地下のスーパーに買い出しに行っていた先輩二人がリビングに入ってきた後。
普夫とドロシーが先に
ドロシーが正気に戻り弁解するよりも早く、何故かいつもよりもえっちな命衣流が女子全員に強制装着されて、はうあー、と取り乱し。
その取り乱すドロシーをどうにか落ち着かせて、座布団を和室の押し入れから引っ張り出してリビングのセンターテーブルを四人で囲み、ようやく、といった風情で全員が一息ついた。
「落ち着いたかい?」
「あ、はい」
気遣うジグにドロシーは恥じ入るように顔を赤くしたまま、まだ残っている熱を身体から追い出すように吐息をついた。
「みっともない所を見せてすいませんでした……」
恥じるように俯いたまま返事する彼女にジグは苦笑。 ドロシーを落ち着かせている間にカモミールの葉を淹れたティーポットからティーカップへと中身を注ぐ。
ふわりとカモミールの香りがあたりに広がった。
「とりあえず飲みなよ。落ち着くよ」
「はい……」
カモミールティーの入ったカップを両手で持って、ドロシーは口をつけてゆっくりと飲むのを尻目に、ジグは普夫へと視線を移した。
「で、何があったんだい?」
「あー……」
考えてみれば、リビングに入ったら後輩二人で盛ってえっちしようとしてるのを目撃したとこから何も説明がなかったもんなあ。
そこまで考えて普夫はどうしたもんかと悩む。
まあ、いいか。
「うっかり盛り上がっちゃいまして」
「そうかい」
短く返事をして、呆れた半目になる。
「すけべ」
「ごふっ」
項垂れる。
まあ、それっぽく見せてるだけのポーズで実際に内心ではそこまでダメージを受けているわけでもない。
実際に盛っていたのはドロシーなのだが、こういうのは男が悪いことにしておく方がだいたい上手く行く。
そもそも彼女も本気で咎めているわけでもないだろうし。
「んー……」
テーブルに肘をついてティースプーンでカップの中でくるくると回してカモミールティに砂糖を溶かしながらやり取りを聞いていたリナが口を開いた。
「まあ別にうちらの仲なら気にせんでもええんやない? ウチもジグもモブのシモに躾けられとるんやし。まあ、ドアが一番入れ込んでんのも確かやけど」
「リナ」
ジグからの咎めるような視線。
リナは肩をすくめた。
「今更やん。あと昨日、抜け駆けした裏切りモンが言うことか?」
「こほん」
とぼけるように視線をそらすジグ。
まあ、それはおいといて。
「んで、結局コレ、どないする?」
言って、リナは自分の乳房を包む命衣流の裾を摘んだ。
いかなる生地かは不明だが水着の生地のように伸びて、胸元の谷間が顕になる。
放す。
ぱちん、と一瞬で元に戻って肌を叩くいい音がした。
大会の会場ならとにかく、マンションのリビングでのこの姿はシュール極まりない。
加えて、
……正直、目の毒ではあった。
「普通の命衣流なら本人の意思で解除できるらしいんですけどね。ドロシーちゃん、その辺りどう?」
「うーん……」
目を閉じて、手を組み額に当てるドロシー。
眉を寄せて、集中するようにうーん、うーんとしばらく唸る。
が、やがて組んだ手をほどいて、申し訳なさそうに首を振った。
「無理みたいです。いつものなら外そうって意識すれば外れるんですけど……」
「そっかー……」
「ごめんなさい……」
「ああ、いや。別に責めてるわけじゃないよ」
「で、これ、どうないする?」
状況証拠的に、普夫とドロシーが盛って
まあ、今は原因が何かよりも、今着させられている
まあ、なんだ。一日中このままというのは、凄くというわけでもないが、困る。
「んー、モブ。ちょっと試しに無理矢理脱がしてみぃへん?」
「いや、そういうのはちょっと……」
「なんや。ヤってる時はノリノリで鬼畜なことする割に意気地ないなぁ」
言って、リナが呆れ混じりにケラケラ笑う。
釣られるように普夫も苦笑いした後、少し悩む表情を作った。
つられてジグも少し考える仕草をして、口を開いた。
「オドの一定量溜まることが発動条件のひとつなら、逆に消費すれば解除されないかな?」
ふむ、と普夫は考えて、頷いた。
「とりあえずファイトしてみますか?」
「グッドゲーム、対戦ありがとうございました」
「ありがとうございました」
互いにテーブルファイト用のマットを広げた卓袱台越しに頭を下げる。
頭を上げて、調息する。
礼節や礼儀で気遣う中ではないけれど、まあ食事のいただきますとごちそうさまのようなもので、対人でファイトを終えた時に自然と口に出る仕草のようなものだ。
改めて、札で殺し合った相手を見て声をかける。
「それでドロシーちゃん、具合はどうだい?」
「ううん……」
悩むように首を傾げ、彼女は所在なさげに後ろにもたれた。
その顔は未だに赤く、吐息にも熱が混じっている。
「ファイトをしている間はちょっとずつオドが減ってる気はしましたけど、直ぐに補充されてるみたいです。むしろ
言って、意識はしていないだろう自然な仕草で、上下に分かれた命衣流によって露わになった腹部の
それ自体が愛撫になったのか、時折「んっ……♡」と熱の混じった甘い吐息が漏れる。
『…………』
沈黙。
「あ、あの、皆さんどうしました?」
ドロシーを除く三人は互いに顔を見合わせて、頷き、ジグがさん、はい、と合図する。
『えっろ……』
「はうっ」
口を揃えて言った後、恥ずかしがるドロシーを他所にジグは肩をすくめてこちらに問いかけてきた。
「それで普夫くん、どうする? このままファイトをしてても解決しないんじゃないかな」
「ううん……」
「あと、正直ウチもちょいとカラダが……」
そう言うリナも頬をドロシー程ではないにしろ赤くしており、ジグも内股でむずがるようにこすり合わせていた。
二人共、時折ひくひくと自らの身体を抱きしめて震わせてるあたり、発情しているのはドロシーと同じらしい。
実を言うと、普夫もドロシーにあてられてから、鼠径の中心とそこにぶら下がるものが熱を持っている自覚はある。
普夫はしばらく考えた後、溜息をついて答えた。
「有識者に訊きましょう」
『……そうじゃな。本来は所有者の意思によって顕現する命衣流が勝手に出てきて、装着者の意思で解除できぬのであれば、可能性はいくつかのケースが思い当たるかの』
スピーカーモードの普夫の携帯電話から響く少女の声が、聞き手の普夫達が聞いて情報を飲み込む一拍を置いて、続く。
『にしたって、トラブル多すぎじゃろ。お主、本当に縛り手か? 女難と騒動の精霊に知らん間に憑かれてたとかなかろうな?』
「その可能性が無いのはカド市長もご存知でしょ」
『まあの』「まったく不思議ですねえ」
『そもそも、一応は吾は忙しい身の上なんじゃがのー。そういうのは人刹の小僧にでも聞きゃよかろ』
「初めは師範に相談しようとしたんですけど、出かけてるらしくって連絡つかなかったんですよ。それにあの人携帯持ってませんし」
『それでいち都市の市長に相談を持ってくるのは、お主かセトぐらいのもんじゃろうよ』
上盤市の市長にして聖座一三位。少女の姿をした御年不明の御仁である。
本来は一介の学生にすぎない普夫たちが知り合えるような人物ではないが、バイト先の店長や気雲流の師匠の縁と数ヶ月前にドロシー達に絡む
故にこういった未知の状況で相談することが多いのだがーー
実際のところ、不可思議なカード事件がやたらと頻発する上盤市において、普夫自身が当事者になることは滅多にない。(大きな事件に割と裏で関わったりすることはあるが)
が、当事者の人間関係を辿っていくと、何故かその重なり合うところにぽつんとこいつがいたりする。
そのため、最近はカドの個人的な連絡係になっていることが多く、その縁で普夫の携帯電話の通話履歴の中で彼女の名前が一番多い。
その意味で言えば、普夫が連絡役ではなく直接的な関係者になっている今回の件は珍しいと言えば珍しかった。 閑話休題。
「話を戻しましょう。装着者の意思で解除できないケースというのは」
『いくつかあるがの。可能性が一番高いのは、命衣流の顕現が儀式のいちシーケンスとして発動している場合かのぅ』
「儀式」
『うむ』
「床に魔法陣とえっちなイラストを描いてエロイムエッサイムとか唱えてクリーチャーを喚んだり、祭壇に御神体の美少女フィギュアをお供えしてその周りで力士たちがぶつかり稽古を奉納して雨天を祈願したりするようなやつですか?」
『どこの邪教じゃそれは!?』
「冗談ですよ」
『年長者をからかうな、まったく……』
——そもそも、現代においてLifeは
だが、古代においては現代よりもより顕著に国の行く末をも左右する重大な神事であり、
そして命衣流とは闇から身を守る鎧であり、レガシーカードの所持者がカードの力とオド、そして戦意によって無から産み出す護りである。
有史以前より存在すると言われるレガシーカードに選ばれた使い手が、己がオドと戦意をもってその身に産み出して纏う神秘装束、それこそが命衣流。
ゆえにそれを纏う機会は決闘においてのみであり、それゆえに戦装束とも呼ぶべきものである。
『命衣流は
「はあ、つまり?」
『神事と言うたら、決闘以外にも色々あるじゃろ? 鏡開きに精進落とし、どの国でも年末年始は盛況に祝っとるしの。冠婚葬祭、この手のイベントにはどこも事欠かん。広義においては、お主ら学生の始業式や卒業式も含むか』
「んじゃ、大晦日の巫女さんがやたらとキラッキラした巫女服を来てたのも」
『まあ、命衣流の名残かもしれんのぉ。で、ここからが重要なんじゃが、決闘以外の神事において身に纏う装束というものも存在しておっての』
その一つが、巫女が神に供される場において身に纏う衣装、命衣流・秘儀形態である。
この形態はファイターではなく、神に仕える巫女としての側面がより大きい。
かつて話を聞いた有識者によれば、堕悪カードの使い手と戦うためではなく、その力の一端をその身に卸すために神とまぐわうことを目的としていると言われる。
『ま、そのフォームは太古においても入念な準備と巫女の数日間に渡る瞑想によるトランス状態でようやく顕現するものじゃったからの。
「あの、その滅多に無い目にかからないものをうちらは強制的に着せられとるんですが」
遠慮がちに聞くリナ。
普夫は目の前でその抱かれる為の命衣流を身に纏ってしまった三人を目の当たりにして、現実逃避気味にため息をついた。
『まあ、そこのお嬢ちゃんの適正とオドの器がやたらと大きかったんじゃろうな。ここ近年でも指折りなのは吾が保証しよう』
「ドア的にはあんまりうれしくないです……」
こほんと普夫、咳払い。
「解説ありがとうございます。それで、ドロシーちゃん達の命衣流の解除はどうすれば?」
『茂札よ。だいたい想像ついとるじゃろ?』
「……ボードのファイトでオドを徹底的に消費する」
『それができるに越したことはないがの。できる状況か?』
くくく、と笑いを噛み殺したカドの返答。
「……テーブルのファイトでオドを徹底的に消費する」
『吾に電話する前に試したんじゃろ? 理屈で言えば机上のファイトでも解除は出来るじゃろうが、消費量が微々たるもんでまず無理じゃな』
「……もしくは、その秘儀形態とやらの機能通りの行為をする」
『正解じゃ。ま、お主らの仲なら何も問題あるまい』
肩をすくめたような仕草を思わせる声音で応えるカドの言葉に、普夫はぬぅ、と唸って沈黙した。
『なんじゃ。お主らくらいの若造なら一度覚えればサルのようにバコバコ腰を振っとるもんじゃろ?』
「最近の若造はムードとか体裁とかちゃんと整えてから事に及ぶんですよ。あと今の言動、気雲流の師範に似てましたよ」
というか前に言われた記憶がある。
『それはかなり傷付くからやめい』
真剣に嫌そうな反応の後、こほんと彼女からも咳払いする音。
『言っとくがこの問題は先延ばしにできんぞ。顕現した精霊を打ち負かして娘御らの開放を成立させたとはいえ、あくまで
「…………」
精霊契約。
Lifeの考古学において、地中海の一地方における古代において行われた秘儀とされる。
現代においては古代宗教のオカルト儀式の一種と考えられ、サブカルやフィクションのネタで時折名前を見る程度には浸透している用語である。
が、世界の裏側と歴史を知るカドによるとこの儀式、七、八百年前ほど前までは実在し、実際に執り行われていたらしい。
彼女によると当時、巫覡が共鳴力を高めることによって、神もしくは高位の精霊を自らの
ただし、秘儀、依代の素質と入念な準備を整えていたとしても成功するとは限らず、場合によっては降ろした存在を受け止めきれずに依代が死ぬ可能性が高く仮に精霊を降ろすことに成功したとしても、必ずしもその力を自由自在に操れるわけではなく、むしろ精霊に人格を乗っ取られ異形と化すケースが多かったらしい。
同時に異形と化した巫覡をファイターがLifeによるアンティによって鎮め、つき従えたとも。
つまるところ、この秘儀の実態は「巫覡を人柱に見立てて精霊を無理乱暴にヒトの肉体に押し込め、強制的に隷属させる邪法」とカドは評した。
故に日本語の当て字で言うならば、「征隷契約」とした方が正しい、とも。
そして邪法故に当時の
そして、なぜその歴史に消えた契約が普夫とドロシー達の間で結ばれているのかというとーー
事の発端は、数ヶ月前、ドロシーの内在オドが強くなりすぎて、天界龍が
とある事件で発生したイグニッションファイトにおいて、過剰供給されたオドを流し込まれた天界龍が顕現時に暴走。
同行していたドロシーだけでなくジグとリナを取り込み、天界龍を呼び水とした
とはいえ顕現した精霊——人型の少女でドロシーに似ていた——がそのまま消滅するはずもなく、その時にその場にいた普夫が彼女と交渉し、どうにかドロシーたちを解放できないか試みた。
その後、短編が何話かできそうなあれやこれやを経て、ドロシー達を解放することができたのだが、その過程で精霊から提示されたのが先に述べた精霊契約だった。
ドロシーたちを解放することはその精霊の意思ではできず、精霊契約によって彼女の主となって、その際にかけるアンティによってのみ開放できる可能性を提示され、普夫は止むなく受諾。
結果として、精霊とのファイトに勝利して顕現した精霊の主となり、ドロシー達の開放を命じて、どうにか彼女達を助けることができた。
助けることはできたのだが—— これは後でカドに聞いた話なのだが、そもそも顕現した精霊はドロシー達を元に発生した疑似精霊だったらしい。
故に彼女との間で結ばれた精霊契約は普夫とドロシー達の間にも結ばれたままになっていた。
事件後にカドに自分と彼女らの状態を診てもらったのだかーー
『あー、こりゃかなりガッチリと結ばれておるのぅ。下手に外から手を出すと祟るレベルで強固な契約になっておる』
『はあ……。あの、なんとかなりませんか?』
『なんせ大昔の秘儀じゃからの。
『つまりしばらくは現状維持と』
『うむ。一応伝手を使って調べてみるが、年単位はかかる覚悟はしとくれ。すまんがの』
『いえ。お忙しい所をぬって調べてくれるだけでも恐縮ですので』
『そう頭を下げるな。お主のような若造はもっと傲岸でおれ。小僧に気遣われると大人としては立つ瀬がない』
『ははは……』
『ああ、それと調律はしっかりとしておくようにな。今のあの娘御らは半分精霊のようなもんじゃからの。近いうちに補助用の装具を渡す予定じゃが、それだけではちと危うい』
『? 調律というのは何です? 特殊ルールのファイトとか?』
『何を言うとる。古来、神と巫女による調律と言うたら
『!?』
とまあ、そういうわけで彼女達の飼い主になってしまったわけだが。
『今回の件も儀式として成り立った以上、最後まで完遂せねば、以前言うた通り、そこの娘御達の身が危ういぞ』
「……わかりました。ご相談を受けていただき、ありがとうございました」
『うむ、ではの』
通話を切る。
しばらく皆無言となり、沈黙が続く。
そして誰ともなく、溜息が部屋に響いた。
「それでどうするんだい?」
選択の余地はなかった。
契約に至った事件については詳細はちょいちょい考えてるけどめちゃくちゃ長くなりそうなので説明文で端折りました。申し訳ない。
次回からやっとオープニングだー!