中継ノードの位置は、地図の上ではただの点だった。
だが実物は、街の外れに沈んだ旧通信塔――正確には、その地下に増設された“影の管制室”だ。合法なインフラの皮を被った、回収部隊専用の裏拠点。
「……ずいぶん、あからさまだな」
俺は瓦礫の影から、半壊した塔を見上げる。
表のアンテナは錆び、電源も落ちている。だが地下からは、微弱だが確実に“生きた通信”の鼓動が伝わってくる。
隣に立つ2Bは、すでに戦闘モードに入っていた。剣は抜いていない。だが、足運びと視線だけで分かる。――今は“切るための計算”をしている。
「侵入経路は三つ。
正面昇降機、非常排気ダクト、保守用ケーブル孔」
「警備は?」
「無人ドローン四機。内部警備員、推定六名。
指揮ノード、地下二層」
「……エネルギー残量は」
言いながら、聞くのが少し怖かった。
「残り、三七%。
高負荷戦闘、七分が限界です」
「短期決戦だな」
「はい」
それで十分だ。
「正面は捨てる。ドローンに見せるだけだ」
「排気ダクトから入る。俺が先行、通信妨害を仕込む」
「了解。私は、地下二層で合流します」
最小の言葉で、役割が決まる。
この即席コンビも、ずいぶん板についてきた。
俺はケーブル孔に身を滑り込ませ、狭い縦穴を降りる。
途中で、いくつかの古い中継端子を切断し、代わりに“俺の耳”を仕込む。通信の反射、逆流、遅延――全部、向こうの神経に針を刺す準備だ。
地下一層。
照明は薄暗く、監視カメラが等間隔に並ぶ。
「……よし」
小型妨害器を投げる。
一拍遅れて、カメラの首が一斉に別方向を向いた。
その瞬間、通路の向こうで風が裂ける。
2Bだ。
音は、ほとんどない。
最初の警備員は、悲鳴を上げる前に床に沈んだ。頸動脈を正確に押さえ、意識だけを刈り取る。
二人目、三人目。
剣は抜かない。体術だけで、動線を潰していく。
「……制圧、完了」
短い報告。
だが、その声に、わずかな遅れが混じっていた。
「無理するな」
「許容範囲です」
即答だが、歩幅が一ミリだけ狭い。
地下二層。
ここが中継ノードの心臓部だ。
巨大なラック群が並び、無数の光が点滅している。敵の“目”と“耳”と“命令”が、全部ここを通る。
「……見つけた」
俺は中央端末に飛びつき、ケーブルを直結する。
ログが洪水のように流れ込む。
「回収優先度……Aクラス……対象識別コード……」
背中で、2Bが気配を強める。
「敵、接近。
残存警備、三」
「時間稼ぐ。三十秒くれ」
「了解」
次の瞬間、背後で衝撃音。
2Bがようやく剣を抜いた。だが振り幅は最小。切るのは装備だけ、動脈だけ。倒れる音すら、ほとんどしない。
俺は歯を食いしばり、データを掴み取る。
「……あった」
回収部隊の指揮ノードID。
中継経由で上位指揮官へ繋がる“本線”。
「2B、こいつを落とすと、向こうは一時的に盲目になる」
「必要時間は?」
「……十秒」
「確保します」
彼女は最後の敵を床に沈め、扉の前に立つ。
その背中が、ほんのわずか揺れた。
「……出力、低下」
「分かってる、あと少しだ」
最後のコマンドを叩き込む。
通信が、静かに――そして完全に、途切れた。
地下全体の光が、一斉に暗転する。
「……成功」
俺は端末を抜き、息を吐いた。
「撤退だ、2B」
「了解……」
返事はあったが、膝がわずかに沈む。
「おい」
「……問題ありません」
「嘘つけ」
俺はすぐに肩を貸す。
「次の補給、急がねえと――」
「……あなたの負荷が、上昇します」
「今は気にするな」
通信ノードを背に、俺たちは暗闇を抜けた。
敵の“目”は、しばらく閉じたままだ。
だが、きっと――
「……向こう、本気になるな」
「はい。
次は、指揮官が直接動く可能性が高いです」
それを聞いて、俺は苦笑した。
「ようやく、ボス戦か」
2Bは答えない。
だが、俺の腕を支える指先に、わずかに力が入った。