病んでしまったエアリスは星を救う使命を放棄しクラウドと二人で生きる道を選ぶ 作:ゴロスケ
かつてエアリスと呼ばれ、セトラの末裔である花売りの女性は笑っていた。まるで長年の苦悩が報われたように、無邪気に、満足げに──。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
狂気的な哄笑が神殿内に響き渡る。それはこの世に降臨した災厄そのものであった。
星の声を聞き、誰よりも深い優しさを持っていたはずの女性。しかし、自身の心の内側に巣喰う狂気によってその心は壊れてしまった。クラウドの心と身体を、愛情と独占欲を剥き出しにして蹂躙し尽くして……。
「っ……」
拳を握り締める。爪が食い込む程に強く。その心に宿るのは、目の前で笑い続ける女性への憤怒だった。
「──さない」
「んー?」
「エアリス!!あなたを絶対に許さない!!」
握り締めた拳から血が滴り落ちる。
クラウドが本当の意味でエアリスを選ぶならそれで良かった。悔しいけど、エアリスにはそれだけの信頼があった。彼女の純粋さと優しさは眩しくて、皆が惹かれていた。
だけど今は違う。エアリスは狂気に蝕まれた末にクラウドの記憶を改竄し、偽りの関係を築き上げ、自分以外の存在を認知すらさせないなどという暴挙に及んだ。かつての彼女であれば到底有り得ない手段によって、クラウドは壊されてしまった……。
「エアリスッッ!!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!」
私は必死に体を動かそうとした。目の前の悪魔からクラウドを解放するために。しかし相変わらず神殿の重力に縛られたかのように身動きが取れない。
「返してッ!!クラウドの自由を!!彼の心を返してええ!!」
地に体が押し潰される中、私は必死にエアリスに手を伸ばすも届かない。それでも諦めきれず声を振り絞る。たとえ届かないとわかっていても叫ばずにはいられなかった。
「ふふ……ティファ、そのクラウドへの気持ちだけは、嫌いじゃないよ?」
「うるさいッッ!!あなたはクラウドを壊した!!私達の大切な約束を、思い出を踏みにじった!!絶対に許さないッ!!」
エアリスが蔑むような目で私を見下ろす。かつて仲間として過ごした時間や互いに支え合った日々などまるでなかったかのように扱われることに対する怒りと悲しみが爆発しそうになる。
しかし、どれだけ暴れようとも神殿の力に抗えない。私は無様に転げ回るしかなかった。
「え、エアリス?どうしたんだ?」
「ん?」
「い、いや……急に笑ったり、怖い顔したり……」
「ううん、大したことじゃないの。本当に大したことじゃない。ただ……」
エアリスは一拍置いて言葉を区切り、満面の笑みを浮かべながら言った。
「わたし以外の誰も、もうクラウドに手を出せなくなったっていうのが嬉しかっただけだよ?」
「えっと、よく分からないんだが……?」
「ふふっ……気にしないで。それより、いっぱい出し合っちゃったね?ベッド汚れちゃったよ?」
「えっ!?ご、ごめん……!」
「いいの。クラウドは悪くないもん。わたしも……その……嬉しかったし?ね?」
「そ、そうか……エアリスがいいならそれでいいんだけど……」
目の前で繰り広げられる異常な光景に吐き気がする。エアリスの境遇は辛いものだったかもしれない。しかし、彼女はそれを乗り越えて星の未来を守るために尽力していたはずだ。
だけど、今のエアリスはどうだろう。心の奥底に隠していた黒い感情を曝け出し、他者の人生すら歪める非道な行いを正当化している。かつては心から信頼し、尊敬の念さえ抱いていたエアリスはもうどこにもいない。
「ふふっ……あはははは……」
「エアリス?やっぱり今日は変だぞ?もしかして具合が悪かったり……」
「……クラウド」
「え?」
クラウドが困惑した表情を浮かべる中、エアリス声色は突如として低くなる。対照的に表情は満面の笑顔だった。
「ごめんね、またちょっとだけ寝てて?」
「ぁ……」
再びエアリスの瞳が怪しく輝く。クラウドは抵抗する暇もなく意識を失い、エアリスの腕の中へと倒れ込んだ。
「大丈夫、すぐ終わる。クラウドは少しだけ眠ってて。悪い奴ら、やっつけてくるからね?」
そのままクラウドをベッドに横たえると、彼の頭を優しく撫でる。その仕草は先程まで狂気を振るっていた人物とは思えないほど慈愛に満ちていた。かつてのような、星や仲間達を慈しむ優しいエアリスがそこに居るような気がしてしまうほど。
しかし、その表情も一瞬だけのことだった。エアリスは衣服を着ると私達の方へ振り返る。その瞳はクラウドに向けていた慈愛とは全く異なる冷酷な光を放っていた。
「どこまでも、どこまでクラウドを弄んで……!!」
「弄んでなんかないよ?クラウドのことを考えての行動だよ?」
「嘘つき!!あなたは自分が満たされることしか考えてない!!」
もう何も信じられなかった。かつての優しいエアリスの面影は何処にもなく、目の前にいるのは狂気に染まった悪魔そのものだ。
「あなたはもう私の知ってるエアリスじゃない……!クラウドを、クラウドを返してぇっ!!」
私は泣き叫んだ。エアリスの瞳は氷のように冷たく、一切の情け容赦が感じられなかった。
このままでは本当にクラウドを失ってしまう。それだけは避けなければならない。その焦燥感だけが私を突き動かす原動力となっていた。
「エアリス……最低、今のアンタマジでクソ!!」
「もう我儘なんて言葉じゃ済まねえぞ!こんなことして本当に幸せになれるとでも思ってんのか!?」
「エアリス、クラウドを解放して!お願いだから……!」
仲間達が次々に訴えかける中、エアリスは私たちを一瞥すると小さく笑みを浮かべた。
その表情には狂気と優越感が入り混じり、もはや正気とは思えないものだった。私達の言葉は彼女にとって雑音でしかない。
「みんなうるさいなぁ……」
その呟きと共にエアリスの瞳が煌めき、神殿内の風景が変わる。教会を模した空間は消え去り、無機質な石造りの部屋へと様変わりする。しかし中央のベッドは健在であり、クラウドは静かに眠り続けていた。
神殿の力は依然として私達にのしかかり続け、身動きを取ることはできない。
「わたしね、みんなとの旅、楽しかったんだ」
「え?」
「クラウドだけじゃない。みんなが居たから、わたしも本当の自分を見つけられた。ティファも、ユフィ、バレットもナナキも……楽しかったよ?ミッドガルを出て、船に乗って、コスタの海で泳いで、砂漠を歩いて、ゴールドソーサーで遊んで……ウェポンもジェノバもみんなで頑張って戦って、一緒に美味しいご飯を食べて……」
エアリスの瞳は悲しげに潤んでいる。しかしそれは感傷に浸っているわけではなく、ただ単に記憶を反芻しているだけのように見えた。
「この瞬間がずっと続いたらいいなって思ってた」
「だったら!!」
「でもね、わたし、いずれは運命に殺されちゃうの。だから、クラウドと一緒に居る為にはこうするしかなかったんだよ?」
意味深な台詞に私の思考が停止する。運命に殺される?どういう意味だろうか?
エアリスが何を言っているのか理解が追いつかない。
「最後に見せてあげるね。わたし達のこれから」
「っ……!?」
瞬間、エアリスの足元から深紅の花びらが舞い上がる。それらは渦を巻くようにエアリスを取り囲み、やがて薔薇の形へと変化していく。
周囲の景色も赤一色に染まり、エアリスを中心として現実と夢想の境界が曖昧になっていくような錯覚を覚えた。スラムの教会とはまた違う、どこまでも広がる神秘的な空間が生まれる。床一面に咲き誇る赤い花びらの絨毯。
「赤色のお花畑。綺麗でしょ?花言葉は──"永遠の愛"。前にクラウドにあげたお花は"再会"。でもそれって、別れの先にあるものだよね。今のわたしが好きなのはこっち」
エアリスが舞い散る花弁を摘み取りながら語る。花売りの彼女らしい仕草ではあるものの、その表情には恐ろしいまでの執着心が滲み出ていた。
「違う……そんなの……そんなのは愛なんかじゃない……!」
「愛だよ?だって、わたしはクラウドとこれから一生離れ離れにならないんだもん」
「そんなのエアリスのエゴだよ!いい加減目を覚まして!」
私は叫ぶ。しかしエアリスは微笑むだけだった。彼女の心に私の声は届かない。エアリスは自らの欲望のためだけに全てを犠牲にしてしまったのだ。
仲間も絆も、クラウドの心でさえも……。
「ふふっ……やっぱり理解されないよね。でもいいよ。我儘だってわかっててやってるもん」
エアリスの周りを浮遊する赤い花びらが螺旋状に集まっていき、やがて一本の花冠を形成する。エアリスはそれを手に取るとクラウドの頭へと乗せた。
「うん、完璧。後は──みんなに死んで貰えば、本当の幸せが始まるんだ」
「───ッ!?」
「なっ……!?」
予期せぬ宣告に私を含め仲間達全員の顔色が変わる。驚愕、動揺、困惑、疑念。様々な感情が混ざり合い、思考が追いつかない。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!何言ってるんだよエアリス!?」
「クラウドを洗脳して……!オイラ達を殺すつもりなのか!?」
ユフィとナナキが慌てふためく。当然の反応だろう。エアリスが今言った言葉は本気だった。冗談や脅しではないということはその瞳を見ればわかる。
「エアリス!何を考えてやがる!って、聞いてんのか!オイ!」
バレットが怒号を上げるも、エアリスは意に介した様子もなく手を合わせ目を閉じる。それは彼女が大切な人を、犠牲になった者への敬意を表する時の祈りの姿勢だった。
「ね、ねぇ!エアリス、何か言ってよ!ねぇ!」
ユフィは必死に呼びかけるもやはり反応はない。神殿内に耳障りなほどの地響きと共に瓦礫が降り注ぎ、瞬く間に天井から崩れ落ちた石片が床に積もり地鳴りと共に周囲を揺さぶり始めた。
「う、嘘だ……嘘だよね、エアリス」
「……しつこいなぁ」
呆れたような声色で呟かれたその一言が私達を絶望に突き落とす。ゆっくりと瞳を開けたエアリスの表情はまさに冷酷無比と呼ぶべきもので、もはや慈悲の欠片もない悪魔へと変貌していた。
「嘘じゃないってば。最初からそのつもりで誘い込んだもん。みんなが祝福してくれるなら、殺さないであげても良かったけど。残念」
「何で!?何でエアリスはそんな風に変わっちゃったんだよ!」
ナナキが咆哮を上げる。同時に鋭い牙を剥き出しにして威嚇するも、神殿の力には敵わないようで身動きが取れない。
「エアリス……アンタ、正気じゃねえぞ……!」
「あはっ……バレット、本当にありがとう。バレットが『我儘になれ』って教えてくれたからわたし、強くなれた。中途半端だった自分を変えられた。クラウドを独り占めしてもいいって勇気をもらえたんだよ?」
その一言に私の全身から力が抜けていく。バレットがエアリスを諭したことで彼女は狂気に走ったのは間違いない。
けれどそれは私達全員の問題だ。結局誰もエアリスの心の痛みを本当の意味で理解してあげられていなかった。彼女にとってクラウドは唯一の希望であり救いだった。その気持ちを無視して彼女を追い詰めた責任は私自身にもある。それでも……。
「エアリス……!」
「ふふ……ティファ、すごいね。まだそんな顔ができるんだ」
私はなんとか首を起こし、エアリスの瞳と目を合わせる。その奥には計り知れないほどの歓喜とクラウドへの執着が渦巻いていた。
今更命乞いは……しない。でも、クラウドだけは救わなければ。
「……クラウドだけは」
「ん?」
「せめて、クラウドだけは……解放してあげて!」
私は必死に叫ぶ。エアリスの行いを許すことは出来ない。それでも、彼女のクラウドへの想いは間違いなく本物だった。だからこそ届かせる。それがせめてもの償いになると信じて。
「お願い、エアリス!!こんな歪んだ関係なんて築かなくても、クラウドはエアリスを理解してくれる!今までがそうだったでしょ!?だってクラウドはずっとエアリスを──!」
「やだ」
「ぁ……」
私の必死の訴えは、エアリスのあまりにもあっさりとした拒絶で遮られる。その瞳は冷酷な色を帯びており、それがエアリスの本性だった。もはや誰の言葉も届かない……。
「クラウド、わたしたちは別の部屋に行こっか。"永遠の愛"が咲いたお部屋で、二人だけの思い出、いーっぱい作ろうね?」
「……ん……」
エアリスは未だ眠り続けるクラウドを優しく抱き上げる。そのまま私達に背を向け歩き出した。
止めなければ、何としてもこの凶行を阻止しなければと思うものの体は一切動かない。全身の力が抜けていく感覚と呼吸さえもままならない息苦しさに苛まれながら、私は懸命に叫び続けた。
「エアリスっ!!待って!!クラウドを!クラウドを元に戻してええっ!!」
「やだよ、やだやだあ!!」
「くそっ、くそがあああ!!」
「ティファ、ユフィ、バレット。みんな……っ」
仲間達の叫び声が遠ざかる。彼らは崩れゆく瓦礫に飲み込まれ、やがて静寂だけが訪れる。そして、後には私一人だけが取り残された。
「あ……ああ……!クラウド、待っ……て……!」
エアリスに抱き抱えられたクラウドに手を伸ばすも届かない。距離が離れるにつれ、彼の顔も遠ざかっていく。彼の心は完全にエアリスに支配され、本当の彼を知る者はもうこの世に私しか存在しない。
それどころか、彼ら二人の世界に私は立ち入ることすら叶わない。私達の関係は終わったのだ。
──ならば……せめて、これだけは伝えておきたい。
「クラウド……好──」
「──サヨウナラ」
最後の言葉を紡ごうとした瞬間、地響きと共に強烈な振動が襲う。全てが黒に染まった。神殿の崩壊により生じた大量の瓦礫が私達を覆い尽くす。
仲間達の悲鳴も聞こえなくなるほどの轟音と圧力に押し潰される。もはや絶望すら感じられなくなっていく。
意識が闇に染まる中、最後に聞こえたのはエアリスの狂気に満ちた笑い声だけだった……。
エアリスのヤンデレは?
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最高
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いいぞもっとやれ
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似合わない
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怖い