暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
契約
「戦う事こそ我が喜び」
方や、無数の武器を周囲に浮かべている胴着を着た緑髪の少女。
方や、徒手空拳で相手を睨みつけているスーツ姿の顔の無い女。
「戦い続ける事こその悦楽」
ビルの屋上。
傍らには倒れ伏した魔法少女が二人。
「さぁ、続けようか」
満身創痍でありながら、尚も戦いを求める狂人。
少女は囁く。もう止めよう、と。
女は応える。もう止まらない、と。
魔法少女であるのならば、もう戦う事は止めるべきだと。
魔法少女であるからこそ、戦うという欲望を捨てられないのだと。
言葉の応酬は続く。だが互いの引いた線が交わる事は無い。
だから、問答はすぐに終わった。
「殺し合いなんて終わり」
「殺す」
両者の距離がジリジリと縮まり、その均衡が破れた。
―――――――
「突然だけどさ、魔法少女になって」
「は?」
クソみたいな仕事を終え、これから晩酌でもするかーって家のドアを開けたらあら不思議、そこは前後左右どこまでも続く白の空間でした。
もしグリッド線とか引かれてたらデバッグルームっぽいかも、いや何なんだこれ。
「一応拒否権あるけど、どうする?」
「は?」
そんな謎空間にいきなり遭遇したのさえ意味不明なのに、目の前には小さな妖精さん。フェアリーとかいう言葉がぴったり合うような、羽の生えてる小さな妖精さん。
そんな彼女?がふよふよ浮きながら凄くだるそうに私に問いかけてきた。ちょっと可愛い。
「は?じゃなくて、どうするかって聞いてんの」
「は?」
「なめてんのかコイツ……」
ちょっと可愛いどころかちょっと怖かった。
というか、いや、いやいやいや。
「あの……」
「何」
「いきなり過ぎて何が何やら……」
もしかして家に辿り着いた瞬間寝オチして夢を見ているんだろうかってくらい唐突。うん、疲れてたしな。
「だっる……あーはいはい、聞きたい事全部どうぞ」
妖精ってのはもっとこうキャピキャピとまでは言わないけど、少なくともそんな風にグレてる感じではないんじゃなかろうか。
「えっと、貴女は……?」
「妖精っぽい何か。はい次」
「えぇぇぇぇ」
ぽいて。ぽいって何。本当は違うのか。
名前とか、種族名とか、個体名っぽいの無いんですか。呼び方に困るんだけど。
「あの、ここは……?」
「説明がだるいからパス。なんか特殊空間」
「だるいって……うぁ、はい、なんかすみません……」
あまりにアレな回答につっこんだらめっちゃ睨まれた、マジで怖いんだけどこの妖精さん。
「えっと、その、魔法少女……?」
「そう、魔法少女。なる?」
「えぇぇ……いやあの、えぇ……?」
「……何が問題なのよ、言ってみ」
何がって、全部というか。なんて事を言ったらまた睨まれてしまう、怖い。
えぇぇ……この夢マジで何なの……?
「魔法少女って、その、どういう……」
「あー? 日曜の朝にミラクルなんちゃらとかプリティなんちゃらとかやってるじゃん。見た事ないのアンタ」
そりゃ見た事くらいあるけど。
「いや私の年齢でそれやったら痛々しいだけじゃないですか……」
「別にあんなフリフリ衣装着ろって訳じゃないから」
「……あ、そうなんです?」
そうすると魔法少女って何だっけ。いや別に衣装だけがそうというわけではないけれど。
「便宜上魔法少女って呼んでるだけで、魔法使いとか能力者とか言った方が分かりやすい?」
「あ、それなら、はい」
考えてた事を見透かしているかのように説明が入った。
でもそうすると魔法少女って呼んでたのはいったい。
「適合者は女なの。その中でもアンタの適合率はだいぶ高め。だからアンタを選んだ、お分かり?」
「は、はぁ……」
納得はした、っていや納得できねー。こちとらアラサー手前だぞ、少女って歳じゃないんだぞ。その便宜上のネーミングやめてくんないですかね?
「アタシとしては別にどっちでもいいんだけどさ、ノルマがあんのよノルマが。だから魔法少女、やんない?」
「ノルマて」
妖精さんの口からノルマっていう言葉が出ると違和感しか無い。どこまで私の妖精像を壊してくるんだこの妖精さん。
「そ、ノルマ。一定数以上の魔法少女を増やさなきゃいけないのよ」
「増や……それは何の為に……?」
「あー、保険?」
保険て。でもこの感じだと聞いてもだるいとか言われそう。
「こっちの要求は魔法少女になる事、そんだけ。どう?」
「どうって……あれですよね? 怪人とか化物とかと戦うとか……」
「そんなもの無いし居ない」
「えぇぇ……」
ますます意味が分からない。何の為に魔法少女になってほしいのか、あぁいや保険のためだっけ? いやだから何の保険ですか。
「別にアンタにデメリットなんて無いし、何がイヤなのよ」
「デメリットが、無い?」
「そ。別に魔法使ったから何か消費するわけでもないし、魔法少女になったからと言って健康寿命その他諸々に影響があるわけでもない。戦う相手がいるわけじゃないから危険もない」
「え、えぇぇ……」
ますます何なのか意味が分からない。
「……あぁ、あったわデメリット」
ほ、ほらきた! デメリットが無い訳ないじゃん!
「魔法少女の力が公になったら監禁研究解剖コースってとこ?」
「い、嫌過ぎる……!」
「でもアンタ、わたしがまほうしょうじょですぅーなんて公言する?」
「し、しないですけど……」
そ、それはデメリット……うーんデメリットと言えばデメリットか。
というかそもそも少女って歳でもないし、そんな痛々しい自白なんて出来る筈もない。
「でしょ? だから有って無いようなデメリットなわけ」
「そう、ですかね……?」
「むしろ魔法少女の力でアンチエイジングとか出来るし美容にも良い」
急に胡散臭くなってきた、健康食品の営業か。ノルマとか言ってるし。
なんなのこの妖精さん。
「あー分かった分かった。嫌ならいつでも辞めていいから」
「え、辞めれるものなんですか」
「辞めれるわよそりゃ」
そりゃそうよ、とさも常識のように非常識な存在から言われましても。
「ただ、辞めたらあたしに会うまでもう一度魔法少女になる事は出来ないけどね。会う事があるかは知んないけど」
「え、一緒に居て色々してくれる感じじゃないんですか⁉︎」
こう、マスコット的な感じで。
「するわけないじゃん。こちとらノルマがあんのよ」
だからそういう世界観ぶっ壊しな事を……。
「だからまー、お試し的な感じで、どうよ?」
「え、えぇぇ……」
そんな今ならもう一本付けます的な事言われても。
「……魔法少女になった場合、私はどんな事が出来るんですか?」
「お、その気になった?」
「いやそういう訳では……」
「なんなのよ面倒くさい!」
ついにキレ始めた。妖精って何だっけ。
「あーもう! あんたの適性? はいはいちょっとそこに立ってなさい」
いやこの空間に囚われてからずっと立ちっぱなしなんですが、とか言わない。そろそろ学習しました。
「……空間把握? いや違う……空間を遮断、形成……」
おぉ、何やらそれっぽい事を言い始めた。厨二心を擽るような感じ、わりと好き。
「あーなるほど、結界か。あんたの適性、結界生成だわ」
「結界……」
「そ、結界。聞いた事ない?」
そりゃサブカルチャー大国、日本に生まれたからには慣れ親しんでいる言葉。なんとなくイメージはつく。
「あんたのキャパは割と大きめだから、まぁ考えつく限りの結界張れるんじゃない?」
「え、何でも?」
「知んないわよ、使うのはアンタだし」
だからそういう途中でぶん投げるの……!
「暮らしの役に立つといえばー遮音結界とか?」
「遮音……はっ! お隣さんの騒音を遮断するとか!」
……良いじゃん。
「そーそーそんな感じ。あとは虫を結界に閉じ込めてプチってしたり?」
「あのゴキヤロウをプチっとしたり……!」
良いじゃん良いじゃん。
「誰にも見つかりたくない時に気配遮断結界使ったり?」
「エログッズを買いに行く時……!」
「いやそれは知らんけど……引くわ……」
要らん事まで喋ってしまった。
「ま、まぁそんな感じで日々の生活に潤いをって感じ?」
「ご、ごくり……」
どうしよう、ちょっと魅力的に感じてきた。
「いつでも辞める事は出来る、デメリットもほぼ無い。マジで嘘とかついてないから、面倒だし。……あ、でも一つ言ってなかったわ」
「な、なんですか⁉︎」
「結婚相手見つけてちゃんと子供作りなさいよ」
「ぐふぅっ⁉︎」
お、親に孫はまだかと言われるのはいざ知らず、まさかの妖精さんからも言われてしまうとは……!
「子供にもその異能を引き継がせて、子々孫々伝えていきなさい。こっちの要求はそれだけ」
「……そもそも彼氏すら、出来ないんですけど」
「あー……」
そんな可哀想なものを見る目で……!
「ま、まぁそれは出来たらって事だから。重要なのは魔法少女になってくれる事だから、ね? ね?」
なんか急にトーンが優しくなった。
「魔法少女を増やしたいってだけだから、なんか、うん、ごめんね?」
居た堪れなくなるから謝らないでほしい。やだもう死にたい……。
「あー……魔法少女、なる気、失せちゃった?」
「……辞めたい時」
「な、なに?」
「辞めたい時、どうすれば良いんですか?」
多少八つ当たり気味に妖精さんを見上げるとビクってなった。……初めて優位に立てた気がする。いやこんなので優位に立ってどうするんだ。逆に悲しい。
「あー、あーそれね。魔法少女になったら魔力の結晶体……クリスタル的なものを渡すんだけど、それを自分のチカラで破壊すればいいのよ」
「……そんな簡単に壊せるんですか?」
そんな簡単に壊れるんだったら、それはそれで問題がある気がする。
「あーそんな簡単じゃないわよ。腕力とかでは絶対に壊れないし、アンタの場合は全身全霊の結界張ってー……例えばそれを圧縮したりして、それでようやく壊せるってレベルよ」
「……イメージしづらいですけど、なるほど」
とりあえず割れ物壊れ物ってわけじゃない、と。
「ま、ちょっとやそっとじゃ壊れないし、相応に苦労すれば壊す事が出来て晴れて魔法少女卒業出来るって寸法よ。アンタ自身のチカラじゃないと破壊できない仕様だしね」
「……とすると、他の魔法少女からクリスタルを狙われても平気って事ですか?」
妖精さんのノルマ?からして他にも魔法少女っていっぱい居るんだろうし。
「狙われる……って事あんのかしら。まぁ狙われたところで自分以外の力では壊せない仕様だし。……あぁなるほど、洗脳とかされて自壊させられるとか考えてるわけ? アンタ変な事考えるわね」
いやだって、細部は違えどそういう展開をアニメとか漫画とかでそこそこ見るわけだし。
「そもそも、そんなイレギュラーが発生するような能力の魔法少女はいないし勧誘もしてないわよ。精神系?の能力なんて要らないし、物理よ物理。チカラこそパワーなのよ」
妖精さんが空中でシャドーボクシングしてる、ちょっと可愛い。でも言ってる事が頭おかしい、物理て。
……しかし困った。断る理由があんまり無い。
だって、いつでも辞めれて、特殊能力が得られて、美容にも良い。最後のはよく分からないけど、まぁ、厨二病を乗り越えた身としては、そこそこ魅力的な話に聞こえる。
もちろん嘘でなければ、だけど。
……だけど妖精さんの話を聞いてると、正直どっちでもいいとか、そもそも嘘をつくことすら面倒、って感じがヒシヒシと伝わるから、まぁ、たぶん本当の事しか言ってないんだと思う。
「で、どうすんの?」
「……なります」
という訳で、今日から私は魔法少女になるようです。
……アラサー手前で少女て。