くのですか」

 

 背後の暗がりから、2Bの声が届く。

 姿は見えない。だが、彼女は予定どおり、俺の三十メートル後方、死角になる高所に配置している。

 

「ああ。向こうは、もう俺を燃料タンクだと思ってる」

 

「捕縛確率、七四%。致命傷確率、一三%」

 

「上出来だな」

 

 苦笑しながら、俺は狭い通路に入る。

 天井は低く、壁は金属パネル。逃げ場が少なく、確保には最適な地形だ。――だから、選んだ。

 

 ポケットの中で、マイクロ受信器が微かに震えた。

 

 来た。

 

 次の瞬間、空気が変わる。

 背後のシャッターが半分だけ降り、前方の照明が一斉に落ちる。完全な闇ではない。視界を奪いきらず、“逃げ道がある”ように錯覚させる配置だ。

 

「……」

 

 俺は足を止めない。

 走らない。振り向かない。

 あくまで“気づいていない獲物”を演じる。

 

 右壁の裏で、何かが動いた。

 

 次の瞬間、空気が裂ける音。

 粘着弾が俺の足元を掠め、床に張り付く。

 

「……やっぱり、殺しには来ないか」

 

 拘束狙い。読み通りだ。

 

 背後から、低い声が響く。

 

「対象発見。補給源、単独行動を確認」

 

「確保優先。損傷最小限で」

 

 完全に、“物扱い”だな。

 

 俺はわざと足を滑らせ、体勢を崩す。

 その瞬間を狙って、二方向から影が飛び出した。

 

 電撃ワイヤ。麻痺スプレー。

 手慣れてる。――回収専門班だ。

 

「動くな」

 

「はいはい……っと」

 

 抵抗せず、半歩遅れる。

 ワイヤが腕に絡み、電流が走る。痺れるが、致命じゃない。

 

 拘束具が首元に近づく。

 

 ――今だ。

 

 俺は歯の裏で小さく舌打ちし、床に視線を落とす。

 

 次の瞬間、通路の床面が“沈んだ”。

 

 マイクロ罠、起動。

 

 敵の一人が足を取られ、体勢を崩す。

 同時に天井の通風口から煙幕が噴き出し、視界を切り裂いた。

 

「散開――」

 

 指示の途中で、空気が“斬られた”。

 

 煙の中を、一本の銀線が走る。

 

 ――2Bだ。

 

 音がしない。

 重力制御を抑えた、最低出力の踏み込み。だが速度は、十分すぎる。

 

 最初の一撃は、拘束具を持った敵の手首。

 切断ではない。関節を“外す”だけ。武器が床に落ちる。

 

 二人目は、膝。

 三人目は、頸動脈の圧迫。

 

 非致死。完璧な制圧。

 

 俺の腕のワイヤが、いつの間にか消えていた。

 

「……相変わらず、仕事が早いな」

 

「介入条件を満たしました」

 

 背後で、2Bが静かに言う。

 呼吸は乱れていない。だが、出力ログを見るまでもない。――長くは保たない。

 

 最後に残った一人が、必死に通信機を叩く。

 

「上へ報告――」

 

 その瞬間、俺は足元の小型反射板を蹴り飛ばした。

 天井に向けて跳ね返った信号が、敵の送信波を“なぞる”。

 

 端末が震え、座標が弾き出される。

 

「……釣れた」

 

 2Bがすぐに補足する。

 

「中継ノード、検出。位置、送信します」

 

「十分だ。撤退だ」

 

 遠くで、次の部隊の気配が動き出す。

 だが、もう目的は果たした。

 

 俺は肩を回し、苦笑した。

 

「なあ、2B」

 

「はい」

 

「俺、燃料タンクにしては、なかなか厄介だろ?」

 

「……評価を更新します」

 

 ほんの一瞬、彼女の口元が、緩んだ気がした。

 

 だが次の言葉は、いつも通り冷静だった。

 

「エネルギー残量、危険域に接近しています」

 

「……やっぱりな」

 

 俺は天井を見上げ、息を吐く。

 

「次の補給は、もっと慎重にいこうぜ」

 

「了解しました」

 

 その声を背に、俺たちは静かに闇へ溶けていった。

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