※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

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実験 Ⅲ

事務所のドアを押し開けた瞬間、派手な音が鳴った。

どこから仕込んだのか分からない安物の電子ファンファーレだ。

 

「さぁて、今日の依頼はどんな難事件かしら?」

 

アリシアが椅子をくるりと回す。

白い脚が軽く揺れて、長い髪が背中で跳ねた。完全に“舞台の中央”って顔だ。

 

「事件ってほどじゃねえ」

俺は袋を机に転がした。「相談だ」

 

「相談?」

眉が上がる。「調達屋が?珍しいじゃない」

 

「依頼が来た」

 

「それは毎度のことよね」

 

間髪入れない返し。

俺は少しだけ息を整える。

 

「……タイムマシン」

 

沈黙。

 

アリシアの肩がわずかに揺れた。

 

「……アローアロー?」

ゆっくり首を傾ける。「今の、あたしに言ってるのよね?」

 

笑ってる。

完全に冗談扱いだ。

 

「俺も最初はそう思った」

椅子を引いて座る。「だが向こうは本気だ」

 

「はぁ……」

大げさなため息。「あんたって、そういう面倒な話を本当に持ってくるわよね。この前の依頼の時もそうだったじゃない」

 

「まぁ調達屋だからな」

 

「言い訳としては百点ね」

机に肘をつき、こちらを覗き込む。「で?ロマンに付き合う気?」

 

袋を指先で弾く。カサ、と乾いた音。

 

「半分は疑ってる」

正直に言う。「だが悪事の匂いはしねえ。純粋な学者って感じだ」

 

その瞬間、アリシアの目が細くなった。

 

「……へぇ?」

わずかに頬を膨らませる。「あんたがそこまで肩入れするなんて、珍しいじゃない」

 

「気に入らねえか?」

 

「べつにぃ?」

視線を逸らし、足を組み替える。「ただ、最近のあんたってちょっと変よ。変な相棒拾ったり、妙に人を見る目が甘くなったり」

 

「心外だな」

 

「ほんとに?」

くす、と笑う。「まぁいいわ。続けて」

 

俺は袋を押した。

 

「材料集めに協力してほしい。回線を誤魔化せる奴が要る」

 

アリシアは天井を仰いだ。

椅子がきぃ、と小さく鳴る。

 

「タイムマシンねぇ……」

指先で空中をなぞる。「大船に乗ったつもりで、いや!あたしがどれだけ無茶な案件を裁いてきたと思ってるのよ」

 

「今回も無茶か?」

 

「当然でしょ」

即答。「時間よ?時間。経済管区が泣くわ」

 

沈黙が落ちる。

 

アリシアはゆっくり椅子を回し、正面に向き直った。

 

「……で?」

顎に指を当てる。「あんたは、どうしたいの」

 

少しだけ言葉を探す。

 

「見てみてえ」

肩をすくめる。「未来が変わるかどうかじゃねえ。あいつが、本気でそこまで行くのか」

 

アリシアの視線が止まった。

 

一拍。

 

「……はぁ」

小さく息を吐く。「ほんっと、面倒な男ね」

 

「褒め言葉か?」

 

「違うわよ」

即答。「でも、嫌いじゃない」

 

椅子を蹴って立ち上がる。

 

「そーね、そうさせてもらうわ」

 

端末が起動する。青い光が壁を走る。

 

「ただし条件付き」

指が滑る。「危険と判断したら即撤退。ロマンに殉じる趣味はないの」

 

「上等だ」

 

「言ったわね?」

振り向きざま、にやりと笑う。「その代わり、あとで“とびきり難しい”調達を頼むから」

 

「怖ぇな、それ」

 

「大船に乗ったつもりでいなさい」

指を鳴らす。「いや、あたしがどれだけ“大根をムラサメで斬る”か、教えてあげるわ!」

 

画面に回線図が広がる。

光が机の上の袋を照らした。

 

「タイムマシン、ねぇ……」

アリシアが小さく笑う。「さぁて、ショータイムかしら」

 

俺は椅子にもたれた。

 

……やれやれ。

また舞台に引きずり込まれたらしい。

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