暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
「いないねぇ……」
「いませんね……」
体調とやる気が復活してきて久しぶりの夜の空。
ビルとビルの間を駆け回り、他の魔法少女を探す。
「この街には他にいないとか……?」
「いえ……初期の頃に他の魔法少女に会いましたので、それは無いかと……」
「むぅ」
そういえばルビーちゃんも他の魔法少女にジルコンちゃんの事を警告して回ってたって言ってたな。
むー、皆引きこもっちゃったのか? えー? 皆外出ようぜー? そしてドンパチエッチッチしようぜー?
「……あれでしょうか、ノリノリでやり過ぎてドン引きされたんでしょうか」
い、一概には否定できない。ジルコンちゃん超ノリノリだったもんなぁ。
「いやでも、魔法少女になる子なんて皆ノリノリだと思うんだけどね」
そう。妖精さんっていう不可思議極まるモノと出会った上で魔法少女になる選択をしたって子達なんだから、大抵の事は大丈夫だと思うんだけど……。
……しっかしアレだな。ジルコンちゃんと話してるとなんというか、居心地良いな。
やっぱりですね? ワタクシですね? ジルコンちゃんをですね? 晶ちゃんの事をですね?
「お姉様?」
「ひゃい⁉」
考え事してる時に声かけるのやめて! いやジルコンちゃんと一緒にいるのに考え事なんて不届な事してたのは自分ですけど! いやむしろジルコンちゃんと一緒だからこその考え事というか! ええい落ち着け私!
「ど、どうしたんですか……いえその、どちら方面に行ってみます?」
「なななな何でもないヨ? ……あー、あのビル行ってみよっか」
不思議なものを見るような目を向けないで! 今ジルコンちゃんから見つめられるとどういう顔すれば良いか分からないからやめて!
という訳で例のビルに着いた我々。
「ここからなら街が大体見えるんだけども……」
そこそこの都会を見下ろすけれど、夜の街が見えるだけで特に変わった様子は無い。
「流石に街中で堂々と魔法少女になる子は居ないと思いますけれど……まぁ、いませんね」
「となるとぴょんぴょん族待ちかー」
「ぴょんぴょん族」
あれですよ。魔法少女になったらとりあえずビルの間を駆け巡る的なヤツ。え、やるよね? 皆やるよね?
……にしても、見つからないとなると、ツマラナイなぁ。
この力を、この暴力を振るっても良い相手がいないと、本当に。
…………いけない。最近本当に暴力的だ。このままじゃ本当にいけない。戻ってこれなくなってしまう。
「それらしき人影も……あ」
真面目に自分自身を見つめ直していると、何か見つけたような反応のジルコンちゃん。
そちらの方に目を向けてみると、
「……あー」
こっちの事が見えているのか分からないけれど、ここ目掛けて跳んでくる二人組。
「どう思う?」
「……遠見の魔法で見てみましたが……あの二人ですね」
なにそれカッコいい。私もやってみたい。
こう……視力強化、じゃないな意味が分からない。だったらこう、結界を、薄く、レンズみたいな……おぉ出来た。
……うん! どう見てもルビーちゃんとヒスイちゃんだね!
「……どする?」
「……とりあえず会ってみる、というのはどうでしょう」
「……そうしよっか」
会ったところで何をするかなんて決めていないけど、とりあえずそうする事にしよう。
ちょっと他の魔法少女について聞いてみたい事もあるし。
なんて相談していたら二つの影はみるみるうちに近付いてきて、私達の目の前に降り立った。
「やほー」
「ネロさん……に、ジルコン……!」
相変わらず緩い感じのヒスイちゃんと……なんか敵意丸出しのルビーちゃん。ホントどんだけ嫌われてんのジルコンちゃん。あの白ちゃんが毛嫌いするって相当だぞ。
「はいこんばんは」
「こんばんは……ルビー、そんなに私を見つめてどうしたんですか? 愛の告白ですか?」
「違いますっ!」
そうやって煽るから嫌われるんだぞジルコンちゃん。
「ですが私には心に決めた人が……」
「違いますってば!」
そ、そういうとこだぞジルコンちゃん。
「えーっと、それで? こっちは魔法少女を探してたんだけど、そっちは?」
「うぅぅぅ……誰かさん達に襲われてる子がいないかパトロールしてたんですぅー」
「うちはその付き添いー」
あ、私の方にはちゃんと対応してくれるんだ。あんだけえっちぃ事したのに謎だなルビーちゃん。ヒスイちゃんは、まぁ、うん、平常運転だな。
「というかその魔法少女なんだけどさ、全然いないんだけどどゆこと?」
「……警告して回ったところ、皆さん夜は出歩かないようにしたらしいです」
「やっぱりか……」
道理で会えない訳だよ……あれ?
「なんでそんな皆引き籠もってるって知ってんの?」
「普通に連絡先交換しましたので……?」
え、マジか。今の子ってそんな気軽に交換しちゃうもんなの? 初対面の見知らぬ怪しい人となんて交換したくないんだけど、え、そういうもん? 連絡先の悪用とか考えないの?
きゃー! 貴女も魔法少女? 交換しよー! みたいな? えぇぇ無理。
「なんなら私の連絡先も渡しましょうか?」
「ジルコンのは要らないです」
そう言ってプイっと顔を背けるルビーちゃん。……あぁなるほど、確かにからかいたくなるわ。可愛い。
「こんな力を得て、よく皆大人しく出来るもんだねぇ」
「……襲われるよりはそっちの方が良いって判断した子がほとんどでした」
な、なんか危機管理意識が低いのか高いのかよく分かんないなぁ。
「ねーねーネロー」
「あによ」
「斬らせて?」
ワクワクしながらカチンカチンと鯉口を鳴らしてくるヒスイちゃん。本当に辻斬りとかしてないよね? 大丈夫だよね?
「ひ、ヒスイちゃん! そういうのはしないって約束でしょ!」
「ネロ相手ならいーでしょー?」
「……ネロさん相手なら、良いです」
「えぇぇ」
「あとジルコン相手ならいくらでも許します」
「あらあら」
そのジルコンちゃん、こないだ斬られて勝利えっちさせられたらしいですよ。
というか私相手なら良いってどういう事だルビーちゃん。えぇまぁ悪の魔法少女だからですよね分かります。
「……あれ? じゃあ良いのかな?」
「よーしバトろーぜー」
「えぇぇ」
今にも刀を抜きそうな雰囲気を醸し出すヒスイちゃん。なんだけどこう、やり合う雰囲気じゃなくね?なんか空気が緩すぎない?
「ふーん」
そんな私の空気を読み取ったのか、ヒスイちゃんが悪巧みするような笑顔を浮かべて、
「じゃあ戦う理由を与えてあげよー。ねー?
――――防護結界・拳・螺旋
爆弾を落とそうとしたヒスイ目掛け放った拳は、いとも容易く避けられてしまった。
「……そういう冗談は、あまり好かんなヒスイ」
ルビーちゃんの、白ちゃんの目の前でのそれは看過できない。あの純粋に
私の正体がバレるという事自体は問題ない。だけど、あの子の夢を、信頼を砕くような真似は、許せない。
「……失望したぞ、ヒスイ」
「それでも大丈夫だから、なんだけどね」
……白ちゃんの親友だからこそ分かる事もあるのだろう。
けれど、私はあの子の前ではカッコいいお姉さんでいたいのだ。そんなしょうもない理由だけれども、失望したと言ったけれど、失望されたくないから、そんなエゴ丸出しだけど、正体をバラす訳にはいかないんだ。
……あぁ、本当に、どこまでも自分本意な考えに吐き気がする。
「ひ、ヒスイちゃん……ネロさん……?」
「気にするな、ヒスイが私を強制的にヤル気にさせただけだ」
吐き捨てるように溜息を吐く。本当に、あぁ本当に、困った子だ。
「それに、さ」
「……何だ?」
「ジルコンさんはともかく、ネロは本当に危険だし」
……へぇ?
「ジルコンさんはまぁ……目的がなんとなく分かる。分かるから別に良いんだけど」
「え、ジルコンの目的って……?」
「そこは今は置いておいて」
そんなジルコンも先程までとは違い、敵意丸出しでヒスイを睨みつけている。
……たぶんこれは、ジルコンも私の事を理解しているからこそ。
「ネロ。あんたは本当に力で力をねじ伏せたい。その想いが強過ぎる。私だからこそそれが分かる」
そう。私は力ある者を見つけたら、それを放っておく事なんて出来ない。とにかく叩き潰さなければ気が済まない。
勿論それは力ある者に限る。だからと言って公権力に立ち向かおうとは思わない。あくまでも超常の力と戦いたい。
「今はまだギリギリ大丈夫だけど、このまま放っといたら本当に害を撒き散らすようになる」
それは、人を斬りたいと思いつつ、自制する心を鍛え上げてきたヒスイだからこそ分かる事。
だってそれは、私にも否定でき、
「貴女にお姉様の何が分かるというのです」
……ジルコンちゃん?
「確かにお姉様は危ういところがあります。ですが、貴女の言うような存在には成り得ません」
……違うんだ。私自身が否定できないんだジルコンちゃん。
「私がいますから」
「へぇ? それで?」
心強い言葉の筈なのに、心の何処かが痛む。
「私がお姉様を満たし続け、私がお姉様を愛し続け」
やめて。
「そして私がお姉様を犯します」
……………………なんて?
「私が勝って、お姉様をぐっちょぐちょに犯します」
なんて?
「……え、それで止まるのネロって」
「敗北えっちされる側の良さに目覚めていただきます」
「ちょま、ジルコンちゃん?」
待って、シリアス返して。
「だいたいお姉様は少し攻めっ気が強過ぎるのです。しかも近頃、魔法少女は倒されて陵辱される側だという事を忘れがちです。ですからここは基本に立ち返って……」
「一旦待とうかジルコンちゃん」
「はい」
なんだ? なんなんだ?
「あー……つまりネロが暴走したらジルコンさんが止めるって?」
「そういう事です」
「……そういう要素、今ありました?」
「……なかった気がするよルビーちゃん」
ルビーちゃんがこっそりツっこんできたのでこっそり返した。ジルコンちゃん的にはあったのかもしれないけど。分からねぇ。
「愛の力で止めます」
「えと、あー、うん、愛、か。愛かぁ……」
「……ネロさん、相手は選んだ方が」
「……う、うっさいな」
ええい愛愛言うな照れるでしょ。あと相手はちゃんと選んでますぅー。
「……まぁいいけど。愛ごときで止められるようなものなの?」
「止めます」
「ジルコンさんじゃ止められないよ」
……そう、かもしれないね。
「私に負けるような力が、ネロに敵う筈無いじゃん」
「私があの時のままだとでも?」
ジルコンは、ネロに、私に勝った事が無い。
だから、ジルコンに私を止められるかなんて、本当に分からない。
「では証明してみせましょう」
「いいね、そう来なくっちゃ……ネロ?」
ジルコンから視線を外し、こちらを目で射抜いてくるヒスイ。
「今日、うちらが勝ったら、クリスタル自壊させて」
「……断ると言ったら?」
「死を願うほど斬り刻んであげるよ」
そう言って刀を抜くヒスイ。
……本気、か。飄々とした空気なんて無く、いつか対面した時とは比べ物にならないほどの気迫を感じる。
「だが、私がいなくなったら斬る相手が居なくなるんじゃないのか?」
「ネロと一緒にしないでよ。うちが辻斬りみたいじゃん」
確かにヒスイと私は全然違う。
「うちは自制が出来る。でもアンタは? 今は大丈夫でもきっといつか抑えきれなくなる」
その通り。
さっきだって、自分でも信じられないような考えを抱きかけていた。
「お互い様だと思うがね」
「うちがどんだけ抑える鍛錬してきたと思ってんの」
苦し紛れに挑発すると、ヒスイは刀を構え、こちらへ突きつけてきた。
「例えジルコンさんでもそれは止められない。だから、今日ここでネロを殺す」
「何を……!」
「愛なんて言ってられる余裕は今だけだって。認めてよジルコンさん」
それは正しい。力の振るいどころが無くなった私がどうなるかなんて、見当もつかない。
きっと、ヒスイの言う通りの存在に成り下がる可能性は充分にある。
「獣はね、狩れる時に狩っとかないとダメなんだよ」
「ヒスイ……!」
「ジルコン」
なおも否定しようとするジルコンを止める。
もう言い合いはここまでで良いだろう。
「そこまで言ったんだ。覚悟しろよヒスイ」
「はっ! そっちがね、ネロ」
「あの……」
一触即発の空気の中、ルビーが控え目に手を挙げる。
「……何だ」
「その、いつかも言いましたが、私達がその、暴力の相手になりますから、それで満足するというのは、無理そうなんですか……?」
初めて遭遇した時の提案。
だけど、返す言葉は一緒。
「無理だろうな」
「……そうですか」
ジルコンと何度もやり合ったから分かる。まだ、まだだ、もっと、足りない。もっと満たされたい。そう思ってしまっている。
ルビーは以前のように食い下がらず、諦めたように構えを取った。
「ジルコン」
「はい」
「私を止めるか?」
「今は、止めません」
それは、いつか止めてくれるという事。
ヒスイの言う通り、ジルコンに止められるかは分からない。だけど、私を限りなく信頼してくれているからこそ、こちらも信じる事が出来る。
あぁ、きっとこの子がいれば、私は大丈夫。まだ大丈夫だと思っていられる。そのいつかを信じていられる。
だから、負けてあげない。
「では、殺し合おうか。ヒスイ、ルビー」
「死ぬのはそっちだけどね。ネロ、ジルコンさん」
ヒスイの構えは八相、こちらを一撃で叩き斬る必死の構え。
私の構えは我流、相手を殴り倒すためだけに作られた構え。
「……倒します」
「……やってみなさい」
ルビーは両手を突き出し、こちらを貫く体勢。
ジルコンは羽を顕在化させ、あちらを射抜く体勢。
風の音だけが響く屋上で、鳥の羽ばたきがどこかで聞こえた。