※この作品はR-18です。

暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~   作:ハヤ0313

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甲冑の魔法少女

 

 

 

 あれから晶ちゃんはほんの少しだけ変わった。

 何せ、

 

「今日も頑張って魔法少女を見つけて倒して犯しましょう!」

 

 と初期の頃のように元気よく提案してくるようになった。

 ちょっと前の、私一人で他の魔法少女を探しに行こうならば不機嫌になってた頃とは大違いだ。

 

 あれだろうか。処女を貰った事で……その、うん。

 ……ちゃんと考えないとなぁ、私の方が大人なんだし。

 でも正直、晶ちゃんをお嫁さんに貰うのは有り無しで言ったら有りなんだよなぁ。でもなぁ……晶ちゃんの将来を捨てさせるのもアレなんだよなぁ。けど晶ちゃんに良い人が見つかるって未来がなんとなく想像出来ないというか、なんか、その、晶ちゃんの隣にいる人は……。

 はぁ。

 ……いやうん。私が決断すればそれで良いといえば良いんだけども。お姉さんも色々考えるんですよ。

 

 

 

 という訳で、晶ちゃんが大学の友達付き合いで居ない夜は、考え事をしながら夜の散歩をするに限る。

 うん。この大きく跳躍する時の解放感ったら無い。いや別に現実逃避してる訳ではなく。

 何度も夜の街を跳んでいると、いつの間にか通り道のようなものが出来る。例えばジルコンちゃんと出会った河川敷であったり、ルビーちゃんと出会ったビルの屋上だったり。

 だけど時間帯が合わないのかタイミングが合わないのか、ルビーちゃんにも、他の魔法少女とも出会う事がなかなか出来ない。というか全然会えない。

 あれかな、ルビーちゃんが最初に言ってたお知らせ。あれを他の魔法少女にもしてたと考えると、その影響で出歩く子が減ったんだろうか。いやそもそも何人いるか知らないけれど。

 

 それは困る。実に困る。

 

 だって戦う事も出来ないし、その後の敗北えっちする事も出来ない。……まぁ敗北えっちは出来たら、ってレベルだけど。ルビーちゃんはなんとか言いくるめて敗北えっちに持ち込んだけど、他の子もそう簡単には出来ると思っていない。

 だいたいジルコンちゃんがおかしいんだって、敗北えっちとか。……む、そのおかしい思想に基づいて敗北えっちした私も大概なのか、まぁそうなりますよね。

 

 いやだってさ、女の子の快楽に蕩けてる表情ってさ、可愛いんだよ。それが自分の手で蕩けさせてるなんて尚更たまらんわけですよ。ってあーあーあーあー。いけません、この思想はいけません危険です。

 そんな危険思想を捨てるべく早く他の魔法少女を探し出して殴り飛ばさなければ。ってあーあーあーあー。いけません、この思想もいけません危険です。

 

 ……何というか本当に、この性癖に気付いてしまってから、人の道を外れまくってんなぁ……。

 

 

 

 なんて、ちょっとした自己嫌悪に陥りつつ、定番コースの締め、一際高いビルの屋上に到着。

 ここからなら街を一望できるから、ぴょんぴょん跳び回る魔法少女がいたら目にする事が出来るだろう。飛ぶスタイルだったらちょっと視認するのが難しいかもしれないけれど。

 

 と思っていたのに。

 

「……先客?」

 

 そこには既に人影があった。

 ……あったんだけど。

 

「魔法、少女……?」

 

 私も人の事は何も言えないけれど、疑問符を浮かべてしまうほどにその子の格好は奇妙だった。

 

 なにせ甲冑姿。

 しかも戦国武将的な甲冑。

 

 なんでやねん。魔法少女っつったらルビーちゃんみたいなのが一般的じゃないの。こうフリフリで、装甲が有ったとしてもポイントアーマー的なので抑えるとか。

 それが、暗緑色の全身甲冑。もう世界観とかどうなってんの。

 ……まぁ、私もスーツで魔人とか名乗ってるけれども。

 

 鎧武者の後ろでうんうん唸っていると、その子はゆっくりとこちらに振り向いた。おおう、前から見てもゴツい。

 

「あー。やっと見つけた」

 

 見つけたって何ぞ。

 あー他の魔法少女と出会ったの初めてなのかな。とりあえず挨拶しとこ。

 

「こんばんは」

「はいはいこんばんはー。あんたが魔人ネロ?」

 

 こっちの名前を知っている……って事はルビーちゃんの知り合いの子かな?

 

「……見つけたって言ってたけど、私を探してたって事?」

「そーそー。ルビーの仇、的な?」

 

 ……なんか、デジャブを感じる緩い喋り方。

 いやいやそんなまさか。知り合いの子ばっか魔法少女とかそんな事あるわけ、

 

 

 

「ってか月さんじゃん。何やってんの」

 

 

 

「ナンノコト」

「いや佇まいとか声とかで丸わかりじゃん」

「チガイマス」

 

 否定する私なんかそっちのけで魔法少女は面を取り去った。

 

「舞ちゃんでーす。月さんこばわー」

「えぇぇ……」

 

 そして自ら正体を明かした。髪の色が緑色だけど、どこからどう見ても舞ちゃんだった。えぇぇ出会う魔法少女が全員知り合いとかそんな事あるぅ?

 

「ほらほらー月さんもその顔見えなくなるのやめてー」

「い、いやぁそう言われても……」

 

 の、ノリに着いていけない……!

 

「やめないと白にバラしちゃうぞー」

「はいこんばんは舞ちゃんっ!」

 

 認識阻害を解除して全力でノリに着いていった。

 

「やほー。てか月さん魔法少女やってんなら言ってくれれば……少女……?」

 

 そのネタはもういい!

 

「……声はともかく、佇まいで普通分かるもんなの?」

「うち普通じゃないんでー」

 

 話を逸らすために振った話題だったけど、そうだったこの子普通じゃなかった。免許皆伝最速タイトルホルダーだった。

 

「というかさ、月さん」

「うん?」

「何やってんの……」

「え、魔法、少女?」

「いやそっちじゃなく」

 

 そっちじゃないって…………あ。

 

「白倒すまでは良いとして、エロい事したんだって?」

 

 はい、そうですね。はい、その通りです。

 

「何やってんのマジで……」

「はい……そうですね……」

「未成年だよ?」

「はい……仰る通りです……」

「敗北えっちがどうとか?」

「はい……はい……」

「引くわー」

「はい……そっすね……」

 

 後ろめたいとは思っているから肯定する事しか出来ない。

 というか知り合いにバレたってのもそうだけど、知り合いから突き付けられると尚更効くね!

 

「まぁそれは冗談としてー」

「冗談に聞こえなかったんですけど……」

 

 ケラケラと笑う舞ちゃん。絶対冗談の割合は低めだったと思う。

 

「いやほんとほんと。敗北したら相手の虜囚となるなんてありきたりじゃん?」

「……言うほどありきたりかなぁ」

「殺されないだけマシっしょ」

 

 そういう、もん?

 あーでも白ちゃんもなんだかんだ敗北えっち受け入れてたしなぁ。最近の若い子の感性は、いやだから私もまだ若いから!

 

「という訳でさ、月さん」

「な、なんでしょう」

「死んで?」

 

 舞ちゃんの姿がブレたかと思った瞬間、今まさに振り抜かれんとした刀が迫り、

 

 ――――空間遮断

 

 絶対防御を盾に、その場を飛び退る。

 ……感知結界を張っていたというのに初動が一切感知出来なかった。何だあの歩法は。

 

「おー、これ防ぐんだ」

「……いきなりじゃないか」

「お? そっちがネロ?」

 

 そっちも何も。私がネロで、ネロが私だ。

 不意打ちが失敗したにも関わらず、刀をだらりと下げこちらを余裕の表情で睥睨する舞。

 

「何の真似だ」

 

 戦う事に異論は無いが、不意打ちが気に入らない。

 

「いやさー。こんなちゃらんぽらんなうちでもさー。白の親友なんだよねー」

「……知っている」

 

 知り合って僅かな期間しか無いけれど、本当に仲が良くて、親友だというのも頷ける。

 あぁ、復讐か。

 

「なんだけど、うちさー。白の事好きなんだよね」

「……それがどうした」

「いや、一人の女として好きなんよね」

「え、マジで?」

 

 思わず素に戻っちゃった。なにその衝撃の事実。

 親友同士だけれど実は片方はそれ以上の感情を抱いていてけれどそれを告げてしまったらこの関係が崩れ去ってしまうかもしれない的なサムシングって事ですか舞ちゃん!

 

「いや、いやいやいや、マジで?」

「マジでマジでー」

 

 そう言って、いつもの悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべる舞ちゃん。

 

「だからさー、白とえっちしちゃった月さんが割と許せないんだよねー」

 

 あっ、これダメだ、大人しく殺されよう。

 

「っていうのは建前でー」

「えぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 なんなの舞ちゃん!

 

「いやま、そこら辺の割り切りは得意なんでそこは本当に建前なんすよ」

「い、いや、だけど……」

「ホントホント、いやマジでー。でも出来る事ならその場にうちも混ぜてほしかった」

 

 混ぜてって。えぇぇ、そんな簡単に割り切れるぅ?

 ……だけど、まぁ、普通じゃないこの子にとっては本当に些細な問題だったのかもしれない。

 

 何せ、これから話す事こそが重要なのだと、そんな空気を感じる。

 

「月さん……ネロとは気が合いそうって思ったんよ」

「……私と?」

「人を斬りたいんよね、うち」

 

 一瞬、言葉が詰まった。だけど同時に納得する。

 力を振るいたい、確かにその一点においては私達は確かに気が合うだろう。

 あまりにも歪んだ思想、あまりにも歪んだ共感に思わず口角が上がってしまう。

 

「けどさ、刀でヒト斬ったら死んじゃうじゃないですか」

「まぁ、そうね」

「けどこの魔力で作った刀なら、思う存分にヒトを、魔法少女を斬れる」

 

 非殺傷だから、殺す事はなく、存分に斬れる。

 あぁ、この子も終わっている。

 

「という訳でさ、ネロさん。やりあおうよ」

 

 この上なく強敵。

 この上なく難敵。

 だからこそ、滾る。

 私も全力で戦える。

 私も全身全霊で戦いたい。

 

「うちはヒスイ、斬殺のヒスイ」

 

 恐ろしい二つ名。

 だけど、どうしようもなく高揚する。

 今までで一番楽しく戦えるという予感がする。

 

「魔人ネロ。さぁ、殺し合おうよ」

 

 

 

 

 

 ヒスイが構えを取る。

 刀を縦に、鍔を頭の横に持ってくる八相の構え。相手を初手にて一刀両断する最強の構え。

 

 コイツに対し油断などしない。

 だが、避ける、防ぐ、なんて興醒めな事をしたくはない。

 

「……へぇ」

 

 ――――防護結界・拳・積層

 

 三十もの障壁で拳を覆う。

 不可視で何をしているのか分からないだろうに、ヒスイはその眼光を鋭くした。

 

「いきます、よっ!」

 

 不意打ちを受けた時のようにヒスイの姿がブレる。

 だが、それはもう見た。

 

「ちぇすとー!」

 

 軽い口振り。

 だがそんな軽いものとは比較にならない速度で刀が迫る。

 

「らあぁああああああっ!」

 

 だから、それを迎撃する!

 振り下ろされる刀に合わせ、打ち上げるようにして拳を叩き込む。

 

「っ⁉」

「っ!」

 

 結果は引き分け。

 ヒスイの一撃は積層結界を全て突き破り、私の一撃は刀を砕く事が叶わなかった。

 だが、ここで終わる筈がない!

 

「あああっ!」

「くっ」

 

 打ち出した拳と逆の拳をヒスイ目掛けて放つ。

 しかしそれは難なく見切られ、距離を取られる。

 

「二の太刀要らずって技なんだけ」

 

 ――――結界弾

 

「どっ⁉ とりゃっ!」

「斬った、だと……⁉」

 

 バックステップに合わせ不可視の弾丸を放つも、それが全て斬り落とされた。

 防ぐ、ではなく、斬り払われた。意味が、道理が理解出来ない。

 斬り払われた事に対して、ではない。見えないものを斬った、という事実に戦慄する。

 

「へー、面白い事してくんね」

 

 こちらの驚愕などお構いなしに、余裕綽々の表情でこちらを評価してくるヒスイ。

 あぁ、煽るのもお上手なようで。

 

「《結界弾》!」

 

 ならば、弾と一緒に突撃したら、どうかなっ!

 

「っ!」

 

 先行した弾がまた斬り落とされる。が、そのまま体勢が崩れたところに拳を叩き込む。

 

「ははっ!」

「くっ!」

 

 だが、いつの間にか正面に戻ってきている刀にそれが防がれた。

 何度も何度も拳を叩きつけても、その度に打ち払われる。

 

「いいよいいよネロ! 殺そうって重みを感じる!」

「余裕をっ!」

 

 ――――防護結界・拳・螺旋

 

「舐めるなぁっ!」

 

 涼しい顔をしたヒスイに対し、ドリルのように固めた結界を展開する。

 はっとしても、もう遅い!

 

「っ⁉」

 

 迎撃の為に構えられたその刀を、螺旋で貫き通し、完膚無きまでに破壊する。

 

 だがしかし、再度距離を取られてしまい、追撃が叶わない。

 ……あの姿がブレるような歩法は厄介だな。

 

「やーうん。やるねぇ」

「はっ! 嫌味か!」

 

 こちらの手が届いていない事実。至近距離でしか本領を発揮できないこちらとしては歯噛みするしかない。

 

「いやいや、ホントだって。仮にも素人さんがうちと相対して死んでいないだけでも、ホント大したもんだって」

「……自信家めが」

「事実だかんね」

 

 ……あぁそうだろうとも。

 小さい頃から武術を嗜んでいて、剣術の免許皆伝で、尚且つ本当は人を斬りたかったシリアルキラーならばその自信も頷ける。

 だが、こちらとて負けてはいない。

 少なくとも、この願望だけは、負けていない。

 

「じゃあ二本目、いこうか」

「……魔力で作った剣、だったな」

 

 いつの間にかヒスイの手には新たな刀があった。砕いたところで意味は無いといったところか。

 やはり何としても本体に攻撃を与えなくては。

 

「次はこっちの番だ、よっ!」

「っ!」

 

 ヒスイの体がブレた瞬間には既に間合いに入られていた。

 脇構えにした刀が横薙ぎに襲いかかってくる。

 

 ――――防護結界・盾

 

 結界の生成が間に合っても、一枚限りのそれは容易く紙のように破られる。

 間合いの外に出ようにも、ぴたりとヒスイが離れない。

 

「あは、あはははははははは!」

「くっそが!」

 

 盾を張り、後ろに退き、躱し、盾を張り。

 それでもヒスイの猛攻が止まらない。

 

 ――――防護結界・拳・螺旋

 

 このままでは後が無くなる。なんとしても打開しなくては、

 

「それはもう視たよ」

 

 苦し紛れに放った拳は、いとも簡単に打ち払われ、

 

「腕、もらいまーす」

「がっああああああああああああ‼︎」

 

 そのまま腕を、斬り飛ばされた。

 

 

 

 

 

「がっ……!」

 

 右腕が焼けるように熱い。

 魔力による攻撃は魔力に作用する。現象を伴っていない、物理的ではないそれは肉体になんら影響を与えない。

 故に、魔力で構成された刀の攻撃は、こちらの魔筋を断ち斬った。

 

「ぐ……!」

 

 想像以上の痛みに思わず膝をつく。

 腕が、ある。腕は、くっついている。

 だけどこの痛みは、腕が斬られたと叫んでいる。

 斬られたのは魔筋だけの筈なのに、この肉体が、この腕が斬り落とされたような感覚。

 

 痛い、痛い、痛い。

 

 くっついている筈の腕がもう存在しないのだと主張している。有るのに無くしてしまっているかのような奇妙な喪失感だけがある。

 痛みと虚無感で、狂いそうになる。

 

「あぁ……斬るってこんな感じだったんだぁ……」

 

 目の前には恍惚の表情を浮かべているヒスイ。

 忌々しく見上げるも、こちらには興味を示さず自身の世界に浸っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……気に入らない。

 もう終わったと判断するその驕りが、気に食わない。

 

 元から狂っていたんだ。

 今更尋常ならざる痛みなど、知った事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね」

 

 ――――結界弾・バレットカーニバル

 

 周囲に不可視の弾丸を無数に生成し、ヒスイに向けて全弾発射する。

 

「なっ⁉ ぐっ……くっ! このっ!」

 

 それでも、届かない。

 即座に後退し、どういう理屈か不明だが迫りくるものを的確に打ち払い、避けきられる。

 

「まだだ」

 

 ――――結界弾・バレットカーニバル・ジャベリン

 

 弾丸を全て槍へと変化させ、再度撃ち放つ。

 斬り払おうと試みるヒスイだが、長く大きいコレは軌道を逸らすので精一杯。

 だが、それでも尚届かない。

 どう見切っているのかすら分からないが、それでも届くものが全て逸らされる。

 

「そぉれっ! んっ! 慣れて、きたっ!」

 

 魔筋が悲鳴を上げるが、ただひたすらに槍を撃ち放つ。撃ち放ってはいるのだが、段々とヒスイの動きが最適化されていく。

 が、慢心し過ぎだな。

 

「っ! 上っ⁉」

 

 槍を撃ち始めた際に、上方へも射出していた。それが今、着弾し始める。

 

「これ、はっ! きっつい、なぁっ!」

 

 だがそれでもやはり届かない。

 打ち払い、避け、まるでダンスを踊っているような所作で槍を凌ぎ続けるヒスイ。

 あぁ、お前は凄い。

 

 凄いが、殺す。

 

 ――――結界箱・散

 

「っ⁉」

 

 ヒスイの周囲に、無数の箱状の結界を配置する。

 ただの箱。奴の刀ならば即座に斬れるような脆い箱。

 だが、これだけ周りに散らばっていれば、回避の邪魔になっていれば、避けられまい?

 そうなれば、

 

「ぐぁぁっ⁉」

 

 槍も届くというもの。

 着弾した数本の槍がヒスイを穿つ。

 鎧に守られているとはいえ元は華奢な体。そんなヒスイの体は衝撃により吹き飛ばされた。

 

「……いってて」

 

 痛い、で済むのか。鎧の防護、厄介だな。

 と歯噛みしていたのに、ヒスイが立ち上がると槍を防ぎきったその鎧は音を立てて崩れ落ちた。これで、ようやく本体に手が届く。

 

「あーあ。カッコいい甲冑だったのに」

 

 だというのに、恐ろしい事にまだ余裕が見られる。

 身を守るものが無くなったというのに、まだ戯言を言える。

 

「まぁいいや、こっちのが速く動けるし」

 

 あれ以上に、速く動け

 

「《空間遮断》!」

 

 戦慄出来たのは数瞬の事。これ以上ないほどの悪寒に襲われ絶対の防御を展開する。

 それと同時、目の前には驚愕の表情を浮かべ、刀を振りぬいた姿勢のまま硬直しているヒスイの姿。その手に持っていた筈の刀は、遮断結界と接触した衝撃で粉々に砕けていた。

 あと一瞬遅かったら、この首が斬り落とされていた……!

 

「は? なにそれ」

 

 新たな得物を再生成し、遮断結界に斬りかかるヒスイ。

 だが空間そのものを断絶しているそれには効果は一切無く、二本、三本と刀が砕けていく。

 ジルコンでも実験したが、これは力でどうにかなるものでもないし、能力でも対抗するのは不可能。

 ……しかし、問題が無い筈がない。

 

「しっ……!」

「ぐ……ぁ……っ!」

 

 己に斬れないものがあるという事が気に入らないのか、執拗に挑み続けるヒスイ。

 その行動に意味はないし効果もない。

 だが、これを展開するという事自体が私の負担になる。今この瞬間能力を解除したいと思うほどに消耗が激しい。

 しかもこの間もヒスイの猛攻は続いている。解いた瞬間にナマスにされてしまうだろう。

 

 つまり、詰んでいる。

 

 

 

 

 だから、結界を解いた。

 

「がああああああああああああっ‼」

 

 無論、その瞬間ヒスイの刀はこの身を縦横無尽に切り裂いた。

 生きたまま解体されるような激痛と絶望。

 血飛沫など出る筈もないのに、何かが体から噴出しているような喪失感。

 体の各部位が繋がっている筈なのに神経伝達が途切れたような違和感。

 首も心臓も脳すらも切断されたのに、まだ生きている。

 

「あはぁ……」

 

 長年の願いが叶ったと、歪んだ笑みを浮かべるヒスイ。

 その瞳の中には腰から崩れ落ちるようにしている私の姿が見えて、

 

 

 

「ぐぼぁっ⁉」

 

 そのまま右拳でヒスイの腹を穿った。

 

「がっ! ごっ……!」

 

 ゴム鞠のように飛んでいくヒスイ。

 あぁ、ジルコンの時も似たような事があったな。

 

「ご、ふっ……な、何で⁉」

 

 あの時もこうやって悠々と歩いていたんだったか。

 

「あぁ……正直死にそうな程に痛い」

 

 甲冑という防具を失ったヒスイは私の一撃に耐えられず、まだ倒れている。

 

「あれだけ斬り刻んだのに!」

 

 ふらふらとよろめきながら、刀を支えにようやく立ち上がるヒスイ。

 

「あぁ……斬られたな」

「なら何で!」

 

 あぁ、やった側は分からんだろうな。

 ヒスイの斬撃はあまりにも鮮やかで、切断面が異常に綺麗だ。

 だから、もはや筋肉と同化しているような魔筋が断ち切られても、そこを繋ぎ合わせる事は簡単だった。右腕が一度斬られたからこそ分かった事だが。

 

「何で、だろうな?」

「……ならっ、もう一度刻んであげるっ!」

 

 あと問題になるのはこの痛み。

 歩く事さえ、今この場に存在している事さえ不可能と思うような激痛。無論、我慢して動かすなんて事は出来ない。

 

 だから、我慢しない。

 

「あああああっ!」

「ぐあああああああああっ‼」

 

 今度は、脳天から一直線に切断される。

 魔筋が斬られたと、痛いと絶叫している。否、実際に絶叫した。

 

 が、痛いだけだ。

 

「がああああああっ‼」

「ぐぁあっ!」

 

 痛い。痛い。痛い。

 死ぬ。死ぬ。死ぬ。

 だから、無理。

 

 だが知らん。

 

 痛いなら、痛いまま、無理矢理に動かせばいい。

 体が動く事を拒否するならば、魔筋で無理矢理動かせばいい!

 

「死ぃねえええええええええっ‼」

 

 もはや体の主導権を魔筋に受け渡し、死にも近い激痛が走る中、自らを操り人形にして再度腹を穿ったヒスイ目掛けて疾駆する。

 

「死っ、ぬのは、そっち!」

 

 先ほどとは違い体勢をすぐに整えたヒスイは私を拳の射程まで入れない。

 私と踊るようにして、そのまま自分の間合いで斬り刻んでくる。

 

 だが、もう知っている。

 死の痛みを知っている。

 だから、そんな痛みなど、耐えれる。

 

「がっ! なぁっ⁉」

 

 ――――簡易結界発現

 

 だから、これ以上は許さない。

 ヒスイの周囲を囲うように結界を展開する。

 

 この力を得た初期の頃のような、本当に初歩の初歩のような結界。

 周りを切り裂けば一瞬にして砕け散ってしまうような紙のような結界。

 

 だが、今は、奴の足を一瞬止めれれば、それで良い!

 

「やめっ……!」

 

 ――――防護結界・拳・螺旋

 

「終われええええええええええっ‼」

 

 渾身の一撃が、ヒスイの意識を刈り取った。

 

 

 

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