暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
「死ねえええええええ!」
「しっ……!」
いつぞやの再現。
私とヒスイの距離が即座にゼロとなり、互いの得物を振り切る。
「ああああああああああっ!」
「……!」
だが結果は違うもの。私の拳はヒスイの刀を粉々に打ち砕いた。
だが悦びになど浸らずそのまま勢いで追撃を撃ち放つ!
「《シュート》!」
しかし畳み掛けようとした瞬間、死角から赤い魔力弾が迫る。
同時にヒスイは飛び退き、こちらの射程外へと逃れ、つまりこちらだけが射抜かれ、
「《撃ち落とせ氷柱》!」
そこに上空からの割り込みが入り、魔弾は私に至る事なく消滅した。
「邪魔はしないでいただけますか? ルビー」
「どっちが……!」
ヒスイにルビーがいるように、私にもジルコンがついている。
だから、私は何も考えずにヒスイを打ち倒す事だけ考えればいい。
「ふっ……!」
だがそれは相手も同じ事。
その手に新しい刀を顕現させ、再度迫るヒスイ。
「し、ね……っ!」
「そっちがなぁっ!」
刀と拳がぶつかり合う。
強度を上げたのか今度は刀をへし折る事が出来ない。だかこちらもいつぞやのように紙のようには切り裂かれたりなどしない。
刀と拳が正面から衝突し合い、硬質な音が響き渡り続ける。
ヒスイの斬撃は速い。
だが両手を使えるこちらならば、追いつけない事はない。
「らあああああああああっ!」
力が増したからこそ、ついていける。ついていけている。
袈裟がけに斬ろうとするならば拳でカチ上げ、胴を斬ろうとするならば拳で弾き、結界が斬られたならば新たな結界を生成し、それでもなお間に合わなければ間合いから離れ、再度肉薄する。
「くっ……!」
だが、それでもヒスイの懐に、拳の距離まで入れない。
あの時のように油断をしていない。必ずこちらを仕留めようとする意思を強く感じる。
初撃の時点で奴は油断を捨てた。そんなヒスイに敵うのか? あぁ敵うとも。
「ジルコン!」
「《立ち昇れ火炎》!」
ヒスイの足元から魔法の炎が噴き出す。
だがそれを察知したのか大きく後ろへ跳躍するヒスイ。あぁ、姿勢が崩れたなぁ?
「《シールド》!」
その瞬間を刈り取るように拳を打ち下ろすも、赤い花弁に阻まれる。
あぁそうだな、こちらがそうなんだそうに決まっている不快この上ない!
「邪魔ですね、《吹き荒べ烈風》!」
「っ!《クイック》!」
ついに後衛でも火蓋が切って落とされた。
あぁ、これでようやく……っ⁉︎
「余所見し過ぎだよ……っ!」
「っ!《空間遮断》!」
赤い花弁の影から何かが見えた瞬間、絶対防御の壁を構築する。それは刹那の間に割り込み、ヒスイの斬撃を食い止める。
バラバラになった刀が光と共に集約し、新たな得物がヒスイの手に握られる。
と思った瞬間、姿がブレた。
「それの弱点、もう気付いたんだよね」
「ぎっ……!」
遮断結界が回り込まれ、横から斬撃が飛んできた。必殺の意思を込めていたのか、防護が貫かれ横腹が切り裂かれる。
透明で見えない筈の結界を、こうも容易く見切るとはなんなんだコイツは……!
「お姉様!」
「《バレットカーニバル》!」
「邪魔を……!《舞い踊れ業火》!」
こちらの救援に駆けつけようとするジルコンがルビーによって止められる。
だが、そんなもの要らない。
あぁヒスイ、お前は凄い、意味が分からない。だが私を、
「ぐっああああああああっ!」
「あがっ!」
大きく斬り払った姿勢のヒスイを鎧越しに殴り飛ばす。
だが浅い……!
「これだもんなネロは……!」
「はっ! ゾンビらしいからな!」
脇腹が熱を持ったように痛む。だがそんなものは仮想のもの。この肉体とは関係ない魔筋。ならば痛いのは勘違い。ならば無視出来て当然。
――――結界弾・槍・乱舞
――――結界箱・散
「くっ……!」
槍状の結界を多数射出し、多数の移動妨害用の箱をばら撒く。
相変わらずどんな理屈で避けて斬っているのか分からないが、姿勢は崩れた。
ならば後は突撃するのみ。
「じゃ、ま……!」
――――結界弾
大きく後退するヒスイを追いながら、再度弾をばら撒く。
しかし流石は剣の天才。致命的なものは斬り落とし、当たってもいいものだけを狙って受けて、こちらの間合いから逃れ続ける。
だが追いついた。
「死ねぇっ!」
「《ジャベリン》っ!」
「《現れよ盾》!」
致命的な隙に対し攻撃を放とうとした瞬間、横槍が入る。
眼前に赤い閃光が迫り、それに合わせて障壁が展開されるも、私の勢いだけが殺された。
「くそがっ……がっ⁉」
「余所見しない!」
今度はこちらが隙を見せた瞬間、両腕が一瞬の元に斬り落とされた。
「このまま一気に!」
「させ、るかっ……!」
――――防護結界・盾・積層
返す刀で首を狙わんとしていたそれを防ぐ。
急ぎ構築したそれは全て斬り裂かれたが、本命の防護結界で防ぐ事に成功。
しかし、防いだ瞬間には既にヒスイは間合いの外へ逃れていた。
「ちょこまかと……!」
「ゾンビ相手には仕方ないでしょー?」
少し離れたところではジルコンとルビーが撃ち合っている。
ジルコンの言った通りその実力は拮抗しているようで、互いに此方へ駆けつけたいようだがそれが出来ないでいる。精々が先程のような援護射撃くらいだろう。
まぁ、それが邪魔な訳だが。……かと言って今ルビーの方へ駆けたとして、ヒスイに後ろから斬り落とされる。
ならばやはりコイツから片付けなければ。
「ちょーっと本気出そうかなー」
「はん、随分必死だったように見えたがな」
「まぁそれはそれ」
いつもの軽い調子で嘯くヒスイ。
……コイツは戦闘中でもこうだから気が抜ける。
「前言った通り、うちの流派って変わってんだよね」
ヒスイが刀を投げ捨て、鎧を解除する。
……武器を投げ捨て、防御を捨てただと?
「剣に始まり体術だの槍だの斧だの弓だの棍だの、色々あんのさ」
ヒスイの周りに光が集まっていき、何かを形成していく。
「それは何が何でも相手を殺すっていう物騒な信念でさ」
光はその数を増し、刀、槍、斧、弓、棍、鎖鎌、ありとあらゆる武器へと変化し、ヒスイの周りで漂っている。
「つまり、本来はこれ全部使うのがうち流なんだよね」
間合いが、用途が、全て異なるものを使い分ける、現代に於いて本来は何の役にも立つ事がない武術。
だが、今はそれが、何よりも有用。
「葉山流、師範代にして魔法少女ヒスイ、参る」
無手の状態のヒスイの姿が宣言と同時にブレた瞬間、脳裏に異常なほどの警鐘が鳴る。
「《空間遮断》!」
「それはもう分かったってば」
「がっ⁉」
肩に、何かが突き刺さる。
上空に跳んだヒスイが弓を射ったのだと気付いた瞬間、矢が雨のように降り注いできた。
単なる弓矢と侮ってはいけない、これは一発一発が死に至る一撃!
「《盾》……っ! ぐあぁっ⁉」
矢を防いだ瞬間、横薙ぎにされた斧にその場から吹き飛ばされる。
「らぁっ!」
「こ、のっ《極点》!」
続いて槍が投擲される。崩れた姿勢のままそれを撃ち落とす。
が、ヒスイが止まらない。
「せっ!」
「っ⁉」
腕に鎖が巻き付き、更に体勢が崩され、両者の距離が無理矢理ゼロにさせられる。
既にそこには別の武器を構えたヒスイが待ち構えていて、
「調子に……!」
「調子に乗るな! 《燃やし穿て火炎弾》!」
ジルコンが炎の魔弾を放ちながらこちらに割り込もうと飛んでくる。だが、
「やめろジルコっ……!」
制止の声をあげた時にはもう遅かった。
「はい釣れた」
ヒスイの姿が再度ブレたと思った瞬間には既にジルコンの側に跳躍しており、
「ジルコンさんごめんねー」
その首が斬り払われた。
「……これで、二対一。勝てると思う? ネロ」
「……ネロさん」
ただでさえも敵わないヒスイに、対応に手間取るルビー。
ジルコンはそんな二人の側で倒れ伏している。
「遊び相手がいなくなるのは少し残念だけど、これで終わりだねー」
勝ち目は、無い。
「……大人しく投降してください」
あぁ、勝ち目が無い。
「それともまだヤる?」
「もういいでしょヒスイちゃんっ!」
もう勝ち目が無いと、決めつけているコイツらが甚だ気に食わない。
――――結界弾・槍・乱舞
「うぉっ!?」
「っ! 《シールド》!」
槍を数十展開し、気を抜いている愚か者達に射出する。
だがそれは斬って落とされ、防がれ、有効打を与える事が出来ない。
正面からの攻撃は、全て無効化される。
あぁ、正面からならそうだろうさ。
――――結界箱・散
ヤツらの周囲に単なる箱を無数に展開させる。
それだけならば、単に行動を阻害するだけ。
――――昇華
だから、殺す。
――――射出・弾幕結界
「なっ⁉」
「えっ、あぐっ!」
無数の小さな箱。それは無数の魔弾と同義。
故に正面から、横から、後ろから、天から、ありとあらゆる方位から魔弾を射出する。
「っ! ルビー⁉」
不可視の結界を感知でき、避け続ける事が出来るヒスイと違ってルビーは弾幕をその身に浴び続け体勢を崩している。
ヒスイは既に弾幕の外。
ルビーはその中。
故に、それを狙うのは必然。
「落ちろおおおおおおおおっ!」
「ぐ、ぁ……っ!」
渾身の力を込めた拳を突き刺す。
一瞬にしてルビーは吹き飛んでいき、屋上の端に転がった。
起き上がってくる様子は、無い。
「油断している場合か? 舐めているのか? お前らは」
視界の端にいたヒスイを睨みつける。
何が気に食わないか。
戦いの最中に戦いを放棄したその姿勢が気に食わない。
「……いや、あそこは大人しく諦めるとこでしょ」
「何故そんな事をしなければならないのか」
私の目的は闘争。
「戦う事こそ我が喜び」
この身が砕け散るまで止まる事は無い。
「戦い続ける事こその悦楽」
例えそれが敵わない戦いであっても、終わる事は無い。
「さぁ、続けようか。ヒスイ」
斬られ、射られ、吹き飛ばされた箇所が痛みを主張する。
だがそんなもの知らない。
「やっぱりアンタはそのままでいちゃ危ない」
「……だろうな」
ヒスイは改めて光の武器を周囲に展開する。
「留まるなら今のうちだと思うんだけど」
「……もう止まらん」
溜息をつき、こちらを見据えるヒスイ。
「……一応さ、ネロも中の人もうちは好きなんだよ」
しかし、敵意を一時的に消して、そう語り始めた。
「うちもアンタの事心配してんだよ。本当にそうなって欲しくないからさ」
あの飄々としているヒスイが、舞が、珍しく本心を語っている。
「アンタが魔法少女に満足出来なくなったら、いつか犯罪に、人様に危害を与えるかもしれない。うちらはそれが怖いんよ」
それは私も恐怖している未来の可能性。
ジルコンと、ルビーと、ヒスイと戦う事に不満を抱くようになったら、どうなるか分からない。
「ジルコンさんだってきっとそう思ってる。だけどあの人の愛で、ネロ、アンタ止まれる? 分かんないよね」
あの子の愛を受け止める度量の無い私が、信じたいと思っていても、止まれるかどうかなんて、分からない。
「だから、魔法少女としてのネロを、今殺す」
問答はここで終わりだと、数々の武器を背負い、ヒスイは宣告した。
「……あぁ。こんな欲望に気付かなければ良かったのにな」
若干の後悔と、抑えきれない欲望。
それに突き動かされるように、構えを取る。
「殺し合いなんて終わり、一方的に殺すよ」
「殺す。何が何でもその力を殺す」
両者の距離がジリジリと縮まり、その均衡が破れ、
「悪いけどそこまで」
体が、一切動かせなくなった。
「なっ……⁉」
「なんだ、これは……⁉」
ヒスイが何かをしたのかと思ったが、この現象が起きているのは私だけではないようで、あちらも同様に驚愕している。
「あんたらさー、マジで何やってんの」
気付けばそこは真っ白な空間。
そこに私とヒスイだけが取り込まれていて、
「はぁい、お久しぶり」
この力を与えた張本人が、そこに居た。