病んでしまったエアリスは星を救う使命を放棄しクラウドと二人で生きる道を選ぶ 作:ゴロスケ
伍番街スラムの教会、かつてはこの場所で懸命にお花を育てて売っていた。
教会の内部には、木製のベンチが並び、壊れたステンドグラスから薄明かりが差し込んでいる。床の中央部分には、板が抜け落ちた場所に土が露出し、そこにお花が咲いている。かつては黄色、ピンク、白。様々な色の花が地下から光を求めるように咲いていた花は、今は全てが赤く統一されている。
"永遠の愛"──赤色の花びらがひらひらと舞い散る中で、わたしは中央のベッドに眠りについている彼を抱き締めていた。
「クラウド……」
その温もりを感じながら彼の髪に顔を埋める。指先で確かめるように髪を梳き通しながら、クラウドの匂いを堪能する。
セトラの力を使って実現したわたし達だけの教会。これから始まるのはわたしたちだけの未来。もう邪魔者はいない。
「ふふっ……」
誰にも見られていない。だから抑えなくていい。わたしの高揚を示すかのように赤い花びらが宙を踊るように舞い続ける。
彼の存在を近くに感じるだけで安心感を得られる。それと同時に彼に対する愛しさが溢れ出していく。早く目を覚まして欲しい反面、永遠にこうして寄り添っていたいという矛盾した気持ちが心を侵食していく。
しかし、そろそろ限界だろう。今のわたしは彼の意識すらも掌握している。クラウドの意識は一分もすれば目覚める。
ならば、やはりわたしの声で起きてもらいたい。
「もしも〜し!クラウドさ〜ん!」
「ん……」
「もしも〜し!朝ですよ〜!」
「ん……ぅ…?」
わたしの呼びかけに呼応するかのように彼の瞼が微かに揺れた。ゆっくりと開かれていく瞳孔。
焦点が合わずに彷徨う視線がわたしのものと重なった瞬間──クラウドは驚いたように飛び起きた。
「え、エアリス……!?」
「おはよう、クラウド。目、覚めた?」
声をかけるとその目には以前のような鋭さはなくどこか戸惑ったような不安げな光が宿っている。まるで子供のような無防備な眼差し。
思わず衝動的に抱き寄せそうになってしまうがなんとか堪えることに成功する。まだ早い。今は少し落ち着くべきだと自分を律する。
「……な、何で?俺、どうして……ここに……?」
「どうしたの?そんなに驚いた顔して?」
わたしはわざとらしく首を傾げる。
そう、今の彼には記憶がない。先程までティファ達の前でわたしと愛し合っていたことも、エッチした時の記憶も全て忘れてもらった。
少し名残惜しいけど、新しい思い出はここから始まるのだから問題ない。それにあの時は記憶操作がまだ十分ではなかった影響で、感情もどこか希薄だった。
わたしを愛してくれているが、単にわたしの言うがままに動くマリオネットのようだったのも否めない。
でも今は違う。今度は彼自身の意思でわたしを選んでくれるはずなのだ。そのための準備は万端である。
「こ、ここは……?」
彼の声は弱々しく震えていた。まだ混乱しているのだろう。わたしは彼を安心させようと出来る限り優しく答える。
「セトラの神殿。星の中心で、特別な力があるところ」
「せ、セトラの神殿……?どうしてこんな場所に?」
「クラウドを治療したくてようやく見つけたの。それでね……色々あったんだけど」
「色々って……一体何が?」
「それは……ゆっくり説明するね。焦らなくても大丈夫だから」
そう言って彼の頬に触れると、クラウドは身を引くでもなく受け入れてくれた。少しだけ安心したように息をつくと同時に目を伏せる。
暫く沈黙が続いた後、わたしは少しずつ告げていく。
「クラウドはね、ずっと眠ってたの。ニブルヘイムの事件で、わたしを守る為に体がボロボロになって……」
「ニブルヘイムで?」
クラウドの記憶を読み取ったわたしには彼の過去に何があったのか全てを把握していた。だから自然に会話を合わせることができる。
「うん。クラウド、一般兵として村の調査に来たでしょ?それでわたしが案内役になって」
最も、ここからは書き換えた記憶の領域。本当に道案内をしたのはティファ。しかし今のクラウドに彼女に関する記憶は存在しない。
「っ……」
「思い出した?クラウド、ずっとヘルメット被ってて顔が見えなかったけど、わたし、すぐにわかったよ。声も仕草も全部クラウドだったもん」
クラウドは顔を俯かせる。ティファは気づいてなかったけど、クラウドは確かにニブルヘイムに来ていた。ソルジャーではなく、単なる一般兵として。
「エアリス……ごめん」
「え?」
「俺……結局ソルジャーになれなかった。ずっとエアリスに約束してたのに……守れなかった」
彼の声が震える。その表情には深い悔恨と自己嫌悪が浮かんでいた。やはりどこか人形のようだった前とは違う。しっかりと感情が芽生えている。
「謝らないで?クラウドは充分頑張ったもん。それに……セフィロスに立ち向かってたんでしょ?」
「あれは、単に不意をついただけで……」
5年間の記憶。それはザックスですら難なく倒したセフィロスを一般兵士だったクラウドが倒したという事実。
流石に驚いてしまった。ソルジャーなんかよりずっと勇敢で凄いことを成し遂げたのに、そのことに気が付いてすらいないなんて。
「ううん、凄いこと。だって──わたしの為にやってくれたんでしょ?」
再び5年間の記憶を確認する。暴走したセフィロスによって故郷を焼かれ、怒りに燃えるティファが返り討ちにされたことでセフィロスに立ち向かうことを決意したクラウド。
気絶したティファの頬を泣きそうな目で撫で、怒りと哀しみに燃えながら立ち向かった姿に嫉妬心が湧き上がるが、必死で抑える。
その記憶の中のティファはクラウドの中ではわたし。約束したのはわたし。クラウドがセフィロスに立ち向かった理由は、わたしが倒されたから。書き換えた記憶を再認識させる為に彼の頬に触れる。
「ね?クラウドは確かにソルジャーにはなれなかったけど、わたしにとっては最高のヒーローなんだよ?」
彼の瞳に涙が滲んでいる。わたしはそっと彼を抱き寄せた。彼の体が小刻みに震えているのが伝わってくる。
「俺は……守れなかった。母さんも、ザックスも、エアリスのことも……」
「ううん、守ってくれた。クラウドはちゃんと守ってくれたよ」
彼の背中を擦りながらわたしは呟く。嘘偽りない本音だ。彼は守ってくれた。
それだけじゃない。わたしが一番望んでいたものをいつも。わたしにいつも幸せをくれた。
「ごめん……ごめん……」
「……いいんだよ?今は泣いてもいいから」
クラウドの体がさらに強く震える。嗚咽を押し殺すようにわたしの胸に顔を埋めている。必死で泣かないように堪えている姿に胸が締め付けられるような愛おしさを感じると同時に、胸の奥で別の感情が疼く。
(ふふっ……)
思わず口元が緩む。これは紛れもなく独占欲。今までずっと抱えて来た彼への想いが今ここで成就しようとしている。ティファですら知り得なかったクラウドの弱さ。その全てがわたしの腕の中にある。
「エアリス、ごめん。もう少し、もう少しだけこのまま……」
「っ……」
彼の小さな呟きに心臓が跳ね上がる。同時に、彼のわたしを抱き締める力が強くなる。その力強い腕と温もりがとても心地良い。こんなの期待以上だ。でも……。
──そう……それでいいの。
──もっと、もっと依存して?
──もっと、もっとわたしを必要として?
心の中で欲望が膨れ上がっていく。彼の体温を肌越しに感じると更に昂ってしまう。いけないと思いつつも止められない。
こんなに傷つきやすくて頑張り屋で、不器用で、誰よりも優しい彼をこれ以上戦わせる訳にはいかない。また誰かに利用されて、都合の良い道具として使い捨てられるかもしれない。
それだけは許さない。だからここに閉じ込める。ずっとわたしだけを見てもらう。
例えその選択のせいで星が滅びたとしても構わない。わたしにとってはクラウドだけが全て。この人以外は何も要らない。
「ねぇ、クラウド」
「……え?」
彼がゆっくりと顔を上げる。わたしは彼の両頬に手を添えてそっとキスをした。触れるだけの優しい口づけ。
クラウドの身体が僅かに跳ねる。戸惑いと恥じらいが混ざった表情。その表情が堪らなく愛おしい。
「好き」
短く告げたその言葉にクラウドは目を見開き硬直した。性格は素直になったけど、こういうところは変わらないのだと笑みが溢れる。
「クラウドの気持ち、知りたいな」
わたしがそう言うとクラウドは狼狽した様子で目を逸らす。顔を真っ赤にして口籠もっている姿が可愛らしい。
まだ早い。でも、もっと欲しい。そんな欲張りな想いを自覚しつつも、焦りは禁物と自分に言い聞かせる。きっと大丈夫だ。きっと──。
「……俺も、エアリスが好きだ」
「──!」
「だからソルジャーを目指した。いつかこの人を守れるくらい強くなりたいってずっと思ってた」
わたしの心臓が高鳴る。まさかこんなにもストレートな言葉が返ってくるとは予想していなかった。でも嬉しい。本当に嬉しい。嬉しい!
「エアリスは、その……本当に俺でいいのか?ソルジャーにもなれなかった男だぞ?」
クラウドは自信なさげに言う。その不安げな表情も愛おしい。あんな偉業を成し遂げておいて、なんで自己評価は低いんだろう。わたしには理解できない。
けれど──そういうところがたまらなく好きだと思う。もっと褒めてあげたいし甘やかしたい。彼の心をわたしだけでいっぱいにしてあげたい。
「クラウドがいいんだよ?ソルジャーとか関係ない。クラウドが好き」
「エアリス……」
クラウドは顔を上げるとわたしの目を真っ直ぐ見つめてきた。その瞳に宿る決意の色に思わず息を呑む。
5年前のニブルヘイムの惨劇で見た勇姿。ティファの為に立ち向かった勇敢な姿。今彼は同じ表情でわたしを見つめている。
「ありがとう。俺も──エアリスが大好きだ。頼りないかも知れないけど、エアリスのこと守るから」
頭が真っ白に染まる。全身が歓喜で震える。
大好き───わたしが一番聞きたかった言葉。ずっとずっと欲しかった言葉。待ち望んだ言葉。夢にまで見てた言葉。ずっと会いたかった本当のクラウドが、真の人格を取り戻したクラウドが、ようやくわたしを見てくれた。
「……ごめん、エアリス。少し落ち着いた」
クラウドはゆっくりと体を離すと申し訳なさそうに言った。わたしの腕から抜け出ようとするので慌てて引き留めようとしたが寸前で思い留まる。今はまだそのタイミングではない。
「って、ここ、よく見たら教会……?いや、違うか?」
「んー、半分当たり!セトラの神殿の空間を教会にしたの。ほら、お花もこの通り」
「花?って、何で頭にこんなものが……!?」
クラウドはようやく頭につけられた花冠に気が付き手で外す。少し恥ずかしそうにしてる姿に笑みが零れる。
外して欲しくはないけど、この羞恥に耐える顔も可愛いので良しとする。元々はティファ達への見せしめだったので目的は果たせている。
「す、凄い再現度だけど、赤い花ばっかりだな。エアリス、教会じゃ色んな花を育ててたのに」
クラウドは外した花冠を眺めながら呟く。普通に考えれば疑問を持つだろう。わたし達の思い出の象徴であるスラムの教会なのに花が赤一色というのは些か奇妙すぎる。
クラウドに疑問を抱かせないよう記憶を操作することもできたが、やはり本心からの言葉が欲しかった。
「これはね。"永遠の愛"っていう意味を持ってる赤いお花なの」
「……えっ?あ、愛……か?」
「うん。ふふっ」
クラウドは明らかに戸惑っている。さっきまで抱きしめ合って気持ちを通じ合ったばかりなのにこの反応。そういうところも可愛いけど、本当に鈍感だなと苦笑してしまう。
「もう"再会"は必要ないから。これからは永遠に一緒に居てくれるんだよね?」
「ま……まぁ……そうだけど、急に言われると」
「えー?クラウド、さっきはあんなに格好良かったのにー」
わたしはわざと拗ねた振りをしてみせる。クラウドはますます困ったような顔をする。本当に分かりやすい。
でももっと困らせたい。もっとわたしを意識して欲しい。もっともっと深く刻み込んで欲しい。わたしの存在を。わたしという存在がどれだけ彼にとって重要であるかを理解させたい。ただ──。
「えっと……状況がよくわからないんだ。村のことやセフィロスのことも気になるし……」
やはり自我が強くなってしまった代償は大きい。仲間達に見せつけた時のように強制的に書き換えは出来るけれど、それはもうしない。
ティファの記憶は消えたとはいえ、彼にとっては故郷とお母さんを亡くしてしまった事件だ。どうしても無視はできないだろう。
「だって、セフィロスはクラウドがやっつけたでしょ?村は神羅が復興してくれたから」
「でも、あのセフィロスがそう簡単に……」
クラウドの疑問も当然だ。5年前のあの日、セフィロスはクラウドに魔晄炉へ落とされた時点で肉体的には死んでいる。ただし精神は完全に滅んではいない。今のわたしにはあの人が何を企んでるのかが容易に想像できる。でも……。
「大丈夫。セフィロスはこの5年間、一度も見つかってないから。多分、もう生きてないと思う」
嘘は言っていない。肉体的には死んでる。ただし精神は滅んでない。彼の魂は今もライフストリームの中で漂い続けているだろう。
でもクラウドにそれ以上教えるつもりはない。必要もないだろう。大切なのはわたしだけを見てもらう事。余計な情報は要らない。
「待ってくれ。要するに俺は五年間も寝てたのか!?」
「うん、そういうことになる……かな?」
わたしはあえて曖昧な表現をしながら首肯する。この五年間、クラウドは本来の自分を見失っていたとなればこちらも嘘という訳ではない。ティファや仲間達の記憶が消えた以上、余計な負担をかける必要もない。
「なんというか……通りでエアリスが大人っぽくなってると思った……」
「もー!クラウド、失礼すぎー!」
わたしは膨れっ面を作りつつ内心では安堵していた。この会話だけでもわたしとクラウドの関係性が劇的に変わったことがわかる。
しかし、場を和ませる為に言ったつもりが、クラウドの目に浮かんだのは涙だった。
「そっか……俺、本当に約束を守れたんだ」
思わず言葉を失う。彼の中でティファとの約束が如何に大きかったのか痛感させられたからだ。
しかし、今やその約束の相手もわたしになった。そう思うと優越感と悦びで胸が一杯になる。
「……エアリス、その、俺も……エアリスと一緒に居たい。5年も呑気に寝てた俺が言うのも何だけど」
「呑気なんかじゃないよ?クラウドはたくさん頑張った。だから──もう休んでもいいんだよ?」
その言葉はわたしにとって、最後の試練。記憶操作の影響下にあるとはいえ、自我を持つクラウドから選んでもらうこと。
これ以上は耐えられない。早く答えを聞かせてほしい。期待と不安が入り交じり鼓動が激しくなっていく。
「休んでいい……のかな?約束は守れたけど、母さんやザックスを救えなかった。俺にそんな資格なんて……」
「あるよ?クラウドが頑張ってくれたから今のわたし達がいる。きっとクラウドのお母さんやザックスもそれを望んでると思う」
ザックスの名を口にした瞬間、少しだけ罪悪感が湧き上がる。わたしが初めて好きになった人。
もし彼が今のわたしを見たらどんなに失望するだろう?それでも譲れない。
所詮はあの人もわたしを置いて空へ昇ってしまったのだ。例え目の前に現れようともわたしを否定するなら仲間達と同様に星に還ってもらう。
今のわたしはクラウドだけが全て。クラウド以外は必要ない。
「……クラウド、わたし、ずっと一緒に居たいです」
「エアリス……」
「クラウドも、同じ気持ちだと……嬉しいです」
改めて告白をする。わたしの本心を今度こそ伝えたいから。クラウドの瞳に迷いが見える。
迷うのも無理はない。でも答えは決まっているはず。だからあとは待つだけだ。
「……ありがとう、エアリス。俺、ずっと居るよ。エアリスの側に」
「──!」
その言葉を聞いた瞬間───わたしの中で何かが弾けた気がした。胸の奥底から熱いものが込み上げてくる。嬉し涙が止まらない。
「だから、エアリスも……っ!?」
「クラウド……!」
「えっ?な、何!?エアリ──」
「んっ……くちゅ……はむ……♡」
衝動的にクラウドをベッドに押し倒す。そのまま覆いかぶさり唇を奪う。
もうダメだ、我慢できない。もっとクラウドが欲しい。もっとクラウドを感じたい。もっとクラウドに触れたい。もっとクラウドを味わいたい。もっとクラウドと愛し合いたい。もっともっともっと───!
わたしは当初に思い描いたシチュエーションなど忘れ、ただ本能の赴くままにクラウドを求めてしまった。
エアリスのヤンデレは?
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最高
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いいぞもっとやれ
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似合わない
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怖い