暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
その子は、正に堕天使と呼ぶに相応しい外見をしていた。
黒いゴシックドレスを身に纏い、長く美しい銀色の髪は黒いリボンで飾られていて、黒い四枚羽を背負いながら、その紅い瞳で私を見下ろしていた。
「貴女も魔法少……少女、なんですよね?」
うるさい誰がアラサー魔法少女だこのやろう。……ってあぁ、スーツ姿だからか。
音も無く四枚の漆黒を羽ばたかせながら、高所で疑問符を浮かべながら話しかけてくる少女。
すごい、すごい魔法少女っぽい。ただし悪堕ちしてる感じの。銀髪なんて初めて見た、超綺麗。
「……貴女は?」
「あぁ申し遅れました。私、カオティック・ジルコンと申します」
すごい、すごい悪堕ち魔法少女っぽい。カオスとか、黒いのにジルコンとか、やだこの子すごい解ってる。
「スーツ姿で空を駆け回っているのを見かけまして是非ご挨拶を……と思ったのですが、お顔がよく見えませんね。なにか認識阻害の術でも使っているのですか?」
「……まぁ、そんなとこ」
認識阻害は今も正常に発動しているようだ。へー同じ魔法少女にも効くんだこれ。
「それで、貴女は?」
「あー……うん、魔法少女、と言ってもいい存在。名前は……まだ無い」
「……そうですか」
少し残念がるジルコンちゃん。あれだろうか、出会った魔法少女同士の名乗り合いとかに憧れてたんだろうか、そんな気配を感じる。うん、ごめん。
というか何でまた私に接触したんだろう。あれかな、同じ魔法少女同士仲良くしましょう的な感じだろうか。でもなー、高いとこから見下ろして話すような子はなー。
「……で? 高みから見下ろして何の用?」
「これは失礼を」
いかん、ちょっと棘のある言い方になってしまった。
けれどジルコンちゃんは気分を害した様子もなく地に降り立った。それと同時、展開していた羽が消え去る。え、それも魔法だったの。衣装の一部とかじゃなかったんだ。というかそう、衣装、何それカッコいいんだけど私物?
「……その服は?」
あぁぁだから言い方ぁ! 色々展開が急過ぎて丁寧に話す事が出来ない! ジルコンちゃんごめん! 悪意はないの! お姉さんに余裕が無いだけなの!
「服……? あぁ、これですか。いわゆる変身、というやつです。この髪もそうですね」
なにそれ、なにそれカッコいい。ホントに魔法少女じゃん。いーなー、私ももうちょっと若ければなー。
「……綺麗だと思う」
「ぁっ、ありがとうございます……」
照れた、今照れて言葉に詰まった。やだもう可愛い。大丈夫? 可愛過ぎて捕まったりしない? いや何考えてんだ私。
「こほん。今日はお近付きの印に、宣言しに来たのです」
「宣言?」
なんだろ。魔法少女同盟を組みましょうとか言っちゃう感じかな。ちょっとワクワクしちゃうぞ。
「私は貴女達、魔法少女と敵対します」
……あー。あーそっか! そうだよね! 悪堕ちっぽいもんね! ぽいぽい! 解る!
「つきましては、今後出会った際には容赦なく襲撃いたしますので」
「……へぇ?」
襲撃。襲撃ときたか。魔法少女同士の戦い、熱い展開だね。
アレだもんね、戦うべき相手がいないんだもんね。だったら戦う相手を作ればいいとかそんな感じ? ちょっと無理矢理感があるけどなるほどなーうんうん。
「……他の魔法少女にも?」
「えぇ、漏れなく宣戦布告いたしました」
おぉ、適当に話を振ったら重要な情報を得られた。漏れなく、という事は私以外に複数人の魔法少女がいるって事なのか、へー。
「……殺し合う、と?」
「そこまではいたしません、私の享楽のためですから」
とにかく殴り合いたい、と。この力を存分に発揮したい、と。選択した手段は過激だけど、分かるわー。
「ただ……逃げたり拒否した場合は、貴女方の周りにいらっしゃるお友達などが、不幸な目に遭うかもしれませんね」
口元を吊り上げて、歪んだ笑みを浮かべるジルコンちゃん。
……へぇ、本気だ。出会ったばかりなのに、それが分かる。
この子は本気でやる。本当に戦いたいんだと願っている。その為には手段を選ばないと、この子なら本当にするという凄みを感じる。
じゃあ、私も本気で相手をしないといけないなー。
だって、力を振るっても良いと、そう言ってくれて、こんなにも、胸が高鳴っている。
だって、存分に力を解放しても良いと、そう言ってくれて、こんなにも、高揚している。
だって、だってだってだって、
……いけない。この思考は良くない。
「……なるほど」
「今日はそれだけです。それと……」
そう言って四枚羽を展開し、片手を持ち上げた。
「これは置き土産というやつです。《吹き荒れよ業火》!」
その掌から炎が産まれ、私に向かって襲いかかってきた。
「……え?」
炎。
熱い。
焼け死ぬ。
置き土産?
これが?
この本気にしか見えない炎が?
死ぬ。
誰が?
私が。
このままでは。
このままでは?
何もしないで?
こんな小娘に?
私が?
「……へぇ」
ふざけるな。
――――防護結界
体を覆うように結界を展開し、襲いくる火炎をやり過ごす。日々鍛えてきたこの力は熱さえも通さない。
「では、ごきげんよう」
赤い光の奔流が消え去った後には私だけが取り残されていて、ジルコンは空へ飛び立つところだった。
だけど。
ここまでして。
抑えようとしていたのに。
こんなにも本気にさせて。
知る筈の無かった願望に火を点けておいて。
「逃げられると思うな」
――――肉体強化結界
超常の力を両足に漲らせ、今まさに羽ばたかんとしてるジルコンへ向かい跳躍する。
「っ⁉ 《吹き荒べ烈風》!」
逼迫せんとしていた私とジルコンの間に不可視の力が巻き起こる。
けれど、こんなそよ風で私を止められると思うな。
私の鍛え上げてきたこの力を、こんなもので止められると思うな。
「っぐぁぁあああっ⁉」
純然たる力技。荒れ狂う大気を突き破り、接敵した瞬間にその腹を殴り穿つ。
空を飛んで逃げようなんて、そんな興醒めな事はさせない。地に這いつくばって私と戦え。
「なっ……なっ…⁉」
大地へ突き落とされたジルコンは、土で薄汚れながらも即座に立ち上がる。
へぇ、戦いたいって言ってた分、解ってるじゃん。
「戦いたいのだろう? ならば今ここで戦え」
気分が高揚する。
人を殴るのなんて初めての筈なのに、女の子を殴るなんてしてはいけないのに、この力を人に向かって振るってはいけないのに。
どうしようもなく楽しい。
「これは……はは、とんでもないアタリを引きましたね」
先程
さぁ、やろう。今すぐやろう。この楽しい事をもっとやろう。
「いくぞ。《結界弾》!」
「っ! 《立ち上がれ土塊》!」
掌大の結界を幾つも生成し、ジルコン目掛け撃ち放つ。
弾、という言葉に反応したのか、地中から何本もの土の柱が隆起し、不可視の弾丸は黒い魔法少女に当たる事なく防がれる。
なるほど、判断が早い。頭が良い。
だが、
「っらぁぁぁああああっ!」
「嘘でしょ⁉」
そんなモノは、力の前には関係ない。土の塊なんて、拳一つで粉砕できる。せめて私の結界くらいの固さを用意しろ。
……? 腹を穿ったのにまともに動けている?
とすると、あの衣装はそこそこの強度がある、という事か。そうか。そうかそうかそうかそうか殴り甲斐があるな!
「《荒れ狂え水流》!」
火、風、土と来て水。魔法適性が何なのかは分からないが、四元素に従った魔法。面白い。実に面白い。
ジルコンの両手が突き出され、そこから膨大な水が生まれる。
「くっ……!」
火や風といった現象を防ぐ事は出来ても、水といった物体に関しては防ぐ事は出来ても影響は受けてしまう。
つまり。
「距離さえ取れば! 《咲き誇れ火炎弾》!」
「っ……!」
私の射程外まで離され、そこを狙い撃ちするようにして幾つもの炎の塊が飛来する。
嫌な予感に従い、受け止めるのではなく打ち払う事を選択する。
バヅン、と重い音と衝撃、そして爆発。
あのまま受けていたら結界越しに蹂躙されていた。
遠距離戦。こちらの攻撃手段は結界を打ち出す事と殴る事。多彩な攻撃手段を持っているであろうジルコンが有利。
だが、私をそれだけだと思うな。
――――防護結界・盾
眼前に、私とは独立した盾型の結界を展開する。
ズドンズドン、と重い音と爆発が連続し、魔筋が震え、消耗する。
……へぇ、消耗させられるんだ。私の力を、消耗させられるんだ。良い、とても良い!
「これ、で……まだ、立ってる⁉ 嘘でしょ⁉」
「嘘なものか」
爆発の影響で発生した煙が立ち消えると、驚愕したような顔のジルコン。
「っ! 《凍り穿て氷結弾!》」
今度は炎よりも重い、氷の塊が射出される。
けれど、そんな見えやすいもの、もう当たらない。
――――防護結界・盾・極点
氷の弾の軌道上に小さな結界を展開し、私の身に届く前に撃ち落とす。無論、結界に阻まれたそれは、衝突の勢いで爆散し、粉々になって空に散っていく。
その結果を見る事なく、いや結果など見るまでもない、先程よりも力を込めてジルコン目掛け疾走する。
「死、ねぇっ‼︎」
「ひっ、ぐぶぅっ⁉」
次の
ゴム毬のようにバウンドしながら転がっていくジルコン。
尚も立ち上がろうとしているが、腕が震えていてそれが叶わない。
……なんだ、もう終わりか。
ゆっくりと歩を進めるこちらを見て、びくり、と反応するジルコン。
なんだ、反応するだけの余力があるんじゃないか。
「こっ、来ないで……来ないで……!」
ツマラナイ反応をする。まだこっちはギアが上がってきた段階だというのに。
足りない。まだ足りない。
立て。立って私に相対しろ。
「いや……いやっ……っ⁉ 何これっ⁉」
何だも何も、これ以上逃げられないように周囲に結界を張っただけだ。
逃げるなんて許さない。
戦え。戦え。私と戦え。
「や……ぁ……あ……いやっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
許しを乞う。何に対して。これ以上戦えない事に、なのか。
ツマラナイ。ツマラナイ。
なら、ここで終わらせてやる。
「ひっ」
追いついた。
無様に這いつくばりながら逃げようとしていたようだが、これで終わり。
「っ⁉」
ズン、と顔の傍に足を踏みおろす。
そのまま顔を覗き込んでやると、絶望した表情。
あれだけ啖呵を切っておいて、このザマか。
ツマラナイ。ツマラナイ。
「ぁ……ぁ……」
ちょろちょろと、水の音がする。
……絶望し、恐怖して、漏らしたか。
本当に、ツマラナイ。満たされない。
引導を渡してやろうと、腕を振り上げた瞬間、ジルコンの全身を光が包む。
……新しい手品か。見てやろう。
振り上げた拳を納め、少しばかり距離を取る。
さぁ、今度は何を見せてくれる?
愉しみに光を眺めていたものの、その光はだんだんと収束していき、ついには消え去った。
光の中にいたジルコンは、銀色だった髪は黒へ、ゴシックドレスだったものは白のトップスとジーンズへと変わっていた。
変身が、解けた?
そう、か。魔筋が限界だったのか。
……あぁ、これで、終わり、なのか。
満たされない気持ちを抱えたまま、せめてその顔を拝んでやろうと視線を動かすと、
「……あれ、お隣さん⁉」