暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
いつか見た白い空間。目の前には小さな妖精。フェアリーとかいう言葉がぴったり合うような小さな妖精さん。
そんな彼女がふよふよ浮きながら凄くだるそうに語りかけてくる。
「やーノルマしんどかったわー」
ノルマて。だから世界観。まぁ魔法少女なのにスーツ姿とか鎧武者とかいう時点であれだけど。
てかどうすんの、この一触即発状態だったこの状況どうしてくれんの。
「……妖精ちゃん。何の用か知んないけど、タイミング最悪なんだけど」
「知らんがな」
ヒスイが……ヒスイちゃんがツッコんでくれたけど、妖精さんはどこ吹く風。あー、うん。なんかこの感覚超久しぶり。
ついでになんか、あー……もう、うん。いいや。
「……ヒスイちゃん。何かよく分かんないから今日はここまでって事で」
「えええええええあの流れでそうなるん⁉」
いやだって、なんかもう、アレじゃん。しかも体動かないし。
「だからそこまでっつってんでしょ。アンタらの事情なんか知らないわよ」
「えぇぇぇ」
「出た……」
悪いけどそこまで、なんて言ってたけど絶対悪いとか思ってなさそう。
ヒスイちゃんはびっくりしているけれど、妖精さんのこのだるだるモードを知らないんだろうか。もしかしてアレかな。魔法少女?なるなるーみたいな感じで面倒臭モードに遭遇しなかったんだろうか。超ありそう。
私は一時の邂逅ではあったけれど、慣れさせられたというか順応したというか。
「んで、アンタら。特にそっちのスーツ、何やってんの」
「え」
特に私って。
「何で率先して魔法少女襲ってんの。意味分かんない……」
あ、はい。
「他の魔法少女から狙われないかってアンタ自身が気にしてたじゃん……」
そ、そっすね。
「なのに何でよ? あぁ?」
「ほらー怒られてんじゃーん」
ええい辻斬り大好きっ子から言われたくない!
「いやその……」
「なに、言い訳? 良いわよ聞いてやるわよ」
怖い。姿はちみっこいのにひたすら怖い。
「……力を使って暴れるの、楽しいなー、なんて……」
「ぶっころ」
「ぎゃぅんっ⁉」
台詞を言い終わるや否や、目の前に星が浮かんだ。
なに、なに⁉ あ、額がなんか痛い⁉ デコピンでもされたの⁉
そんな私を見てケラケラ笑うヒスイちゃん。お、おのれ……。
「べ、別に犯罪してる訳じゃないし……」
「……犯罪者予備軍」
「うぐ」
ヒスイちゃん、否定出来ないからそういうツッコミやめて?
「犯罪だろうが何だろうが……あーその話はまた後でするけど。犯罪じゃなきゃ何でも良いって訳じゃないの!」
うす。仰る通りです。
「アンタに襲われたせいで魔法少女辞めるって子が出てきたらどうすんのっつってんの!」
怒り心頭、という表情でこちらを睨んでくる妖精さん。
うす。何も言えないっす。
「しかも何⁉ 倒した後は敗北えっち⁉ 頭おかしいんじゃないの⁉」
うす。そう思うっす。
でもそれはジルコンちゃんが発端で、と考えたらますます睨まれた。こ、心読まれてないかなコレ……?
「せんせー勝利えっちは良いですかー?」
「えぇぇ何それ意味分かんない……あー、あーなるほど。えぇぇ引くわ……」
やっぱり心とか記憶読まれてるっぽい。けどドン引きしてる。やっぱり勝利えっちはおかしいんだってヒスイちゃん。
「ま、まぁ相手の承諾があれば良いんじゃない……?」
「やたー」
何で了承されるねん。
「で、問題はアンタよ。黒ゴスっ子もそうだけど」
ジルコンちゃんの事ですね分かります。
「戦う喜びに目覚めちゃったってのはまぁ、百万歩譲るとして」
あ、そこは譲ってくれるんだ。
「黒ゴスっ子との間で、内輪で済ませなさいって話よ。他の魔法少女巻き込んでんじゃないっつの」
「ほらーやっぱりー」
ええいヒスイちゃん乗っかってくるんじゃありません!
「しかもその後敗北えっちとかアンタホント……」
「……そこもダメなん妖精ちゃん」
「ダメに決まってんでしょ」
うぅ。いやダメってのはそりゃ常識的に考えて分かりますけどぉ……だって、その、それが出来る力がですね……。
はい睨まれた。はい口答えしません心答えしません。
「……ちなみに、常識とかそういうのでダメって言ってんじゃないからね」
「あ、そうなんですか?」
「え、違うの?」
つまり、やる事自体は良い?わけないですよねすみません睨まないでください。
「はぁ……あんね、アンタ達のソレで魔法少女達が被害に遭ったと仮定して、何が起こる?」
「うちが勝つから勝利えっち」
「アンタは黙ってなさい」
「ちぇー」
この状況でも平常運転なヒスイちゃんパねぇ。
「……復讐でまた襲ってきてくれる?」
「……まぁ、そういうヤツも居たわね。それこそアンタとか」
「負けっぱなしはヤだかんねー」
ヒスイちゃんもルビーちゃんも再戦してくれた訳だし。……でもそれは少数派、か。
「そう、そんな輩なんて少数派。大抵襲われたら怖くなるってのが筋よ。恐怖に立ち向かえるようなニンゲンは元々少ないのよ」
そう、かもしれない。
私だって、この力が無ければ同じように恐怖していたかもしれない。
……力を得てから本当におかしくなっていたな。
「……ま、それでね?そんな怖くなった子は次どうする?」
「……引き籠もる?」
「半分正解」
もう半分は……あ。
「気付いたようね。そう、魔法少女を辞めてしまう」
それは、妖精さんの目的を、邪魔するという事で、
「あたしのノルマ、頑張って達成したノルマ、チャラにしてくれるわけ?」
「がっ⁉」
今まで睨んでいたのが児戯だったかのような、そんな圧力をかけられた。
いや、物理的に圧がかかっている。
動く事を禁じられたこの体に、重力が、何倍にもなって襲いかかってきている。
「ぎっ……!」
体が、手足が千切れそう。
脳が、崩壊してしまいそう。
血液が、どこかに行ってしまって、意識が……。
「……ま、そういうわけよ」
「っ! が、っは……!」
ふっと、圧力が消え去る。
動けない体で息を吸い込み、呼吸を整えようとしてもうまくいかない。
「あぁ……もういいか。はい」
「おっ、動けるやったー」
「はっ……ぐ……!」
硬直が解け、今度こそ全身で呼吸を整える。
死ぬかと、思った。
魔筋が、ではなく物理的に死ぬかと思った。
今、間違いなく、殺されるところだった。
「……ま、そんな訳であたしが頑張ったノルマが減る可能性のある事をしてくれてたワケよ。お分かり?」
「重々……理解、しました……」
きっと面倒臭いと言いながらコツコツ魔法少女を増やしていたんだろう。だから、彼女の逆鱗に触れかけていた。
私達を魔法少女にする力といい、今の重力といい、妖精さんの実力は測りきれないほど高いんだろう。今死んでいないのは、きっとまだそういう事例が出ていなかっただけ。首の皮一枚、繋がっている状態なだけだった。
「という訳で無差別に喧嘩売るの禁止ね」
「……はい」
命が惜しい。こんな中身の壊れかけた命だけれど、死ぬのが怖い。
「……無差別じゃなきゃ良いって事?」
そんな中、ヒスイちゃんが妖精さんに問いかける。んなバカな理論が通るわけ、
「良いわよ」
「よーしネロ、定期的に殺し合おうぜー」
ヒスイちゃんが平常運転過ぎる……!
ていうか良いのかよ良いんですか妖精さん。あぁそういえば内輪で済ませなさいって言ってましたね……。
「……ま、それはさておき。アンタへのお仕置きとは別に、ちょっとした仕事のお願いよ」
……この状況下でのお願いとか、命令に等しいんですが。はい睨まないでくださいすみません。
「無差別じゃなきゃ良いって言ったのは理由があんのよ」
「……うちとのやり合いとか関係なく?」
「関係なく」
何だろ。今度は予想がつかない。まぁ従う他無いんですけど。
「人間性とか精神性を考慮しなかったアタシが悪いんだけどさ……」
苦虫を噛み潰したような表情で話し始める妖精さん。
ちなみに精神性を考慮しなかった例が私ですね分かります。
「魔法少女になった子達の中に、犯罪行為に手を染める子が現れ始めてんのよ」
「それは……」
充分に有り得た可能性。
科学では証明できない魔法の力。そんなものが急に手に入ったのなら、元々そういう事に対してのブレーキが弱い子だったのなら、充分に、有り得る。
「今はまだ可愛い犯罪もどきかもしれないけど、エスカレートしないとも言えない」
ちょっとしたもので満足出来なくて、より大きなものを求めていく。その精神性は私にもあって、他人事とは思えない。
「で、その末路は公権力から、国から追われたりする訳よね」
「つまり魔法少女の存在が公になるのを危惧して……?」
「それはどうでもいい」
えぇぇ。拉致監禁解剖コースでも良いって事ですか。
「アタシはさ、子供を作れ、魔法少女の力を受け継いでいけ、子々孫々に能力を伝えていけ、って言ったじゃん。覚えてる?」
「覚えてません……」
「覚えてなーい」
「アンタら……」
ピキリ、という音が聞こえてきそうなオーラを妖精さんから感じる。いやマジすみません。
「……まぁ、いいけど。んで、そんな犯罪行為を働いて逃げ回ったり捕まった子が、まともに結婚して子供作れると思う? まぁ中にはうまくバレない子もいるだろうけどさ」
それは……難しいだろう。
逃げ回っているならば家族なんて枷にしかならないだろうし、捕まって前科がついてしまったら結婚だって難しい。中には懲役で長いこと刑務所に入るかもしれないし、場合によっては死刑だって有り得る。
「ちなみにアンタらに対してそこはもう諦めてるから。何で女同士なのよ意味分かんない……」
…………まぁ、その、はい。
「という訳で、犯罪行為をしてる子を止めたいわけよ」
「……魔法少女の資格を剥奪とかはしないんですか?」
「
え。
「あたしの力は与える事、奪う事じゃない。まぁ殺せば資格を剥奪って事になるかもしれないけど」
そう言ってバンザイする妖精さん。お手上げ、という事だろうか。
こんな力を私達に与えたのだから、それを剥奪する事も簡単なのではないかと思ったけど、そうではないらしい。
あぁ、魔法少女の力の結晶たるクリスタルを自分の力以外では破壊できない仕様と言っていたのは、そういう意味でもあったのか。
だから妖精さんが、他人がその力を剥奪するには殺すしかない、と。……あぁなるほど。殺せば魔法少女が減ってしまって困る、と。
「そこでアンタの出番……いや、アンタらの出番よ」
「え、うちも?」
「そうアンタも」
私、達に何が出来るというのだろう。
こちとら殴ったり斬ったりする事しか……。
「犯罪行為を働いたヤツをボッコボコにしなさい」
「……え?」
え、それ殺すのと何が違うの。
ていうかそれ妖精さんがすれば良いのでは。アッハイ、面倒臭い、ソッスネ。
「そうすれば良心の残ってるヤツは大人しくなるでしょ」
「えーなるかなぁ」
「ま、少数派でしょうね」
犯罪行為に手を染めた大半の連中は……あぁ。
「良心が残っていない連中は、アンタらを恨むでしょうね」
なるほど。つまり、
「そ、犯罪に向けていたベクトルをアンタらへ向け直すのよ」
邪魔された彼女達は、その恨みで復讐を志す。その為には魔法少女の力を手放すなんて選択肢は無い。
「それをアンタらがソイツが更生するまで叩き潰しなさい」
それは、つまり。
「アンタらは力を振るう正当性を得る。私は魔法少女が減らなくて助かる。ウィンウィンでしょ?」
私の暴力性を、遺憾なく発揮していいという事。
「よく分かんないけど、大っぴらに斬っていいって事?」
「そういう事」
ヒスイちゃんはもう少し考えようね。
「という訳で、アンタらには新しい力を与えるわ」
そう言って、有無を言わせず妖精さんは私達の額にキスをした。
「も、問答無用ですか」
「拒否権なんて無いわよ」
まぁ、話の流れ的に有るとは思っていませんでしたけど。
「新たな力は、邪な感情を抱いた魔法少女を感知する力」
「よーしネローうちを犯したいって思ってー」
だからヒスイちゃんはどうしてこう……。
まぁいいや。ヒスイちゃんをぐちゃぐちゃのどろどろに今度はおまんこも徹底的に……。
「うーわビンビン感じる、こわっ」
「やらせたのヒスイちゃんでしょうが……」
ま、まぁそれは置いておいて。あれだろうか、念願の魔法少女センサーって感じなんだろうか。
「これで探索とかしやすいでしょ? じゃよろしく」
「ああああ待って、待ってください妖精さん!」
説明は済んだし、な感じで退散しようとする妖精さんを引き留める。
「……あによ」
超不服そうに睨んでくる妖精さん。で、でもこれは聞かなきゃいけない。
「……お給料とか、出ます?」
「殺すぞ」
ですよね無給ですよね。……マジか。
「あの、私社会人なんですが……」
「だから何よ。他にも高校生とか大学生とかいんでしょうが」
い、いやいるけど。
「その、仕事中とか授業中とか対応出来ないんですが……」
「……あー」
ほ、ほら! やっぱり引き留めて良かった!
センサーに引っ掛かるのに対応しまくってたら社会人生活に支障が出る! かと言って今の会社を辞めるつもりもない! 辞めたらごはん食べれなくなっちゃう! 晶ちゃんの美味しいごはんが食べられなくなっちゃう!
あれですよ! 悪い魔法少女を倒す正義の魔法少女にだってお給料は必要なんですよ!
「だから給料とか言ったのね成程……あーどうしよっかな」
「うち授業サボってもいいよー」
「ちゃんと勉強しなさいヒスイちゃん」
そこはしっかり授業受けなさい。
「……そこは無視していいや」
「えぇぇぇぇ」
良いんかい。
「いやだって、魔法少女にしたのってだいたい似たような年代よ? だからソイツらも仕事とか授業とかあんでしょ」
「まぁ、そりゃあ……」
で、でも平日休みの人とかサボりの子とかもいるかもしれない訳で。
「あとそういう子らは白昼堂々とはしないでしょ」
……なるほど。
「だから仕事中とか授業中とかは、無視していいわ」
「ちぇー」
ちぇーじゃないが。
「他に問題は? はい無いわね。じゃあ後はよろしく」
「ちょ、ちょおー⁉」
「……あによ、まだ何かあんの」
あ、ヤバ。
「つ、つい引き留めてしまっただけで……」
「……で?」
「と、特に何も無いで、んがっ⁉」
最後に見えたのは、妖精さんのキックだった。
ついでにパンツも見えた。