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健太の魂に、彼女の真実が流れ込んでくる。彼女はヒミであり、同時に、現実世界では眞人の母となる女性、ヒサコの少女時代の姿。この「下の世界」で奔放に振る舞う彼女の明るさは、やがて訪れる自らの短く儚い運命を、魂のどこかで予感しているが故の、刹那的な輝きだった。
「ヒミ。君の火は、とても綺麗だ。でも、少し悲しい色をしているね」
健太は熱風をものともせず、炎の結界の中へと歩み寄った。
「え……? 何言ってるの、変な人」
ヒミはキョトンとした顔を見せたが、健太が近づいてもその炎が彼を焼かないことに気づき、目を丸くした。
「君は知っているんだろう? 自分がこの後、どんな運命を辿るのかを。だから、この世界にいる間だけは、誰よりも明るく、激しく燃え尽きようとしている」
健太の言葉は、彼女が誰にも見せなかった心の最深部、無意識の領域にある「死への覚悟」に触れた。
「……あんた、何者? 私の心の奥まで入ってくるなんて」
ヒミの周囲の炎が、威嚇するように強まる。しかし健太は、その炎の中心にある、震える小さな魂を見据えていた。
「僕は、君のその熱すぎる情熱を受け止めに来たんだ。未来の悲しみも、現在の輝きも、全てひっくるめて、君という存在を愛するために」
健太が手を差し伸べると、ヒミは戸惑いながらも、その手に触れた。瞬間、周囲の荒れ狂う炎が、二人を包み込む柔らかな天蓋のように形を変えた。
炎のテントの中、二人は向かい合った。ヒミの瞳は、燃える火のように揺らめきながら、健太を真っ直ぐに見つめている。
「ねえ……私、現実の世界に戻ったら、お母さんになるの。そして、火の中で死んじゃうの。知ってるわ」
彼女は、まるで他人事のように、しかし深い哀しみを湛えて言った。
「でも、今は違う。君は今、ただの『ヒミ』だ。未来のために生きる必要も、過去を悔やむ必要もない。今この瞬間、君が感じている熱情だけが真実だ」
健太はヒミを引き寄せ、その燃えるように熱い唇を塞いだ。
「んっ……! 熱い……! あんたの愛、すごく熱いよ……!」
ヒミは、健太の情熱的な愛撫に、自らの火の力とは違う、身体の芯から湧き上がる熱を感じていた。それは、未来の母としての慈愛ではなく、今を生きる一人の少女としての、純粋な生への渇望だった。
「健太……私を、燃やし尽くして! 未来の私が灰になる前に、今ここで、あなたとの愛で真っ白になるくらいに!」
彼女の願いに応え、健太は激しく、そして深く彼女を愛した。二人の体が重なり合うたび、周囲の炎は呼応するように輝きを増し、時空を超えた魂の交歓を祝福した。
「ああああっ! すごい……! 私の命が、火花みたいに散っていく……! 幸せ……!」
絶頂の瞬間、ヒミは未来の運命への恐怖を完全に忘れ、ただ愛される喜びの中で、自らの存在を爆発させた。それは、短い生涯を駆け抜ける彼女が放った、最も美しく、儚い光だった。
炎の勢いが収まり、穏やかな暖炉のような温かさが二人を包んでいた。ヒミは健太の胸に顔を埋め、満ち足りた表情で微睡んでいた。
「……ありがとう、健太。私、これで思い残すことなく、現実の世界に帰れるわ」
彼女の声は、先ほどまでの少女の声ではなく、どこか未来の母、ヒサコを思わせる落ち着きを帯びていた。
「君の愛は、時を超えて繋がっていくよ。君が生きた証は、決して消えない」
健太が優しく髪を撫でると、ヒミは美しく微笑んだ。
「ええ。私の炎は、別の形で受け継がれていく。……さあ、行って。この世界には、まだ救いを求めている魂がいるわ。あの、不器用な『鳥の人』がね」
ヒミは立ち上がり、健太の背中を押した。彼女の姿が、揺らめく炎の彼方へと消えていく。
「さようなら、ヒミ。君の輝きは忘れない」
健太の体が再び光に包まれる。次なる場所は、奇妙な塔の中。そこには、この世界の案内人でありながら、どこか憎めない、嘘と真実の狭間で生きる男が待っていた。
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塔の最上階、崩れかけた石壁の間から、奇妙な静寂が漂っていた。健太が踏み込んだその場所には、古びたガラクタや本が山積みになり、その中央に、大きな嘴(くちばし)を持ったアオサギが止まっていた。
「やあやあ、魂の救済者さん。お疲れのご様子で。クックック……」
アオサギが嘴を動かさずに喋ったかと思うと、その体の中から、鼻の大きな禿げ頭の男――サギ男がヌッと顔を出した。
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