補給が終わった、その瞬間だった。
空気が変わる。
肌に刺さるような圧――索敵網が一斉に収束する感覚だ。
「来るぞ」
俺が言い終える前に、通路の両端が閉じた。
床面からせり上がる拘束フレーム、天井から落ちる非致死ガス。狙いは明確――殺さない。確保だ。
「……補給直後を捕捉。合理的です」
2Bが淡々と評価する。その声が、わずかに遅れて聞こえた。出力は回復途中。全力は出せない。
「分ける!」
俺は一歩、前に出た。
意図的に。
敵が欲しい“補給源”を、わざわざ差し出す。
即座に反応が来る。
粘着ワイヤが脚に絡み、電撃が走る。視界の端で、2Bがこちらへ踏み出しかけ――
「来るな!」
叫んだ。
今、彼女が無理をすれば、数十秒後に立てなくなる。
敵は手慣れていた。
首、手首、腰――回収用拘束具が同時に噛み合う。まるで測ったみたいに、ぴたりと。
「対象確保」
冷たい声。
――だが、その“規格”を、俺は知っている。
量子ストレージを、ほんの一瞬だけ開く。
取り出したのは、親指ほどの黒いチップ。外見は地味だが、中身は違う。
「……おいおい」
拘束具のロックが、同時に誤作動した。
理由は単純。
中継ノードから抜いた“回収班規格”――その逆鍵だ。
解錠ではない。認証を反転させる。拘束具は「既に回収済み」と誤認し、自己解除に入る。
ワイヤが弛み、フレームが一斉に停止する。
「なっ――」
敵の声が重なった、その瞬間。
風が裂けた。
2Bだ。
迷いはない。非致死、最短、最大効率。剣は抜かない。体術だけで、要点を潰す。
膝。
肘。
頸動脈の圧迫。
連続制圧。
だが、長くは続かない。彼女の歩幅が、目に見えて狭まっている。
「……介入、完了」
短い報告。
声は冷静だが、出力は限界に近い。
「よく来た。撤退だ!」
俺は逆鍵をポケットに戻し、2Bの肩を支える。
その瞬間、背後で第二波の気配。――敵は学習が早い。
だが、もう十分だ。
煙幕。
音響撹乱。
反射材で視界を割る。
通路が、嘘みたいに“広がる”。
「……追撃、鈍化を確認」
「上出来だ」
地下の闇へ、転がり込むように逃げる。
数十メートル。百。
ようやく安全圏に入ったところで、2Bが小さく息を吐いた。
「……エネルギー残量、危険域」
「分かってる」
俺は壁に背を預け、肩の重みを受け止める。
「だが、今日は勝ちだ」
「……評価理由を」
「敵の“確保前提”を壊した。次からは――」
言いかけて、苦笑する。
「――向こうは、補給前に来る」
2Bは一拍置いて、頷いた。
「脅威度、上昇を確認」
静かな声。
だが、その指先が、俺の袖をほんの少しだけ掴んでいた。
盤は、確実に次へ進んだ。