暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
夜の空を駆ける。
誰もいない、私だけの夜。
いつもは楽しいだけの秘密の散歩だけれど、今日はちょっとした考え事をしていた。
『お姉様、次はいつ私を使っていただけますか?』
違うそれじゃない。
いや晶ちゃんの指遣いはマジでヤバかった。ヤバ過ぎた。
あれから事ある毎に使ってくださいって迫ってくるけど、のらりくらりと躱して敗北えっちを刻み込んであげたりしてた。だってあの指マジでヤベーもん。
ちなみにそんな晶ちゃんは大学の飲み会でいない。
……いや、だから思い出すのはそっちじゃなくてさ。
『魔法少女としての名前、決めないんですか?』
名前、名前なぁ。
カオティック・ジルコン、とかの名前、私には思いつかないんだよなー。
魔法少女としての力を振るう時は何故か毎回スーツ姿だからスーツレディとか?無いわ。……社畜としての何かが刻まれているのか、気合入れる時はなんかスーツを着てしまう、ううむ。
まぁだからジルコンちゃんと初めて会った時も、魔法、少女?ですよね?みたいな事言われちゃうんですけどね。うるせーどうせアラサー手前だよこんちくしょう。
そんなしょーもない事を考えながら跳び回っていると、高層ビルの屋上に辿り着いた。
うーん今日も夜景が綺麗。
あれなんだよね。魔法少女の力を使って跳び回るのも好きだけど、こうやって高いところから見下ろす風景ってのも結構好き。
時間が合う時はジルコンちゃんとも一緒に来たりするけれど、一人で眺める景色ってのも、それはそれで。
そんな事を考えつつ、今日も新しい魔法少女見つからないなー、なんて思っていたら、
「あのっ、こんばんは……!」
何かデジャブ。
あれだろうか、魔法少女は背後から話しかけるのがデフォなんだろうか。……でも魔法少女じゃなかったらどうしよう。とりあえず逃げようかな。
「えっと、貴女も魔法少……魔法少女? ですよね?」
あ、良かった魔法少女っぽい。
けど言い淀みおったぞこの娘。まぁ認識阻害して尚且つスーツ姿だから分かんないよねそうだよね。でもちゃんとした魔法少女なんだごめんよ! うひぃ自分で少女とか言うの気持ち悪っ!
「……こんな見た目だけど、そう」
若干の悔しさと痛々しさを隠して肯定しながら振り向くと、そこには赤い少女がいた。
「ごっ、ごめんなさいスーツ姿の魔法少女なんて初めて見かけたので……」
「だろうねぇ」
赤を基調とした装束に、
「あっ! 私、スカーレット・ルビーって言います!」
名前も赤かった。というか何だ、宝石の名前付けんの流行ってんの?
「えと、貴女は……?」
赤に圧倒されていると話題を振られてしまった。じゃないや、名前聞かれてんのか。
「……名前は、明かせない」
明かせないというか、まだ決まってないとか。
でもこういう思わせぶりなムーブ、正義にも悪にも属さない中庸っぽくてカッコよくない? まぁ思いっきり悪側なんですけど。
「あっ、全然大丈夫ですよ! 中にはまだ魔法少女としての名前を決めてない子もいますし!」
バレてーら。
というかなるほど。私にジルコンちゃんにルビーちゃん、この子以外にも最低一人は魔法少女がいるんだな。妖精さんのノルマがどのくらいか分からないけど、全部で何人くらいいるんだろう。いや、とりあえず今はいいか。
「それで? 何の用?」
だからそのぶっきらぼうな言い方ァ! 愛想ない子だと思われちゃうでしょ! 子って歳でもないけど! ええい年齢ネタはもういい!
「あっ、すみません。ビルの間をぴょんぴょん跳ねてるのを見かけて、魔法少女かなーって」
ジルコンちゃんと同じような理由で声かけたのか。まぁそんな非常識な存在は魔法少女しかいないもんね。
「それで、お知らせと勧誘しなきゃなって思いましてっ」
「……お知らせと、勧誘?」
なんだろ。
お知らせの方は分からないけど、アレかな、今度こそ魔法少女同盟組みませんか的な感じかな? おらワクワクしてきたぞ。
「はい。まずはお知らせなんですが……この辺りに魔法少女を襲う悪い魔法少女がいます」
ジルコンちゃんの事かァーッ! 知ってるぅー! 超知ってるぅー!
「その子は魔法少女と敵対するって言ってて、挨拶代わりに危険な魔法をぶつけてくるような怖い子なんです」
他の子にもアレやってたのかよジルコンちゃん……鍛えまくってた私はともかく、他の子は防げたのかな。少なくとも今目の前にいるルビーちゃんは防げたようだけど。あぁでも手加減された攻撃だったし大丈夫か。
……いや、いやいや大丈夫じゃないわ。そもそもいきなり攻撃とかしちゃいけないわ常識的に考えて。ううむ最近思考がバイオレンスになってきている、いかん。
「ジルコンっていう子なんですが……話が逸れてしまってすみません。一つ気になる事があるんですが」
「なっ、何っ⁉」
ジルコンちゃんと自分の悪虐非道っぷりを悩んでいたら話題を変えられてちょっと焦ってしまった、なんぞ。
「どうしてスーツなんですか? コスチュームじゃないと危なくないです……?」
「あー」
まぁ、そうなるよね。スーツ姿のOL魔法少女なんて見た事ないもんね、私も見たことないし。
「……魔法少女を、おおっぴらに出来るような、歳じゃない……」
「あっ……ごっ、ごめんなさい!」
何故謝った。何故謝ったルビーちゃん。お仕置きしちゃうぞこのやろう。
「それに、このスーツは勝負服みたいなものだし、ちょっとした魔法なんて防げる」
「……凄いスーツなんですね!」
そうだぞ凄いスーツなんだぞ。十割が防護結界のおかげだけど。
しかしアレだな。
快活さといい、一生懸命さといい、どうにも
「それで? 勧誘っていうのは?」
「あああ、ごめんなさいそうでした」
ワクワク。
「サークル……というのとはちょっと違いますけど、魔法少女同士で同盟を組みませんか?」
き、きたー! 魔法少女同盟きたー!
「特に何をするわけじゃないんですけど……その悪い魔法少女が悪さを出来ないよう、私達の同盟で対抗しませんか、って事なんですけど……」
……あぁ、なるほど。そう、考えたのか。
いわゆる抑止力。お前がそう来るのなら、自分達はこうして対抗するぞという意思表示。だから悪虐を成すのを止めろという降伏勧告。
「あ、それだけじゃなく、情報交換とか、魔法少女同士で仲良くしようとか、そんな感じなんですけどっ」
実に平和的な考え。
暴力を介さない、実に平和的な解決方法。
魔法少女になりたての頃だったのなら、ただ頷いていただろう勧誘。
だけど、今の私には。
「ごめん無理」
「ぁ……で、ですよね! いきなり何言ってんだって感じですよね……」
消沈したのは一瞬。少し困ったような可愛らしい笑顔を浮かべながら、何ともないように振る舞うルビー。
「違う」
「な、何がです……?」
そうじゃないんだ。
私が無理と言ったのは、そういう事じゃないんだ。
「私が、悪さをする側だから」
「……え?」
浮かべた笑顔が硬直する。
「私は、魔法少女を狩り尽くす」
私は戦いを求めている。
私は闘いを求めている。
「だから、貴様ら魔法少女と同盟など、お断りだ」
だって、そんな事を受け入れてしまったら、本気の争いが、全力で叫び出しそうになるあの高揚感が得られない。
それを得たいから、私はジルコンを殴り飛ばした。
それを得たいから、私はジルコンを犯した。
「な、何でですか……! そんな、魔法少女を狩るとか……!」
信じられないモノを見るかのように、私を糾弾するルビー。
「こんな素敵な力を得たんですから、良い事に使えばいいじゃないですか! なのに何でそんな事……!」
良い子。本当に良い子。
だけど、私は悪い人間なんだ。
「享楽のため」
「っ⁉」
「特に大それた理由なんて無い。私の、享楽のため、魔法少女と敵対する」
本当にただそれだけ。
他の魔法少女には多少なりとも悪いとは思っている。思ってはいるけれど、この願望は捨てられない。
「そんな、そんな理由で……享楽って何ですか!」
「戦う事」
「え……」
「全身全霊を以って、戦う事」
言葉にすれば何と簡単な事か。
だけど平和なこの時代、平和なこの国において、力を以って全身全霊で戦うなんて事、出来やしない。
「そ、それじゃ! 私が相手しますから!」
「……へぇ?」
相手を、してくれるのか。
「組手?って言うんですか? そういうの! 私がしますから! だから魔法少女と敵対するなんて……!」
必死で、こちらを止めようとするルビー。
あぁ、一生懸命で、本当に可愛らしい。思わず謝罪してその提案に乗りたくなる。
「……無理だな」
「無理なんかじゃありません!」
へぇ? 私のこの欲求を否定するんだ?
この私の願望を、なんか、と呼ぶんだ?
「私だって! 相応に鍛えています! そこそこ強いです! だから全力で戦ってもらって、それで満足して、もらえません、か……?」
強いんだ?
私の前で、そんなエサをぶら下げちゃうんだ?
尻窄みにはなっていったけど、そんな事言っちゃうんだ?
「だったら、試してやろうじゃないか」
「……っ!」
そんな事を言われてしまったら、もう止まれない。
「その代わり、約束してください……!」
「……?」
いざ闘志を漲らせようとしたところで、ルビーが何か言い出した。
「満足してくれたら、他の魔法少女を襲わないって!」
「無理だ」
「何でですか!」
何でも何も。私の目的はそれだけなんだから。
「言っただろう。私は全力で戦いたいんだ。お前とも、他の連中とも」
「そんな……」
打ちひしがれたような表情のルビー。
期待に添えなくて申し訳ない。だけど、こちらはもう、壊れてるんだ。己の願望を直視してしまって、もう戻れないんだ。
「それが嫌なら、私を満足させるなんて生ぬるい事を言っていないで、打ち倒してみせろ」
「チカラで、チカラを倒せって言うんですか」
あぁ、本当に君は良い子だな。
「そうだ。話し合いではどうにもならないと分かっただろう? ならば、悪いチカラを振りかざす私を、正義のチカラで滅ぼしてみせろ」
「……っ!」
そうでもしなければ、止まれない。
「私を止められない程度の弱いチカラなんぞ、話にもならんぞ」
そうしなければ、止まらない。
「貴女のような人が……優しいあの人と同じ事を……」
ルビーの打ちひしがれたような呟きが、風に乗って聞こえた。
あぁ本当に、眩しいほどに良い子だ。
だけど、そんなのは関係ない。
「……分かりました。もう、分かりました」
「ほう?」
「貴女を、倒します」
話し合いで解決しようとした君がそう言うのは、私なんかでは到底思いもよらない程に苦渋の決断だっただろう。
だから、本気になってくれて、嬉しいよ。
「約束してください」
「はっ! またか」
鼻で笑い飛ばしたけれど、今度は先程とは異なり、ルビーは強い意思が篭った目でこちらを睨みつけてくる。
「私が勝ったら、クリスタルを自壊させてください」
「良いだろう」
「……ぇ、良い、んですか?」
本気には本気で応えなければ。
「ルビー。私は全身全霊の戦いをしたいと言ったぞ」
「……」
「だから応じる。約束しよう、私が完膚なきまでに敗北したら、クリスタルを自壊させる」
私にとっての背水の決意。本気になってもらうための、必要条件。
そのためならば、この欲求を満たすためならば、魔法少女を辞める事さえ賭ける。
「だが、勝てると思うなよ?」
「……っ! 勝ちますっ!」
「良いだろう、来い」
だから、全力でかかってきなよ、白ちゃん。