※この作品はR-18です。

ゴエティア・●ックス   作:ボルメテウスさん

7 / 46
調達屋と探偵 Ⅶ

「ちくしょう……こんなの聞いてねぇよ」

 

ネオンの残滓が壁に滲むラブホテルの一室。古びた天蓋付きベッドの上で、アリシアは浅い息を漏らしながら横たわっていた。普段の冷徹な佇まいは影を潜め、白い肌には薄紅の汗が滲んでいる。

 

「媚薬……か。まったく厄介だな」

 

俺は量子ストレージを呼び出し、解毒プログラムを起動する。だがアリシアの体内で作用しているのは未知の化合物だ。分子構造を解析しても既存の薬品ライブラリーとのヒット率は3%以下。まるで“わざと作ったオリジナル”だ。

 

「ごめん……迷惑かけて……」

 

掠れた声が天井に向かって零れる。彼女がこうして謝罪するなど、本来なら明日は嵐かと思うところだが――今はそんな冗談を飛ばす気にもなれない。

 

「気にすんな。お前が悪いわけじゃない」

 

ベッドの縁に腰かけ、彼女の額に手を当てる。熱い。通常の生理反応を超えた発熱だ。俺はそっと手を離し、壁面の旧式インターフェースに指を滑らせた。

 

「待ってろ。何か方法を探してみる」

 

ウィンドウが次々と開く。合成薬物データベース、過去症例アーカイブ、血液成分分析プロトコル――しかし目ぼしい解決策は見当たらない。

 

「ゲンマ……」

 

「大丈夫だ。絶対に……」

 

言いかけた時、不意にアリシアが動いた。白い腕がシーツを掻き分け、俺の袖を掴む。指先が震えている。

 

「お願い……貴方しかいないの」

 

その眼差し。瞳孔は拡がり、潤んでいるが決然としている。

 

「方法はある。ただ……ちょっと」

 

言葉を選ぼうとする彼女を遮る。

 

「教えろ。どんな方法だ」

 

しばし沈黙。だが最終的に彼女は視線を伏せながら続けた。

 

「セックスよ」

 

「・・・すまん、もう一度言ってくれ」

 

「何度も言わせないで」

 

苛立ちがこもる声。だが頬は朱を刷いたように染まっている。

 

「媚薬を排出する唯一の手段は――」

 

言葉の続きを聞き終えた俺はベッドに膝をつき、彼女の身体を覗き込んだ。

 

「他に道はないのか?」

 

「ないわ。これは身体の自己防衛システム。異物を感知して活性化してる……まさに本能ね」

 

冷笑。だが俺には分かる。強がっているだけだ。胸元が浅く上下しているのは媚薬のせいだけではない。羞恥と不安だ。

 

「そんな微妙な顔をしないでよ!私だってねぇ!こんな形でしょっしょっ処女を捧げたくはなかったわよ!」

 

「わかった!もうその話は終わりだ!」

 

慌てて俺はアリシアの口を塞ぐ。しかし彼女の表情は悲しみから嬉しさに変わった。

 

「でもあなたとなら……。良いわ」

 

「あっあぁ……」

 

俺はそれ以上答えずにアリシアをベッドに寝かせた。

 

彼女の潤んだ瞳が月明かりに照らされ、妖艶に輝いていた。

 

「とにかく安静にしろ。薬が抜けるまでどれくらいかかるか計算してみる」

 

「無理よ。成分が特殊すぎて……」

 

声がかすれる。その刹那、アリシアの手が俺の腕を這い上がる。細くて滑らかな指先が肘から二の腕へ、まるで蛇のように絡みつく。

 

「逃げないで」

 

「逃げないさ」

 

俺は静かに息を吐きながら量子ストレージを開いた。治療に使える物質は限られているが――。

 

「……鎮痛剤と冷却剤を試してみる」

 

「いいえ」

 

アリシアが首を振る。

 

「ダメよ。刺激が強すぎる。それに……根本的な解決にならないわ」

 

彼女の白い肌が湯気立つように輝き始めた。シャツのボタンが一つ弾け、深い谷間が露わになる。

 

「ゲンマ。もう分かるでしょ?私が“誰と”結ばれるのがベストか」

 

喉が渇く。唾を飲む音がやけに大きく響いた。

 

「……分かってる」

 

「怖いの?」

 

「怖いさ。けど――」

 

彼女の指が俺の襟元に触れる。ゆっくりとボタンを外していく。

 

「君はもっと怖いはずだ。なのに、なぜこんなリスクを背負える?」

 

「あなたを信じているから。そして……この体が欲しているからよ」

 

胸元まで開かれたシャツ。豊かな双丘が窮屈そうに包まれているのが見えた。息づかいに合わせて震えるそれは、もはや隠しようもない。

 

「ゲンマ……お願い」

 

俺は覚悟を決めた。

 

彼女の手をしっかりと握り返す。体温が高い。脈も速い。

 

「準備はいい?」

 

「聞く必要ないでしょ……?」

 

微笑み。だが泣きそうな顔をしていることに俺は気づいていた。

 

「やめたいときはすぐ言ってくれ」

 

「ふふ……優しいのね」

 

そっと抱き寄せると、香水ではない甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。アリシアの髪が頬をかすめた。

 

「ねえ……もし私が泣いても、責めないでね」

 

「当然だ」

 

胸同士が触れ合う。柔らかくて温かい。そして信じられないほど高鳴っている鼓動を感じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。