作戦はこうだ。
今度俺たちが襲撃するポイントは採石場跡地で、そこで『龍脈溜まり』を押さえる──そのポイントを幹部スキルによって『隷属』させる儀式を行う必要がある。
幹部があまり前に出て戦闘をしない理由は、ボスに禁じられているからというのも実際にあったが、そもそも、龍脈溜まりを押さえる儀式は幹部がするしかないので、そこそこ時間がかかる儀式にかかりっきりで戦っている暇がない、というのもあったようだ。
そうしていると、龍脈溜まりに接触している気配を感知した魔法少女が来るので、それを押しとどめ、できれば撃退し、龍脈溜まりの隷属化を完遂させる。
で、撃退の方策としては、あらかじめ戦闘員を並べて肉壁を作る。
幹部も今回は二人いるから、龍脈溜まりまで前線を下げておいて、魔法少女が来たら隷属化を中断し、とりあえず魔法少女撃退に全力を投入する……
作戦と言えるのだろうか、これが。
まあしかし、魔法少女がどの方角から来るかわかんないというのもあり、そうするしかないのが現状だ。
人数もいる。幹部と魔法少女はだいたい互角、幹部がやや上の力量のはずだ。
しかもこっち側にはハハキという戦闘専門家がいる上に、相手はたった三人のメスガキ。
人数差だけ見ても負ける要素はない──
──と、思っていた。
甘かった。
魔法少女は──
「私たちは、負けないっ……! この世界を守るために! 光よ!」
──『覚醒』する。
俺とハハキで三人のメスガキをボッコボコにし、追い詰めた。
と、思ったら、ガキの一人が急に光り輝いて、ありえん力を発揮した。
全方位ビームで戦闘員がぶっ飛ばされ、俺たちもほとんど瀕死の重傷を負う。
……そんなんアリかよ、みたいな負けだが……
なるほど、俺たち『異世界からの侵略者』に対するカウンターとしての、『この世界の守護者』なら、まあ、世界そのものが力を貸すか。
いわゆる『主人公補正』というものなのかもしれない。
やっぱ『数』とか『質』とかで見るのは良くないな。
この戦いで確認したいことは確認したわけだし……
やっぱり事前に勝負を詰んでから、隷属させていこう。
……この戦いで、俺の子飼いが二人死んだしな。
報復の動機がある時の卑劣行為は、本当に楽しいね。
◆
戦闘員は死ぬと黒い粒子になって消える。
俺たちは『因子』を注入された瞬間から、人ではない生命になるのだ。
自分自身の記憶を失い、骨も残らない。
だから、俺たちは墓標に刻む本当の名前も知らない。
でも、俺たちは、仲間の名前を覚えておくことはできる。
今回、魔法少女との戦いで犠牲になった……
………………えーと………………
「…………シイ?」
「生きてます」
「ああ、ハチか」
「こっちにいまっす」
「死んだの誰よ」
「イレブンですわ」
「あとナナ?」
「生きてるよ!」
「もう面倒くせえから点呼するぞ。はい、イチから」
「イチッス!」
「ニイだ」
「サン」
「シイです」
「ゴオ」
「………………」
判明した。
ロクとイレブンが、死んだ。
この二人は、えーっと、まあ、アレだ。なんか、たぶん、いいやつらだった……
部下にして間もなかったので顔と名前が一致しないし、特にこれといって思い出に語れるようなエピソードもないんだが……まあ、いいやつらだったよ。きっと。
「切り替えよう。大事なのは、『俺の物がやられた』っていうことだ。俺は、自分の物を大事にする。これを勝手に奪った魔法少女には、報復の動機が湧く。大義名分がある。そこが重要だ」
「しかしボス」
「まずお前誰だ。発言前に名乗れ」
「ハチです」
「よし、次回の集会までに制服に名前を縫い付けて来い。全員だ。それでハチ、意見をどうぞ」
「魔法少女、ヤバイですね」
ハチというのはシリアスな雰囲気をした、大柄でがっしりした男だ。
物静かでぽつり、ぽつりとしゃべるため、言葉の一つ一つがやけに重い……
が、どうにも今回が初陣らしい。
治験などの闇バイトで集められた戦闘員と、教団の運営する養護施設から来た戦闘員とで、同じ入社一年目でも年齢には差があるんだが……老けてるだけで若いのか、見た目通り三十代ぐらいなのか、全然わからん。
人の顔っていまいち興味がわかないんだよな。
やっぱクソダサイ全身タイツでもよかった気がしてくるな。スパイ対策に顔を覚えておく必要がある……みたいに思ってたんだけど、そもそも顔を覚えられなくて意味がない気がしてきた。
こうやってハハキに用意させた俺用の部屋に入れて対策会議をしてるわけなんだが、この中に新顔がいてもぶっちゃけわからん自信がある。
あとなんで和室なんだよ。なんか親戚の集まりみたいな雰囲気になっちゃってるだろ。
長いテーブルを囲んで畳の上に座布団強いて座って、お菓子と緑茶まであるんだよ。雰囲気的にも『お盆の時ぐらいしか顔を合わせないそんな近くない親戚が集まって話してる』みたいになってんじゃん。
「あー、そうだ、この中で、さっきのが初陣のは何人いる? ──うお、マジかよ。三人もいんのか。お前ら運がいいな。俺の部下はたぶん、他の幹部の部下より生存率が高いぞ。大事にするからな」
「ボス、すでに二人死んでます」
「八割も生存してたら相当だぞ」
「お付き含めて十一人なんで八割ではないです」
ハチはでかい図体して細かいやつ。覚えた。
「実際、三か月を超えたあとの生存率は三割を切るからな。三か月後に半数が生き残ってたら運が良かったということで納得しろ。……さて、魔法少女はヤバい。初陣のやつも、今回でわかっただろう。あいつら、マジで容赦ねえ。俺たちを人だと思ってねぇ。イレブンと、あー…………ロク? ロクだったか。ロクでいいな。ロクの無念を晴らすためにも、俺たちは魔法少女をぐっちゃぐちゃに凌辱して、隷属しなきゃならん。そうだろ?」
異論は出なかった。
ここで異論が出ないの、まずいですよ。仮にも少女を『凌辱して隷属させる』っていう方針に『それは、ちょっと……』って言える常識のある人がいないってことだからね。
本当に俺についた部下にはなんでこんな常識とか倫理観のないやつが多いんだろう。怖いなこいつら。
「お前らも仲間の仇を討ちたいだろう。な」
そこはうなずくとかしろ。
『話は真剣に聞いています』ってツラでこっちを見てるだけじゃなくて、うなずくなり、同意の意を声で示すなりしろよ。
こいつらもしかして、隣にいる仲間が死んでも、別に何も感じないんじゃないか?
その場その場のノリで真剣なツラしてるだけで、実は何も考えてないんじゃないか?
まあ使える手足ならそれでいいや。
今回は使う機会もないし。
「諸君の無念もわかるが、今回は、俺単独で動く。具体的に何をするかと言うと、魔法少女の住処を洗い出して家族を人質に犯す。そして隷属させる。以上だ」
「外道ッスね!」
イチは俺が外道発言をすると大変うれしそうに元気よく声を出してくれる。
倫理観がねぇのかな。
「だいたい悪の組織が外道で何が悪いんだよ。闇バイトで集めた連中の記憶奪って戦闘員化するような組織だぞ。何をお綺麗に戦ってんだ。アホじゃねえの? 脅迫! 人質! なんでもやるべきだろ。どう考えても戦績から見てこっちのが弱いんだから、弱者であることを念頭においた戦い方をすべきなんだよ」
「でもボス、魔法少女の家はどうやって調べるんスか?」
「発信機つけた。通販で買ったやつ」
不思議パワーなんぞいらねえんだよ。
科学の力を頼ろう。
「まあ通販製だからそんな距離も精度も出ないんだけど、今回、魔法少女が来た方向にあって、龍脈溜まり接触後五分以内にテレポートを使えない連中が急行できる距離なんだから、地図見ればおおまかには絞れる。おおまかに絞ったら、あとは発信機の親機持って人が住んでそうな場所うろつけば見つかるだろ。魔法少女状態から通常状態に戻る過程で消されてたら事後の策を使う」
「よく思いつくッスね……」
「逆にこの組織はどうしてそういう手段をとらないのか不思議なんだよ」
不思議なんだよ、とは言ったが、実は理解不能なだけで、そうしない動機はわかる。
幹部どもが人格異常者で、それが使う怪人に知性がないからだ。
幹部どもは自分の強さを誇ることが基本方針なので、こういう搦手っぽいやり方は『誇り』のせいでできない。
怪人はまあ基本的に人間未満の知性しかないので割愛。
ところが俺はむしろ卑怯なことに誇りがあるタイプなので、こういう手を使う。
いや、やっぱ誇りはないな。さっさと犯したい。そのモチベーションのために最短の道を選ぶだけか。
ちなみに魔法少女っていうのは複数いて、だいたい担当区画が決まっているようだ。
この担当区画の振り分けがたぶん『この龍脈溜まりは、このエリアの魔法少女が担当してください』っていう感じなんだろう──向こうも龍脈溜まりが狙われてる知識があると仮定すれば、だが。
そう仮定すると龍脈溜まりの周囲に警戒のための施設とかが見当たらないのがおかしいんで、実は向こうは俺たちの目的がわからず、龍脈溜まりもわからず、ただ出現パターンから逆算して『このへんに出ることが多いから、このへんに急行できる場所に魔法少女を配置しておこう』みたいな意図で運営されているのかもしれない。
……あるいは、龍脈溜まりそのものが魔法少女を近所から選定して、自分を守らせてる、とかかな。
これが可能性高そうなんだよな……
まあ情報のない時にする分析は思考の箸休めみたいなもんなのでこのぐらいにして、
「ともあれ俺はソロで出るんで、俺がいない間はハハキにしごかれておけ。お前ら、ハハキの戦闘員に比べるとマジで弱いぞ。今回のことで痛感したろ? ある程度の強さがないと自衛もできない。そして俺はお前らに危ない目に遭って欲しくないと思ってるんだ」
「だったら基地の中でお留守番してもいいですか!」
「名乗れ」
「ナナだよ!」
「そうか。俺は自分の物は大事にするが、ごくつぶしを養いたいと思うほど酔狂でもない。基地の中で留守番中に有用な働きができそうなら進言してくれ。できないなら戦場で俺の肉壁の職務をまっとうしろ。以上だ」
「思いつかない!」
「いちいち声が甲高くてうるせえやつだな。まあとにかく、考えが足りないなら体を使え。頭が足りてるなら頭使っていいぞ」
「ボスのオナホになるのは仕事?」
「いや、それはプライベートだな。仕事の女抱く必要ないから、俺」
「じゃあ肉壁かあ……」
あとナナの体格はエリザで間に合ってるんだよな。
エリザほどチビでもないし、全体的に半端だ。需要がありそうな体つきではあるんだが、俺はいいかな。魔法少女もこれから抱くし。
「ボス」
「名乗……いやお前はさすがにわかる。イチ、なんだ」
「あたしもついていっていいッスか?」
「理由」
「現地でのサポート要員は必要だとおもうッス」
「ふむ。採用」
「やったッス!」
「判断が早い!」
ナナ、うるさいチビ女。
「これから行く場所が住宅街とかの可能性もまあまああるわけだから、うろつくのに男一人よりはいいだろうしな。それに実際、今回の仕事は二人一組のがいい。そういう理由で採用」
「あの、シイです」
「なんだ」
「一緒に行きたいです」
「男女一組が住宅街にいる。これは、怪しくないな。ご近所に住んでる夫婦なのかな。それとも、新しく住む場所を探しに来たのかな。こういう見方をされる。ところが、『若い女を二人連れた男』になると、話が変わってくる。超怪しい。『あの男、なんなんだ、お盛んなのかな。いやだわあ』と、こうなる。そういう理由で、却下だ」
「でも、ボスは実際、お盛んです」
「実際の話はしてねえんだよ。周囲から見たイメージの話をしてる」
「イチだと、ボスの奥さん候補として、見た目が若すぎます」
「確かにそれは一理ある。お前の方が、見た目は俺に釣り合う。あと、顔もイチより好みだ」
「ッス!?」
「しかし、俺はどんどん意見を出していきやすい職場作りを目指している。なので、最初に意見を出したやつの意思を尊重したい。イチ、お前はどうだ? 確かに、シイの方が、俺と見た目のつり合いはとれる。お前の場合、下手すると『人型のポメラニアンを散歩でもさせてるのかな?』という見られ方もしかねない。その上で、どうだ。シイにゆずるか?」
「イヤッス!」
「というわけだ。お前も希望を通したければ、素早く意見を出せるようになれ。別に外してもいい。意見を出すことが大事だからな。そういうことで今回は、お前を連れて行くのは見送る。わかったな、シイ」
「……はい」
「いや待って欲しいッスけど! なんかさらっと『人型のポメラニアン』とか言ったッスよね!? それ、ギリ悪口じゃないッスか!?」
「いや、ギリじゃない。悪口だ」
「ほらあ!」
「俺は気になる子には悪口を言ってしまうところがあるんだ。許せ」
「騙されないッスよ!」
「騙されておけよ、円滑な職場関係のために」
「うー、わかったッス……」
「今の『ウー』は犬の真似か? うまいぞ」
「だからポメラニアンじゃねえって言ってんスけど!?」
笑顔の絶えないアットホームな会議がこうして終了した。
発言してないのが半数ぐらいいる気がするんだが、まあ心の距離は時間をかけてゆっくり詰めていけるだろう。
心の距離が詰まるまでに何人死ぬかなという感じでもあるが、悪の組織に就職してしまった者の定めなので、みんな納得してくれ。