【バイコーンとマタ・ハリの異空間デート(2回目)】
「今日ハ……マタ・ハリと2人キリデ過ゴシタイト思ッテイル」
とある休日の朝、バイコーンはマタ・ハリの部屋を訪ねた。
前回のピクニックが彼女にとって特別な時間であったことを確かめたかったのだ。
「あら……」
マタ・ハリは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「もちろんよ。今日は特別なお洋服を選びたいわ」
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目的地はバイコーンの能力で創った異空間の南国のビーチ。
水平線が見える海岸線には椰子の木が並び、澄んだ青と白の砂の境界がまぶしい。
「きれいね……」
マタ・ハリは真新しい麦藁帽子の縁を指先でくるりと回しながら波打ち際へ歩み寄る。
今日のドレスは軽やかなシフォン素材で、風に翻る裾がまるで蝶のようだ。
「ココカラナラ、存分ニ眺メラレルナ」
バイコーンが大きな角を掲げるようにして誇らしげに言う。
彼の蹄の跡がサラサラとした砂に残っていく。
二人は肩を並べて歩く。
波が押し寄せるたびに彼女が小さく跳ねるのが可愛らしい。
「見て!貝殻よ」
マタ・ハリが屈んで拾い上げたのは青色と白色に輝く巻貝。
「これをお守りにしましょう」
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「ソロソロ乗ッテミルカ?」
バイコーンが波打ち際に膝をつき誘う。
「ええ……お願い」
彼女は慣れた様子で鞍に跨る。
バイコーンの肌は温かく、波の冷たさと相まって心地よい。
海面を走る蹄は水飛沫を小さくあげる。
「海の上を乗馬?するって、何だか不思議な気分だわ」
彼女は背後からバイコーンの鬣を優しく撫でながら話す。
「さっき拾った貝殻と同じ色の海と空が広がってる……」
深さはちょうどバイコーンの膝まで。
太陽光が水を透かして宝石のように輝いている。
二人は沖合いまで少し進み、潮の流れに逆らうことなく戻ってきた。
「少し濡れてしまったけど……素敵」
マタ・ハリの髪から滴る海水が陽の光で虹色に弾けた。
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夕焼けが空を茜色に染め始めると、二人は砂浜に戻り腰を下ろした。
バイコーンは彼女に、能力で作成した外套をかけてくれる。
潮風が冷たくなってきた時刻だ。
「あなたといると……こんな幸せがあってもいいのかしらと思ってしまうわ」
彼女の言葉にバイコーンは穏やかな視線を返す。
「マタ・ハリは俺ヲ変エタ……」
バイコーンが静かに語りだす。
「孤独ダッタ俺ヲ……コウシテ幸せニシテクレタ……」
水平線に沈む夕日が彼女の瞳を煌めかせる。
「その瞳……」バイコーンが突然目を細める。
「初めて出会ッタ時カラ惹カレテイタ」
「バイコーン君……」
彼女は言葉にならない想いを込めて頬を寄せる。
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夜になり、二人は砂浜近くのコテージに入った。
天井の一部がドーム状に透明で、満天の星空が見える造りだ。
「素敵過ぎるわ……」
彼女は柔らかい布張りのベッドに横たわりながらうっとりと眺めている。
「ソレハ……マタ・ハリに合ワセテ作ッタ」
バイコーンはベッドの傍らに蹲りながら答える。
「君ヲ一番綺麗ニ見セテクレル空間ヲ考エタ結果ダ」
静寂の中で彼女の手がバイコーンの角に触れる。
「私ね……思うの。もし貴方と出会うことが無かったら……」
言葉を途切れさせた彼女に、バイコーンは鼻先を彼女の額に優しく寄せる。
「君ト俺ハ運命ガアッタトイウダケダ。ソレガ偶然コノ時コノ場所デ、アッタトイウ事ダ」
バイコーンの低く穏やかな声が室内に響く。
「ええ……そうよね。ありがとう」
彼女は微笑みながら天窓の星々を見上げた。
「こんな素敵な思い出をたくさん作ってくれて……」
バイコーンも同じように天を見上げる。
「明日モ明後日モ……ソシテ、コレカラモ……永遠に君を愛したい」
「私も同じ気持ちよ」
二人の影が一つに溶け合い、星屑のような煌めきの中に消えていった。
永遠を約束する星空の下で……
彼らの愛は新たなる誓いとともに深まりゆくのであった。
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【カルデアの休憩スペースにて(バイコーンとの海辺デートを終えた翌日)】
カルデアの小さな休憩エリア。
シンプルな木製テーブルを囲むのはいつも通りの五人組だった。
テーブル上には湯気を立てるティーカップやコーヒーが置かれている。
「それでね……」
マタ・ハリが瞳を輝かせながら口を開く。
「昨日のデートはもう夢のようだったの」
彼女の語り口は柔らかく軽やかだ。
バイコーンが作った南国のビーチ。
砂浜を肩を並べて歩き、波間に浮かぶバイコーンの背に跨って海原を駆けたこと。
水平線に沈む夕陽を眺めながら互いの手を取り合ったこと。
星空の下で彼がくれた永遠の愛の誓い……
「……最後にはね」
彼女は頬を薔薇色に染めながら続ける。
「天窓から零れる星明かりの中で……彼の角にキスをしたの。彼も私の額に鼻先を寄せてくれて……もう二人の影が一つになるみたいに……」
「……」
テーブルを囲む四人はそれぞれ異なる反応を見せた。
「………………」
ナイチンゲールはカップを口元に運びかけたまま硬直している。
普段は氷のように冷静な顔が今は熱っぽく赤らみ、視線は落ち着かない様子で彷徨っている。
カップを持つ指先がかすかに震えているのが見えた。
「ふふっ……」
彼女は恥じらいに耐えきれず微笑む。
「とても……素敵な……お話です」
「ちょっ……!?」
ドレイクが突然顔を覆いながら俯いた。
豪快な彼女らしからぬ仕草である。
「いや待て!確かにマタ・ハリが一番アイツに愛されてるってのはわかってたさ!わかってたけども……お互いの愛が凄すぎるというか……何つーか……聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ!」
「……っ!」
頼光は既にテーブルに顔を伏せて悶絶していた。
長い黒髪が肩から滑り落ちる。
「はしたない……はしたないですよマタ・ハリさん……そんな……そんな恥ずかしい話を……うぅ……」
彼女の耳たぶが熟した林檎のように真っ赤になっている。
「……」
紫式部はしばらく無言で俯いていたが、突然くすくすと笑い出した。
「ふふ……フフフ……」
顔を上げた彼女の表情は普段の内気な書生の面影が消え去り、どこか暗い愉悦に満ちていた。
「素晴らしい……とても素晴らしい物語です……マタ・ハリさん。私はかつて恋愛小説を書いていたつもりでしたが……今になって思います。自分がいかに矮小で下品な作品しか書いていなかったのかと……あははっ……お二人の純粋で……神聖で……愛に満ちた関係に比べれば私の書いたものは醜悪な泥にすぎませんよ……フフ……」
四者四様の反応を見渡し、マタ・ハリは満足げに微笑んだ。
「みんな……ありがとう。こんなふうに素直に祝福してくれる仲間がいてくれて……とても嬉しいわ」
「しかし……」
ナイチンゲールがやっと冷静さを取り戻しカップを置く。
「バイコーンさんの愛情表現は文学的ですらありますね」
「文学どころか最早劇場さ!」
ドレイクが叫ぶように言った。
「アイツの頭の中どうなってんだ!?なんでそんなロマンチックな演出ばっかり思いつくんだよ!」
「はぅ……」
頼光が顔を上げる。
「羨ましいです……私も……そのような甘い一時を……」
「まあまあ」
紫式部が妖しく微笑む。
「次は誰の番でしょうね……?」
テーブルを囲む空気が一変した。
ナイチンゲールは軽く咳払いをする。
ドレイクは悪戯っぽく笑いながら腕を組む。
頼光は期待と恐怖がないまぜになった表情で固唾を飲む。
マタ・ハリは嬉しそうに頬杖をつきながら言った。
「さて……」
彼女は目を細めた。
「次は誰の番かしらね?」
窓の外では昼下がりの陽光が淡く部屋を染めている。
まるで今から始まる新たな物語を予感させるように……。