融合症候群(フュージョンシンドローム) 作:レスト / 三端由也
土曜日の昼下がり。コンコンと窓を叩く音がする。
みつるが窓を開けると、くりなが快活な笑みを向けていた。
「ねえ。みつる。久々一緒に遊ばない?」
急にどういう風の吹き回しかとみつるは思う。
ただ彼もせっかくの幼馴染の誘いは嬉しいのが正直なところだった。
けど何となく気恥ずかしいというか。彼女に悟られたくはないので、努めてクールを装い答える。
自分のこととなるとやけに目敏いくりなには、おそらく無駄な抵抗だろうが。
「別にいいけど。くりな、急にどうしたの?」
「ちょっとね。お父さんもお母さんも、今日は出かけてていないし」
若干もじもじした様子のくりな。元来積極的な彼女にとっても、そこそこ勇気を振り絞った決断のようである。
恥じらいなど微塵もなく、何でもかんでも率先して引っ張り回してきたかつての姿はどこへ行ったのか。
けれど仕方のないことだ。
アレのいけないことを、明確に知ってしまった今となっては。
何かに期待するような素振りの彼女にほのかな色を感じて、みつるもまた微かな期待とともにごくりと唾を呑んだ。
「わかった。今行くよ」
みつるとくりなは、家が隣同士の幼馴染だ。誕生日も一緒で、赤ちゃんのときから家族ぐるみの仲である。
二人の部屋は突合せで極めて距離が近く、窓から身を乗り出せば靴を脱がずとも互いに行き来することができる。
そうやって互いの両親に隠れて、一緒に遊んだりもよくしたものだ。小学生のうちまではそれこそ毎日のように。
ただ中学に入り、男女別の制服を着るようになると、蜜月の関係性にも陰りが出てきた。
何となくお互い気恥ずかしくなり、誘う回数も減っていった。
男子は男子、女子は女子の交友関係が中心となって、そして今に至る。
二人とも中学二年生になったばかりというタイミング。中学生活にも慣れた。
未成熟で曖昧だった関係性を仕切り直すには、ちょうど良い頃合いだろうか。
双方腹に一物抱えたまま、みつるがくりなの部屋へ進入する。
「わ。すっかり女の子らしくなったなあ。くりなの部屋」
ピンクの小物や河合らしいインテリアで満たされた空間を見渡して、みつるは素直な感想を漏らした。
男の子の部屋と見紛うばかりだった当時の様相からは、一気に様変わりだ。
「そりゃ女の子だからねー。おっきくなれば変わりもするよ」
言われて、みつるはくりなを見つめた。
確かに少し、いやかなり女の子らしくなっただろうか。髪の毛はキューティクルに整えられて伸ばされており、ぱっちりとした目とまつ毛、愛嬌のある顔立ちからは少女らしい快活な色香が漂っている。
そしておっきくなったのは、何も背丈ばかりの話ではない。
絶賛育ち盛りの胸元にも視線が向かう。
男の子と見分けの付かない身体にぽっちが付くばかりの頃から、小6のときの丸みを帯びた小さなつぼみまでを彼はよく知っていた。
それが今や、思春期の豊かな実りの中途にあって、ブラウスを柔らかく押し返すほどの存在感になっていた。
彼女の母親から推察するに、まだまだ大きくなるだろう。
みつるからの期待以上の情熱的な視線に目を瞬かせたくりなは、そのこと自体にはまんざらではないながらも、やはり気恥ずかしさを覚えてしまう。
だからからかうことにした。
「やぁん。何赤くなってんの?」
「い、いや」
思わず顔を背けると。
市松模様のカラフルな布団――例のいけない遊びを度重ねた布団が目に飛び込んできたため、みつるはさらにどぎまぎしてしまうだけになった。
あわあわする彼を見て、くりなは「やっぱり意識してるよね」と妙に腹落ちしつつあった。
同じような目的、同じような気持ちなのだろうと思う。ぺろりと舌を舐める。
――身体はもう、とっくに疼いている。
ただ、いきなり言い出すのも野暮というか、がっつき過ぎと思われたりもしたくはなかったので。
「ねえねえ。一緒にゲームでもしようよ」
男の子がやるようなガチガチの対戦ゲームを取り出し、にやっと笑う。
何かを提案するのも、リードするのも、お姉ちゃんであるくりなの役目だった。もっとも、同じ日のほんの少し早い時間に生まれただけなのだが。
みつるは苦笑いする。露骨に話題を逸らされたと察しつつ、どこかで安心していた。
「ふう。そこは変わんないんだね」
「三つ子の魂百までよ。よしこい。勝負だみつる!」
「今日こそは負けないぞ。僕だって腕上げたんだ」
かつてのように仲睦まじく、久しぶりに肩を並べて対戦ゲームをした。
心なしか、あのときよりも距離感が近くなったように二人は感じていた。いや、当時だって身体は密着していたのだが、意識の分だけより近くなったのだろう。
繰り返し対戦を進めながら、二人ともスキンシップの探り合いでも戦っていた。
徐々に肩が触れ、手が触れ、不自然にならない程度にくっついていく。お互いの未成熟なフェロモンをたっぷり吸いこんで、期待と興奮のボルテージを高めていく。
甘く楽しい時間は、互いを求める二人が心の逃げ道を溶かすための準備期間に過ぎなかった。
なお、確かにゲーム実力を上げていたみつるではあったが、くりなはそれ以上であった。
「うわ。また負けた」
「ふふん。相変わらず弱いわね。みつるは」
「くりなが強過ぎるんだよ」
「まあね」
くりなが勝ち誇り、胸をぐっと張って逸らす。
みつるはついガン見してしまう。『それ』が欲しい、という潜在的な欲望がもたげる。
「もう。じっとおっぱい見てる。好きだよね」
「ごめん。いや、くりなってほんとさ。女の子らしくなったよな」
「それ言ったらみつるだってさぁ。その、声変わりもしたし、がっしりしてきたし。カッコよくなったし」
どきどきしながら、成長した幼馴染の魅力を呟いていくくりな。彼女もまた、己にはない『もの』を求めていた。
それから座ったまま背比べをして、彼女はちょっぴり悔しくて頬を膨らませた。
「去年までは私の方が背高かったのになー」
「男の子と女の子だからね」
「そっか。男の子と女の子、だもんね」
「「…………」」
流れで飛び出したワードから、もうはっきり意識を隠せないところまで来てしまう。二人はつい黙り込んでしまった。
頃合いかと、くりなは思う。
みつるは昔から奥手だからね。ここは私が。
「あのさ。久々にアレ、しない?」
「えっと。アレって……アレだよね?」
市松模様のカラフルな布団に目をやる。くりなはこくんと頷いた。
「期待、してたんでしょ?」
「……うん」
やけにしおらしく頷いたみつるに、くりなは勝利を確信した。
だから、ここまで恥ずかしくて言い出せなかったこともようやく口にすることができた。
「あのね。恥ずかしいけど……変なこと、言っていい?」
「いいよ」
「なんかねー。最近ほら、むらむらしちゃって。みつるのことで、頭がいっぱいになっちゃって、みつるみつるーって。えへへ」
「ああ……正直言うと、僕もなんだ。くりなのこと考えると、どうしようもなくなってきちゃって。くりなくりなって」
もはや語るに及ばずだが、自慰狂いになること数か月。互いが互いを想って、ひたすら素直になれない気持ちを慰め続けていたのだ。
「ほんと? あはは。私たち、やっぱ気が合うんだね」
「そうだね。……あのさ!」
「うん」
「これって、好き同士ってことでいいんだよね?」
「……いいと思う。私ね、みつるのこと好き。大好き」
「僕も。くりなのこと大好きだよ」
「ははは」「えへへ」
名前のなかった関係に、たぶんきっと素敵な名前が付いた。
くりなの視線は、自ずとみつるの股間に吸い込まれていた。ズボンを押し上げる膨らみを、もう彼は隠そうともしていない。
彼女もまた、おっきくなった男のそれを知らないわけではない。むしろよく日頃慣れ親しんでいた。
幼子から小6まで、彼のモノには何かと触れる機会が多かったのだから。
だが疎遠となった一年の歳月は、彼自身をも未知の領域まで逞しく成長させていたようだ。
こうしていざ正直になってしまえば、もはや避ける理由もない。
くりなは股の奥がきゅんとなるのを感じていた。
「よし。じゃあねぇ。みつるはゲームに負けたから! 今日は私の言うこと全部聞くこと! いいね?」
「えー」
あくまで形ばかりのエクスキューズ。儀式を下し。
「一個目はね」
期待いっぱいの若いケダモノ二人は。
「いっぱいキスして」
雄になったみつるに、もはや何も言葉は要らなかった。
がっつくようにディープキスを交わす。
まったく初めてではない。手慣れた様で。かつての日常茶飯事だった。
だが思春期の実りは、そこへ性的で甘美な味を付け加えていた。
唾液を交換し、吐息をかけ合い、蕩ける様な表情を浮かべるみつるとくりな。
たっぷり数分は舌を絡め合い、どちらともなくベッドへ滑り込んでいった。
くりなの匂いでいっぱいに満ちた愛の巣は、ますます彼自身をそそり立たせたのだった。
***
さて。実のところ二人には、家族にも誰にも言えない恥ずかしい秘密があった。
二人がまだ6歳、小学校に入る前くらいの頃。
毎度ながらのくりなの提案から、それは始まった。
「ねえ。合体ごっこしよーよ」
「合体ごっこ?」
きょとんとするみつるに、くりながお姉さんぶって言った。
「合体ってね。くっついていっこになってね。強くなるんだよ。それとね、きもちいいんだって!」
「へえ。そうなんだー。僕とくりなが、一つになるの?」
「うん!」
確実にヒーローものか何かの見過ぎである。あとたぶん絶対よろしくない何かが混ざっている。
ただこのときみつるもなぜか、もしそうなったら素敵なことだなと思ってしまっていた。
くりなはと言えば、ひたすら無邪気にわくわくしている。
既に運命は二人を引き合わせようとしていたのかもしれない。
「やってみようよ。ね。ね!」
「もう。わかったよ。くりなっていつもごういんなんだから」
「お姉ちゃんの言うことは聞くものよ?」
「はいはい」
言われるがまま、二人は市松模様のカラフルな布団へと潜り込んだ。
みつるが下、くりなが上で、ちょこんと抱き合う形になっている。
外からは『もぞもぞ』しているだけで、中の様子を窺い知ることはできない。
「へへーん。ここね。合体ひみつきちなの!」
「ひみつきちね。ここからくっついて出てくるんだ」
「そそ」
「どんな感じになるのかな? 名前は?」
「えっとね。くりなとみつるだから。くつる、くりる、みくり……みくりだね!」
もっと可愛い響きのみりなにもできたのだが、みくりという名前は、何となく彼女が中性的と感じてしっくりきたものだった。
「みくりちゃんか」
「えー。みくりくんかもしれないよ?」
「ないよ。ぜったいくりなの方が強いもん」
「あーそっか。そうだよねぇ。みつるとだったら、私のが勝っちゃうよね。ふっふっふ」
妙に勝ち誇るのは、当時からの癖である。
「そうそう。合体するとねー。強くておっきくなるの。だからね、すてきなお姉さんになるよ! きっと」
「それって……」
ついもやもやと想像してしまうみつる。
くりなの顔に、くりなのお母さんのおっぱいを貼り付けたような姿が浮かんでしまった。弱い自分の要素はどこにあるのだろう。
「おっぱいもおっきくなる?」
「たぶん。お母さんみたいに。みつる、おっぱい好きだもんね。いっつも見てるもんね」
「うるさいな」
照れ臭く不貞腐れてしまったみつるに、くりなはにこにこといたずらっぽく微笑みかける。
「でもそしたら、みつるも女の子かあ。私といっしょにかわいいお洋服着ないとだねー」
「えー」
「いいじゃん。一緒に着ようよー。楽しいよ」
などと、わちゃわちゃ他愛もないことをお喋りしつつ。身体のあちこちをぺたぺたさせたり、頬をくっつけたりしてみたが。
「くっつかないね」
「くっつかないね」
みつるが諦めたように溜息を吐いた。
「やっぱりアニメとかの話なんだよ。ほんとはむりなんだよ」
「えーやだ。あきらめるの早いもん。みつるとくっつきたいー!」
「そりゃ、僕だってどんなものかやってはみたいけど」
なぜそう思うのかわからないけれど、みつるはくりなの望みを自らのものとして肯定していた。
ここでくりな、天才的なひらめきを示す。
「わかった。服がじゃまなんだ。えい!」
「わっ!」
くりなは、勢いに任せてみつるの服をすべて剥ぎ取ってしまった。パンツまでも抜き取る。
「ちょっと」
「で、わたしも!」
躊躇うことなく、自らも服を脱ぎ去るくりな。まるで不要物と言わんばかり、布団の外へぺっと吐き出されるように投げ捨てられた。
このときは幼かったこともあり、すっぽんぽんになっても明らかな羞恥心などは起こらなかった。
そもそもお風呂にも一緒に入る仲だ。裸は見慣れている。
「さむいよ。くりな」
「ほら。こうするとあったかいよ」
くりな自身が、彼へと布団のように覆い被さった。
おでことおでこをくっつけて。ぎゅっとして。肌と肌を擦り合わせる。
彼女の乱れ髪が彼の頬を撫でる。幼く未分化な乳首が触れ合い、つつき合い、ちょっとした快感のアクセントを双方へ分け与える。
みつるも何だか妙に愛しい気分になって、自然とくりなを抱き締め返していた。
なんだかすごいことをしているような。そうでもないような。
「まだ、ぜんぜん、くっつかないけど……あったかくて、しあわせだね」
「うん……しあわせ。くりなっていいにおいするね」
「もう。みつるったら」
嬉しいような、恥ずかしいような。くすぐったいような。
すりすり。すりすり。もぞもぞ。もぞもぞ。
布団は中の二人が動くに合わせて、生き物のようにうにうにと形を変えていた。
それほど二人は夢中になり、小さな身体をめいっぱい擦り付け、愛し合っていたのだ。それ(行為)をそれ(愛の表現)と知らずに。
第二次性徴の遥か手前の肉体は果てることなく、心地良さを感じても永遠に終わりは来なかった。
幸せなのに、くっつくことはない。合体できない。
ままならないもどかしさを感じながら、止め時がわからなくなっていると。
偶然にも、幼き卑裂と陰棒とがずるっと、密に触れ合う瞬間があった。
「「あ……」」
それは素晴らしい偶然で。
くりな、またしても天才的なひらめきだった。
「そうだ。ここをね。こうしてね。こすりあわせるとね」
毛一つ生えていない自らの割れ目を、彼のおちんちんに擦り付ける。
一緒になって。触れ合う面積がまた増えた。
その意味を知らず。彼女は無邪気で得意な笑みを彼に見せつける。
みつるは思わず目を瞑り、感じ入っていた。
「なんか。ちょっと、きもちいい? かも」
「だよね? きもちいい、よね」
ふわふわした心地と、とろとろになってしまいそうな温い感覚が入り混じる。
みつるが再び目を開けると、紅潮した女の子のくりながすぐそこにいて。
思えばこのときが、彼女を異性として意識した最初の瞬間だったかもしれないとみつるは振り返る。
くりなもすっかり興奮し、無意識にちょびっと漏らしていた。彼自身も小さいまま一生懸命固くなっている。
くちゅ。くちゅ。ぴちゃ。ぴちゃ。
それが潤滑剤となって、秘密基地の中でくぐもった小さな水音を立てる。
浅く繰り返される吐息のやり取りが、没入感をさらに高めた。
「わ……んっ……。これ……がったい、できてないけど。ぴりってして、きもちいいね」
「うん……きもちいい……」
すごくってわけではないけど。きもちよくて。心から愛しい。
ああ。もどかしい。もっと。もっとくっつきたい。
みつるとくりなは、はあはあと息を切らせながら、お互いをずっと見つめ合っていた。
時々、ピリッと電流が走ったような共通感覚があった。
ほんの少し、「先」が見えたような気もしたけれど。
まだ幼い二人には、「準備」ができていなかった。
ただこの頃ばかりは、互いに感じ合い、未来に向けて馴染ませていくことが二人にとっての精一杯だったのだ。
いつまでも終わりが見えなくて。どんどん切なくなってきて。
「なんかぁ……なんかね。ちゅーしたい。していい?」
「ぼくも……くりなと、ちゅーしたい……」
「みつるぅ~」
「くりなぁ!」
ふちゅ……むちゅ。
みつるはくりなの頭を両手で押さえつけ、くりなもまたみつるの頭を抱え込むようにして。
無我夢中で唇を貪った。
触れ合うところをもっと深く。舌を絡め、優しくつつき。ちろちろ先端を遊ばせてから、また絡め合い。
ガチガチに身体をくっつけて。あそことあそこをぬらぬらと擦り付けながら。
大人の恋人がするようなキスをした。初めてがディープキスだった。
いつまでそうしていただろうか。
無尽蔵の好奇心と愛欲をもっても、身体は小さな子供同士。
とうとう疲れ切って、二人は抱き合ったまま幸せな眠りに落ちたのだった。
くりなの両親が帰ってきた音で、二人は跳ね起きた。
「わ! 服。服着ないと!」
「あ、そっか。ずっとだっこしたまま眠ってたんだった!」
何となくではあるが、それが恥ずかしいことでいけないことだと、二人は本能的に理解していた。
だから誰にも決して言うことなく。誰にも決して知られることなく。
以来、そこ(布団)は、二人だけの合体秘密基地になった。
互いの両親のいない隙を見計らっては、布団で『もぞもぞ』するのが日課になっていった。
これがやけに気持ち良くて、心地良くて。幸せで。
ドツボにハマってしまった二人は、もう止められなかった。
加えて、なぜだか「しっくりくる」ような感覚が二人にはあったのだ。
それが世間的にいけないことでも、正しいことだと、望ましいことだと。意識の奥底が願っていた。身体の深いところから隅々まで悦んでいた。
本当に一つにはなれなくても、一つに近づけたような気がして。不思議な高揚感と得も言われぬ幸福感が、二人をとにかく夢中にさせた。
そう。成長期を迎えても。その行為のいかがわしさをようやく理解しても。
二人はお互いを求めることを止められなかった。
表面上、ゲームをしたり漫画を読み合う程度の一般的な幼馴染だと周囲には思わせつつ、知恵を付ける毎に深くのめり込んでいく。
どちらからはっきり言い出すこともできず、そもそも止めたいなど双方微塵も思っていないのだから。
結果、みつるはくりなの素股で初めての射精を迎え、くりなはみつるの肉棒で初イキを達成した。
みつるはくりなの未発達な乳を各成長過程で吸い尽くし、くりなで女の味を知った。くりなは何度もみつるの精液を飲み干した。
ただし、挿入だけはしなかった。幼いときは無意識に、知ってからは意識的にそれだけは避けていた。
その一点だけが免罪符で。
それ以外のすべてのことは、狭い布団の中でひっそりと済ませてしまった。クラスメイトの誰よりも恐ろしく進んでいた。
布団の中は、二人にとっての聖域だった。
ブラックボックスでのことは「なかったこと」として、くりなはみつるをからかうことなく、みつるもくりなをからかうことなく、望むままに情欲を貪った。
市松模様のカラフルな布団は、母親に情事がバレるため滅多に洗濯に出すこともできず、隙を見てくりな自身が洗っていた。
その秘密基地は、かぴかぴに乾いた二人の愛でいつもむせ返っていた。
ただひたすらに『合体ごっこ』をした。アレと呼び、続けた。
ほとんど毎日、飽きもせず繰り返し。すればするほど、お互いの良さを知り。もう離れられないと思った。
二人は、はっきりと口に出しては言わなかったが、ずっと愛し合っていた。
だから中学生になって、みつるが女子に言い寄らせても、みつるの悪友がくりなにアプローチをかけようとも、二人の心はまったく靡かなかった。
実を言えば、互いが中学生になって何となく疎遠になってしまったことは、本当は気恥ずかしいからではなかったのだ。
また「それ」をしたとき、決定的な何かが起こるかもしれないと、二人とも意識下で直感していたのである。
みつるとして、くりなとして過ごす猶予が欲しかったのだろう。あるいは、身体の「準備」ができる仕上がりを待っていた。
いよいよ時は現在に至り。
ついに二人は、恋人同士となってしまった。
憚るものはもう何もない。甘美にして究極の『合体ごっこ』の始まりだった。