病んでしまったエアリスは星を救う使命を放棄しクラウドと二人で生きる道を選ぶ 作:ゴロスケ
あれから、何日が過ぎたのだろう。
わたしたちの旅は続いた。ニブルヘイムを後にし、黒マントやセフィロスの手がかりを追って各地を巡る日々。
わたしの中では複雑な思いが渦巻いていた。ティファとクラウドの親密さは相変わらず。わたしはできるだけ自然に振る舞うよう努力したけれど、バレットの言葉とあの日の決意は日に日に大きくなっていった。
クラウドがわたしを見つめるとき、胸が高鳴る。でも同時にティファへの嫉妬が燃え上がる。
セトラの巫女としての責任と、一人の女の子としての願い。
二つの間で引き裂かれそうな日々、そんな中で見つけた希望の光。
「あっ、みんな。もしかしたらあそこなら──」
ある朝、わたしは仲間達に告げた。
ギ族によって創り出された黒マテリアが封印されたとされている場所。他にも何か手がかりがあるかもしれない……わたしはそう説明したけれど、本当の目的は別にあった。
古代種の神殿。セトラの血を受け継ぐ者にとって神聖な場所のはずなのに……今では恐ろしいほど静まり返っている。
かつては多くのセトラたちが集まり知識と力を分け合った場所。そこには強力な魔法陣や封印が施されている。
「エアリス、本当にここに何かあるのか?」
「うん。なんとなく分かるの。セトラたちはわたし達を導こうとしてる気がする」
クラウドの問いかけに答える。もちろん建前に過ぎない。わたしはこの場所を以前から知っていたし、狙いも決めていた。
「なんか雰囲気ヤバくねぇか?寒気がするぜ……」
「とにかく調べてみよう。何か手がかりがあれば……」
クラウドが先頭に立って進み出す。ティファがそれに続く。
この神殿に足を踏み入れたのはクラウドとティファ、バレット、ユフィ、ナナキの五人。
わたしは最後尾でみんなの背中を見つめながら胸の中で繰り返す。
──そう、ここで……
──ここで、すべて終わらせる。
「黒マテリアってすごいお宝なんでしょっ?早く手に入れないと!」
「ユフィ、油断しないでよ」
「わかってるって~」
ユフィの無邪気な声とナナキの注意する声。いつも通りの会話の中、意識はただ一人に向かっていた。
クラウドの横顔を見つめる。彼は周囲を警戒しているように見えたが……何か違和感があった。いつもより表情が硬い。
「クラウド、大丈夫?」
「ああ……」
短い返事。でもその声に力がない。黒マテリアの魔力に引き寄せられているのだろうか?
胸が痛む。彼を守りたい。でも……今はそれ以上に別の感情がわたしを支配していた。
──彼を完全にわたしのものにしたい。
その為に、わたしは準備を進めていた。神殿の奥深くへ進むにつれて、わたしの鼓動は速くなる。
「ぐっ……」
その時、突如クラウドが膝をつく。
まただ。黒マテリアの影響でクラウドが乱れる現象。彼の中で何かが目覚めようとしている。
「クラウド!」
叫んだのはティファだった。彼女は一瞬の躊躇もなくクラウドに駆け寄る。その姿を見て胸が締め付けられる。
ああ、やはり彼女はクラウドにとって特別な存在なのだ。それが悔しくて堪らない。
「大丈夫だよ、クラウド。落ち着いて」
「ぅ……」
「ゆっくり呼吸して。みんながいるから」
まるで母親が子供をあやすように……でも彼女の声には深い愛情が込められている。その光景を見ているだけで吐き気がする。
クラウドはティファに導かれながら徐々に落ち着きを取り戻していった。
「すまない……また迷惑をかけた」
「気にしないで」
クラウドの弱々しい声に応えるティファの笑顔。その光景はあまりにも自然で完璧だった。二人の間にある絆は誰にも割り込めないことを示している。
「二人だけの世界のところ悪いけど、そろそろ進まない?」
「そうだね。神羅やセフィロスも来てるかも」
ユフィの軽口に続いてナナキも声をかける。彼らはもう先に進み始めていた。わたしとクラウドとティファの三人が取り残されている形になる。でも……わたしにはそれが好都合だった。
「大丈夫?クラウド」
「ああ……すまない」
「ううん。本当に無理しないでね。具合が悪いなら少し休んでも……」
「大丈夫だ。それより、今は急がなきゃな」
クラウドはティファから体を離して立ち上がる。その表情には明らかな安堵の色が浮かんでいた。黒マテリアの影響から解放された喜び。そして……ティファがいる安心感。わたしはその様子をただ見つめていた。
(最後の会話……だね)
心の中で呟く。ティファは大切な友達。それは今でも変わらない。だけど……。
わたしの目的のためには、彼女は邪魔な存在にしかならない。わたしはクラウドを手に入れる。そのためには手段を選ばない。この旅で培った絆も、友情も、全て捨て去る覚悟をした。
そして、今こそ実行に移す時だ。
「っ!ちょっ、何!?」
「地震か!?」
「みんな伏せて!」
地面が大きく揺れ始める。神殿全体が崩れ落ちそうなくらいに激しく震動し、壁から岩が落ちてくる。
「ちょっ、いきなりなんなのさ!?もしかして神羅!?」
「わからない!ニオイはしないけど、この振動は何かが近くに居るかも!」
ユフィとナナキの声が響く。パニックになる一同。わたしはその中で冷静さを保っていた。だって、偶然ではないから。
──そして、ここからが本番だ。
「クラウド!エアリス!」
仲間達の叫び声が遠ざかっていく。それは側から見れば、わたしとクラウドの身体がまるで引力に引かれるようにして、崩れ落ちた通路の先へ吸い込まれていくように見えただろう。
「な、何がどうなってんだよ!?」
「クラウド!!」
「ティファ!」
クラウドもティファも異変に気付き互いに手を伸ばす。手と手が触れ合う直前で──わたしは遮るようにそれを振り払った。
そのままクラウドを自分の元に抱き寄せる。彼の腰に腕を回し、しっかりと抱きしめる。
「エアリス!?」
「大丈夫。わたしに任せて」
「何して……!?」
「いいから」
わたしは彼の耳元で囁いた。その声は自分でも驚くほど冷たい。でもそれは表面上だけで、内心では喜びに震えている。
やっと、やっと……わたしのものにできる。この瞬間をどれほど待ち望んだことか。
「あはっ、念入りに準備しておいてよかった」
誰にも聞こえない小さな声で呟く。あの日から仲間の目を盗んで何回もこの場所を訪れた。
何度も何度も拒否され、それでも諦めずに来たからこその結果。最後の一歩を踏み出すために……わたしは自らの意思で禁忌の領域へ足を踏み入れた。
「クラウド!!」
遠目でティファの姿が消えていくのが見えた。悲痛な表情で必死に手を伸ばしている。その姿があまりにも健気で哀れで……それ以上に憎らしい。でももう遅い。あなたの出番はここまで。
「待っててね……」
「っ!エアリス、何をする!?」
抵抗するクラウド。でもわたしは一切力を緩めない。
彼を捕まえる。彼をわたしのものにする。それが今の唯一の目的。
「少しだけ、寝ててね……」
「……!?」
わたしは自らの瞳をクラウドに向けた。クラウドから見れば、わたしの目が不自然に光ったように見えたことだろう。それを捉えた瞬間、クラウドは大きく痙攣し、その意識は闇へと沈んでいった。
「ふふ……アハッ……あははははははははははっ!」
完全に意識を失ったクラウドを抱きかかえながら、わたしは笑いをこらえられなかった。
成功した。わたしの計画通りに。これで彼は……永遠にわたしのものになる。
「ここなら大丈夫だよね?他の誰も来ない。ずっと一緒だよ」
崩壊する神殿の中、わたしはクラウドを抱きかかえながら周囲の光に包まれる。強烈なエネルギーが私たちを飲み込み、空間が歪んでいく。
まだだ。これはまだ始まりに過ぎない。この先に待ち受けるのは本当の試練。でも乗り越えられる。彼と共にいれば。
「じゃ、行こっか。ね?クラウド」
わたしはクラウドの耳元にそっと囁きながら、その唇を重ねる。
次の瞬間、神殿の光は完全にわたし達を飲み込んだ──。