暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
北股晶
私は、なんとも扱いの難しい子供だったと思う。
勉強も運動も習い事も、何をやらせても卒なくこなす。
勉強なんて授業を受けているだけでどんな問題でも解けた。運動も周りの子供達に比べて遥かに優れていたし、習い事に行けばこの何年かで一番優秀と口を揃えて言われたものだ。
その一方で、何にも興味を示さなかった。
勉学を極めていれば今頃違ったのかもしれないし、運動や習い事を極めていればオリンピック選手や有名なピアニストにでもなっていたのかもしれない。
だけど、何をしても、何を続けても、熱を持つという事が無かった。
だけど達観していた訳ではない。子供ながらに焦っていた。
なにせ何でも出来るからちやほやされるものの、実は何にも興味が無いなどと澄ました顔で言ってしまったら、周囲の者の評価は反転して気持ち悪がられたりイジメを受けるであろう事は容易に想像できた。
だから、何かしら自分が夢中になれるものを探そうとしてはいたのだ。
人格が破綻していなかったのは本当に幸運としか言えない。まともに育ててくれた両親に感謝である。
そんな両親だが、ゲームを趣味としていた。
なんでもその繋がりで結婚に至ったのだとか。現在ならばいざ知らず、当時のご時世では白い目で見られたのではなかろうか。
私が今ここにいるという事はその苦難を乗り越えたという事なんだろうけど。
話が逸れた。
何か惹かれるものは無いかとあの日も焦っていた。もはや夢中になれるものを探す事に夢中であったのだが、そんな自分探しを趣味としていますなど論外である、暇を持て余した大学生じゃあるまいし。そういうのはモラトリアム真っ盛りに目覚めるべきものだ。まぁ小学校もモラトリアム真っ盛りなのかもしれないが。
また話が逸れた。
あの時は確か、そう、リビングで漫画を読みながらテレビの画面を見ていた。漫画の中では主人公がヒロインに告白していて、まぁ、いつもの如く興味が湧かなかった。とりあえず読んでいるだけで、特に何も思う事は無かった。精々があぁもうすぐエピローグだな、くらい。
そんな中、父親がロールプレイングゲームをしていた。誰もが知っているような超有名タイトル、その最終盤。一番盛り上がるところならば、見てみよう、そんな軽い気持ちだった。
主人公達と相対するのは魔王。悪と定義付けられた故のただの悪役。
そんな彼が主人公達に言ったのだ。
破壊こそが、破滅こそが、滅びこそが喜びであり美しい事なのだと。
私の世界が色付いた瞬間だった。
別に破滅的思想に染まった訳ではない。
誰もが悪と断じる事を、これほどまでに全面的に肯定している悪役なんて初めて見た。
その思想を、凄いと思った。
その思想を、尊いものだと思った。
だから、そんな彼に一目惚れしてしまったのだ。
まぁ、ゲームをしていたら娘がいきなりラスボスを応援し始めた、という状況は少々父に悪かったと思っている。やり辛い事この上無かっただろう。更に、彼が倒された時は泣き喚いた。
なんとも、うん、扱い辛い子供であったと思う。
それからは、悪役、というものに夢中になった。
ゲームしかりアニメしかり、あぁ日曜の朝にやっている女児向けアニメに嵌ったのもこの時だったかもしれない。
両親はほっとしていただろう。なにせ何にも興味を示さなかった娘が毎日楽しそうにあの悪役が、この悪役が、と報告してくるのだ。
夢中になる対象が小学生にしては渋いどころではなかった筈だが、これでようやく年頃の娘らしくなったのだと我ながら安心したものだ。
……まぁ、実際はそうでも無かったのだが。
何せ周りの連中ときたら、やれ主人公がヒロインがなどと、何を言うか悪役こそが一番カッコいいに決まって、
そんな話は一旦置いておこう。
夢中になれるものを見つけた私の世界は、あの日を境に広がった。
悪役、というものだけではなく、勉強や運動もようやく真っ当に取り組むようになって……習い事は趣味の邪魔になるからと辞めてしまったが……真人間のようになれたのだ。
そんな、ちょっとだけ人よりも優れていてちょっとだけ悪役に首ったけな普通の人間であった私は健やかに成長し、華の高校生となっていた。
端折り過ぎだが、その間にあった事など精々がクール毎に更新される悪役達に惚れ込んでいた、くらいだ。
ともかく。次の転機があったのが高校時代。
自分で言うのもなんだが、見目が良かった私は男女問わずモテた。何故かモテるだけだった、イジメ等が無かったのが今でも不思議だ。
普通こういう美少女がいたら、スカしてんじゃないと悪役の子達が水バッシャーンとかしてくるものだと思ってたのに。そんな子達と是非お近付きになりたかったのに。
話が逸れた。
ある日、帰宅部であった私は……趣味以外にかける情熱は未だに薄かった……普通に帰ろうとしていたのだが、忘れ物に気付き教室へ戻る事となった。
そこには今で言う陰キャ、所謂オタクな男子が数名固まって話していた。
……魔法少女……悪役……
悪役。その言葉に私は過敏に反応した。
思わず声をかけたら彼らは尋常じゃなく驚いた。
私と彼らは特に接点は無かった、だから驚いた、のではない。彼ら的に人に、女子に聞かせて良い話ではなかったのである。
が、そんなものは関係ない。
悪役という悪役に興味を示す私を止める事など出来ない。
問い詰めた。
言い渋る彼らを小一時間問い詰めた。
彼らは折れた。
誰にも、特に他の女子には頼むから内緒にしてほしい。というか話すのは諦めたけどマジでドン引きしないでほしい、いやドン引いても良いけど言いふらしたりしないでほしい。というか本当はマジで話したくないんですけど。
などと最後の最後まで引っ張ったものの、なんとか折れてくれた。
それはどんな悪役なのか。
魔法少女を、その、倒す、的な。
その信念は。
魔法少女から、その、エナジー的なのを、奪って、世界征服、とか。
……何故そんなに言葉が濁るのか。
だって、その、あの、だって、ねぇ?
つまり彼らが話していたのはエロゲーの話だったのである。
そりゃ言葉も濁るのである。
正直彼らには悪い事をしたと思っている。女子に、しかも美少女の私にエロゲーの事を告白させられるなど、罰ゲームですらそんな酷い事は……いや、逆にご褒美だったのだろうか。なんか今でも普通に仲良いし連絡も取ってるし。
……思い上がる訳ではないが、そんな彼らは未だに告白等はしてこない。同志、とこっそり呼んでくるだけで、サークルクラッシャー的なお姫様ポジションの筈なのに、そういうイベントは全く無かった。何故だ。
話が逸れた。
いや別に彼らに好かれたいという訳ではないのだが、単に疑問に思っただけで。
自分で言うのもアレだが、見目麗しい外見をしていると思う。それでいて共通する趣味を嬉々として話せる女子。惚れない筈がないと思うのだが。何故だ。
話が逸れ過ぎている。
つまり、彼らが話している内容がエロゲーの事だったのである。
因みにもちろん18禁。それはまぁ、うん、今は置いておこう。何せそれから私もプレイする事になったのだから。
私はエロゲーというものの存在すら知らなかった。
そんな私の知らない世界では、彼らが話していたゲームの中では、悪役が活躍しているのだと言う。
悪役とは、常にやられてしまうものなのではないのか。それが常識で、様式美というものなのではないのか。
そう熱く語ると、彼らにも熱が入り始める。
色々議論したが、その中で今でも忘れられない言葉がある。
こちら側では寧ろ悪役がヒロインを倒してなんぼである。
衝撃だった。
今までの価値観が崩れてしまった。
そんな打ちのめされていた私に、彼らは手を差し伸べた。
このゲーム。貸してあげるからやってみ、と。
今考えれば彼らの行動は常軌を逸していた。
女子高生にエロゲ貸すか?
まぁ借りたのだが。
そうしてプレイし始めた。
めっちゃエロかった。
そしてめっちゃ悪役がマジでめっちゃ悪役だった。だって魔法少女倒して犯すんだもん。
だけどエロだけではなかった。
彼らには彼らなりの信念があり、目的をもって魔法少女と相対している。
年齢制限する事によって枷が外された彼らは、あの手この手で容赦なく魔法少女を追い詰める。
それは、悪だからこそ許される手法。
それは、悪だからこそ取れる手段。
そんな彼らに、私は再度惚れてしまったのである。
これは理論なんかでは説明できない。
魂の共感なのである。
……おかげで敗北したらえっちというのが刷り込まれてしまったのだが、まぁ今となっては逆にそれで良かったと思っている。
それから彼らにもっと魔法少女ものを紹介してもらい、夜な夜な隠れてプレイする日々を送った。
……今思えば何故魔法少女ものだけをプレイしていたのだろうか。不思議だ。まぁ恐らくニチアサの女児向けアニメの影響だと思うけど。
そして大学生になった。
大学に入っても特にやる事は変わらなかった。
勉学に勤しみ、運動もこなし、エロゲにハマる。
……うん。今振り返っても最後のは普通じゃないな。
大学でも友人関係はうまくいってたし、ご近所さんとのお付き合いも良好だった。
特にお隣さん。毎日スーツをきっちり着こなす、おさげ髪のお姉さん。
女の私から見ても美人で、いかにも仕事が出来るオーラを発している彼女は本当に魅力的で、私も将来あのようになりたいと密かに憧れていた。
そんなある日、私の生活は急変した。
「魔法少女、なんない?」
なにせ魔法少女である。
ある日いきなり真っ白い空間に取り込まれ、変な妖精と出会い、魔法少女に勧誘された。
まぁ二つ返事で承諾したのだが。
しかし後から聞いた説明で絶望する事になる。
何せ、敵がいない。悪がいない。だから悪側に寝返って悪堕ち魔法少女にもなれない。
困った。
せっかく魔法少女になったのに、これでは困る。
なので、自分が悪役になる事にした。
悪がいないのであれば、作れば良いのである。
実に素晴らしい案だと思った。
それからはまず、夜の街を飛び回る事にした。
魔法少女というものは、とりあえず夜の空を駆けるものだ。エロゲで学んだ。
その中で、何人かの魔法少女と出会う事が出来た。
無論喧嘩を売った。
我こそは悪の魔法少女、と高々に宣言した。
とても気持ちが良かった。
魔法少女を倒す、それしか無い悪役ではあったものの、自分が悪役になれている事が非常に楽しかった。
でも正直、逃げたり拒否した場合は身の回りに不幸が、などと言ったのは若干後悔している。やり過ぎだし、そもそも魔法少女の自宅を特定なんて出来ないし。
ちょっと痛々しくてあまり思い出したくない。まぁ事ある毎に思いだしてベッドの上を転がり回ったりしたけれど。……という訳で今ベッドの上でジタバタしている。
そんな中、ある魔法少女と出会った。……未だに魔法少女と呼んでいいのか少々、ほんの少しだけ疑問に思わないでもないが。
スーツ姿の魔法少女。
認識阻害をしているのか姿が朧げにしか見えない魔法少女。
いつもの通りに宣戦布告し、いつもの通りに牽制の魔法を放ち、いつもの通りにまずは退散。そして次に会った時には全力で戦う。そしてあわよくば勝とうが負けようが敗北えっちに持ち込む。
そう、思っていた。
だが、彼女は牽制の魔法を突き抜けて私に飛び掛かってきた。
大物が釣れた、そう思った。まぁその直後に地に落とされたのだが。
そこからすぐさま立ち上がり、密かに練習していた魔法を全力で相手に放った。
が、いとも容易く返り討ちにあった。
い、いや私だって頑張ったつもりだった。でもまさか土の盾を拳一つで粉砕されるなんて思ってもみなかったんです。しかも火炎弾は完全に防がれるし氷結弾に至っては全部叩き落とされますし、どれだけの修羅場を潜り抜けたらそんな即応出来るんですか、そう聞きたかった。
後から聞いたらあれが初陣だと言う。膝から崩れ落ちそうになった。
話が逸れた。
私は完膚なきまでに負けた。
悪役になろうと誓っていたのに、それがあっけなく敗れて、何も通じず、全て力で粉砕されて。
恐ろしかった。
スーツ姿の魔法少女が、怖かった。
殺人者もかくやという気迫で迫ってきて、悠々とこちらに歩いてくる。
恐怖を抱かない筈が無かった。
これこそが悪なのだと、そう思った。
無論逃げようとした。
が、回り込まれるまでもなく退路が断たれた。
じりじりと歩み寄ってくるスーツ姿の魔法少女。
今思えば理想的な悪役ムーブだったのだが、当時の私にとっては恐怖でしかない。
だんっ、と頭の横に足を叩きつけられた瞬間など最上級に怖かった。殺されると思った。ちょっぴり漏らしてしまうほどには怖かった。ちょっぴりなのである。ほんの少しなのである。本当である。
私の人生はここで終わる。せっかく悪役になれたのに、ここで死ぬんだ。
なんて諦めかけていたその時、
「……あれ、お隣さん⁉」
何を言われたのか理解出来なかった。
慌てたように認識阻害を解く彼女。
その顔は、とてもよく見知ったもので。
まぁ、彼女の言う通りお隣さんだったのである。
泣いた。超泣いた。
恐怖や驚愕や安心などが混ざった感情に襲われて、頭がぐちゃぐちゃになってしまい、まぁ泣いたのである。
そうして、ポツポツとお隣さんに事情を話し始めた。
……のだが、話す内にだんだんと気付いたのだ。
さっきの彼女のムーブ、完璧に悪役じゃね?と。
これは是非とも敬わなければならない。そう思った。
そして実行した。
お姉様と呼んで、こちらの、悪役側へ誘い込もうとした。
先程の戦闘での狂気とも言える気迫。
それに普段のお姉様を少しは知っているからこそ、戦闘前にも少し話したからこそ分かる。
お姉様は、戦闘という行為にただならぬ熱意を密かに持っている。
ならば後は敗北えっちの道へ引き摺り込むだけである。
……それが拒否されたのなら、まぁそれはそれで仕方ない、と思っていた。
が、釣れた。
あの手この手で肌を、私の、その、大きい胸部を見せる事で興味を引き、触らせ、なんか熱っぽい表情でそれっぽい事を言ったら、釣れた。
しかも予想以上だった。
お姉様はタチの才能があった。才能と言っても良いのかは分からないが。
とにかく、女の子を責めるという事に対してもただならぬ熱意を持っていたのだ。
まぁ本人曰く、そんな自分、どっちも知らなかったとのことだけれども。
お姉様の底に眠っていた熱意を引き出せたのは私にとって僥倖であった。
という訳で、悪役の道に誘った。
承諾いただいた。
そこから、平穏な生活とはかけ離れた生活が始まった。
夜な夜なお姉様と戦闘行為を行い、大抵というか毎回負け続け、そのまま敗北えっちされる。
……悪役の魔法少女が敗北えっちさせられるのはどうなんだろう、と思ったけどこれはこれで、と思った。お姉様が楽しそうで何よりです。私も、その、気持ちよかったですし。
肌を許す、という行為は本当に特別なものなんだと思う。
負けるたびにえっちな事をされて、あんあん言わされて、まぁ……その……そのうちに……何故か……その……お姉様に恋しちゃったのである。
特別なきっかけがあった訳ではない。
気付いたら、心の底から、惚れちゃってたのである。
私はちょろい訳でもないし、惚れっぽい訳でもない。
でも気付いたら、お姉様の事しか考えられなくなってしまってたのである。
……説得力が無い。私がちょろい風にしか聞こえない、何故だ。
ま、まぁ私がちょろいのかどうかはまず置いておいて、その気持ちに自分で気付いてしまってからは大変だった。
お姉様に近付きたい、お姉様に触れたい、お姉様の事を知りたい、お姉様の……。
頭の中がお姉様一色になってしまったのである。
なのでとりあえず夕食を一緒に食べる事から始めた。
ゆくゆくは合鍵を貰って同棲生活なんて、なんて……!
話が逸れた。いや逸れてない。
とにかくお姉様の事が好きで好きでたまらなかった。
そんな中、ちょっと調子に乗ってしまった事件があった。
お姉様をあんあん言わせてしまった。
正直鼻血が出そうだった。可愛すぎかお姉様。
だけどあれからお姉様は私を使ってくれない、悲しい。
けれど、何かが違うと思った。
いやお姉様の性処理は喜んでさせていただきたいと思う。
そう思うのだが、お姉様の事を愛するよりも愛されたいと、思ってしまったのだ。
これではいけないと思った。
お姉様はお姉様だからこそお姉様なのであって、そこに私という異物が……これ以上ないほど入っているとは思うが……入ってはならないと思っていたのだ。
神聖視、していたのかもしれない。
思わず悩んで友達に相談したりもした。
が、女同士というあまりにセンシティブ過ぎる話だったので、話し相手に選んだのは高校時代の友人、オタク達。
曰く、
「同志に春がようやくキターーーー」
「やっと内なる百合の波動に目覚めたか……」
「ユー押し倒しちゃいなよ」
まるで役に立たなかった。
押し倒したいのではなく押し倒されたいのだ私は。いやまぁ敗北えっちで散々押し倒されているのだけれど。
というか彼らの中で私は百合属性を持っていると認識されていたのか。数年越しにようやく色々と合点がいった。
結局、私の中でどうしたいのかイマイチ定まってなかったのもあって、相談はぐだぐだになって終わった。最後の方とかエロゲの話しかしてなかった気がする。
そんな中、お姉様が新しい魔法少女と出会った。
そして敗北えっちしてきたのだと言う。
衝撃が走った。
いや確かに魔法少女を倒して敗北えっちというのは流れ的に合っているし、何より私がそうするよう焚き付けた。
だけど、その、本当にしてくるとは思わなかった。
いや、そうではない。
私以外の女の子に、そういう事をしたのが、どうにも、こう、気に入らなかったのだ。
お姉様を縛るわけでも、縛っているわけでもない。
ましてや特別な関係……いや充分に特別な関係ではあるが……にあったわけでもない。
だから、お姉様を非難するなんて、出来ない。
出来ないのだが、気に入らないものは気に入らない。
思わずその話題になると素っ気なくしてしまうほどには気に入らない。
そして気付いた。ようやく気付いた。いやとっくに自覚はあったのだけれど。
私は、お姉様の特別になりたい。
今までのように只々お約束のように敗北えっちなんてしている場合じゃない。
もっと、もっと特別な、何かを。
ですからお姉様。
覚悟してくださいね。
もう今までの私とは一味違いますよ。