銀翼の勇妃 シルバーガール 〜TS追加戦士 フタナリ魔族の手に堕ちる〜 作:蠱惑奈 毒蜜
精霊研究センター、そこでは文字通り別世界から来た精霊やマナについて専門の研究者たちが何年にも渡って研究を続けている他、一般に開放しているスペースでは子どもたちのために精霊たちと交流できるふれあい広場に十数年前に起きた魔族との戦いについての資料を展示するスペースもあり、精霊について詳しく知りたいならここしかないと言われる場所である。
そしてこのセンターでは精霊やマナの研究を活かし、スピリットコネクターを筆頭とした戦闘アイテムや結界をこじ開けて現れた魔族のマナを感知するシステムを開発し、現在のスピリットフォースにとって重要な拠点となっている。
その研究室の一室では白衣の女性が変身前のスピリットフォースのメンバーと精霊達と共に先ほどの戦いについての記録映像を見て一言漏らす。
「シルバーガール…銀翼の勇妃という二つ名にしてはシンプルだな、シルバルキリーとかもっと良い名前もあっただろうに」
「いや…俺たちが話したいのはそういうことじゃないんだよ、義母さイテッ!」
「義母さんと呼ぶな、ここでの呼び名は蓮華博士、または博士だと言ってるだろう、烈火」
烈火の額にデコピンをしながら白衣の女性、蓮華は彼に自身の呼び方を訂正させる。
『いつも蓮華博士に言われてることでしょ、いい加減に覚えなさいよ。烈火』
「は、はい…」
コネクターの中からは彼の精霊であるスカーレットも現れ、烈火に苦言を呈していた。
「全く…しかし彼女の戦い方は面白いな。まさか鎧を脱ぎ捨てることで真の力を発揮するとは…」
「確かに、鎧を纏うことで力を発揮する俺たちとは真逆だな。何か理由でもあるのですか?」
蓮華の考えには澄真も興味を持ったらしく、彼女に問いを投げかけた。
「理由か……おそらくだが変身者が精霊と契約した時の『思い』だと私は考えるな」
「『思い』ですか?」
「ああ、経緯は違えどそれぞれが誰かを守りたいと言う思いからローブやバトルスーツなど格好は違えど全員が鎧を纏っている状態になっている。だが彼女はおそらく違う理由で鎧をつけていると私は考えるな。例えば…」
「正体を隠したい…自分を知られたくない、だけど俺たちの力にはなりたい…とかですか?」
その問いに答えたのは烈火であった。
「あ…あぁ、まさしくそれだ。だからこそ正体を隠す鎧は彼女のマナの放出を抑え、それを捨てた時に彼女のマナは何倍、何十倍にも膨れ上がるのだと私は考えている…しかし驚いたな、まさか烈火がこの答えを出すとはな」
彼女の言葉を肯定するように澄真や颯も首を縦に振る中、遥はシルバーガールが去った後の烈火の言葉を思い出す。
『あぁ、そん時に亡くなった母の面影、っていうのがあいつに見えちまってな』
「烈火…やっぱりあなた……」
『boooo!boooo!boooo!』
烈火に言葉をかけようとした彼女の言葉を遮るようにさきほどシルバーガールの映像がかかっていた画面から「emergency」の文字と共に警報音が鳴り響き、彼らがその画面を見ると、市街地で大量のインプ達がアルプーラに率られて一般住民を襲っていた。
「またあいつか!性懲りもなく!」
「しかし早すぎないか!?まだダゴンが倒れたばかりで!」
『敵も手段を選ばなくなったのかしら…』
「みんな、すぐに向かってくれ!この話はまた後だ!」
「あぁ!」
烈火の返事を最後に蓮華を除いた全員がインプ達のいる市街地へと向かっていった。
「…烈火の帰りが遅くなること、息吹に連絡しておくか。」
『クソ!息吹を離せ!!』
『なんて卑怯な真似をするの!その子は関係ないでしょ!』
『状況がわかっていないようだなスピリットフォースども!こいつは赤いのの弟なんだろ?だったら俺にとっては価値のある人質だ!』
息吹がシルバードと出会う前、彼はデモニスの悪魔に人質にされたことがあった。
彼等の住む家や息吹が烈火の弟であるという情報がどこから漏れたのか、悪魔の一体が灼堂家を襲撃して家で1人だけだった息吹を連れ去り、4人の前に人質として見せつけたのである。
『ヒュー、ヒュー…ゴフッ、コホッ』
外に出たことで大気中のマナを取り込み続けた息吹の身体には無数の発疹が現れ、吐き出す咳には息苦しさが現れていた。
『これでも喰らえ!スピリットフォース共!』
『『『グワァ!』』』
『キャアア!』
悪魔の放ったマナの弾丸が4人のスピリットフォース達を吹っ飛ばし、全員の変身が解除される。
『ニ、ニ…イ、ザン…』
呼吸をするのも苦しい中、息吹は唯一の肉親に届かぬ手を伸ばす。
『おっと!そんなにあの赤いのが心配か?だったら一緒にいさせてやるよ…お前をあの世へ送ってからなぁ!』
悪魔が息吹の頭目掛け、先程の弾丸を放とうとする。
『やめろぉぉぉぉぉ!』
烈火の制止を悪魔が聞くはずもなく、その弾丸が息吹の頭を狙いすまし…
「息吹!息吹!!息吹!!!」
「え?ちょっ!うわっ!」
突如身体を揺さぶられ、息吹は目を覚ますと同時にバランスを崩し、座ってた椅子から落下した。
「痛ッ!に、兄さん?」
「わっ悪ぃ息吹」
『私たちが帰ってきたら随分とうなされてたみたいだから…』
どうやら烈火に起こされたらしく、テーブルの上に置かれたコネクターの中のスカーレットもマナを出さないように先ほどよりも小さな姿で息吹に謝っていた。
「…ごめん。昔のことを思い出しちゃって……」
(シルバードは…部屋に隠れたのか)
自身の精霊のことを気にかけつつ、スマホに手をかけると画面には9時の時刻と蓮華からのメールが映っていた。
「嘘、もうこんな時間…早く夕飯作らないと……」
「それなら買ってきたぞ。メールにも出なかったから多分寝てると思ってな」
「あ…ありがとう」
「いや、お前も疲れてんじゃないかと思ってな……色々とな」
「色々?」
「あぁいや、俺も家にいないことが多いし、義母さんも帰るときはメールするけどそれも殆どないから家事はずっとお前に投げっぱなしだからさ」
つい漏れた一言を聞いた息吹からの問いに烈火は軽く誤魔化しながら、夕飯の準備を進める。
「大丈夫だよ兄さん、兄さんも義母さんもデモニスの悪魔たちから人々を守るっていう使命があるんだから」
「そうだな………なぁ息吹…お前、もしかして…」
…シルバーガールなのか?
「何?兄さん…」
「…いや、なんでもない」
もしそれを聞いてしまえば…その先を考えてしまった烈火は喉の奥まで出かかったその言葉を抑える。
『烈火……やっぱり』
スカーレットがコネクターの中から心配そうに見てると彼のスマホが着信音を鳴らしながら振動を始める。
『烈火、蓮華博士から連絡来てる』
「え?この時間に…義母さんから、まさか!」
烈火が慌てて連絡を始めるとその先から慌てたような蓮華の声が聞こえる。
「烈火、緊急事態だ。あの時逃した悪魔がインプたちを引き連れてきた。しかも小賢しいことにインプの集団をバラバラな場所に配置して暴れさせていてな、既に3人を向かわせてる所だ」
「わかった。俺はどこに行けばいいんだ?」
「細かい場所はすぐに送る。すぐにスカーレットと共に向かってくれ」
「ああ、いくぞスカーレット!」
『もちろんよ、烈火!』
烈火はコネクターを左手首に装着すると、息吹の方へと目をやる。
「兄さん………」
「…安心しな、すぐ帰ってくるよ、息吹」
兄を心配する息吹の姿を背に烈火は先ほどの戦いの疲れも見せずに敵をたおしに行く。
………この日が弟の姿を見る最期の刻だとは思うこともなく……
「寂しいか?」
兄を見送った息吹の後ろに先ほどまで隠れていたシルバードが小さなフクロウの姿で現れる。
「うん、寂しいけど仕方ないよ。それが兄さんに望まれていること、それも僕のためなんだから…我儘なんて言ってられないよ…」
哀しそうに呟きながらも息吹はもういない兄の背を見届けるように扉を見続けていた。
「ハァッ…だったら少し話し相手になってくれよ。アタシもこの時ぐらいしかお前と話せないんだからさ」
「…僕、もう聞きたいこと全部シルバードに聞いたんだけどな」
「バカやろー、アタシはもっとお前に聞きたいことがたくさんあるんだよ。精霊の世界と違ったこの世界のことを知るのはとても楽しいからな」
「この世界のことを知りたいって…君が知りたいのは'これ,のことだよね」
呆れたようにシルバードの方へ向き直った息吹は、兄がテーブルに置いたままであった買い物袋から彼女の好物の入ったパックを取り出してシルバードに見せる。
「コロッケ!食って良いのか?」
「うん、兄さんたちには先に食べたって言っておくから、こぼさないように食べてね」
「やったー!感謝するぜ息吹」
そう言いながら本来の目的を忘れて好物のコロッケを啄みはじめたシルバードを横目に息吹は残りの買い物を冷蔵庫にしまっていく。
「あー、食った食った。そういえばあいつらまたアタシたちが来なきゃいけない事態になっていないよな…」
その合間にコロッケ2枚をあっという間に完食したシルバードは息吹のスマホのロックを慣れた手つき…いや、足つきで解くとすぐにSNSのページを開いて、悪魔についての情報を探しはじめた。
「ったく、インプの集団ぐらいすぐに片付けてもらわないと困るぜ。特に烈火の奴は大事な弟が待ってるんだから……ん?嘘だろ!」
そうぼやきながら投稿を流し見していたシルバードはある情報を見つけて驚きの声を上げる。
「どうしたのシルバード?」
「え?あぁ、いやなんでも…」
「…見せて、何書いてるの?」
「だからなんでもってアッ!」
大声に反応した息吹がシルバードからスマホを取るとそこにはついさっき工事現場に開いた歪みをこじ開けて大量のインプが現れる短時間の映像が投稿されていた。
「これ、兄さんが電話を受けて家を出てった後の投稿…兄さんたちが来たっていう情報は…更新しても出てこない
、だったら僕たちが行くしかない!」
「ちょっと待て息吹!4人が戦っている最中にまた別の場所に敵が出てきたんだ!もしかしたらこれはお前を誘い込む罠かもしれないんだぞ!大人しく四人の誰かに任せたほうが…」
「嫌だ!この間にも人が襲われてるんだ!そんな人たちを…見殺しにしたくない!」
「だからこそだ。もし敵がお前の正体を知っていたらどうする?また人質にされるかもしれないんだぞ!」
「だったら逆に言わせてもらう。だからこそ僕はそうならないために君と契約したんだ!シルバード!!」
「ッ……だぁもう!次人質になったら契約解除だからな!」
これ以上彼の意思を曲げられないと察したシルバードは負け惜しみを言いながら息吹の身体へと入っていく。
「グッ、今度はそうならないよ、だって君がいるんだから…」
『口説くな、このブラコン野郎』
互いに軽口を言い合いながらシルバードはマナを肉体が拒絶する息吹の身体を外で戦えるための姿へと変えていく。
髪は長い黒髪に、胸囲は元の姿よりも2回り近くは大きくなり、着ている服以外は扇状的な女性の姿へとなり、首には宝石のついたペンダントが付けられた。
『さっさと変身しろ息吹』
「うん、行くよシルバード『スピリットフュージョン』」
ペンダントの宝石を握りながら呪文を唱えると宝石はまるで鳥が翼を広げたような形となり、そこから放たれた銀色の光は元の服から一瞬で変わった彼女のスーツを守る鎧と化し、頭の上半分を覆うように兜が装着され、最後に眩いほどに輝く一対の銀翼が彼女の背中から生え、息吹はシルバーガールの姿へと変わっていった。
『こっから件の場所までならひとっ飛びだ!行くぜ息吹!!」
「ええ!とっとと片付けてあげる!」
こうしてシルバーガールは開けた家の窓からスピリットフォースの5人目の戦士として、悪魔たちの手から人間を守るために飛び立っていく。
「………このマナの気配、来てくれたみたいね」
そこに悪魔の恐ろしい罠が待っていようとも……
次回、遂に本番シーン(滅茶苦茶時間かかった)