病んでしまったエアリスは星を救う使命を放棄しクラウドと二人で生きる道を選ぶ 作:ゴロスケ
神殿内の空気は重く澱んでいた。謎の地震によってクラウドとエアリスが忽然と姿を消してから既に3時間。神殿の構造が複雑で出口が見えない中、私達は途方に暮れていた。
「……どう?」
「エアリスの気配を探ったけど全然だめ……神殿が邪魔してる」
ナナキが息を切らせながら報告してくる。私達は手分けして2人を探していたが、成果はなかった。まるで迷宮のように入り組んだ神殿内は捜索を困難にしていた。
ただでさえ探索範囲が広大な上に、時折発生する余震も私達の捜索活動を妨げる要因となっている。
「あの地震、やっぱり神羅がやったのかな?」
「可能性は高いな。だが……問題は2人がどうなったかだ」
ユフィとバレットが額を寄せて話し合う。私も不安で胸が締め付けられる。クラウドとエアリスの身に何が起きたのか心配でたまらない。
ただ、何より気になるのは最後の瞬間──。
「(私を掴もうとしたクラウドの手を、エアリスが遮った?)」
あの時、クラウドとエアリスが神殿の引力のようなものに引き寄せられた。私は咄嗟に彼の手を掴もうとしたが、触れ合う直前でエアリスが割って入ってきた。
単なる偶然?いや、彼女の目は確信に満ちていた。まるで自分以外の人間がクラウドに触れるのを阻止するかのように──。
「………」
私の中にある疑惑は膨らんでいく一方だった。あの時のエアリスの行動は説明できない。だが、私の中の何かが警鐘を鳴らしていた。ここで黙って待っていてはいけないと。
「ティファ?」
「あ、ううん。何でもない」
考え事をしていて周りの声が聞こえなかった。仲間達の不安げな顔が並んでいる。
落ち着かないと。今すべきことは二人を見つけること。それだけだ。
「せめて何か手掛かりでもあれば、オイラの鼻で追跡できるのに……」
「クラウドだけじゃなくて、エアリスのニオイも全くしないんだよね?
「うん。セトラの神殿ならって思ったけど、流石に都合が良すぎかな」
ナナキの言葉に背筋が凍る。最悪の未来を想像してしまうが、頭を振って追い払う。諦めるわけにはいかない。
「とにかくもう一度よく探そうぜ。クラウドはともかく、エアリスは一人を一人にしとくには危険すぎる」
「クラウドと一緒に居ることを願うしかないね」
「といっても、クラウドって割と抜けてるからなぁ……」
仲間達の軽口がその場の空気を少しだけ和ませつつ、私達は再び探索を開始する
神殿内は不気味なほど静かだった。魔晄の灯りが薄暗く辺りを照らす中、私達の足音だけが響く。
壁には文字が刻まれているが意味は読み取れない。まるで私達を拒むかのように異質な空間だ。
「そういえばさ、最近のエアリスってちょっと変じゃなかった?」
「変って……?」
「いや、なんか妙に上の空っていうか。ちょくちょく別行動してたっぽいし」
ユフィの言葉に全員が黙り込む。言われてみれば、思い当たる節はいくつかあった。いつもなら賑やかに話しかけてくる彼女が、ここ最近は口数が少なかった気がする。一人で考え込むような素振りも見せていた。
もちろん、楽しい旅をしているわけではない。常に死と隣り合わせの危険な道を進んできたのだから、誰しも不安はあるだろう。
エアリスだって例外ではない筈だ……ただ、そこに何か別の要因があるような……そんな気がしてならなかった。
「実はオイラも気になってたんだ。エアリスのニオイ、微妙に変わったような気がして」
「ニオイが?」
「うん。ニブルヘイムに再調査に行った時くらいからかな……微かに甘い香りがするようになった。なんというか、頭がぼーっとしそうな匂い」
ナナキの証言に寒気が走る。私の直感と同じ答えに行き着いているのかもしれない。
「おいおい、まさかエアリスが関わってるなんて言わねえよな?」
「そんな訳ない!あのエアリスだよ?そんなことあるわけ……ない」
全員の視線が集まる中、誰もが答えを出せず黙り込んだ。
否定したい。否定すべきだ。だが、心のどこかで疑念を捨てきれずにいる自分がいた。
エアリスはそんな人じゃない。例え過酷な環境下に置かれても、私達に親身に接してくれる。人見知りなクラウドにも気さくに話しかける優しい人……そんな彼女を疑うこと自体が間違いだと思いたかった。
「……バレット」
「わ、わりぃ。とにかく探そうぜ。もしかしたら洞窟に落っこちたかもしれねえし」
「そうだね。こんな所で議論しても仕方ないし……」
バレットの提案に皆が同意する。私達は再び捜索を開始するが、結果は芳しくなかった。どこにも2人の姿は見当たらない。
時間だけが虚しく過ぎていく中、ついに諦めかけた時……──
「みんな、あれ!」
探索を続ける中、ふと違和感に気付く。朽ちた瓦礫の中に、お花が咲いていたのだ。この環境下で自然に生えてくるとは思えない。それに、どこか見覚えのある香り。
「花!?何でこんなところに……?」
「まさか、エアリスの……?」
「調べてみる」
ナナキの嗅覚が役に立った。彼は鼻をひくつかせ、花の周囲を慎重に調べ始める。しばらくして、確信を持って私達に向き直った。
「間違いない!エアリスのニオイがする!」
「本当か!?」
「うん、この瓦礫の下からだ」
私達は急いで掘り進める。すると、崩れた瓦礫の隙間から、地下へ続く階段が現れた。どこへ続いているか分からないが、手掛かりを掴んだ。
藁にも縋る思いで、私達は階段を降りることに決めた。
「うわ……めっちゃ長い」
「油断するなよ」
「罠かもね……」
冷たい空気が流れ込む暗い通路。光源は殆ど無く、先の見通しが利かない。だが、迷っている暇はない。私達は警戒しながらゆっくりと進んでいく。
どのくらい降りただろうか。やがて私達は大きな空洞に出た先で不自然に立つ扉を見つけた。
周囲にはあの花が群生している。間違いなくエアリスの痕跡だ。
「おいおい、マジかよ……」
「こんな神殿の中にお花って、エアリスっぽいけど……」
バレットとナナキの感想通り、目の前の光景はあまりにも場違いだった。鬱蒼とした花畑の中、ひっそりと佇む一枚の扉。
まるで私達を誘い込むように花が道を作っている。明らかに作為的な配置だった。
「ナナキ、どう?」
「うん、エアリスは間違いなくこの中に居る。微かだけど、クラウドのニオイもするよ」
その言葉に胸が高鳴る。2人が一緒に居ることはひとまず安心材料になる。しかし同時に緊張感も高まっていく。
この大量の花。明らかに不自然な状況。そしてエアリスの不可解な行動の数々──もちろん、彼女からのSOSの可能性だってある。だが、この状況は普通じゃない。
「開けるよ?」
「ああ。何かあったらすぐ対応できるようにしとけよ」
バレットの指示を受け、私達は互いに目配せをする。そしてゆっくりとドアノブに手をかけた。
扉を開くと、花の芳香が一気に押し寄せてきた。
腐敗臭にも似た濃密な匂いが鼻腔を擽る。視界に入る大量の花々。温室のようだが、この不自然さはどう見ても異常だ。
「何だ……ここ……」
ナナキが警戒心を露わにする。私も同じ気持ちだった。
神殿内の一室にしてはあまりに場違い。まるで教会を彷彿とさせる内装だが、中央にはベッドらしき物があり、傍らには椅子とテーブルがある。壁際には様々な調度品が並んでいた。家具類には埃ひとつない。明らかに手入れされている。
「寝室……なのか?」
「それに、この香り……」
先程から鼻腔を刺激する強烈な香り。まさに性的な興奮を煽るようなフェロモンに似たニオイが漂っている。
私だけではなく、バレットやナナキもどこか落ち着かない様子だった。顔が火照り、何故か息苦しさを覚える。こんな場所で長居するのは危険だと直感的に悟った瞬間──。
「っ!居た、あれだ!」
ナナキが突如大声を上げる。その視線の先に目を向けると、中央のそれとは別の小さなベッドがあった。その上で寝そべっている人影───クラウドとその手を取るように座るエアリスの姿があった。
「クラウド!エアリス!」
「お前ら大丈夫か!?怪我とかしてねぇか?」
「もぅ、心配したんだからね!」
「良かった。エアリス。本当に良かった」
仲間達の声に安堵しながら、二人に駆け寄る。だが、エアリスは俯いたまま反応がない。クラウドはぐったりとしており、眠っているようだ。私は二人の姿を見てホッと胸を撫で下ろす。
とりあえず無事で良かった。早くここから連れ出して安全な場所へ……。
「──やっと来たんだ」
「え?」
エアリスが呟くように口を開いた。その声色は暗く陰湿で、今まで聞いたこともないようなものだった。
私は思わず足を止める。何だろう。違和感が拭えない。この状況も、彼女自身も。
「何か……変じゃねぇか?」
「……いつものエアリスじゃない?」
バレットとナナキも困惑した表情を浮かべる。ユフィも首を傾げていた。皆の反応を見る限り、私の勘違いではなさそうだ。
何が起きているのか分からないが、ひとまずはクラウドの容態を確認しないといけない。
「エアリス……クラウドはどうしたの?何でこんなところに?」
「平気だよ。ちょっと疲れて眠ってるだけ」
エアリスは淡々と答えたが、その表情には覇気が無い。いつもの明るい笑顔はなく、どこか冷めた目をしていた。
その態度に胸騒ぎを覚える。他の仲間達も異変を察知して息を呑んでいる中、ユフィだけが元気よく言った。
「よし、じゃあ二人も無事も確認できたことだし、黒マテリア捜索の再開!あ、クラウドはバレットが運んであげてよねー」
「お、お前なぁ……まあいいけどよ」
「エアリスも行くよ?ほら」
そうして、ユフィがエアリスの肩に手を伸ばそうとした瞬間───。
「ダメ」
「え?」
鋭い制止の声とともにエアリスが手を払いのけた。その動きは明らかに敵意を帯びており、場の空気が一変する。
「クラウドはここに居るの。運ばなくていいから」
「な、何でだよ。ここにいたら危ないだろ」
「危なくないよ。安全だから」
平行線の会話。エアリスの様子が明らかにおかしい。クラウドを離すまいとする執着心を感じる。
私の中で、先ほどまで抱いていた疑念が確信に変わっていく。
「クラウドに何をしてるの?何でこんな……」
「治療だよ?クラウドの中にある悪いモノを取り除くの。そうすれば本当のクラウドに戻れるから」
「本当の……?」
「クラウド、ずっと苦しんでたでしょ?ジェノバ細胞のせいで」
エアリスの口から聞き慣れない単語が飛び出してくる。ジェノバ細胞?本当のクラウド?まるで意味が分からない。
しかし、彼女の中では当然の事実であるかのように話している。背筋を冷たいものが伝う。これは一体どういうことなのか?
「クラウドはね、5年前の宝条の実験で囚われて以降、セフィロス・コピーになってたの。ずっと神羅屋敷に閉じ込められて……ザックスやニブルヘイムの人達と一緒に魔晄を注がれちゃった」
「え……?」
「でももう大丈夫。わたしがクラウドの頭の中から全部消し去ってあげたから。余計な記憶も、ジェノバ細胞も、全部消したから」
エアリスの言葉が頭に入ってこない。あまりに現実離れした内容。ジェノバ細胞?セフィロス・コピー?神羅屋敷での実験?──何もかも初耳だ。
しかし彼女の目は真剣そのものだった。冗談や妄言を言っているようには見えない。
「ちょっ、急になんなの!?エアリス、何言ってんの!?」
「だから、クラウドを連れて行かないで。二人きりにして」
エアリスはクラウドを庇うように抱き寄せながら私達を見据えてくる。その瞳には敵意にも似た強い意志が宿っていた。
確かに、クラウドは旅を続ける中で頭痛やソルジャーとしての劣化に悩まされていた。でも、それが「ジェノバ細胞」という未知の存在のせいだなんて聞いたことがない。
そもそも、何故エアリスがそんなことを知っている?いくら彼女がセトラの末裔で神羅と関わりをもっていたとしても、知り得る情報ではないはずだ。
「びっくりした?ティファ、全然気付いてなかったもんね。誰よりもクラウドの近くにいたのに」
エアリスの口調はどこか嘲るような響きがあった。彼女から向けられた初めての敵意に思わず身が竦む。私だけじゃない。全員がエアリスの豹変ぶりに驚きを隠せないでいた。
「チャンスをあげる。黒マテリアの場所は教えるから、出て行って欲しいな。クラウドの治療が進まないから」
柔らかい口調なのに強い圧力を感じる。それは命令に等しい。そもそもチャンスとは?まるで今なら見逃してやると言わんばかりの態度。
誰も動けず、エアリスと私達の間に緊張感が漂う。その中で、私は自分の中にある最大の疑問をぶつけた。
「クラウドは、どうなるの?本当に大丈夫なの?」
穏やかな表情で眠るクラウドを見る。顔色は良く呼吸も安定しているが……明らかに異質な何かが漂っていた。
「うん。すぐ目を覚ますよ?ただ、みんなのことは忘れちゃうかもね」
「え……」
耳を疑った。仲間達も同様に凍りついたような表情を浮かべている。エアリスは穏やかに微笑みながら続けた。
「記憶、消えちゃうんだ。もうみんなのことは覚えてないし、わたしの声しか聞こえなくなる。えっと、それから……そうだ。わたししか見えなくもなる。みたいな?」
全員が絶句した。一見冗談を言うような軽い口調だが彼女の目は本気だ。
冗談でも嘘でもないことは明らかだった。それどころか彼女にとっては当たり前の事実であるかのように振る舞っている。
「エアリス!ふざけるのはやめて!」
「ふざけてないよ?本気」
淡々とした答えに背筋が凍る。これが本当にエアリスの姿なのだろうか?
私達を慈しみの笑顔で見守ってくれていた彼女の面影はどこにも見当たらない。
「いやいや冗談でしょ!?ねぇクラウド!本当は起きてんでしょ!エアリスと一緒にアタシらを騙そうとしてるんだろ!」
「あー、もう。ダメだよ。クラウドは眠ってるの。邪魔しないでって言ったでしょ」
「んな話聞いたら意地でも起こさねえ訳にはいかねえだろ!少し手荒だが許せよクラウド!」
ユフィが駆け出しバレットも後に続くが……その動きをエアリスが遮った。
「はいはーい。二人共、ストップだよ?」
エアリスの手がユフィ達の前にかざされる。次の瞬間、信じられない光景が広がった。
彼女の手から放たれた光がユフィとバレットを吹き飛ばしたのだ。
「エアリス!?」
「二人共、大丈夫!?」
ナナキが二人に駆け寄る中、私は呆然としていた。
あのエアリスが仲間達に攻撃を仕掛けた?信じられない現実に言葉を失う。
「邪魔しないでって言ったの。何でいうこと聞けないかなぁ」
「エアリス……どうして……!?」
「だーかーらー、クラウドの治療中なんです。仲間ならわかってあげて欲しいなー」
「本気で言ってるの!?」
もしかしたら、エアリスは操られているのかもしれない。神羅軍か、あるいは別の何かによって精神を乗っ取られたのだろうか?
だとすれば一刻も早く助けなければならない。しかし……。
「ティファ、間違いなくエアリスだよ。ニオイは変わってない。正真正銘、オイラ達の知ってるエアリスだ」
ナナキの言葉に打ちのめされる。否定して欲しかった現実。しかし、それが決定的になってしまう。
ならば何故?何故彼女はこんな事をする?クラウドを守るため?それとも別の目的が──
「……エアリス、俺達を裏切ったのか?」
「人聞き悪いこと言わないでほしいんですけど。そっちが飛びかかって来たから追い払っただけだよ?」
バレットの問いかけを涼しい顔で受け流しつつ、エアリスは立ち上がりベッドサイドに立つ。
手を伸ばしクラウドの髪を撫でる仕草はまるで恋人に対する愛情表現そのもの。それが余計にこの状況の異様さを際立たせていた。
「ふふっ……クラウド、寂しがり屋さんだもんね。でも大丈夫。わたしが側に居るからね」
慈しむような眼差しと優しい声色。しかしその裏側には狂気じみた執着心が垣間見える。
かつての彼女からは想像もつかない醜悪な変貌に寒気が走った。
「あーもう意味わかんない!誰か説明してよ!」
ユフィが苛立ちを露わにするが答える者はいない。私達は皆同じ混乱の中にいた。
仲間でありかけがえのない存在であるエアリスが突如として牙を剥いた。その現実に、誰もついていけない。
「エアリスは、クラウドが好きだったの?」
「うん。大好きだよ」
即答。私自身、彼女の恋心に気づいてはいた。けれど彼女はザックスの行方を追い求めていたし、クラウドに惹かれつつもその思いは抑え込んでいたように見えた。それがどうしてこんな形で爆発したのか……?
「ガッカリした、ティファ?」
「……そうじゃないよ。ただ、本当にクラウドのことを想うならこんな方法は間違ってると思う」
私の言葉にエアリスの表情が僅かに歪む。先程までの無機質な表情とは違う。苛立ちか嫉妬か分からないが確実に感情の波が見える。
「あちゃー、痛いとこ突かれちゃったか」
エアリスは大きく溜息をつくと頭を掻いた。まるで興醒めしたかのような態度だ。
「そうだね。これはわたしの完全な我儘。でもいいんだ。わたしにはその権利があるんだから。ね?バレット」
「は?」
「言ってくれたでしょ?いつまでも我慢する必要なんてない。ちょっとくらい我儘になってもいい。わたしにはそのくらいの権利があるって」
バレットは呆気に取られる。私には何の話かは分からない。この二人の間に何かあったのだろうか?
「ちょっ、何だよそれ!アンタ、エアリスに何吹き込んだのさ!」
「ち、違ぇ!俺はただ、ずっと無理してるみたいだったから我儘の一つくらい言えって……!」
「我儘ってレベルか!暴走!妄想!豹変!狂気!完全に狂っちゃってるじゃん!!」
バレットは青ざめた顔で拳を握る。エアリスを気遣った結果がこんな形で表れるなど夢にも思わなかったのだろう。
ユフィが噛み付くのも無理はないが、今は責任問題より先に打開策を考えなければならない。
「仲間割れは良くありませんなぁ、ほらほら喧嘩しない。みんな仲良く……だよ!」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「あはは」
エアリスは能天気に笑う。いつも通りの彼女のようでいてどこか歪んでいる。この矛盾した存在にどう向き合うべきなのか分からなくなってくる。
「エアリス、目を覚ましてよ!オイラと一緒に星を護るって約束したでしょ?」
ナナキの懇願。涙ぐんでいるのが見て取れる。 コスモキャニオンの一件で星の行く先を見届けるということを自身の使命としたナナキにとってエアリスは特別な存在だったはずだ。
「うーん。その内ね。まずはクラウドのことが優先だから」
完全に価値観が変わり果てている。もはや別人だ。
あのエアリスが、世界にただ一人のセトラの末裔が己の欲望だけを優先する。以前の彼女からは到底考えられない選択。
「こんのメンヘラ女!エアリスがどれだけクラウドのこと好きかはよくわかったよ!でも限度超えてんの!もう病気だよそれ!?」
「病気ぃ?酷いなぁ。わたし、結構勇気振り絞って告白したつもりなのに……」
「告白!?洗脳にしか見えないんですけど!?」
ユフィが喚き散らす。正直、私としても同意見だ。エアリスの行動原理が全く理解できない。彼女の行いはクラウドの意思すら無視して彼を支配しようとするものでしかない。
「この、いい加減に──」
「ん……んん」
再びユフィがエアリスに掴み掛かろうとした瞬間、ベッドの方から微かな呻き声が聞こえた。全員の視線が一点に集まる。
「クラウド!」
私は思わず声を上げる。そこにはベッドの上で身動ぎするクラウドの姿。
目を覚ましてくれた。もしかしたら、エアリスの洗脳は失敗に終わったのかもしれない……!そんな一抹の期待を抱いたのも束の間だった。
「ここは……?」
クラウドがゆっくりと起き上がる。虚ろな瞳で周囲を見回すが、その焦点は定まっていないようだ。
しばらく呆然とした後、彼の視線がエアリスを捉える。彼女はどこか意味深な笑みを浮かべながら、クラウドの肩に手を添えた。
「おはよう、クラウド。よく眠れた?」
「エア……リス?」
「うん、エアリス。クラウドの幼馴染のエアリス」
彼女の言葉に、仲間達の息が一斉に止まった。私も呆然と立ち尽くす。
エアリスが、クラウドに対して幼馴染であると宣言している。そんなことはあり得ない。そもそも二人は出会ってからそこまで日は経っていない筈だ。
「えっと、俺は確か……」
「うん、クラウドは疲れて眠っちゃったんだよ。いっぱい頑張ってくれたから」
クラウドはぼんやりとした様子で頷き、周りを見渡した。やがてその視線が私達を捉える……はずだった。
しかし、その動きは途中で止まり、再びエアリスに戻っていく。
「ちょっ、クラウド!アタシ達のこと見えてないの!?」
「おいクラウド!その女から離れろ!目を覚ませ!」
「クラウド!今のエアリスは危険だよ!騙されないで!」
仲間達の必死の呼びかけにも反応しないクラウド。その視線は完全にエアリスに釘付けだ。まるで操り人形のようにエアリスの指示に従い動くばかりだ。
「クラウド、聞こえ──」
「ねぇクラウド、後ろの人達の声、聞こえる?」
「声?」
クラウドの視線が再び私達に向く。彼の真っ直ぐな瞳が刺さる。
「えっと……誰もいないよな?それに、何も聞こえないけど」
頭の中が真っ白になった。絶望が全身を貫く。
嫌だ嫌だと心の中で叫びながら、何度も首を振るが、喉から出てくるのは言葉にならない嗚咽だけだった……。
エアリスのヤンデレは?
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最高
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いいぞもっとやれ
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似合わない
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怖い