暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
「いきますっ! 《スカーレットシュート》!」
宣言と同時、突き出された両手から赤く輝く球が生成され、私に向かって襲いかかってきた。
なら、まずは小手調といこう。
――――防護結界・盾
発射された魔法弾と同数、三つの盾を展開する。
高速で迫り来た赤い魔弾はそこに吸い込まれるようにして、接触と共に炸裂した。
……それと同時、ガラスを撒き散らしたような音が鳴り響く。
「見えない盾……⁉︎ それならっ!」
防いだ。
確かに防いだ。
だが、結界が、破壊された。
成長したジルコンの魔法にも耐えうるこの結界が、壊された。
バカな。
有り得ない。
強度が、魔法の強度が、私のものと同程度だと!?
「《ジャベリン》!」
動揺を隠しきれないこちらに構わず、次弾を装填するルビー。
その手元には先程のとは比較にならない大きさの槍状のものが……!
「っ! 《防護結界・盾・積層》!」
盾を幾重にも正面に展開する。
いけない。なめていた。この正義感溢れるこの子を何処かで軽んじていた!
「いっけえええええええっ!」
赤い槍が大きなフォームと共に射出される。
だが、こんな早々に幕切れなどさせてたまるか!
「止まれ……っ!」
受け止めた結界が次々と貫かれる。
接触した瞬間から結界強度を上げてもなお貫かれる。
「そんなっ……⁉」
だが、十層もの結界を貫く事は出来なかった。八層目で止められたそれは、魔力を使い果たしたのか、小さな粒子となって消えていく。
槍を投げた姿勢のまま、信じられないものを見るように焦燥するルビー。
……一発の弾を防ぐのに一層、槍を防ぐのに八層。
なめている場合ではない。あぁ、こちらが悪かった。侮ったこちらが悪かった。
だから、今度こそ全力でいこう。
「《結界弾》!」
「っ! 《シールド》!」
拳大の結界を十個展開し、即座に射出する。
私の叫び声に反応して、赤い花弁のような盾を展開するルビー。
だが、そっちは囮だ。
「っらぁぁあああああああっ!」
射出に振りかぶりなんて要らない。念じるだけでコイツらは飛んでいく。ならば、本体である私も同時に突撃するのは当然の事。
深紅の盾目掛け、ジルコンとの初戦を彷彿させるように右腕を振り抜いた。
「っ⁉︎」
重い物が砕け散るような音と共に花の盾が消失する。
だが、そこに追撃しようとした目標が、いないっ⁉︎
「こっちです! 《シュート》!」
「っ!」
瞬間、直上からの声。
即座に見上げると同時、赤い魔弾が雨のように降り注いでくる。
この数は、防ぎきれないっ!
「くっ!」
「逃しません! 《シュート》!」
転がるようにしてその場を離れると、破砕音が幾つも鳴り響く。
姿勢を整える間も無く、着地したルビーから私目掛け魔弾が再射出される。
「なめるっ、なぁっ!」
なめていたのはこちらだと言うのにな。
頭の片隅で自嘲しながら、目の前の脅威に対抗する。
――――防護結界・盾・極点
炸裂するのは分かっていた。ならば軌道上に盾を形成し、撃ち落とす。
ガラスが砕け散るような音が夜の屋上に鳴り響く。遮音結界や認識阻害結界を事前に張っておかなければ大変な事になっていただろう。
いや、大変になるのは、これからだ。
「また見えない力……! 速い⁉︎」
「遅いっ!」
炸裂する魔弾を掻い潜り、地を這うような低姿勢のまま突撃する。
このまま一気に、こちらの距離で闘わせてもらう!
「《クイック》!」
だが地面から生えるように放った一撃は空を切った。
一瞬にして視界から消え去るルビー。これは……!
「《シュート》!」
「ぐぁっ!?」
真後ろから魔弾の直撃を喰らい、防護結界越しに肉体が悲鳴をあげる。
瞬間移動だと……!
「このまま一気に!」
「させ、るかァ!」
振り向きざまに自分を中心とした範囲結界を何層も張る。
魔弾一発ごとに一枚ずつ剥がれていくが、時間稼ぎさえ出来ればいい!
――――防護結界・盾・極点
――――結界弾
視界に相手を捉えた瞬間、飛来する魔弾を撃ち落とす結界を展開し、こちらも魔弾を射出する。
「あっがっ⁉︎」
杜撰な狙いでは全弾命中とはいかないものの、運の良かった弾がルビーの肩口に命中し姿勢が崩れる。
さぁ、リテイクだ。
「っ! 《クイック》!」
再度肉薄しようとした瞬間、またあの瞬間移動でルビーが消え去る。
だけど、
「なっ⁉︎」
突撃した勢いをそのまま跳躍の力へと変換し、大きく空へと跳び上がる。
逆さまの世界の中に、ルビーはいた。
後ろを取ると、そこにいると、あぁ分かっていたとも。
「し、《シュート》!」
空中などという逃げ場の無いところに標的が居るんだ、勿論狙い撃ちするだろう。
だが、こちらは結界遣い。
逃げ場が、足場が無いのならば、作ればいい!
「っ!」
空を蹴る。
足元に小規模な結界を生成し、それを足場に跳ね回る。
「そんなっ! 《シュート》!《シュート》っ!」
地に足をつけていた動きとは違う三次元的な軌道にルビーは追いつけない。
もはや魔弾を撃ち落とすまでもない。結界を生成し、そこを蹴り、掴み、弾き、加速し続ける動きで翻弄する。
「どうした! それしか出来ないのか!」
「くっ……!」
迫り来る魔弾を躱す、躱す、躱す。
一発毎に結界一枚を破られるそれも、当たらなければどうという事はない。
このまま一足で……!
「《バレットカーニバル》!」
蹴り出そうとした瞬間、新たな呪文が発動する。
ルビーが大量の魔弾を、いや魔弾の
これは、避ける事が、
「《シュート》!」
楽しそうだな!
突撃しようとしていたベクトルを無理矢理上へ変えて距離を離すと同時、赤い壁が膨れ上がるようにして魔弾が襲い来る。
制御が効かないのか、一発一発は私を狙っていない。いや、飽和攻撃か!
「ははっ、ははははははははは!」
楽しい。一撃で致命傷となるものを避けるのが、私を殺そうとするものと相対するのが楽しい。
防護結界を展開すれば嬲り殺され、極点で撃ち落とそうにも数が多過ぎる。そんなものをこの身一つで凌ぎきるのが楽しい!
無理に避ける体が、肉体強化されていてもなお悲鳴をあげる。
掠める弾幕が、この身を守る一番分厚い結界が揺さぶられて痛覚を刺激する。
それでも尚、避けるという事が楽しくて仕方が無い!
「くっ! はっ! ふふ、ふふふふはは!」
躱し続けても、魔弾の群れは途切れる事は無い。
無いが、目が、この弾幕に慣れてきた。
避け続ける事に、体が最適化されてきた。
「はははははは行くぞルビー!」
だからもう当たらない。
あぁ、楽しい時間はもう終わりだ。
「死ぃねぇぇええええええええっ!」
魔弾の隙間からルビーの姿が見えた瞬間、突撃を敢行する。
掠める魔弾など、無視してしまえばいい。
新たに発生した魔弾など、撃ち落としてしまえばいい。
それでも避けきれない魔弾など、喰らってしまえばいい。
「《クイック》!」
「くそがぁっ!」
打ち下ろした拳がコンクリートを砕く。
遠距離攻撃と瞬間移動、それの遣い手ならば、あぁこれ以上ない戦法だろうとも!
……しかし、これではキリが無い。
あちらは遠距離、こちらは近接。あちらからすれば魔法弾は悉く防がれ、こちらからすれば攻撃は範囲外まで逃れられる。どちらにも決め手が無い。
こちらの魔筋も余力はそんなに残っていない。あちらの限界まで粘るのも一興だが、それでは面白くない。
くそっ、力も、応用力も身につけていない我が身が憎らしい。
「……?」
振り返っても、ルビーからの追撃が来ない。
今までよりも遠く距離を離し、佇んでいる姿が見える。
「……どうした、もう終わりか」
「いいえ」
肩で息をしているが、その目はまだ諦めていなかった。
それでいい。それでこそだ。
「終わりにします」
「はっ! やってみ」
「《バインド》」
やってみろ、そう言い終わる前に、新たな呪文が唱えられた。
「なぁっ⁉︎」
その呪文は言葉の通り、私の体を縛り付けるもの。
四肢に赤い鎖が瞬時に巻き付き、行動の一切が封じ込められる。
力任せに千切ろうとしてもびくともせず、寧ろ可動域がどんどん狭められていく。
くそっ、この期に及んで油断し過ぎだっ!
「《チャージ》」
ルビーがその手を頭上に高々と掲げ、深紅の魔弾が形成された。
「……慢心でしたね」
否、形成されたものが刻一刻と巨大化を始める。
拳大だったものが、脈打つようにしてその大きさを増していく。
「動きを止めた相手を縛り付け、全身全霊の魔弾を放つ。これが私の切り札です」
ルビーが話す間にも魔弾はどんどんと膨れ上がっていく。全身全霊の言葉に嘘はなく、一撃で私を葬るつもりだというのが伝わってくる。
「……くっ、くくくくくく」
「何が、おかしいんですか……!」
あぁ、これが笑わずにいられるものか。
「最後は単純な力比べとはな、と思ってな」
「そんな余裕を……!」
「四肢を封じられようが私は結界で防御する。お前はそれを打ち壊すべくそれを放つ。最後に立っていられた者が勝者という訳か」
あぁ、これが最後になるだろう。
全力で互いの全てを出し切るのも捨てがたいが、こういう力任せな決着も悪くない。
「……おい」
なのに、最後の瞬間を逃さぬようルビーを睨みつけていると、身の丈を悠に越えるほど巨大化していた魔弾が収縮し始めた。
「何のつもりだ」
「違います」
勝負を放棄するつもりか。そんな意味を含めた抗議の声は間断無く否定される。
「貴女を一撃で仕留めるために、
「っ! くはははははははいいぞ! あぁ! 全力で来い!」
ルビーの言う通り、魔弾は小さくなるにつれ、その輝きが増していく。
勝負を投げるのではなく、確実に殺そうという意思。
いいぞ、いいぞいいぞいいぞ! それでこそだ!
「いきますっ! 《オーバーチャージ》! 《シュート》!」
直視するのも厳しいほどの輝きに満ちた魔弾が、放たれた。
――――防護結界・盾・極点
無論、点での防御など意味を為さなかった。
――――防護結界・盾・積層
何十層にも重ねた結界が、紙を破くように貫通される。
――――防護結界・盾・螺旋
円錐状に変形させた結界で魔弾を食い破ろうとするも、逆に削り取られて破壊される。
――――防護結界・盾
今まで張った事のないほどの強度で盾を形成しても、時間稼ぎにしかならない。
「ぐああああああああああああああああっ‼」
魔弾が、着弾した。
この身を守る防護結界はどの結界よりも強度が高い。
それが、食い破られる。食い尽くされる。
「まっだ、だああああああああああああっ‼」
全リソースを防護結界に回す。
遮音結界など張っている場合ではない。
認識阻害などしている場合ではない。
あぁこの身にかけた認識阻害すらも要らない。
全て、全て!
「ああああああああああっ‼」
激痛が全身を覆う。
拘束され、魔弾を受け止め続けているこの身が千切れて消えてしまいそう。
魔弾は更に力を増しているのか、圧力が尚も強まる。
だけど、だから、まだ、まだ足りない!
『……空間把握? いや違う……空間を遮断、形成……』
いつぞやの妖精の言葉が脳裏を掠める。
あぁこれが走馬灯。
……走馬灯?
バカな、もう諦めたというのか。
こんな楽しいひと時を、諦めるなどというツマラナイもので終わらせるのか?
否、断じて否。
私は悪。
私は悪役の魔法少女。
正義と出会ったばかりの悪役が、一話で退場などあってはならない。
正義を討ち滅ぼし、地面に這いつくばらせ、再戦を、復讐を願わせる。
今度は負けない。いつか倒してみせると奮起させる。
そんな悪が、負ける?
そんなもの、認めない。
「《空間遮断》‼」
空間を切り裂き、私と魔弾を、遮断する。
これ以上の侵入を許可しない。
これ以上の正義を、私は認めない。
「ああああああああああ‼」
魔筋が、これ以上ないほどに消耗される。
もはや魔弾を喰らっていた方がまだマシなほどの激痛。
だが、そんなもの、知るものか!
「《遮断結界》っ……!」
思考だけで操作する事はもはや不可能。
言葉にして、世界に叫ぶ事でのギリギリの制御。
唸りをあげる魔弾を、世界から切り離す結界で囲い込む。
「《圧縮》っ……!」
この力が何なのかなど知るものか。
潰す。握り潰す。点になるまで握り潰す。否、点すら残さず握り潰す。この世界に跡形も残さない。微塵も残さず全て握り潰す。
一瞬でも気を抜けば制御が暴走し、魔弾は私を再度喰らい潰すだろう。
だが、私は悪の魔法少女。
そんなハッピーエンド、認めない。
「消、え去れええええええええええええ‼」
幕切れは、呆気ないものだった。
音もなく魔弾は消え去り、満身創痍だった私が残される。
全てを出し切ったルビーは驚愕の表情を浮かべながら、魔法少女の衣装を消失させ、意識を手放した。