※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

37 / 46
実験 Ⅳ

事務所のドアが、遠慮なく開いた。

 

「……ここが“事件屋”?」

 

白衣。赤茶の髪。

理屈を抱えた顔が、部屋を見渡す。

 

紅莉栖だ。

 

アリシアは椅子を回しながら笑った。

 

「アローアロー?勝手に入ってくるなんて、あたしの開戦に迷い込んだ誰かさん?」

 

「開戦じゃない、打ち合わせよ」

紅莉栖は即座に返す。「まず環境からして非合理的ね。端末配置が分散しすぎてる」

 

「舞台は広い方が映えるのよ」

アリシアが肩をすくめる。「探偵事務所ってのはね、理論だけじゃ動かないの」

 

俺は机の端にもたれた。

……始まったな。

 

紅莉栖が端末の光を覗き込む。

 

「回線ログ、古いわね。遅延が出る」

 

「演出のためよ」

アリシアが指を鳴らす。「ショータイムって言葉、知らない?」

 

「非効率の言い訳にしか聞こえない」

 

空気が少しだけ冷える。

 

アリシアの口元が上がった。

 

「へぇ……理論で殴るタイプかしら」

 

「事実で話してるだけ」

 

「大船に乗ったつもりで聞きなさいな」

椅子を蹴って立ち上がる。「現場は数式どおりに転がらないのよ、博士さん?」

 

紅莉栖が一歩踏み込む。

 

「逆よ。数式を無視するから事故が起きるの」

 

「事故もドラマの一部よ」

 

「ドラマはいらない」

 

会話の速度が上がる。

言葉の刃が、見えないところで噛み合ってない。

 

俺はため息をついた。

 

「……二人とも」

 

「ゲンマは黙ってて」

「黙ってて」

 

声が揃った。

 

やれやれ。

 

紅莉栖が腕を組む。

 

「タイムマシンは仮説じゃない。条件が揃えば再現可能。問題は材料と回線遮断」

 

「その回線を触るのがあたしってわけね?」

アリシアがにやりと笑う。「舞台裏担当ってこと?」

 

「担当というより、必要条件よ」

 

「ずいぶん上からね」

 

「事実を述べてるだけ」

 

沈黙。

火花は見えないのに、空気が熱い。

 

アリシアが一歩近づく。

 

「さぁて、今日の依頼はどんな難事件かしらって思ってたけど」

紅莉栖を見下ろす。「随分と硬い脚本家が来たわね」

 

「あなたは脚本を無視して演出だけしてる」

 

「観客は演出を見るのよ?」

 

「科学は観客のために存在しない」

 

……完全に噛み合ってない。

 

俺が口を開きかけた、その時。

 

ドアが静かに開いた。

 

足音が一つ。

 

「……了解」

 

低い声。

 

黒い影が部屋に入ってくる。

2Bだ。

 

白いゴーグルが、二人の間をゆっくり移動する。

 

「会話が長い」

短く言った。「目的から逸脱しています」

 

紅莉栖が止まる。

アリシアも、ほんの一瞬だけ目を細めた。

 

「材料の回収予定時刻、三十分後」

2Bが続ける。「今、結論が必要」

 

沈黙。

 

アリシアが先に笑った。

 

「……はぁ。大船に乗ったつもりでいたら、艦長が来ちゃったわね」

 

紅莉栖が小さく息を吐く。

 

「分かった。続きは現場で」

 

俺は肩をすくめた。

 

「やれやれ。ようやく話が進むな」

 

アリシアが指を鳴らす。

 

「ショータイムは、移動してからよ」

 

紅莉栖は無言で端末を閉じた。

 

2Bだけが、最初から決まっていたみたいに出口へ向かう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。