※この作品はR-18です。

愛の軌跡(アムーレット):ジブリ・ヒロインズ   作:坂本太郎

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第29章:『君たちはどう生きるか』〜ヒミ〜

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健太の魂に、彼女の真実が流れ込んでくる。彼女はヒミであり、同時に、現実世界では眞人の母となる女性、ヒサコの少女時代の姿。この「下の世界」で奔放に振る舞う彼女の明るさは、やがて訪れる自らの短く儚い運命を、魂のどこかで予感しているが故の、刹那的な輝きだった。

 

「ヒミ。君の火は、とても綺麗だ。でも、少し悲しい色をしているね」

 

健太は熱風をものともせず、炎の結界の中へと歩み寄った。

 

「え……? 何言ってるの、変な人」

 

ヒミはキョトンとした顔を見せたが、健太が近づいてもその炎が彼を焼かないことに気づき、目を丸くした。

 

「君は知っているんだろう? 自分がこの後、どんな運命を辿るのかを。だから、この世界にいる間だけは、誰よりも明るく、激しく燃え尽きようとしている」

 

健太の言葉は、彼女が誰にも見せなかった心の最深部、無意識の領域にある「死への覚悟」に触れた。

 

「……あんた、何者? 私の心の奥まで入ってくるなんて」

 

ヒミの周囲の炎が、威嚇するように強まる。しかし健太は、その炎の中心にある、震える小さな魂を見据えていた。

 

「僕は、君のその熱すぎる情熱を受け止めに来たんだ。未来の悲しみも、現在の輝きも、全てひっくるめて、君という存在を愛するために」

 

健太が手を差し伸べると、ヒミは戸惑いながらも、その手に触れた。瞬間、周囲の荒れ狂う炎が、二人を包み込む柔らかな天蓋のように形を変えた。

 

炎のテントの中、二人は向かい合った。ヒミの瞳は、燃える火のように揺らめきながら、健太を真っ直ぐに見つめている。

 

「ねえ……私、現実の世界に戻ったら、お母さんになるの。そして、火の中で死んじゃうの。知ってるわ」

 

彼女は、まるで他人事のように、しかし深い哀しみを湛えて言った。

 

「でも、今は違う。君は今、ただの『ヒミ』だ。未来のために生きる必要も、過去を悔やむ必要もない。今この瞬間、君が感じている熱情だけが真実だ」

 

健太はヒミを引き寄せ、その燃えるように熱い唇を塞いだ。

 

「んっ……! 熱い……! あんたの愛、すごく熱いよ……!」

 

ヒミは、健太の情熱的な愛撫に、自らの火の力とは違う、身体の芯から湧き上がる熱を感じていた。それは、未来の母としての慈愛ではなく、今を生きる一人の少女としての、純粋な生への渇望だった。

 

「健太……私を、燃やし尽くして! 未来の私が灰になる前に、今ここで、あなたとの愛で真っ白になるくらいに!」

 

彼女の願いに応え、健太は激しく、そして深く彼女を愛した。二人の体が重なり合うたび、周囲の炎は呼応するように輝きを増し、時空を超えた魂の交歓を祝福した。

 

「ああああっ! すごい……! 私の命が、火花みたいに散っていく……! 幸せ……!」

 

絶頂の瞬間、ヒミは未来の運命への恐怖を完全に忘れ、ただ愛される喜びの中で、自らの存在を爆発させた。それは、短い生涯を駆け抜ける彼女が放った、最も美しく、儚い光だった。

 

炎の勢いが収まり、穏やかな暖炉のような温かさが二人を包んでいた。ヒミは健太の胸に顔を埋め、満ち足りた表情で微睡んでいた。

 

「……ありがとう、健太。私、これで思い残すことなく、現実の世界に帰れるわ」

 

彼女の声は、先ほどまでの少女の声ではなく、どこか未来の母、ヒサコを思わせる落ち着きを帯びていた。

 

「君の愛は、時を超えて繋がっていくよ。君が生きた証は、決して消えない」

 

健太が優しく髪を撫でると、ヒミは美しく微笑んだ。

 

「ええ。私の炎は、別の形で受け継がれていく。……さあ、行って。この世界には、まだ救いを求めている魂がいるわ。あの、不器用な『鳥の人』がね」

 

ヒミは立ち上がり、健太の背中を押した。彼女の姿が、揺らめく炎の彼方へと消えていく。

 

「さようなら、ヒミ。君の輝きは忘れない」

 

健太の体が再び光に包まれる。次なる場所は、奇妙な塔の中。そこには、この世界の案内人でありながら、どこか憎めない、嘘と真実の狭間で生きる男が待っていた。

ーーー

 

塔の最上階、崩れかけた石壁の間から、奇妙な静寂が漂っていた。健太が踏み込んだその場所には、古びたガラクタや本が山積みになり、その中央に、大きな嘴(くちばし)を持ったアオサギが止まっていた。

 

「やあやあ、魂の救済者さん。お疲れのご様子で。クックック……」

 

アオサギが嘴を動かさずに喋ったかと思うと、その体の中から、鼻の大きな禿げ頭の男――サギ男がヌッと顔を出した。

 

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