病んでしまったエアリスは星を救う使命を放棄しクラウドと二人で生きる道を選ぶ 作:ゴロスケ
静寂。"永遠の愛"を象徴する赤いお花が敷き詰められた教会の片隅。わたしとクラウドは素肌を重ねたまま、汗と愛液に濡れたベッドで微睡んでいた。
クラウドの穏やかな寝息が聞こえる。ジェノバ細胞がなくなった彼の顔つきはやはりどこか少年のようで、その無防備な寝顔を見つめているだけで胸が温かいもので満たされていく。わたしはそっと手を伸ばし、彼の頬に触れた。思った通りすべすべしていて気持ちいい。
「ふふっ……可愛い」
わたしに満足するまで抱かれ続けて疲れ果てたのか、クラウドは再び眠りに落ちてしまった。それまでの陵辱に等しい行為やティファ達の前での見せつけた時とは違う。わたし達だけの、誰にも邪魔されない本当の愛の営み。
記憶を改竄したとはいえ、初めて彼から求められて迎えた瞬間──その幸福感は言葉では言い表せない。クラウドはわたしを選んでくれた。わたし以外は何も見えなくなってくれたのだ。
わたしの指が無意識のうちに彼の髪を梳いていく。クラウドはくすぐったそうに眉根を寄せたものの起きる気配はない。
この無垢な寝顔を見ていると愛おしさが募る一方で、彼を苦しめた宝条の非道な実験やジェノバという呪縛が一層憎らしくなる。
「クラウド、大丈夫だよ?もう誰もクラウドを傷つけたりしないから」
わたしは自分自身に言い聞かせるように呟く。クラウドは本当に多くの困難に直面してきた。単にみんなに認められたくてソルジャーになりたかっただけの少年が、何故こんな過酷な運命を背負わなければいけなかったのか。
もう充分傷ついた。彼はもう充分頑張った。だから今度はわたしが支えてあげる番だ。例えこの先、星がどんなに悲鳴を上げようとその為にクラウドを巻き込むというのなら──。
「絶対に許さない……」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。あれだけ救いたかった星、今を生きる人達。空へと登ってしまった母やザックス。わたし自身の手で星へと還した仲間達。
自らの髪飾りを解き、その中にあったマテリアを指でなぞる。大好きだった母の形見である白いマテリア。これが何を意味するのか、今のわたしにはわかる。
「うん、わかる。わかるけど──もう使わないよ?だって、クラウドが傷つく世界なんて要らないもん」
そうして、大切だったはずのマテリアを放り投げる。カランカランと乾いた音を立て床へ転がったそれは、もうわたしには何の価値もない。
あの人もザックスも、わたしを置いて空へと昇って行ってしまった。肝心な時に側に居てくれない人の願いを叶えてあげる義理なんてどこにもない。それに──。
「クラウド、わたしがいなくなって悲しんでくれたもんね」
それは、本来起こるはずだった未来。運命はわたしにクラウドの隣に立つ事を許してくれなかった。
それでもクラウドは悲しんでくれた。泣いてくれた。それがただ嬉しくて、辛くて、苦しくて。思い出すだけで胸が裂けるように痛い。
「大丈夫。今度はもう離れないから。これからは、ずっとずっと……一緒だから」
未だに眠り続けるクラウドの頬に手を添える。すると、彼が自分を責める声が聞こえて来る。
──ひたすら自分が情けない。
──絶対にソルジャーになるって言って村を出たのに。
──エアリスはああ言ってたけど、本当に俺を許してくれたのだろうか。
「本当、ズルズルズルズル……変わらないなぁ、クラウド」
本人にとって苦痛の記憶なのはわかってる。それでも尚、わたしへの愛情が混ざった声がどうしようもなく嬉しくて口元が緩んでしまう。
「大丈夫、大丈夫だよ?ソルジャーになんてなれなくても、わたしはずっとクラウドが大好きだから」
クラウドの頭を優しく撫でる。そのまま慈しむように髪を撫でると彼は小さな寝息を立てはじめた。
そう、英雄になんてならなくてもいい。ソルジャークラス1stじゃなくたって構わない。不器用でも、誰より優しくて勇気のある人。そんなクラウドだからこそ好きになったのだから……。
「んっ……」
クラウドが可愛らしい唸り声を上げる。愛おしさが込み上げてきて思わず額にキスを落とした。起きる気配はないが、寝顔はより安らかになっているのがわかる。
「ねぇ、クラウド……わかる?わたしのここ……」
わたしは自分のお腹をさすりながら呟く。彼との子を身籠った証拠を探してみるけれど当然ながらまだ膨らんでいるわけではない。それでも確かに感じる胎内の違和感──それは間違いなく彼との愛の証。
「一緒に育てようね?わたし、スラムで色んな子のこと見てきたからちゃんとお世話できると思うよ?」
クラウドはまだ眠ったまま。無意識の行動だろうか?わたしの手に自分の掌を重ねてきた。その仕草があまりにも自然すぎて一瞬思考が停止する。
「……クラウドってたまにすごく積極的になるよね」
少し呆気に取られたもののすぐに嬉しさが全身を駆け巡る。いつもは恥ずかしがり屋なのに時折こういった意外性を見せてくるのは前から変わらない。
「ふふっ……クラウドはどっちだと思う?男の子かな?それとも女の子かな?」
わたしは眠り続けるクラウドのもう片方の手を自らの腹部へと導きながら囁く。
お腹を撫でてもらうようなイメージで手を添えると彼の温もりが伝わってきた。
「わたしは……男の子がいいな〜。クラウドみたいな、最初はちょっと意地っ張りだけど、とっても優しい子」
わたしはクラウドの手の上から自分の手を重ね合わせる。もちろん現時点でどちらか分かるわけはない。
でもどうしても考えてしまう。もし、もしもこのお腹に宿る命が女の子だったら……。
「お父さんのこと、好きになっちゃうかもしれない……ね」
冗談半分で呟いた言葉のはずが無意識にクラウドの手を力強く握ってしまっていたらしい。
クラウドは何かを感じ取ったのか手を抜こうとするが、許さない。絶対に逃さない。
彼の指と指の間にわたしの指を絡ませていく。ゴールドソーサーでクラウドがわたしにしてくれたように──クラウドを決して逃がさないように……。
「大丈夫。わたしとクラウドの子だもん。きっと良い子に育つよね?」
クラウドはようやく抜け出せないと観念したのか抵抗を止めてくれた。恋人繋ぎのまま、再び穏やかな寝息を立て始める。
「ふふっ……それでいいんだよ?クラウドはもう、ずっとここに居ればいいんだから」
クラウドの耳元に唇を寄せ、そっと囁く。そのまま彼の耳朶に触れる。少し震えた気もするが構わず続けていく。吐息がかかり彼の体温が上がるのを感じる。
「大好き……」
わたしは繋いだ手をさらに強く握り締める。
そう、もう我慢なんてしない。誰であろうとわたし達の関係を邪魔する者は許さない。この思い出の教会で、"永遠の愛"のお花が咲き乱れる中で、二人だけの幸せを築いていくのだから──。
「ん?」
ふと気配を感じる。小さな音がわたしとクラウドのいる場所からかなり離れた入口の方から響き渡るのを確かに聞いた。
「はぁ……間が悪いなぁ」
思わずため息が漏れる。どうやら神殿内に侵入してきた何者かが居るらしい。本当に空気が読めない。わたしは目を閉じ、気配を探った。
この気配は──シド、それにヴィンセント?
外で待機していた仲間達だ。ケット・シーの気配もある。
わたし達が戻らないことを心配して探しに来たのだろうか?すでにわたし達がこの神殿から帰らなくなって半日以上経つ。当然と言えば当然の行動だ。
「ふふっ……どうしよっか?クラウド」
わたしは目を閉じたままのクラウドに問いかける。彼は依然として深い眠りについている。
わたしが望むのはこの教会でクラウドとの永遠の時を刻むことだけ。ならこのまま放置するのも一つの選択肢ではある。ティファ達の時のようにこちらが誘導でもしない限りこの空間に足を踏み入れることは不可能なのだから。
それにヴィンセントやケット・シーはともかく、シドには仲間達に内緒で何度もこの神殿に連れて行ってもらった恩義がある。諦めて帰ってもらえないかと願った矢先──。
「あ、死体……見つけちゃった」
どうやら彼らはわたしが瓦礫で生き埋めにした仲間達の骸を見つけてしまったようだ。
それぞれが悲嘆に暮れる声が聞こえて来る中、クラウドは?エアリスは?という声が段々と大きくなっていく。特にシドはわたしの安否を案じてくれているようで神殿の床や柱を叩き続けているのがわかる。
「諦めて帰っては……くれないよね」
むしろ仲間達の無惨な死体を目撃した彼らはより一層わたし達の捜索に躍起になったようで神殿全体を探し回っているようだ。
あの様子ではわたし達が見つからない限り帰るつもりはないだろう。
「しょうがない。もうひと頑張りしますか」
ため息混じりに呟きながら上体を起こす。クラウドは依然として熟睡している。彼の眠りを妨げるわけにはいかないので慎重に身支度を整えていく。
下着をつけシャツとホットパンツを履きジャケットを羽織る。いつも通りの服装に戻り気を引き締める。
もちろん、話し合いで済めばそれが一番良いに決まっている。
ただ、もし拒絶されたら、その時は──。
「ふふっ……」
思わず笑みが溢れる。ようやく完成したクラウドとの新婚生活。それを脅かす者がいるのならば容赦はしない。クラウドはわたしが守る。絶対に渡さない。他の誰にも奪わせない。
わたしは意を決して絡めていた指を解く。少し前までは怯え、震えていた彼の指先が今では温もりを求めるかのようにわたしを追いかけてくる。
「……ごめんね、クラウドはここで待っててね」
耳元でそっと囁く。彼の手から力が抜けていくのが分かる。わたしだってこのまま二人きりでいたい。それでも行かなければならない。
教会の扉に手を掛けつつ振り返る。わたしの大好きな人が微笑みながら眠っている。思い出の場所で、沢山のお花に囲まれながら──。
「ふふっ……あはははははは、あはっ♪アハハハハハハハハハハッッ♪アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!」
わたしは笑った。声が枯れる程に大声で嗤った。
やっと掴んだ幸せ、運命の壁を乗り越えた先にあった本当の愛。ずっと後悔のないように生きていたつもりだった。
でも、心のどこかでは諦めてしまっていたんだろう。クラウドへの想いは一方的で、報われなくとも構わないと自分に嘘をつき続けた。
寂しかった。苦しかった。クラウドの側に居られない現実を受け入れたくなかったんだと今ならわかる。
でも、今は違う。わたしは運命に抗った。その結果、こうして最愛の人と共に生きる道を手に入れたのだ。後悔など一欠片もない。
「───クラウド」
大好きな人の穏やかな寝顔を眺めながら呟く。彼はまだ夢の中だ。起きる気配はない。仮に目覚めたとしても、彼はこの場所から動こうとは思わないだろう。
クラウドはずっとこの場所で幸せな時を刻み続ける。
"永遠の愛"のお花が咲き乱れるこの場所で──。
「ナニガアッテモ、イッショダヨ?」
──Fin
思ったより長くなりましたが、完結。
ここまで読んでくれた人本当にありがとうございます!良かったら評価、感想などを頂けると嬉しいです。
エアリスのヤンデレは?
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怖い