暴虐の魔法少女~倒すべき敵がいないのなら魔法少女襲います~ 作:ハヤ0313
「は……ぇ……な、に……?」
その顔は、どう見てもお隣さんだった。
清楚な感じで、腰まで届きそうな綺麗な長い黒髪で、朝会ったらおはようございますってふわっと微笑みながら挨拶してくれて、女の私から見ても綺麗で美人さんだなって思う、あの女子大生のお隣さん⁉
「あ、あー、その、お隣さん、ですよね」
「ぇ……い、や……だれ……?」
誰ってそんな。顔を覚えられてなかった、割とショック。
……あ、認識阻害したままだった。
「いやいやいや、私、私です。吾妻です!
「あづま……さん……?」
認識阻害結界を解いて慌てながら自己紹介すると、お隣さんはこっちを凝視して、
「……ぅ」
「ぅ?」
「ぅぁぁあああああああん‼︎」
な、泣いたー⁉
ってそりゃ泣くわ! さっきまでの私は何だったんだ⁉ 死ねぇ!じゃないが! なに、なんなの、私実はバトルジャンキーだったの⁉ いやだってなんか、人を殴るなんてそんな、えぇぇ、力を発揮するのは楽しかったけど、えぇぇ、えぇぇぇぇぇ?
って動転している場合じゃない!
「ごっ、ごめんねっ⁉ ごめんねっ⁉」
「うわあああああああんっ‼︎」
だめだー泣き止まないー! そりゃそうだー! さっきまでの私どう考えても恐怖の権化だったもんー! 思い返してみればなんか口調もおっかなかったしー!
あーもう! 撫で撫でー! 撫で撫でー! もう大丈夫だからー!
それから暫くしてお隣さんは……北股さん、
「あの……北股さん。ホント、あの、ホントごめんね?」
「ぐすっ……うぇぇ……こわ、怖かったです……」
だよねー! わかるー! 自分で自分が怖いもんー! あんなんと相対したら私なら脱兎の如く逃げるね! なお結界張って逃げられなくしたヤツがいるらしいですよ。やべーヤツだな、それ私です。
「ホント、私どうかしてたっていうか、あんな、自分が自分じゃないような……いやごめん、私が言って良い事じゃなかった」
「うぅ……んぐっ……」
「北股さん、ホントお前が言うなって感じだろうけど、お腹とか大丈夫? 痛い? いや痛いよね、救急車とか呼ぶ? な、なんなら警察も……」
罪悪感で死にそう。こんなん立派な婦女暴行だわ。大人しくお縄につくわ。そのくらいの事はしたわ。自首しよ。
「……衣装が、ダメージ受けてくれたので、大丈夫、です」
「っ! そっか、良かったぁ……いや良かったとか言っちゃだめか、ごめん」
「いえ……あの、もう大丈夫です」
そう言って私の手を取る北股さん。あ、そっかずっと撫で撫でしてたもんね。撫で撫でし過ぎてハゲてないよね? 大丈夫だよね? いやいやいや自分の思考がなんかおかしい。いやま、おかしくなってたのは間違いないんだけど。
「……ありがとう、ございます」
「いやいやいやいや。お礼言われる事してないから!」
「いえ……」
ぺこり、と頭を下げる北股さん。やめて! これ以上私の心を削るのはやめて! いややめてとか言える立場じゃなかったわ。
「……敵対する、戦う、って言ったの、私の方ですし……」
「い、いやそうかもだけどさぁ……」
そうだとしてもさぁ……限度ってものがさぁ……ねぇ?
「……うん。私が悪いんですよ。置き土産だって言ってあんな事もしちゃいましたし」
「いや、あれは良い悪役ムーブだったと思う」
「え?」
いやだって、宣戦布告してからのあの牽制じみた攻撃。完璧でしょ。
「あれは防がれる前提の威力だったんでしょ?」
「……はい」
私の結界が固過ぎたってのもあるけど、なんか妙に手ごたえ?無かったし。
「なら良いじゃん。問題なのはそれを受けて何かキレだした私の方でして……」
そう、そこなのよ。ふざけるな、じゃないが。こっちがふざけんなって言いたい。なにガチギレしちゃってバーサーカーなってんの。意味分かんない。
「いえあの……確かに怖かったですけど」
「うぅ、ホントごめんよぉ……」
「いえそうじゃなく」
そうじゃなく?
「カッコ良かったです……!」
「は?」
は?
「炎を突き抜けて逃げようとする私を地に叩きつけ、そこから始まる遠距離戦、と思いきや一気に距離を詰めて構造物破壊、その後一旦は防勢になるものの一瞬で対抗策を見出し、そしてそこからの突撃しての一撃!」
「お、おう?」
「そして私が立てないと見るや否や、ゆっくりと相手に近寄り恐怖を与え! 逃げようとする私を見てその退路を断ち! 更に頭の横に足を叩きつけて度重なる恐怖を植え付け!」
「お、おう」
「戦闘中はずっと重みのある言葉遣いで! しかもその格好がスーツ! 顔がよく見えなくなる認識阻害付き! もう! カッコいいとしか言えません!」
「お、おう……」
き、急に元気よく、目をキラキラさせながら喋り始めたぞ北股さん。だ、大丈夫かな、変な感じに頭打っちゃったのかな。
「私! アニメとかでも悪役の方に憧れていて!」
そして聞いてもいない事を語り出した。止まらない、止まらないぞ北股さん。
「主人公達を相手にしても何度も立ち上がって、何度も挑み続けて、それでも倒されて、でも自分達の目的を遂行するために諦めない、そんな姿に感銘を受けて!」
悪役ってそんなだっけ。だいぶ美化してない? 大丈夫?でも分かるわ。
「それでいて悪! ってのが最高にカッコよくって!」
「分かる」
あ、つい同意しちゃった。
「分かります⁉ 悪役の美学っていうんですかね! そういうのすっごい好きで!」
テンション更に上がっちゃった。これは本格的に止まらない予感。
「だから私が魔法少女になった時はどうしようかって思ったんですけど、倒すべき敵も主人公達も居ないわけじゃないですか?」
「居ないねぇ」
「だから私が悪になろうかなって!」
そうはならんやろ。
「だから目についた魔法少女の方々に片っ端から喧嘩を売ってたんですけど……」
「……その、なんかよく分からん凶戦士に出会っちゃった、と」
「素敵でした!」
「えぇぇ」
そうはならんやろ。
「吾妻さんは理想の悪役だったんです! しかも幹部クラスとかの!」
速報、私、悪役の幹部クラスだった。
「確かに、その、初めて全力で戦って、無我夢中で、気付いたらもう負けちゃってて、ここで死ぬのかなって思いましたけど」
「その節は本当に申し訳ございませんでした……!」
「いえ、良いんです、大丈夫ですよ。でも気付いたんです。悪役を演じていた私と違って、この人こそが悪役なんだって」
ほ、褒めてるんだよね……?
「そんな人が、実はお隣さんだったなんて思ってもみなかったですけど」
いやまぁ、殺しかけた子が実はお隣さんだったとか思ってもみなかったですけど。
「だから、これは運命なのかなって」
「運命?」
運命?
「はいっ。私と一緒に悪役やりませんかっ! お姉様!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ」
一緒に悪役やろうって、何言われたの。
てかお姉様って、何言われたの。
何言われたの私。
「お姉様……?」
「いや、その……あ」
視線があちこちにいって、ふと、北股さんの下半身に目がいった。
……漏らしてましたね、そういえば。
「……? ……っ! あ、やだ、やだ見ないでくださいっ⁉」
はい、そういう反応になりますよね。
「えっと、その節はごめんというか……着替え持って、ないよね」
「あわわわわわわ、ありま、せん……!」
急に普通の子みたいになって慌てだした。ちょっと可愛い。というか普通に可愛いんだよこの子。そんな子を殺しかけて、おしっこ漏らさせて、やば、ちょっとゾクゾク、って待てーい! その思考待てーい! ええい自分で自分が怖い!
「じ、じゃあ、その、急いで帰らないと、だね!」
「はっ、はい! あ、でも、これ、あぅ、どうしよ……」
いやそのまま帰らせるとかマジで鬼畜でしょ。
「よい、しょ」
「きゃあっ⁉」
あわあわしてる北股さんをお姫様抱っこする。うっわ軽いなこの子。ちゃんと食べてる?
「しっかり捕まってて」
「えぇぇ、いや、お姉様が汚れちゃ」
「はい舌噛むから黙ってー」
「はっ、はぃっきゃあああああああああああ‼︎」
肉体強化結界を内面に張り、跳躍する。
さー私達のアパートまでレッツゴー。でもどっち方面が家だっけ?
――――――
きゃーきゃー言い続けていた北股さんに案内されながら、無事に家へと辿り着けた。
でも空飛んでたんだし高いとことか平気なんじゃ?って聞いたら、
「飛ぶのと跳ぶのは違います!」
って言われた。そういうもんなのかな。
まぁとにかく、下が汚れちゃった北股さんを送り届け、隣の自分の部屋に戻った。
「…………」
戻って、戻ったところで、地に伏した。
「何やらかしてんの私……!」
いやだって! あんな、あんな!
……人を、殺しかけた。
けどそれだけじゃない。
私はあの瞬間を楽しんでいた。心の底から喜んで殴っていた。
北股さんは許してくれて、何故か慕われたけど、無事で、無事で本当に良かった。顔を見て、北股さんの顔を見て正気に戻れて良かった。
自分が怖い。冷静になった今だから分かる。冷静じゃないのかもしれないけれど、分かる。あれが、私の願望なんだって。
力を持って、力を破壊したい。でも蹂躙ではなく、ちゃんとした殺し合いをしたい。力と力をぶつけ合いたい。
なんて、なんて願望。どこまでもエゴ丸出しで、どこまでも危険な願望。
普通に生きてきたのに、生きてきたつもりなのに、こんなものが自分の根底にあるなんて、知りもしなかった。知りたくなかった。
……本当に?
いやもう気付いている。知らないフリをしている。
楽しかった。とても楽しかった。力で力を粉砕する事が楽しかった。
あんな楽しい事を知ってしまったら、もう元には戻れない。
あぁ、北股さんの言っていた、自分が悪役になろうって気持ちが分かってしまう。
いや、たぶん根本的に違う。悪役になりたいんじゃない。悪になりたいんだ私は。魔法少女という存在を、片っ端からぶん殴りたいんだ。
力を持たない一般人なんて興味ない。力あるものを、粉砕したいんだ。
「……お姉様?」
気付いたら、後ろに北股さんが……何故かジルコンの姿で立っていた。
「チャイムは鳴らしたんですけど……鍵が開いていましたので覗いてみたんですが」
困惑しながらこっちを見下ろすジルコン。見下ろされるの二回目だけど何の闘志も湧いてきません、いっそ殺して。
「あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、今全力で死にたいだけだから」
「大丈夫じゃないですよねそれ⁉」
驚愕しながらあわあわしてるけどやば、その格好であわあわしてたら可愛いだけだわ。いや元から可愛かったわ。
「可愛いなぁ」
「うぇっ⁉ ありがとうございます……?」
はー照れ照れしてるのかわいー。持ち帰りてー。癒されるー。
……いや、そうじゃなくてですね。
「で、どしたの。お参り? お礼参りする? 今なら全力でお礼参られちゃうぞ」
「しませんからっ!」
何だよぅ、断罪してくれよぅ。
「お姉様とちょっとお話がしたくて……」
あー。
まぁ、それもそうか。
「……私も。ちょっと散らかってるけど、上がって」
ところで何でジルコンのまま?