※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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機械 Ⅹ

 雨は、いつの間にか止んでいた。

 

 濡れた路面に映る街灯の光が、揺れもせずに伸びている。

 その静けさが、逆に不気味だった。敵が来ない――違う。もう、来ないのだ。

 

 俺は立ち止まり、背後を振り返る。

 追跡の気配はない。さっきまで皮膚に貼りついていた“視線”が、すっぱりと消えている。

 

「……終わったな」

 

 呟くと、胸の奥に溜まっていた息が、ようやく外へ出た。

 2Bは数歩後ろで止まり、壁に軽く手をついている。姿勢は崩れていないが、限界が近いのは一目で分かる。

 

「敵の追撃、停止を確認」

 

 淡々とした報告。

 だが、その声の奥に、ほんのわずかな疲労が滲んでいた。

 

「エネルギー残量は?」

 

情況的にも、これ以上の戦闘でエネルギーは使う事は出来ない。

 

「安全域を下回っています。

 ただし、行動不能ではありません」

 

 ……相変わらずだ。

 “大丈夫”とは言わない。ただ、事実だけを置く。

 

 俺は壁に背を預け、膝に手を置いた。

 頭の中で、盤面をもう一度なぞる。偽命令は通った。包囲は崩れた。証拠は確保した。

 敵は学習し、方針を更新した。――つまり、この局面は終局だ。

 

 勝ったのか、と問われれば違う。

 だが、負けていない。次に繋がる場所まで、ちゃんと辿り着いた。

 

 端末が、静かに震えた。

 短い通信。ノイズの向こうで、あの落ち着いた声が響く。

 

『ここまでだ』

 

 《ヴァルケン》。

 無駄な言葉はない。

 

『君は一度、こちらの手を折った。評価する』

 

 俺は苦笑した。

 

「光栄だな」

 

『だが、次は同じ盤では打たない』

 

「だろうな」

 

『君たちは、今から“戦場の外”に出る』

 

 一瞬、意味を測る。

 

『追跡は停止する。

 理由は二つ。君の証拠が、面倒だからだ』

 

 ――なるほど。

 

『もう一つは、彼女だ』

 

 視線が、2Bに向く気配がした。

 

『今は、壊したくない』

 

 通信が切れる。

 雨上がりの空気が、肺に深く入った。

 

「……撤退を宣言されたな」

 

「合理的判断です」

 

 2Bはそう言って、壁から手を離した。

 一歩、踏み出す。その足取りは、慎重だが確かだ。

 

「これで、一区切りだ」

 

 俺は立ち上がり、彼女の歩幅に合わせる。

 敵は引いた。だが消えたわけじゃない。次に会う時は、もっと準備してくる。

 

 それでも――

 

「主導権は、まだ俺たちにある」

 

「はい。

 次の選択肢を、こちらが決められます」

 

 その言葉に、少しだけ笑ってしまった。

 兵器の口から出るには、あまりに“人間的”だ。

 

 街灯の光を抜け、俺たちは歩き出す。

 戦いは、ここで終わり。

 

「さて、とりあえずは帰ったら、休むか」

 

2Bは、俺の言葉を聞くと無言に頷きながら、ゆっくりと向かう。

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