本編が進まなくて叡智な方のに逃げました。
閑話って言ってるけど本編に絡めるか微妙なラインなのでif的な感じに考えてください。
自分にすけべは無理なんだなって書いてて思った(こなみ
本編「ガーデナーと断絶3」の武器ぶん投げてGARDENに帰ってきたタイミングです。
GARDEN第八層。
輸送機が発着するポートの上空には、昼夜の区別も薄い人工の薄明かりが漂っている。
空調を押し流す冷たい風と、ドローンのプロペラ音。ブザーが時刻を知らせるたび、静けさの中に機械的なリズムだけが繰り返される。作業員たちの足音も遠く、今はほとんど人の気配がない。
その通路の片隅。冷たい床に、ひとりだけ異質な存在――リンデンは小さく体を折り畳んでいた。
背中は丸め、額を膝に押し付けるようにして。まるで幼い子どもが現実から目を背けるように、世界と自分を切り離している。
彼の呼吸は浅く、肩先がほんのわずかに震えている。軍服の袖口には戦闘の跡が残り、血と汚れにまみれた手が膝をしがみつくように握りしめられている。
ふと、規則的な靴音が静寂を切り裂いた。
ドローンの羽音に紛れるほど静かな足取り。しかし、その人物は迷うことなく一直線にリンデンのもとへ向かってきた。
「……いた。やっぱり、ここだったのね」
声はごく低く抑えられていた。怒りも呆れも、露わな感情はそこにない。ただ、事務的な確認のように短く告げる。
足音が止まる。
リンデンの正面に現れたのは、透き通るような白銀の髪を揺らし、黒いヘアバンドに整えた少女――モノだった。
手には硬質な端末パッドと書類束。彼女はそのまま、無駄のない動作で書類をぱたんと閉じ、床にしゃがみ込む。
「なに、ずっとそうやって床にでもなってるつもり?」
ぶっきらぼうな響きだが、声色は変わらない。
機械のような冷たさでも、優しさでもない、淡々とした“管理者”の口調。
モノはリンデンの顔色も目線も確認しない。けれど、その指先は自然に彼の前に伸びていく。両膝をつき、無理に視線を合わせようとはしないまま、ただ静かに距離を詰めていく。
「……起きないなら、起こすわよ。動かないなら、運ぶわよ。
どっちがいい?それとも、答えるのもめんどい?」
部屋の空気は微かに揺れた。リンデンは顔を上げようとしない。かすかな震えが指先から伝わる。
声にならない沈黙のあと、やっと掠れた声が漏れる。
「……モノ、姉さん」
言葉には、もう涙も怒りもない。ただ、自分がいま壊れかけていることだけを淡々と告げるような、力の抜けた音だけがそこにあった。
モノは、ほんの少しだけ眉を寄せた。
ため息を一つ、静かに吐き出す。その仕草には、冷静な観察とどこかで諦めにも似た受容が溶けている。
「……もう。そういう顔、するなって言ったのに」
声に感情は込めない。だが、淡い響きの奥で、その言葉が確かに届く。
モノは端末をそっと床に置き、膝を寄せて静かにリンデンの前へ。目線は合わせず、ただ距離だけを詰めていく。
「守りたかった?
じゃあ、守ればよかったじゃない。全力で。
……それが、あなたのやり方でしょ」
淡々とした口調に、ひどく現実的な言葉。
慰めでも、叱責でもない。ただ目の前に横たわる“結果”を並べ、彼の内側に残る責任感を、そっとなぞる。
「でも今は、守られなさい。
私が、あなたのことを管理するの。今日は、そう決めたから。反論はなし」
語尾だけ、ほんのわずかに柔らかさを孕んだ。
そのまま、モノは無駄のない所作でリンデンの手に触れる。冷え切った指先が、彼の掌の上に静かに降りてくる。その動きに躊躇いはない。
「……拒否権は、与えないから。
動かないなら、私が動かす。壊れてるなら、私が直す」
無感情を装いながらも、決して突き放さない。
モノは小さく呟いた。
「そうして育てたんだから。
最後まで、面倒みるに決まってるじゃない……“弟”のことくらい」
その言葉の響きは、ごく微かに空気を震わせて消えていく。
冷たい人工光の下、二人だけの小さな静寂が、しばらく破られることはなかった。
モノはゆっくりと立ち上がり、まだ力の入らないリンデンの手を取った。冷えた掌を包み込むように引き寄せ、そのまま黙って歩き出す。
リンデンは抵抗も反発もせず、ただ引かれるままに足を動かした。
通路には人工照明の淡い光が続いている。足元には滑らかなポリッシュの床、その上を二人分の足音だけが静かに響いた。モノの手は、普段の彼女からは想像できないほどしっかりと温もりを伝えている。歩く速度はリンデンに合わせて少しだけ遅い。
通路の端に差しかかったところで、モノは片手を離し、小型の携帯端末を取り出した。
スリープ解除し、指先だけで画面を滑らせ、タスク一覧を一つずつ無言で消していく。
「今日の予定……全部、キャンセル」
そのつぶやきは、本人しか聞き取れないほど静かで乾いたもの。
モノの指が触れるたび、彼女のスケジュールはひとつ、またひとつと空白になっていった。
だがそれだけでは終わらない。モノは、権限管理のアプリを開くと、リンデンの登録IDを検索した。
指紋認証を通し、ほんの数秒だけシステムにアクセス権を広げる。
「あなたの予定も、全部白紙」
淡々とした声色。だが、その操作の手際には一切の迷いも遊びもなかった。
軍事局やガーデナーとしての予定、割り当てられた訓練、連絡待機や報告書の提出まで、リンデンの端末に自動で割り振られていた全てのタスクが、一瞬で消去された。
「今日は、何もしなくていい。誰からも呼ばれないし、何の命令もないから」
そう言いながら、モノは再びリンデンの手を取り直した。静かな通路には、ほんのわずかに二人分の靴音と、モノが端末を操作するわずかな電子音だけが残る。
モノはリンデンの手を離さず、まるで迷子の子供を導くように、静かに、しかし確かな意志で歩みを進めていく。
目指す先は第六層、騎士寮へと直通する軌道エレベーター。
そのための長い通路を、二人は周囲のざわめきから切り離されるようにして歩いていた。
道すがら、制服姿のガーデナーたちや技術局の白衣のスタッフたちが頻繁にすれ違った。誰もがふと立ち止まり、あるいはすれ違いざまに目を見張る。
普段なら決して交わることのない二人――多忙な騎士であるモノと、全滅保証と呼ばれた一端のガーデナーであるリンデンが、手を繋ぎ無言のまま進んでいる。
その光景は、この場所に居る誰にとっても意外で、胸の奥に微かなざわつきを残していた。
中には、思わず声をかける者もいた。
「モノさん?今日は講義が――」
「マガジンさん、どうしたの?」
低く沈んだ声や、慌てたような呼び止め、気遣う囁き。リンデンの肩がそのたびに微かに強張り、繋がれた手が震えるのがモノの掌に伝わった。
立ち止まりそうになるたび、モノは躊躇なくその手を引き戻す。彼女の指は強く、まるで全ての世界からリンデンを守る遮蔽であるかのようだった。
周囲の誰かが進路に割り込んできても、モノは一切視線を向けない。ただ淡々と、寸分の乱れもなく歩を進める。その横顔には、決意と静かな拒絶が浮かんでいる。
「あとで」――たった一言だけ、無機質な声で応対し、それ以上は踏み込ませない。その間も、リンデンの手を決して離さない。
リンデンが反応しようとした瞬間には、まるでそれを見越していたかのように、歩調を崩さず指先に力を込めた。
廊下の先、エレベーターの自動ドアが開いた。
モノはほとんど立ち止まることなく、リンデンを伴いその中へ入る。
ドアが静かに閉まるまでの間、外のざわめきが薄れていく。二人だけの密やかな空間の中で、ようやく周囲の目も声も遠ざかっていった。
彼女の導きは徹底していた。リンデンを外界の気配や雑音から切り離し、その心が置いておける場所へ――ただそれだけを目的として、モノは黙々と、しかし絶対的な意志で彼を連れて歩き続けていた。
彼女の指は、今も確かにリンデンの手を包み込んで離さない。そのぬくもりだけが、彼に「まだ自分はここにいていいのだ」と告げているようだった。
無機質な電子音が短く響き、重厚なセキュリティドアが静かに開く。
GARDENの騎士に与えられる個室の中でも、モノの部屋はひときわ広く、そして凛とした空気を漂わせていた。
壁際には幾つもの資料棚や無駄のない作業台、整然と畳まれた寝具と必要最低限のインテリア。ガラスのような光沢を持つ床と、規則正しく配置された端末類。
余計なものは何一つないが、ただ静謐な秩序と冷静な気配が満ちている。
扉が閉まると、外界のざわめきが一気に遠ざかる。
モノはそのまま、リンデンの手を軽く引きながら奥へと進み、真新しいガラスの仕切りが透けて見えるシャワールームの前で立ち止まった。
リンデンは戸惑ったまま、足元に視線を落としている。
モノは一息つき、背後から振り返って彼を見据えた。目元には何の感情も浮かばない。
「シャワー、浴びたら?任務帰りでしょ」
その言葉はごく自然で、当たり前の指示のように淡々と発せられる。
だが、リンデンはすぐに動けなかった。何をすればいいのか、一瞬分からなくなったかのように、その場に立ち尽くす。
モノはそんな彼の様子をしばらく見つめてから、わずかに眉をひそめる。
「何?自分で脱げないの?」
その言い方には皮肉も突き放しも混じっていたが、どこか普段通りの調子だった。
「いえ……」
リンデンは小さく答え、ぎこちない動作でシャワールームの中へと歩みを進めていく。その背中を、モノは静かに見送る。
リンデンは静かに衣服を脱ぎ、無機質なガラス戸の奥へと姿を消す。
シャワールームのドアが閉まると、ガラスは自動的に曇り、外からは彼の姿も表情も見えなくなった。
天井のライトが柔らかく反射し、壁の向こうで細いシャワーの水音だけが響く。リンデンはゆっくりと蛇口をひねり、冷たさも温かさもほとんど感じないまま、ただ頭から静かに湯を浴びた。
滴る水が、彼の髪や肩、胸元を流れ、やがて身体についた血や埃を少しずつ洗い落としていく。排水溝には茶色い水が渦を巻きながら流れていった。
リンデンはその様子を、まるで他人事のように見下ろしていた。
排水口へと流れ消えていく汚れ――それが、これまで幾度となく失ってきた“仲間たちの命”に見えてしまう。
守れなかった重み、擦り切れていく悔恨。どんなに洗っても、どんなに落としても、自分にだけは拭いきれないものが肌の奥底に残るような気がしていた。
心は深い底の泥に沈んだまま。
――どうして。
――どうして。
――どうして。
頭の奥で問いかけだけが何度も巡り、動きは再び止まる。シャワーの湯だけが変わらず流れ続け、世界から色も音も奪っていく。
どれくらい時間が経っただろう。リンデン自身、もう感覚をなくしかけていた。
「――呆れた。ほんとに“底”じゃない」
突然、シャワールームにかかるはずのない声が響いた。
リンデンは思わず目を見開く。ガラスの向こう、蒸気に滲む輪郭の中に、一糸まとわぬモノの姿があった。
いつまで経っても出てこないリンデンに、ついに業を煮やしたらしい。モノは、彼女らしく淡々と、しかし一分の躊躇いもなくシャワールームに入ってきた。
そのまなざしには、いつもの冷静さと、わずかに呆れた色が宿っている。
モノの身体は、彼女自身の生き方をそのまま形にしたようだった。
余分な脂肪のないしなやかな筋肉、小ぶりながら張りのある胸、鍛えられた背中と丸みを帯びた臀部――すべてが無駄のないストイックな美しさをたたえている。
白い肌の上を水滴が滑り落ち、滑らかなラインを描いていく。
不意に現れたモノの裸体に、リンデンは一瞬動揺して目を伏せた。
「すみません……」と小さな声を漏らしながら、背を向けてシャワールームから出ようとする。だが、その肩にモノの手がそっと置かれた。
「いい、私がやるから。あなたは黙って洗われてて」
モノの声音は変わらず冷静で、少しだけ命令的だった。
そのまま彼女は、リンデンを静かに引き戻す。二人の距離はごく近く、湯気に包まれた密やかな空間に、二人の呼吸だけが響く。
リンデンは居心地悪そうに俯いたまま、所在なげに立ち尽くした。
モノは何も言わずに、まずはゆっくりとシャワーの温度を調整し、彼の髪に手を伸ばす。指先が濡れた髪を梳き、頭皮を丁寧に洗い始める。
無駄のない所作。静けさと、決して乱れないリズム。
シャワーの音に混じって、しばらくのあいだ二人の間に会話はなかった。ただモノの手がリンデンの身体を静かに洗い流し、彼はただ、委ねるしかなかった。
モノは無駄のない手つきでリンデンの髪を洗い流した後、今度はその身体に指を滑らせていく。
肩から背中にかけて――細やかに、そして淡々と泡を転がし、丁寧に洗い上げていく。
背中を洗い終えると、モノは静かにリンデンの正面へ回り込んだ。
しばらく視線を交わすこともなく、モノはリンデンの手を取り、そのまま腕をゆっくりと洗い始める。
その途中、ふと掌に触れた時、モノの手がわずかに止まった。
「それ、まだ治してなかったの」
リンデンの手の掌には、赤黒く硬い火傷の痕が残っていた。まるで高熱の鉄塊か何かを、素手で握りしめたまま焼き尽くされたかのような古傷。
その傷痕は、彼がガーデナーとなった初任務――仲間を救えなかったあの夜、全てを犠牲にしてヘイロリウムを臨界駆動させた証だった。
「……まだ、治したく、なかったんです」
リンデンは小さく呟いた。その声音には、悔いと、後悔と、何か決意のようなものが静かに混じっていた。
モノは少しだけ手を止めたが、すぐに「……あっそ」とだけ短く返すと、何事もなかったようにまた泡立てた手でリンデンの腕を洗い続けた。
彼女の動きは変わらず一定で、無駄も情も表に出さない――ただ、その手だけが、ごく僅かに優しかった。
泡立てた掌が、リンデンの胸元を静かになぞっていく。温かな湯気とほのかな石鹸の香り、モノの無駄のない指先。シャワールームの曇ったガラス越しに、ふたりの影がゆっくりと揺れている。
リンデンはその手元をじっと見つめていた。胸の奥にじわりと熱が広がり、何かを言いかけては言葉にできず、呼吸だけが浅くなる。
やがて、彼はそっと腕を持ち上げた。動作は恐る恐る、迷いとためらいが混じっている。濡れた髪が頬に張りつき、水滴が首筋を伝い落ちる。
そして、意を決したようにモノの背中へと手を回した。滑らかな素肌の感触と、彼女の体温が指先からゆっくりと伝わってくる。
リンデンは何も言わず、そのままモノを弱く抱きしめる。力はとても弱く、壊れてしまいそうなものを扱うように、ただそっと腕を回しているだけだった。
モノは動かない。彼女は洗いかけの手を止め、なすがままにリンデンに身を預けていた。身体のどこにも強張りはないが、目線は淡々と遠くに落としたまま。
しばらくの間、ふたりの間には水音だけが満ちていた。
湯気に包まれ、泡の弾ける音と、皮膚越しに伝わるささやかな心臓の鼓動だけが空間を埋める。
リンデンの胸からも、モノの肩口からも、小さな呼吸が重なるように溢れている。
「……体、洗えないんだけど」
モノがぽつりと呟いた。
声には皮肉も怒りもない。ただ少しだけ困ったような響きが混じっている。
その言葉に、リンデンの体はわずかにこわばる。抱きしめた腕に、微かな力が入る。だが、それでも彼は腕を離そうとはしなかった。
静かな沈黙の中、リンデンは何かを伝えたくて、でもうまく言葉にできなくて、小さく震えていた。
そんな彼を見て、モノは短く息をつく。
洗うことを諦めるように、ごく自然な動きでリンデンの背中へ手を回す。
泡のついた掌が、彼の肩甲骨をそっと撫でる。互いの素肌が寄り添い、温もりが静かに伝わっていく。
シャワーの水音が絶え間なく降り注ぐ。湯気と泡に包まれた狭い世界で、リンデンとモノは寄り添い、互いの息遣いだけが静かに響いていた。
リンデンの背中に回した腕越しに、モノは彼のかすかな震えが、徐々に静まっていくのを感じ取る。さっきまで氷のように固まっていた筋肉が、少しずつ、温もりとともに緩み始めていた。
モノの指は、慎重に動く。片方の手は変わらずリンデンの背を支え、もう一方の細い指先を、彼の背中のラインから腰骨へ、ゆっくりと滑らせていく。
リンデンの肌は、かすかに粟立っていた。まだ不安も戸惑いも残っているのだろう。だが、モノの指がゆっくりと下腹部へと降りていくにつれて、彼の呼吸が変わった。
緊張と熱の入り混じる気配。モノは、あくまで無言のまま――まるで自分の感情も、欲も、一切表に出さないように。だが、その仕草にはごく微かなやさしさが宿っている。
細い指先が、彼の熱源にそっと添えられる。モノは、掌全体で包み込むのではなく、指先でなぞるように、ゆっくりと刺激を与え始めた。
濡れた素肌に指が触れ、ぬるりとした感触が生まれる。
リンデンの身体が、小さく震えて反応した。「姉、さん……」と――掠れた声が微かに漏れる。
「いいから」
モノは低く短く、いつもと変わらぬ調子で答える。
だが、その声には、どこか淡い熱がにじんでいた。
彼女は、静かな所作でリンデンの熱を指先で転がし、撫でる。
優しくも、どこか執拗に――まるで“手順”をなぞるように、でも決して無機質にはならず、ぬくもりだけをじっくりと伝える。
リンデンの呼吸は段々と熱を帯び、目を閉じて自分を委ねるようにモノに寄り添う。その髪が首筋に落ちて、水滴と一緒に微かに震えた。
モノは彼の反応を確かめるように、しばらくは淡々と同じ動作を繰り返していた。
だが、徐々に動きは変わる。指の力がわずかに増し、手のひらで包み込む範囲も少しずつ広がっていく。
ピンと張った熱の感触と脈動を、モノは無駄のない動きでたしかに捉えていた。
リンデンの呼吸は次第に荒く、声にならないうめきが喉の奥からこぼれる。
水音と心音が、静寂の中で混じり合う。
モノはあくまで淡々と、だが徐々にその所作に力強さと執拗さを混ぜていく。
熱が手の中で膨らんでいくたび、彼女の手つきは緩急をつけ、時折指先で敏感な部分を撫で上げる。
リンデンの両肩には未だ不安が残るが、モノの手が確かに彼を導き、奥深くまで快感の波を注ぎ込んでいた。
無機質なはずのモノの指先は、その時だけ確かに“生きた体温”を帯びていた。
シャワーの音とは異なる水音が、密やかに湿度を増した室内に響き渡る。
リンデンの熱を包み込むモノの手が、徐々にその動きを速めていくたび、彼の身体は敏感に震え、肩に預けた体重が重くなっていく。
吐息が浅く乱れ、腕がモノの背中へきつくしがみついた。肌と肌がしっとりと絡み合い、ふたりを包む湯気の濃さがさらに熱を帯びる。
モノは、彼の背に回していた片手をゆっくりと後頭部へ這わせる。濡れた髪を撫で、そのまま優しく、しかし迷いなくリンデンの頭を引き寄せた。
唇が重なった瞬間、リンデンは驚いたように一瞬息を呑む。
だがモノはすぐに、柔らかな唇を彼の唇に密着させ、くぐもった吐息をもらしながら、彼の中に微かな声を流し込んだ。
「んっ……ぁ、ふ……」
熱と混ざり合うように、吐息がリンデンの口内をくすぐる。モノの舌がリンデンの唇をなぞり、そっと誘うように触れ合うと、リンデンもおずおずと口を開き、ぎこちなく舌を差し出してきた。
ぬめるような湿度の中、舌同士が絡み合い、唇と唇の間に熱い水音が溶ける。
リンデンの腕に力が入った。
抱き寄せる力が、モノの背中をさらに強く引き寄せる。
彼女の指先の動きはますます激しく、的確に、執拗に熱の芯を捉えていく。
リンデンの呼吸が一段と荒くなる。
抱きしめた腕が震え、くぐもった喘ぎが唇の隙間から零れた。その震えが、モノの身体にも直接伝わってくる。
次の瞬間、リンデンは声にならない呻きをもらし、全身をこわばらせて、精を吐き出した。
ドクン、ドクンと脈動する彼の放つ精液が、モノの手の中から溢れ、白い筋となって彼女の腹部から下腹部、太もも、そして彼女自身の秘部へと流れていく。温かな液体が肌を伝い、シャワーの水滴と混ざり合いながらゆっくりと滑り落ちた。
モノは、リンデンの絶頂に合わせて自らの口付けを深くし、舌を絡めたまま離さない。
震える彼の身体を受け止めるように、しっかりと抱きしめ、扱く手を緩めず、しっかりと最後の一滴まで搾り取る。
「……ん、ふ……」
モノの息遣いはかすかに熱っぽく、鼻から抜ける声が耳元に触れる。
リンデンの体温が、彼女の胸から腹、太ももにかけて染み込んでいく。
熱と快感が波のように去った後も、ふたりはしばらく密着したまま、静かな余韻の中にとけ込んでいた。
リンデンは、しばらくの間、全身の力を抜いてモノに身を預けていた。熱い吐息が交わり、二人の胸が重なったまま、どちらからともなく深く息を吐く。
シャワールームを満たす湯気のヴェールの中で、しとどに濡れた肌同士が静かに寄り添っていた。
モノの腕がリンデンの背中を包み込み、指先がゆっくりとその筋肉をなぞる。抱き寄せる腕に込められた力は、淡々とした普段の彼女からは想像もつかないほど優しく、柔らかな体温を伝えていた。
リンデンの鼓動は徐々に静まり、荒れていた呼吸も少しずつ穏やかさを取り戻していく。
胸元にモノを抱き納めたまま、彼は瞼を閉じて自分の存在が今ここにあることを噛みしめていた。ただ静かな安堵と、深い疲労がその身を包む。
モノはリンデンの背中をそっと撫でながら、彼が全て吐き出したこと、少しだけ楽になったことを肌越しに感じ取っていた。
どちらも何も言わなかった。
空間にはシャワーの絶え間ない水音と、湯気が壁を伝って流れ落ちていく音だけが続く。ガラスに映るふたりの輪郭はぼやけ、誰にも見られない密やかな時間の中、小さく世界から切り離されていた。
モノは、リンデンの頭を片手で優しく抱き寄せる。もう片方の手は背骨のラインをゆっくり上下しながら、時折優しく爪先で背中をなぞる。彼女の表情はいつも通り無表情に近いが、吐息だけはわずかに熱を含んでいた。
「……安心して。今だけは、全部捨てていいから」
その言葉は、ごく小さな声で、耳元にだけ届くように囁かれる。
モノは決して甘やかすことはしない。でも、今だけはリンデンに何も背負わせない。ただ自分の腕の中に抱き込んで、その体温を全て受け止めていた。
リンデンは、微かに震えながらも、しばらくモノの頬に顔を埋めていた。しだいに、少しずつ腕の力が抜けていく。頬に伝う水滴は、シャワーの雫か、安堵の涙か、誰にも分からない。ただ、身体の奥底から何かが静かにほどけていくのを、リンデン自身も、モノもはっきりと感じていた。
ぬくもりが、ゆっくりと二人のあいだを満たしていく。
やがてシャワーの水音が小さくなり、ふたりの静かな呼吸が、余韻とともに長い時を溶かしていった。
静まり返った部屋の中、微かな寝息だけが夜の空気を柔らかく震わせている。
カーテンの隙間から差し込む仄かな灯りが、ベッドの上に寄り添うふたりの輪郭を淡く浮かび上がらせていた。
何も纏わぬまま、リンデンはモノの胸元に顔を埋めて、すっかり眠りに落ちていた。彼の呼吸はゆっくりと深く、時おり小さく喉が鳴る。しなやかで力強い背中が、規則正しく上下している。
モノ自身も、生まれたままの姿でシーツの中に身を沈め、胸元にすっぽり収まったリンデンの髪を指先でやさしく梳いていた。
その指はとても静かに、彼の髪の一本一本をなぞり、たまに額の汗をそっと拭ってやる。
この子の生きている音、肌越しに伝わってくる鼓動、穏やかに満たされた体温――そのすべてを、モノは息を潜めて味わっていた。
「――また少し、大きくなったわね」
ぽつりと落ちたその言葉は、まるで自分自身に向けられた独白のようだった。
二十歳になった弟は、死線を越えて成長を続け、いつの間にか肉体だけなら自分を追い越していた。腕も、肩幅も、眠る横顔すら大人びて見える。
けれど――モノの中で、リンデンはいつまでも不器用なままだった。
甘え方が分からず、人から受け取った好意や優しさを、いつも全力で返そうとする。少しでも自分が楽をしてはいけない、どこかで思い込んでしまった優しすぎる弟。
彼がGARDENにやってきた赤ん坊の頃から、軍事局に身を置くようになった今までの十七年間。
モノは、そのすべての日数分の身長、体重、髪の伸び方、食事の好みや寝相の変化、幼い声や初めての失敗、笑った顔も泣いた顔も――どれ一つ、鮮明に覚えていた。
彼の人生を、成長を、どこまでも妥協せずに見守ってきた。
運命が“親”として彼を守り、トロイが赦しを与え、受け止めてきたのなら――モノはこの子に知識と選択肢を与える者、導く者としての役割を引き受けていた。
プロブレムにかつて投げかけられた問いが、ふいに脳裏によみがえる。
『でもさ、こういうのって、答え合わせができる頃にはもう“間違ってたかも”って気づけないこと多いじゃん?
この子にとっての“正解”って、なんなんだろって』
モノは、シーツの中でほんのわずかだけリンデンの頭を抱き寄せる。
――正解なんて、誰にも分からない。
それでも、今こうして胸元で眠る彼のぬくもりを感じている限り、自分は何度だってこの選択を繰り返す。
この子が自分の人生を歩けるように、自分が背中を押し続ける役割を引き受けること。
それが、モノにとっての“答え”だった。
ベッドサイドのカーテン越し、深い夜の闇に溶け込むような窓の外から、淡い月明かりが射し込む。
黒に近い深緑の髪――その一筋一筋が、夜の光を受けて微かに色を変えていく。翡翠を砕いたような冷たい輝きが、髪の奥にやわらかく浮かび上がる。
モノはその変化をじっと見つめながら、ゆっくりと髪を指に絡ませ、繰り返し梳いていった。
『この子の髪は、本当に綺麗』
いつかの時にトロイが口にしていた言葉。普段なら軽く受け流すだけの台詞――だが、この夜ばかりは珍しく、モノの心に素直に沁みていく。
「……確かに、綺麗よね」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いた。
リンデンの深い緑の髪には、幼い頃の艶やかな光も、大人びて厚みを増した今のしなやかさも、すべてが溶け合っていた。指で撫でるたび、一本一本がわずかに跳ね返るように弾力を持ち、その柔らかさと細さに成長の軌跡を感じさせる。
眠る彼の横顔をそっと覗き込み、額から耳元へ、乱れた髪をやさしく整えてやる。
髪を梳くその動きは、ただの習慣でも儀式でもなく、“今夜この子とここにいる”という確かな実感だった。
夜の光がふたりの輪郭に寄り添い、静かな時間がベッドの上に降り積もる。
モノは、そのやさしいリズムを乱すことなく、まだしばらくのあいだ、胸元に抱き寄せたリンデンの髪を静かに梳き続けていた。
次回すけべする騎士(10/5まで)
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風雅
-
ソナタ
-
濡羽
-
玄鉄
-
レアリザス︎︎ ♂︎︎or ♀
-
スリー♂︎︎ or♀