暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
やらかしてしまった次の日。
……わ、忘れようそうしよう。
昨日は普通に壁ドンされたことにしよう! こっちがうるさくしちゃったもんね! 仕方ない事だよね! 普通普通! うん! 壁コンなんてされなかった! されたけど!
……お隣さん。確か清楚な感じの女子大生だよね。
あれかな、幻滅されたかな。年上の頼れるお姉さんを装ってきたつもりだったんだけど、それが儚く散っていった件。
顔合わせちゃったらどうしよう、いやだから忘れるんだってば。知らない知らない! さー切り替えてこー!
なんて、忘れる事を頑張りながら軽い朝食を作る。げ、冷凍してたお米尽きてるし。くっ仕方ない市販のレンチンご飯で勘弁してやる……!
……何と戦ってるんだ私は。どうせなら悪の怪人とか悪の秘密結社とか悪の魔法少女とかと戦えよ、いないらしいけど。いやいるのかな悪の魔法少女。こう、自分の能力をふんだんに使って犯罪行為を働くとか。うわ、いそう。
私の結界とか何に使えってんだ、オナニーにしか使ってないぞ。まぁそれも途中で効果切れて、忘れようそうしよう!
そんなこんな無駄な事を考えつつ、朝食を胃袋に収めたら今度は出社準備、というか化粧。
ところで化粧ってさ、学生の頃は禁止してるくせに社会人になったら化粧してない事が非常識扱いされるの納得いかないんだけど。今までしてなかったものをいきなりしろって酷くない?じゃあそもそも禁止するな、って何と戦ってるんだ私は。どうせなら悪の、この流れはもういい!
見えない敵と戦いながら下地を塗ろうとした時だった。
……なんか、肌ツヤが、良い。
…………あれか?昨日めっちゃハッスルしたせいか?
………………あ。
『むしろ魔法少女の力でアンチエイジングとか出来るし美容にも良い』
え、こういう事なの。マジか、なんなんだ魔法少女。それっぽいパワーで何かしたわけじゃないのに美容が半端なく良いんだけど。うわこれすっぴんで出歩けるレベルじゃない?
うわー。うわーどうしよう、ちょっと、めっちゃ、嬉しいぞ。なんだこれなんだこれ。鏡に変なニヤケ面の女が写ってるんだけど、それ私です。
えーこれメイクとかほぼ要らなくない? なにこの肌、やばない? どの角度から見ても綺麗なんだけど、私の顔自体は変わってないのに、なんかこう、別物というか何というか、えぇぇ。
……はっ、自分の顔を見過ぎて時間が過ぎ去っていた、マズい。
き、今日は簡単なメイクだけして行こう、うん。えへへ。
――――――
その後はちょっと慌てながら出勤。……普通に仕事してるOLな魔法少女ってどうなのよ。
いつも通りに仕事して、いつも通りに無茶なお客様の相手をして、いつも通りに退社。まぁそりゃ急に何かが変わるわけでもない。肌ツヤは変わったけど、うへへ。
あと変わった事といえば手荷物にクリスタルが増えただけ。体から離したらどういう影響が出るのか分からないからとりあえず持ち歩いている。今度どのくらい離しても力を使えるのか実験してみないと。
そんな、今までと比べると少しだけ異常とも言える事を考えながら歩いていると、ふと道路に目がいった。
「……?」
横断歩道でもないのに、子供が道路を渡っている。
「……ぁ」
車が、迫ってきている。
「……っ」
そんな子供を庇おうと、女子高生が助けに飛び出た。
間に合わない。
遅い。
二人諸共轢かれてしまう。
助ける?
どうやって?
結界。
だめだ。
人に向かって試した事がない。
助ける?
駆けつける?
どうやって?
間に合わない。
「ッ!」
間に合わせればいい!
――――肉体強化結界
筋肉が膨張したような感覚。
一足で歩道を乗り越え、異常とも呼べる速度で駆ける。
空気という抵抗さえ切り裂いて駆けつける。
間に合わない少女は歩道側に突き飛ばす。
間に合わせる子供は驚いて停止したまま。
足が爆発したような感覚。
大地を蹴り穿つ感覚。
異常とも言える加速で子供を掬い上げ、そのまま反対側へと駆け抜ける。
……耳をつんざくようなブレーキ音と共に、車は私達の横を通り過ぎ、少し離れたところに停車した。
いや、待って、なんだこれ。今何した私。
なんか体がぶわーってなって、だだーって行って、がばーって助けた? 私が? えぇぇ……?
「ぅわああああああああん‼︎」
抱えてる子供が泣き出した。お、おう声量がすごい。
あー、あー泣かないで、もう大丈夫なんだから。えーと保護者の方はいらっしゃいませんかー助けてくださーい。
それから子供は無事にママと合流し、それはもう大袈裟なくらい感謝された。今度からは気をつけるんだぞ子供よ。
運転手からもそれはもう大袈裟なくらい感謝された。今度から気をつけるんだぞ運転手よ。
そして、
「本っ当にありがとうございました……!」
現在進行形で女子高生から感謝されてる。
……美少女だなーこの子。
「いや、まぁ、うん」
「貴女に助けてもらわなかったらあの子も、私も……」
それはもう凄惨な事になってただろうね。
……しかし、なんか変な力の使い方をした気がする。体の内側に結界を張って、なんかこう、なんだ? それで筋力がやばいくらい跳ね上がったというか。
「このお礼は必ず……!」
「うぇ⁉ あーいいよいいよ。たまたま助ける事が出来ただけだし」
「そういう訳には!」
力の事を考えてたら変な声が出てしまった。
しかし、そういう訳にはいかないってか。
う、うーん。こっちもこっちで変な力を使って助けちゃって無駄になんか後ろめたいから、そう言われても絶妙に困るというか。
「あー……じゃあさ」
「はいっ!」
仕方ない、ガラでもない説教でもしてお茶を濁すかー。
「今度は無茶しないこと。キミの放っておけなかった、ていう心は尊いものだけど、自分が犠牲になってちゃダメでしょ。あのままだと二人共轢かれちゃってたし」
「……はぃ」
……私の言ってる事は非情だ。自分が犠牲になりそうな事は見捨てろと、正義感の強そうなこの子に言っているのだから。
女子高生ちゃんは聡明でもあるようで、そんな意味合いをちゃんと理解し、悔しそうに俯いた。
あぁもう、こういう事は苦手なんだけど。
「……ま、それが出来るようにさ、力でもつけなさい」
「ちから……」
「筋肉とか。マッチョになれば今回のもたぶん助けられる」
「マッチョって……あはは」
ようやく笑った。なんだ、笑うともっと可愛いじゃん。
「ま、そういう訳で、気をつけなよー」
「はいっ! ありがとうございましたっ!」
ガラじゃない説教じみた事を言って、女子高生ちゃんと別れた。
……チカラ、か。
さっきの、何だったんだろう。
脳裏に浮かんだのは肉体強化結界という言葉。
確かにあの時欲しい力ではあった。……まぁ、あの子達を覆うようにして結界を張れれば良かったんだけど、人を対象とした結界がどういう影響を与えるのか分からなかったし、ほんと、都合の良い力だった。
確か……こう……早く駆けたい、強い力が欲しい、的な事を思い浮かべながら体の内側を……。
――――肉体強化結界
出来た。出来てしまった。
体が漲って、なんでも出来てしまえそうな全能感。
今走れば、世界記録だって狙える。今跳べば、ビルだって飛び越せる。
なんじゃこれ、ヤバいヤバいヤバい解除!
こっ、これは、アカンやつですわ。日常生活をぶっちぎるやつですわ。
い、いやでもある意味魔法少女っぽいのかな。某初代様なんて肉弾戦バリバリやってたわけだし。いやだから戦う相手いないんだってば。
……どうしよう、また使い途の分からない力に目覚めてしまった。
――――――
それからは、特に何事もなく日常が過ぎていった。
普通に出社して、普通に仕事して、普通にご飯食べて、普通に帰る。たまに見たいアニメのDVDを借りたり。
いや、ルーチンが増えた。
即ち、能力の検証。及びその強化。
いや、だってさ? 遮音結界さ? やらかしたじゃん? アレじゃん? アレ過ぎたじゃん? 壁コンされちゃったじゃん?
もうあんな目にあっちゃならねぇと一念発起して、この力を強化する事にしたんですよ。
この力は何かを消費したりはしないけど、消耗はする。魔筋と名付けたなんかよく分からない筋肉的なものを消耗する。
だったらこの魔筋を鍛えれば、もっと強い結界を張れるんじゃないか。そう考えてひたすら魔筋を鍛えることにした。
「とおおりゃああああああ!」
遮音結界を展開し、眼前に板状の結界を展開し、拳を覆うように結界を展開し、殴りまくる!
ふはははは! いつぞやのボクササイズで鍛えたこの拳打、受けてみるがいい!
……テンションがおかしい。ま、まぁいいか。
結界に負荷をかけると魔筋が消耗する事は分かっていたから、ひたすらに負荷をかける。
目の前の結界に向かって拳を叩きつけると、ガキンと物理的な音が発生して板と手の両方の結界に負荷がかかり、魔筋が震えるのが分かる。音が鳴るから遮音結界にも負荷がかかり、そちらもまた魔筋が震える。尚且つ常に肉体強化もしている。
そんな事を繰り返していたら、みるみるうちに魔筋が成長していくのが分かった。ついでにダイエットにもなった。
同時展開できる数が増え、抵抗できる許容値が増えた。
おかげで大声でナニをしても壁コンされない。い、いやそんなにはしてないけれど。
「……いや、だから何になるの」
たまに冷静になって我に返る。
いや、いやいやいや何をしようとしてこんな事しているのか。
まぁ確かに? 力の使い方を分かっていれば? いつぞやのように人助けとか出来るし?
いやでもなー、そんな大っぴらに使う気ないしなー。妖精さんが言ってた何かの拍子でバレて拉致監禁研究コースとかイヤだしなー。
……でもなんか、新しいオモチャというか、この力を検証したり鍛えたりするの、ちょっと楽しいんだよね。
何かしたいなー。
何か面白い事出来ないかなー。
――――――
「ひゃっ! ほおおおおおおおおおお!」
そうして、何か、面白い事。
ただいまビルの間を大ジャンプして跳び回っております。
「っと! 次っ! とぉりゃあああああああ!」
やっば。
これやっば。
肉体強化結界を張り、新たに会得していた認識阻害結界を発動させながら、屋上という屋上を駆け回る。
発端は帰社時の事だった。
会社の近場で晩ご飯を済ませ、いざウチへ帰ろうとなった時。
「電車で帰るのなんかダルい」
そう、思ってしまった。
「あ、肉体強化してぴょんぴょん帰れないかな」
そうも、思ってしまった。
人気の無い路地に入り、認識を阻害する結界を張る。これで私の姿を見ても私だと判断する事は出来なくなった。既に会社で試してみたから効果に間違いはない。
更に肉体を強化する結界を体の内面に張ると、途端に漲る力。
そのまま私は路地裏の壁を駆け上り、大空へ飛び出した。
「あっはっはっはっはっはぁっ!」
普通の人間には出来ない跳躍、普通の人間には出来ない超常。
まるで空を駆け巡る風のように、ビルというビルを飛び越えていく。
ごうごうと風を切り裂く音がうるさい。興奮で張り裂けそうな心音がうるさい。
楽しい。何の役に立つか分からなかったこの力で、自由自在に空を跳び回るのが楽しい。
狂ったような笑い声をあげながら長い間跳び回っていたけれど、いくら肉体を強化しようが疲れるものは疲れる。
「はー楽しかった……って、ここ何処だろ」
休憩のためにテキトウに降り立ったのは見覚えが一切無い河川敷。
……マジで何処よここ。
携帯で現在地を確認してみると、会社からも自宅からもまぁなんと遠いこと。テンション上がり過ぎてとんでもないとこまで来てしまった。
周りを見渡してみてもマンションどころか民家すらほとんど無く、歩いている人すら見かけない。
河川敷公園という名目なのか、この場所は開けていて、気持ち程度の街灯がぽつぽつと建っている。
「いやー……はしゃぎ過ぎたなー」
小規模な結界を張り、その上に腰掛ける。
あー喉乾いた、なんか自販機ないかな。ってかスーツでやるものじゃないな。いやそもそも出来るからって実行するもんじゃないわ。何やってんだ私。
軽い後悔と共にため息をつく。
この力、本当になんなんだろう。
妖精さんは保険って言ってたけど、その詳細は教えてくれなかった。そのために魔法少女を量産、量産?する必要があるとかなんとか。アレかな、いつか来るかもしれない攻撃的な地球外生命体に対抗するための力だとか。いやまさかね。
ノルマと言っていたからには私以外にもこういった特別な力を持った魔法少女が存在するんだろう。その人達はいったい何をやっているんだろうか。……少なくとも私みたいにアホな事をしている人はいないと思うけど。
私の適性が結界という事は、他の人はどんな力を持っているんだろう。こう、プリティでキュアキュアな力だったりするんだろうか。ちょっと羨ま、いや全然羨ましくないわ。もうすぐアラサーと呼んでも差し支えない年齢になる女がそんな女児向けアニメみたいな力を持っても痛々しいだけだわ。
なんて、益体もない事を考えていた時だった。
「こんばんは、お姉さん」
私の前に、堕天使が舞い降りた。