※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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機械 Ⅶ

 補給が終わった、その瞬間だった。

 

 空気が変わる。

 肌に刺さるような圧――索敵網が一斉に収束する感覚だ。

 

「来るぞ」

 

 俺が言い終える前に、通路の両端が閉じた。

 床面からせり上がる拘束フレーム、天井から落ちる非致死ガス。狙いは明確――殺さない。確保だ。

 

「……補給直後を捕捉。合理的です」

 

 2Bが淡々と評価する。その声が、わずかに遅れて聞こえた。出力は回復途中。全力は出せない。

 

「分ける!」

 

 俺は一歩、前に出た。

 意図的に。

 敵が欲しい“補給源”を、わざわざ差し出す。

 

 即座に反応が来る。

 粘着ワイヤが脚に絡み、電撃が走る。視界の端で、2Bがこちらへ踏み出しかけ――

 

「来るな!」

 

 叫んだ。

 今、彼女が無理をすれば、数十秒後に立てなくなる。

 

 敵は手慣れていた。

 首、手首、腰――回収用拘束具が同時に噛み合う。まるで測ったみたいに、ぴたりと。

 

「対象確保」

 

 冷たい声。

 ――だが、その“規格”を、俺は知っている。

 

 量子ストレージを、ほんの一瞬だけ開く。

 取り出したのは、親指ほどの黒いチップ。外見は地味だが、中身は違う。

 

「……おいおい」

 

 拘束具のロックが、同時に誤作動した。

 

 理由は単純。

 中継ノードから抜いた“回収班規格”――その逆鍵だ。

 解錠ではない。認証を反転させる。拘束具は「既に回収済み」と誤認し、自己解除に入る。

 

 ワイヤが弛み、フレームが一斉に停止する。

 

「なっ――」

 

 敵の声が重なった、その瞬間。

 

 風が裂けた。

 

 2Bだ。

 迷いはない。非致死、最短、最大効率。剣は抜かない。体術だけで、要点を潰す。

 

 膝。

 肘。

 頸動脈の圧迫。

 

 連続制圧。

 だが、長くは続かない。彼女の歩幅が、目に見えて狭まっている。

 

「……介入、完了」

 

 短い報告。

 声は冷静だが、出力は限界に近い。

 

「よく来た。撤退だ!」

 

 俺は逆鍵をポケットに戻し、2Bの肩を支える。

 その瞬間、背後で第二波の気配。――敵は学習が早い。

 

 だが、もう十分だ。

 

 煙幕。

 音響撹乱。

 反射材で視界を割る。

 

 通路が、嘘みたいに“広がる”。

 

「……追撃、鈍化を確認」

 

「上出来だ」

 

 地下の闇へ、転がり込むように逃げる。

 数十メートル。百。

 ようやく安全圏に入ったところで、2Bが小さく息を吐いた。

 

「……エネルギー残量、危険域」

 

「分かってる」

 

 俺は壁に背を預け、肩の重みを受け止める。

 

「だが、今日は勝ちだ」

 

「……評価理由を」

 

「敵の“確保前提”を壊した。次からは――」

 

 言いかけて、苦笑する。

 

「――向こうは、補給前に来る」

 

 2Bは一拍置いて、頷いた。

 

「脅威度、上昇を確認」

 

 静かな声。

 だが、その指先が、俺の袖をほんの少しだけ掴んでいた。

 

 盤は、確実に次へ進んだ。

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