病んでしまったエアリスは星を救う使命を放棄しクラウドと二人で生きる道を選ぶ 作:ゴロスケ
「いや……だ……!やめろ……!」
叫び声すら満足に出せない自分が情けない。そしてそれ以上にこの状況を作り出した自分の無力さが憎い。
同時に流れ込んで来る膨大な情報量。俺は為す術なく意識を保つことすら困難になってしまう。
「クラウドはね、小さい頃からわたしと遊んでたんだよ?お花、一緒に育てたよね?」
エアリスの囁きが脳裏に染み込むように響く。間違いなくそんな記憶はないはずなのに、その映像が鮮明に見える。
教会の中で、幼い頃の俺と顔も知らないはずの幼いエアリスが共に笑い合っている風景。俺にとってあり得ないはずの過去。それが脳内に刻まれていく。
「い、嫌だ……!こんなの……俺じゃない……!」
必死に抵抗するも、無駄だと分かっている。
それでも叫ばずにはいられなかった。だが俺の拒絶など無視するように、次々と偽りの記憶が刷り込まれていく。
「クラウドは子供の頃からいじっぱりで照れ屋さん。でも優しかった。だから──わたしの為にソルジャーになろうとしてくれたんだよね?」
「っ!?」
絶句する。教会で共に花を育て、ニブルヘイムで周りに溶け込めなかった俺をいつも気にかけてくれたエアリス。
そんな偽りの記憶が自分のものとして刻み込まれていく。
「ち……違う……!俺は……!」
必死に抵抗しようとするも、意識は泥沼に沈むように遠のいていく。彼女の幻想の世界に引き摺り込まれそうになる。
「ほら、思い出して?わたしもみんなから無視されて、辛かった。クラウドと同じだよ?だから、わたし達は仲良し。お互いを知って、ずっと一緒にいたよね?」
「知ら……ない……知らないん……だ…!」
しかし、頭の中で形成されていくのはその出来事の記録だ。彼女と俺が手を取り合って歩く幻覚が鮮明に見える。
幼い頃から周りに溶け込めなかった自分。セトラということで周囲から蔑まれていたエアリス。
だからこそ、俺達は自然と惹かれ合った。いつも側にいて、お互い支え合ってきた……。
「っ…!?ち、違う!違う違う違う!!」
植え付けられていく偽りの記憶。彼女の手によって造り変えられていく現実。俺の過去も未来も何もかも奪われていく喪失感に耐え切れず、俺は絶叫する。
視界がぼやけ、聴覚も徐々に失われていく。脳の奥底で何かが崩れていく音が聞こえる。
「大丈夫……何も心配しないで……全部、わたしが受け止めてあげる……」
エアリスの声だけが耳に響く。甘美な囁きと共に、彼女の力が俺の中に入ってくる。自己が解体されていく恐怖。
しかし、彼女はそれでも満足することなく更なる情報を流し込んでくる。
「ねぇ、クラウド。わたし、忘れてないよ?あの給水塔でクラウドと約束したこと」
「っ!?」
「セフィロスみたいな強いソルジャーになりたかったんだよね?ピンチになったらわたしの為に駆けつけてくれるって言ってくれたよね?」
「あ……あああぁ……!?」
叫び声が木霊する。脳内に新たな記憶が植え付けられていく。給水塔での約束……それはティファと交わした大切なもののはずだった。
しかし今、その記憶は目の前で歪められ、書き換えられていく。ティファと過ごした日々の思い出が、約束が、全てが消え去り、エアリスと交わした架空の記憶が形成されていく……。
「やめろぉぉおおおお!!」
我ながら情けない程の慟哭。俺の記憶が、存在意義が、大切なものが根こそぎ奪われていく感覚。まるで全身の血液が抜き取られていくような虚脱感。
自分が自分でなくなるような恐怖。そしてこのままでは俺と言う人格は崩壊して消滅してしまうかもしれないという絶望感。
「うっ……ぐぅう……!」
痛みに耐えながらなんとか声を出す。だがそれも焼け石に水。エアリスの施術は止まらない。むしろ進行速度を増していた。
意識が薄れていく中、彼女は尚も言葉を紡ぎ続けた。
「大丈夫。怖くないよ。全部大丈夫だからね?わたしだけいれば平気なんだよ?」
「違う……違う……!!」
「わたし、クラウドのことずっと見てたから。クラウドがわたしを選んでくれるって信じてたから」
彼女の声色は甘く優しいものだったが、その思想は異常そのものだった。
あのエアリスが、誰よりも星と生命を尊び、慈しみ、寄り添い続けていた彼女が──。
「どう……して──だ……」
ようやく自覚したのは、エアリスという女性に抱いていた本当の気持ち。
初対面で花を貰った時、スラムの教会で再会した時。「デート一回」などという口実で成り行きでボディガードを引き受けた記憶。
俺が助けて、時には彼女に助けられて。その度に俺の中の彼女という存在は大きく膨れ上がっていった。
「お、俺は……!エアリスのことも……大切に……想って……」
絞り出すような声で言葉を紡ぐ。エアリスへの想いは本物だった。彼女の優しさ、明るさ、健気さ。全てが俺の支えだった。
例え命に代えてでも守りたい。心の底からそう思えた存在。そんな彼女の手によって俺は壊されてしまうという現実に涙すら溢れ出てしまう。
「ふふっ……『も』?『も』って、何?」
「っ……!?」
エアリスはもう片方の手で俺の顎を掴む。上を向かされ、視線が交錯する。
「わたし、クラウドの二番目?それとも三番目なのかな〜?──許さない。そんなの絶対に許さない」
「あ……あ……」
声が震える。涙が零れる。体が熱くなり、血の気が引く。
彼女の象徴的だったエメラルドグリーンの瞳は漆黒の闇に染まり、完全に輝きを失っている。
焦点の合わない視線は、もはや正常な判断力を有していないことを如実に表していた。
「クラウドはわたしだけを見るんだよ?他の女の子のことなんて……ううん、ティファもバレットも、ユフィ、ナナキ、ケット・シー、シド、ヴィンセント……みーんな消してあげるからね?」
「い……や……だ……」
もはやまともに呂律も回らない。言葉を発することすら億劫になるほどの疲労感が襲いかかる。
ティファとの約束、仲間達との誓いが塗り潰されていく恐怖。自分が自分でなくなる喪失感。俺を形作ってきた全てを無かったことにされる絶望。
何より、俺の中にあったエアリスという女性に対する“本当の想い“──彼女を大切にしたいと思っていた感情も、偽りの記憶の中に埋もれようとしているという現実……。
「もど……って……くれ……おれが……おれがすきだった……エアリスに……もどって……くれ……!」
掠れるような声で懇願する。懇願するしかない。彼女を救いたい。
彼女の中にある優しさ、星を愛する純粋な心。散っていた者達の想いを胸に、後悔のないように今を生きようという強い意志──そんな彼女だからこそ、俺は惹かれ、救われてきたのに……。
「クラウド」
エアリスが、笑う。光を失った瞳で、愛おしい者を見つめる眼差しで、狂気的な微笑みを湛えていた。
「わたしね、やっと本当の意味で前を向けたんだよ?あの時こうしてればって後悔しないように、今できることを精一杯やってるの」
エアリスの言葉に背筋が凍り付く。彼女が語る「前を向く」という言葉がこれほど恐ろしく聞こえる日が来るとは思わなかった。
エアリスは自分の行いを一切の迷いもなければ後悔もない。彼女が持つ芯の強さがまさに史上最悪の形で発揮されているという事実に絶望するしかなかった……。
「安心して。わたしがクラウドを守ってあげる。クラウドの思い出も、これからも、全部わたしが創ってあげるから」
エアリスの言葉が甘く耳朶を打つ。
その声を聴く度に、脳が蕩けるような感覚。抗えぬ誘惑。その誘惑になす術なく飲み込まれていく……。
「っ!?」
最後に頭の中に浮かんだのは、大切な人との約束。
必死に彼女の名前を口にしようとするが、その前に脳内全てを蹂躙するような衝撃が走った。
「ぁ……」
声にならない呻きが漏れる。その瞬間、最後まで支えとなっていた「誰か」の姿が闇に溶けていく。必死に守ろうとしていた存在も、全てが目の前で砕け散っていく。代わりに流し込まれる新たなる記憶──。
「エ、ア……リ……ス……?」
──エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。エアリス。
俺の中は彼女だけで満たされていく。
エアリスとの出会い。共に過ごした記憶。交わした約束。全てが俺を形成する要素となっていく。彼女と過ごした日々が、記憶の全てを置換していく。
「エ、ア………リ……ス」
声になっているか分からない掠れた声で名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見ていると、胸が高鳴るのが分かる。
──ああ。そうだ……俺は……エアリスの為に強くなりたかったんだ。
そんな当たり前で当然の事がようやく理解できた。
何故今まで拒絶していたのだろうか?何故自分の気持ちから目を背けていたのだろうか?
彼女との思い出は沢山あるはずなのに、どうしてこんな簡単な事を忘れてしまっていたのだろう?
俺は、ずっとエアリスを見続けていた。
エアリスとの思い出だけを大切にしてきた。
エアリスを守るためにソルジャーを目指した。
エアリスと生きていくために強くなる道を選んだ。
そう、エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に。エアリスの為に──。
「ふふっ……」
エアリスが笑っている。俺の大好きな笑顔。子供の頃から守りたいと思っていた大切な人。
「あ……あ……エア……リス……」
視界が狭まり、思考がまとまらない。だけど、エアリスの顔だけはハッキリ見える。
思わず手を伸ばそうとするが、体が思うように動かない。急激に迫る眠気に抗えない。
その中で、エアリスは優しく微笑みながら俺の頬に手を触れてくれる。
温かい、柔らかい感触。安堵感と共に瞼が落ちていく。
「今はゆっくり休んで?大丈夫。もう何も心配しなくていいから」
愛しい人からの言葉。胸の奥がさらなる喜びに満たされていく。彼女に謝るべきなのに、それができないもどかしさを感じつつ瞼が重く降りてくる。
「ふふっ……ははははっ……」
瞼が閉じる刹那、エアリスの顔が見えた。
本当に楽しそうで、幸せそうな表情を浮かべたまま──。
「──後は、みんなを排除すれば完璧……だね」
最後に聞こえた言葉の意味を考える余裕はもうなかった。闇に落ちていく感覚と共に、俺の意識は完全に途絶えた。
エアリスのヤンデレは?
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最高
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いいぞもっとやれ
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似合わない
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怖い