※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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機械 Ⅴ

 中継ノードの位置は、地図の上ではただの点だった。

 

 だが実物は、街の外れに沈んだ旧通信塔――正確には、その地下に増設された“影の管制室”だ。合法なインフラの皮を被った、回収部隊専用の裏拠点。

 

「……ずいぶん、あからさまだな」

 

 俺は瓦礫の影から、半壊した塔を見上げる。

 表のアンテナは錆び、電源も落ちている。だが地下からは、微弱だが確実に“生きた通信”の鼓動が伝わってくる。

 

 隣に立つ2Bは、すでに戦闘モードに入っていた。剣は抜いていない。だが、足運びと視線だけで分かる。――今は“切るための計算”をしている。

 

「侵入経路は三つ。

 正面昇降機、非常排気ダクト、保守用ケーブル孔」

 

「警備は?」

 

「無人ドローン四機。内部警備員、推定六名。

 指揮ノード、地下二層」

 

「……エネルギー残量は」

 

 言いながら、聞くのが少し怖かった。

 

「残り、三七%。

 高負荷戦闘、七分が限界です」

 

「短期決戦だな」

 

「はい」

 

 それで十分だ。

 

「正面は捨てる。ドローンに見せるだけだ」

「排気ダクトから入る。俺が先行、通信妨害を仕込む」

 

「了解。私は、地下二層で合流します」

 

 最小の言葉で、役割が決まる。

 この即席コンビも、ずいぶん板についてきた。

 

 俺はケーブル孔に身を滑り込ませ、狭い縦穴を降りる。

 途中で、いくつかの古い中継端子を切断し、代わりに“俺の耳”を仕込む。通信の反射、逆流、遅延――全部、向こうの神経に針を刺す準備だ。

 

 地下一層。

 照明は薄暗く、監視カメラが等間隔に並ぶ。

 

「……よし」

 

 小型妨害器を投げる。

 一拍遅れて、カメラの首が一斉に別方向を向いた。

 

 その瞬間、通路の向こうで風が裂ける。

 

 2Bだ。

 

 音は、ほとんどない。

 最初の警備員は、悲鳴を上げる前に床に沈んだ。頸動脈を正確に押さえ、意識だけを刈り取る。

 

 二人目、三人目。

 剣は抜かない。体術だけで、動線を潰していく。

 

「……制圧、完了」

 

 短い報告。

 だが、その声に、わずかな遅れが混じっていた。

 

「無理するな」

 

「許容範囲です」

 

 即答だが、歩幅が一ミリだけ狭い。

 

 地下二層。

 ここが中継ノードの心臓部だ。

 

 巨大なラック群が並び、無数の光が点滅している。敵の“目”と“耳”と“命令”が、全部ここを通る。

 

「……見つけた」

 

 俺は中央端末に飛びつき、ケーブルを直結する。

 ログが洪水のように流れ込む。

 

「回収優先度……Aクラス……対象識別コード……」

 

 背中で、2Bが気配を強める。

 

「敵、接近。

 残存警備、三」

 

「時間稼ぐ。三十秒くれ」

 

「了解」

 

 次の瞬間、背後で衝撃音。

 2Bがようやく剣を抜いた。だが振り幅は最小。切るのは装備だけ、動脈だけ。倒れる音すら、ほとんどしない。

 

 俺は歯を食いしばり、データを掴み取る。

 

「……あった」

 

 回収部隊の指揮ノードID。

 中継経由で上位指揮官へ繋がる“本線”。

 

「2B、こいつを落とすと、向こうは一時的に盲目になる」

 

「必要時間は?」

 

「……十秒」

 

「確保します」

 

 彼女は最後の敵を床に沈め、扉の前に立つ。

 その背中が、ほんのわずか揺れた。

 

「……出力、低下」

 

「分かってる、あと少しだ」

 

 最後のコマンドを叩き込む。

 

 通信が、静かに――そして完全に、途切れた。

 

 地下全体の光が、一斉に暗転する。

 

「……成功」

 

 俺は端末を抜き、息を吐いた。

 

「撤退だ、2B」

 

「了解……」

 

 返事はあったが、膝がわずかに沈む。

 

「おい」

 

「……問題ありません」

 

「嘘つけ」

 

 俺はすぐに肩を貸す。

 

「次の補給、急がねえと――」

 

「……あなたの負荷が、上昇します」

 

「今は気にするな」

 

 通信ノードを背に、俺たちは暗闇を抜けた。

 敵の“目”は、しばらく閉じたままだ。

 

 だが、きっと――

 

「……向こう、本気になるな」

 

「はい。

 次は、指揮官が直接動く可能性が高いです」

 

 それを聞いて、俺は苦笑した。

 

「ようやく、ボス戦か」

 

 2Bは答えない。

 だが、俺の腕を支える指先に、わずかに力が入った。

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